第95話-1 戻らぬ事
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『水晶』の前回までのあらすじは、第九回戦第四試合でミランの攻撃を受け、大けがを負い、倒れた瑠璃は、リースの城の自分の部屋で目が覚めるのだった。そして、辺りを見回していると、入室してきた女性に抱き着かれ、「私の娘」と言われるのだった。
第95話は、内容の増加により分割することにしました。
瑠璃は、抱き着かれる。
瑠璃が目を覚まして、瑠璃が最初に認識することができる状態で入ってきた女性に―…。
その女性は、瑠璃に、「私の娘」ということを言う。
その言葉に、瑠璃は、心の中で動揺しながらも、(えっ、どういうこと?)と心の中で今の疑問を言葉にする。
そんななか、抱き着いてきた女性は、
「瑠璃。」
と、今、抱き着かれている瑠璃に向かって、瑠璃の名前を言う。
瑠璃は、
(どうして、この人が私の名前を―…。)
と、心の中で不思議に思うのだった。
【第95話 戻らぬ事】
リースの近郊にあるランシュの館。
その中の一室に、ランシュはいた。
時刻は、瑠璃が目を覚ます時より、数時間ほど前の深夜。
そう、第九回戦がおこなわれた日の深夜、いや、翌日になっているかもしれない時間だ。
ランシュは、その部屋にいるもう一人の人物であるヒルバスと会話していた。
「ヒルバス、後、二人は来週の第十回戦には来てくれるのか。」
と、ランシュは、ヒルバスに尋ねる。
これは、ランシュが、第九回戦の観戦に誘ったのであるが、来なかった二人の人物である。彼らは、ランシュと同じチームであり、第十回戦、つまり、最終回戦に出場する予定となっている。
「ええ、そこに関しては、問題はないでしょう。むしろ、リークの方の修行が終わるかどうか。まあ、クローマが見ているのだから、そこは何とかなると信じましょう。」
と、ヒルバスは答える。
ヒルバスは、リースの競技場から帰ってきた後、すぐに、リークやクローマ以外の第十回戦に参加する十二の騎士に連絡をした。
その二人は、リースの市内の競技場とは違う港におり、一方は観光客に対して、なぜかショーを見せたりしていたし、もう一人は、港湾の日雇い工事に勤しんでいた。十二の騎士という身分を隠して―…。彼らの行為自体は、否定することもできない。一方は、観客を盛り上げさせることによる収入増加、もう一方は、公共設備の整備のための仕事をしていたのだから―…。リースの発展に寄与している。そう、その二人はリースが戦時状態でない時において、こういう面で役に立つので、有難い存在であるが―…。十二の騎士であるので、二人にこのような仕事をしなくても、生活をしていくことは可能であった。リースの騎士としての給料をちゃんと貰っているのだから―…。
まあ、そんなことを考え続けても意味がないとヒルバスは、考える。今は、第十回戦の日にリースの競技場に来れるかどうかが重要だった。二人の答えは、来れるようであり、ヒルバスは連絡を聞いた時は安心した。
一方で、リークの修行の方に関して、ヒルバスとしては、心の中で不安というものがあった。それでも、クローマはしっかりと鍛えてくれることに関しては期待していたし、ランシュにいたっては信じているといってもよかった。ゆえに、ヒルバスは不安に思いながらも、信じることは可能であった。
「そうだな。来週が最後だ。これで、ベルグの奴もある程度は納得してくれるだろう。だけど、俺は、ベルグの言っていることよりも、一歩先へいかせてもらう。三人組は、確実に俺たちの手で討伐する。」
と、ランシュは、ヒルバスの言葉に頷きながら、自らの意思を言葉にするのだった。
いや、意志と言ったほうがいいのかもしれない。
ランシュとしては、ベルグによって命じられた現実世界で石化を逃れて、この異世界にやってきた瑠璃、李章、礼奈の三人組の討伐、いや、ベルグの実験の開始までの時間稼ぎをすることに対して、最低限達成させるものと認識していた。それでも、ランシュの意地というものがあり、時間稼ぎだけでなく、実際に瑠璃、李章、礼奈の三人組を本当に討伐をしようとしている。ベルグの邪魔をするものを許さないというよりも、ベルグの命に対して、求められるものよりも成果をあげることで、地位よりもベルグに対する恩を返そうとしたのだ。それは、クルバト町の虐殺から救ったということではなく、レグニエドやエルゲルダへの復讐を成功させる機会を与えてくれたことに対するものであった。
ランシュは、それほどに与えられた恩というものを返そうとしているのだ。
ベルグの方は、残忍ではあるが、別に、ランシュに対して雑な扱いをしたいわけではない。ランシュの存在が、ベルグにとってプラスになったことは多いし、実力もある。ゆえに、すべての事実を知らずに死ぬことは仕方ないとしても、馬鹿なことをして死なせたいとは思っていない。さらに、ランシュに関しては、何もランシュの命に関わるものは仕込んでいない。それほどにランシュのことを信頼している。他にも何も仕込んでいない人物もいるが―…。
「はい、報告は以上となります。失礼いたします。」
と、ヒルバスが言うと、部屋から去っていくのであった。
一人となった部屋でランシュは、
(復讐は終えた。後の人生は―…、俺にとってのボーナスか。)
と、心の中で、今の人生がおまけであると呟くのであった。
瑠璃が目を覚ました日。
その二、三時間前のことであった。
リースの領土内。
かつて、クルバト町というものがあった場所の近郊であった。
今は、アルデルダ領という名ではなく、ティルムカ領と名を変えて数年前から治められていた。
理由は、ランシュによって滅ぼされた国の領土を、リース王国が手に入れたことによる。
まあ、その前は、リース王国の中の領土であったのであるが―…。
そんな中を、三人の騎士がおり、一人は馬に乗りながら移動し、二人は徒歩での移動であった。そのため、徒歩の二人と同じペースで馬は移動しているのだ。
馬に乗っている一人の騎士が、この中ではわかるように一番地位が高い。そして、徒歩の二人は、それぞれ同じくらいの地位であり、騎士になってから、一年も経っていないほどであった。
今回、この三人がここら辺に来た理由は、ある調査であった。
「近頃、この付近に住んでいる住民が地震の多さで、悩んでいるからリース王国が調査せよだと―…。」
と、徒歩で移動している一人の騎士が言う。
「そう言うな、イアンデルタルよ。この任務は、リースの中央におられ、ランシュ様から権力の奪取に燃えておられる方からの依頼のなのだ。心して受けよ。そのお方に気に入られれば、お前たちの出世も早まり、良い暮らしができるぞ。」
と、馬に乗って移動している騎士が言う。
「そうなんですか。モーゲル様。」
と、徒歩で移動している一人の騎士で、最初に調査の内容を言わなかった人物が言うのであった。
「そうだ、ミゴマンド。」
と、モーゲルという馬に乗って移動している騎士が言う。
そう、馬に乗っている騎士は、モーゲルという名であり、彼は騎士の中では中間ぐらいの中隊長を任せられるほどの人物であり、有能ではないにしろ、無能であるというわけではない。仕事はしっかりと言われた通りにこなす。その分、突然の出来事によって試される柔軟性という観点では弱いという面がある。平時では、モーゲルは有用性があるという評価をすることができる。そして、ランシュ側にいるよりも、リースの中央におられるランシュに対して憎しみを抱く、権力を掌握している勢力の側についている。そっちの方が自らの出世が速いと判断したのだ。
それでも、今連れている部下などの自分の下にいる者たちに対する面倒見は良い方であった。彼らを大事にすれば、出世した時に彼らの才能をうまく活用させることができる。自分よりも優れていいし、自身が目立たなくてもいい。目立つよりも地味で、周りが活躍してくれれば、その人たちの纏め役や相談役ぐらいの立ち位置でいれば、長く、権力を持つことができるし、自分の地元などに還元することができる。
そう考えるモーゲルという人物は、ある意味で、人を率いることができる可能性を持っていただろう。この調査を乗り越えるということができればであるが―…。
一方で、徒歩で移動している騎士、ミゴマンドとイアンデルタルは、どちらも同期で入団した新人である。二人とも、モーゲルの中隊に所属している。
ミゴマンドは、気さくに人に話しかけたり、上司にも心象良く接することができるほどの、人懐っこいところが存在する。そのように、小動物とも思える顔をしていた。子リスといってもいいかもしれない。この人懐っこさは、周りとの関係を円滑させることができるとモーゲルは考えていた。
イアンデルタルは、文句を良く言う人物であり、モーゲルとしてもこいつは―…、真面目に仕事をしろよと思うことが多々あるが、仕事に関しては卒なくこなすほどの容量の良さがあり、うまく扱えば、モーゲルの右腕にも慣れる存在だ。
モーゲルは、このように、将来が楽しみな騎士を集まるという運も兼ね備えていた。
だけど、その運も崩壊へと向かっていた。
「なんで、ここら辺で最近、地震が多いという事態が起きているのだろうか?」
と、イアンデルタルが言う。
そのイアンデルタルの言葉には、疑問というものしか感じなかった。元々、クルバト町がある付近は、あまり地震が起きないわけではないが、一日に何度もずっと続くということはなかった。ただし、大地震が起こった後は、余震という形で何日、いや何十日、何百日にわたって一日の中で何度も地震が起こるということはあった。
それでも、ここ最近、大地震というものは、クルバト町周辺でもリースの領土内においても一度も起こっていない。そうである以上、このようにクルバト町周辺で起こる地震というのは、何かおかしいのである。
地震の大きさはそれほどでもなく、現実世界で言えば、震度二~三相当のものであり、日に何度も起こるのだ。
現在、クルバト町周辺は、誰も住んでいないが、近くに小さな村があり、その村で頻繁に地震が起こっているということであった。
「さあ~、それを調査するのが俺たちの役割だ。専門家もいないが、とにかく地震の数だけでも調べて、ちゃんと上に報告をしないといけない。」
と、モーゲルは、イアンデルタルの言葉に答えるのだった。
そして、モーゲルは、目の前にいる人物に気づく。
(? 何だ、あの男は?)
と、モーゲルは、心の中で、急に目の前に一人の男が現れたのだ。
すでにその人物は、青年という時代を過ぎ、自らの体はこれから、老いていくかもしれないと感じさせる。でもそれとは逆に、その衰えというものが一切、こないのではないかと思わせるという矛盾する雰囲気を漂わせている。
まるで、その一人の男だけがすべての時間から取り残されたかのように―…。
モーゲルやイアンデルタル、ミゴマンドにはわかった。この目の前にいる一人の男は危険人物である、と。
(あの男は危険だ。何が目的かわからないが、油断すると、確実に殺されてしまうだろう。一体、何者なんだ。私の手では、絶対に手に負えるものではない。)
と、モーゲルは、心の中でこのように一人の男を評価するのであった。
「ほお~、三人で、リースの騎士と言ったところか。ここへは何か用があるのか。ランシュはここへ来させないようにしているはずだが―…。」
と、一人の男は言うのであった。
その言葉に、モーゲルは、心の中で考え始める。
(ランシュ様がここへ来させないようにしている、だと。つまり、彼は、ランシュ様と繋がりのある人物なのか。この男が、この地震に関わっていた場合、つまり、ランシュ様がこの地震に関与していることになる。そうであれば、すべてが納得いくことかもしれない。決定的な証拠がない以上、追及はできないが、それでも、この男が俺たちに対する口止めだとすれば―…。)
と。
モーゲルは、最悪の可能性を想定することができていた。そう、一人の男とランシュが繋がっていて、この地震を起こして、何かをしようとしているのだ。それをリースに感ずかれるのはよくないと判断して、モーゲルら派遣された騎士たちの足止めをしようとしたのである、ということだ。
モーゲルの言っていることはある程度当たっているが、外れているものもある。
「ランシュ様がこの地震に関わっているのか?」
と、モーゲルは、一人の男に向かって質問する。
「そうだな。関わっているといえば関わっていると言ったほうがいいが―…。あくまでも、主体的な立場でなく、我々の邪魔をしない、という程度であるかな―…。」
と、一人の男は答える。
その答えを聞いたモーゲルは、ランシュが関わっていることの証拠を確保する。そして、逃げる準備を始めようとする。
「ランシュ様が関わっているとなると、これは、ランシュ様にとっての失点になる。これはリースに戻って報告―…。」
と、モーゲルの言葉そこで途切れる。
モーゲルは、すでに斬られてしまっていた。二度と生き返ることができないように、首から真っ二つにされて―…。
「ランシュは、リースのために良くやってくれているよ。そして、私たちの目的の邪魔をしないでいただきたい。」
と、一人の男は言うのだった。
第95話-2 戻らぬ事 に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
クルバト町付近での動向に関しては、第1編のストーリー上、後々重要になるのかなと思います。ネタバレ的なものを言えば―…。
次回の更新に関しては、まだ、次回の分が完成していないので、いつ更新できるかはわかりません。わかり次第、この部分においてお知らせします。
では、次回の更新で―…。
2021年6月18日 次回の投稿分が完成しました。次回の投稿は、2021年6月19日頃を予定しています。では~…。