第94話-5 再会
前回までのあらすじは、瑠璃に瑠璃自身の出生に関して知られてしまう。それは、瑠璃の母親が、リビングで李章に瑠璃の出生に関して話している時に―…。
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そして、時は進む。
「瑠璃は、引っ越したその日に屋根裏にいたのよ。」
と、瑠璃の母親は言う。
今の表情は、過去を思い出し、思い出に浸るように遠い過去を見つめていた。
「でも、疑問が残ります。どうして、屋根裏にいたのでしょうか?」
と、李章は疑問に思って、瑠璃の母親に疑問を尋ねてみる。
李章がこのように疑問に思うのも当たり前だろう。瑠璃の母親の話によれば、引っ越した日、請け負った業者の人とともに屋根裏の倉庫まで案内され、実際に中に入って見渡したのだから―…。
そうなってくると、赤ん坊の瑠璃が発見されるまでの数時間というもの、一体どうやってそこに置かれたのか? 一体、誰が置いたのか? 結局、その謎が浮かび上がってしまうのだ。
「わからない。この十二年間、考えてみてもわからない。泥棒が入った形跡もないし、業者の人は案内の時に屋根裏部屋に入ったきり、その後は入らずに帰っていったし―…。不信者がいたわけでもない。分からずじまいで―…。」
と、瑠璃の母親は困りながら李章に向かって答えるのであった。
瑠璃の母親も、瑠璃の父親とともに考えたりもしていたが、どうにも瑠璃がどうして屋根裏倉庫にいたのかわからずじまいであった。李章に話している時でさえわからないのだから―…。
なら、李章は余計に分からず、事実として受け入れるしか方法がないのだ。納得できなくても、認めなければならない。そういうことなのだ。
「じゃあ―…、今度も―…。」
と、李章は、ガックリしながら言う。
「そうね。一生、瑠璃がどこから来たのかわからないわ。」
と、瑠璃の母親は言う。
そうすると、リビングの外からバタッと、何かが走る音がした。
「!!」
と、瑠璃の母親は、足音から瑠璃に聞かれてしまったのではないかと思った。
いや、確信したと言ってもいい。長年、家族として過ごしている以上、家族の足音を何となくだけど、区別することぐらいできてしまっているのだ。あんまり音は違わないのに、なぜか誰かのだということがわかるように―…。
「瑠璃に聞かれた!! 李章君、瑠璃を捕まえてきて!!!」
と、瑠璃の母親は、李章に瑠璃を捕まえてもらおうとした。
身体能力的に李章の方がうまくやってくれると思っていた。李章の方が普段から体を動かしたりしているので、どっちが優れているのかは考える時間も必要ないほどに、理解することができる。
「はい!!」
と、李章は言いながら、リビングを出ていくのであった。
瑠璃の母親は、
(お父さんと理世なら、話していてもずっとその場にいるようなことはないし、急用ならすぐに入ってくる。そうなると、やっぱり瑠璃か―…。あちゃ~、もうちょっと場所を選ぶべきだった。)
と、心の中で少しだけ後悔するのであった。
瑠璃に瑠璃の出生について語るための心の準備もまだできておらず、その準備ができる前に言うべき本人に聞かれてしまったのだ。後悔しないというほうが無理なことであろう。
家の中の廊下。
瑠璃は駆け足で自分の部屋へ逃げようとする。
そこから、バタと扉が開く音が聞こえ、さらに駆け足を速くする。
もう少しすれば二階上がる階段に到着することができる。
駆け足を速くしても、追ってくる方のスピードが速く、階段の前で瑠璃は捕まってしまうのだった。
「瑠璃さん!!」
と、瑠璃を呼ぶ声がする。
瑠璃はその声を聞いて、自分を捕まえた人物を理解するのであった。そう、瑠璃を捕まえたのは李章である。
「李章君―………、この手、離してもらえる。私は松長家の子どもじゃなかったんだよ―…。だから、私は―…。」
と、瑠璃は、今にも泣きそうな表情をして言う。
声も消え入りそうで、聞いてしまった事実を受け止めることができないほどだった。
瑠璃にこんなに弱々しそうに言われると、李章としても手を緩めたいほどであったが、このまま手を離してしまえば、瑠璃がもう二度と戻ってこないのではないかと思った。いや、心の中でさえ言葉にすることなく、直感的に、体で理解することができた。
李章は、瑠璃が消えることを望まない。李章にとって、瑠璃は希望の光であり、自分の悲しい人生に光を灯してくれた大切な人なのだから―…。その人に悲しみは似合わないし、希望の光として、いろんな人に希望を照らしてほしい。
それは、李章が瑠璃に対して思う我が儘なものでしかないが、これが今、瑠璃が離れないために李章を行動させる原動力となっている。ゆえに、この我が儘な思いが、良い方向に作用しているのかもしれない。結果がそうなればであるが―…。
「それでも、瑠璃さんがそのことを聞いたのなら、最後まで聞いた方がいいと思います。だって、私は、血の繋がった家族に私が愛されていたのかはわかりませんでしたが、私にとっては苦痛でしかありませんでした。でも、瑠璃さんは、血が繋がっていないのに、それを苦にしていないじゃないですか。私は、瑠璃さんのような家庭が羨ましいです。血が繋がっていなくても、家族らしくて―…。こういう人の子どもに生まれたかったです。生まれを変えることはできないと思いますが―…。っと、私の気持ちが入ってしまいました。瑠璃さん、申し訳ございません。」
と、李章は最後に、瑠璃に頭を下げる。
李章にとって、瑠璃のような家族関係は羨ましいことである。李章の家庭は、幼少の時だけど、父親が李章に対して、完璧であることを求め、それができないと暴力を振るっており、助ける味方であった祖父も何とか慰めることしかできなかった。ある事件の後、祖父と二人暮らしになってからは、家族関係もあったのだが、あくまでも祖父と孫という関係の延長線上でしかなく、父親と母親のような関係ではなかった。
ゆえに、祖父が介護施設に入ることになって、瑠璃の家に居候をして、その親と子の関係を見てしまうと、自分はどうして瑠璃の家の子どもに生まれることができなかったのか、嫉妬まではいかなくても、恨めしいとは思ってしまう。
それでも、瑠璃の父親と母親が、李章を実の子と同じように扱ってくれようとしていることには助かっている。だからこそ、思ってしまうのだ。瑠璃の両親と瑠璃との親子関係が李章自身によって、壊してしまうのが怖かった。そうなってしまえば、自分と同じ目に瑠璃を合わせてしまうからだ。
そして、李章はふと、自分のことを言ってしまうのを恥じてしまうのだった。瑠璃に自分のことを言ってしまい、自分自身を身勝手であると思って、瑠璃に謝るのであった。
そうしないと、李章は、自らがどんどんダメな人間になってしまうのではないか思う。そうではないと思うのだが―…。今まで生きた環境が李章にそうさせるようにしているのかもしれないが―…。
「……でも、やっぱり離して―…。」
と、瑠璃はそれでも抗議するように言う。
だけど、その力は弱々しいものでしかない。李章の力なら、瑠璃に振りほどかれることない。
「だけど、今は、この手を離すわけにはいきません。この手を離したら、瑠璃さんは、どこか遠くへ行ってしまい、二度と会えないような気がするからです。」
と、李章は、はっきりと自らの意思を伝えるように言う。
李章の気持ちは、はっきりしていたので、簡単に瑠璃の手を離さないようにすることに集中することができる。
一方で瑠璃は、気持ちがぐちゃぐちゃになっており、気力すらなくしかけていた。
そんななか、
「聞かれたのならしょうがない。来なさい。瑠璃、あんたを育てるという覚悟を決めた時から、いつか話そうとしていたのは事実だから―…。」
と、瑠璃の母親は言うと、李章が掴んでいない片手を掴んで、リビングに無理矢理向かわせようとする。
瑠璃の母親としては、瑠璃が素直にリビングで瑠璃を育てる覚悟を決めた経緯を話しておく必要がある。たとえ、それが自分の血の繋がった子でなくても、あの日に決めた覚悟は並大抵の事で揺らぐものではなかったからだ。それで揺らぐのであったのなら、最初から育てているわけがない。
瑠璃は、無理矢理リビングに連れていかれたことを、あまり気は進まなかったけど、どうやってダメだと悟って、不貞腐れながらもそれに従うのであった。
李章は、それを申し訳なさそうに見るのであるが、それでもこれが必要なことだと理解して、受け入れるのだった。
リビング。
その中に、瑠璃、李章、瑠璃の母親がいる。
これから話されるのは、瑠璃を見つけた後のことであろう。
「瑠璃、あなたの出生に関して、言わなかったことはごめんなさい。だけど、言い訳がましくなってしまうけど、あなたにこのことを話そうとしなかったわけじゃない。でも、踏ん切りがつかなかったの?」
と、瑠璃の母親は、瑠璃に申し訳なさそうに言う。
申し訳ない気持ちは、これでもかというぐらいに出ていた。
しかし、瑠璃から見れば、媚びているように感じ、許してくれるよねというようなものが感じられた。
「フーン。」
と、瑠璃は、ジト目をしながら、拗ねてしまうのであった。
「実の子じゃないので、私はあなたの気持ちはわかりません。」
と、瑠璃は、自分が松長家の子どもではないことを強調するかのように、母親のことを「お母さん」とは言わずに、「あなた」と他人の名称で言うのだった。
ここに、瑠璃がどれだけ今現在、拗ねているのかという気持ちが表れている。
そんな様子を李章は、おろおろしながら見るのであった。李章はこれまで女性同士の喧嘩や揉め事を多くみたわけではない。すべて、小学校における女の子同士の喧嘩で、その様子は李章が仲裁に入れるというものではなく、担任の先生が入って苦労しているものであった。
そして、現実の女性同士の喧嘩や揉め事を仲裁するということは、李章にとってどだい無理なことでしかなかった。どうすればいいのかもわからないし、女性同士による圧というものが李章の感覚に伝わり、李章の頭の中から、ここから逃げろという警告がずっと鳴り響いているのだ。それでも、同時に逃げればどういうことになるのかを想像すると、喧嘩が終わるまでずっといないといけないと体が反応し、動けなくなってしまっていた。
李章の精神は、心労によって倒れてしまいそうな感覚に襲われるのであった。李章にとっては、心労というものはわからなかったが、気疲れという面で認識することができていた。
(………。)
と、李章は、心の中まで思考を停止させるのであった。しばらくの間―…。
「本当に、頑固だね~、瑠璃は―…。誰に似たんだか―…。」
と、瑠璃の母親は苦々しそうに言う。
実の子ではなくても、性格の一部が長い年月を過ごしていくうちに、影響を受けて、似てしまったのではないかと思いたくなる。そう思えるほどに、瑠璃の母親は、自分の頑固な一面が瑠璃に移ってしまったことを後悔するのであった。
「そうね、たまたま実の子じゃない人に似たのかもしれないのね。」
と、瑠璃は拗ねながら言う。
視線を瑠璃の母親に合わせていなかった。合わせる気もなかった。今まで、瑠璃の両親が、自分の血の繋がった子ではないと正直に言わずに、先に李章君に言ったことに対して、頭にきてもいた。
「だけどね、瑠璃、あなたをちゃんと育てようとしたのは事実だから聞いて―…。無視しててもちゃんと聞かせる。」
と、瑠璃の母親は言う。
「………。」
と、瑠璃は何も言葉を発さないが、心の奥底では聞きたがっていたので、声だけは聴くことにする。
語り始める。
ゆえに、時は再度十二年前に戻る。
理世の母親は、疑問に思いながら―…、
「この赤ん坊は、一体どこから来たのだろう。」
と、言う。
そして、理世の父親は、あるものに気づく。赤ん坊が右手に持っていた水晶に―…。
「これ、水晶か?」
と、理世の母親に尋ねるように言う。
「そうね。でも、ここは暗くて見えないからまず、倉庫の外にでましょうか。」
と、理世の母親が言うと、「そうだね」と理世の父親が言い、二人は屋根裏倉庫から出るのであった。
そうすると、赤ん坊が持っていた水晶は、赤黒い色をしたものであり、赤ん坊が大事そうに握っていた。まるで、それが親だとわかるための唯一の証拠であるかのように―…。
だけど、水晶一つだけで、理世の母親と父親には、赤ん坊の親が誰なのかということはわからない。わかるはずもない。
そして、理世の母親と父親は、赤ん坊とともに一階に降り、リビングへと戻るのであった。
そこには、理世がいた。
理世は、自分の父親と母親が赤ん坊を抱えていたのを見て、
「僕の弟? 妹? コウノトリさんが運んできてくれたんだ。」
と、ワクワクしながら言う。
理世は、弟や妹が欲しいと思って母親と父親に何度も言ったことがあるが、苦笑いされてしまった。だけど、今、そこに赤ん坊がいるということは、ついに自分の弟と妹ができたんだと喜ぶのである。それでも、心の奥底で両親の愛情がその赤ん坊に奪われるのではないかという気持ちもこの時、理世は気づいていなかったが、確実に心の中で芽生え始めていた。静かに―…。
そして、理世は、幼稚園の先生がどうして、お母さんとお父さんから君たちが生まれてくるのか教えてもらった。それは、コウノトリさんがお母さんとお父さんに向かって、君たちを運んでくるからであり、その前のことはみんな誰も知らないらしい。理世もこの言葉を完全に信じていた。いつかはその事実を知り、そう信じてしまった自分に落胆するのであるが―…。
「そのことに関して、今からちゃんと話すから―…。」
と、瑠璃の父親が言うと、赤ん坊のことを話した。
そして、理世は、赤ん坊が実の子ではないことを知るのであった。
第94話-6 再会 に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
次回の更新で、文字数は100万を超えると思います。ここまで1年と4カ月弱かかりました。本当は、もっと先の方へと進んでいるはずだったのに、いろいろ追加することの方が増えてしまって、まだリースの章の途中です。反省すればいいのかよくわかりません。
リースの章ほどの量は、次の章ではないと思いますが―…。そう思いたい(不安)。
次回の更新に関しては、いつになるかはわかりませんが、わかりしだい、この部分の下に書いていくと思います。
では、次回の更新で―…。
2021年6月10日 「第94話-6 再会」が完成しました。投稿は、2021年6月11日頃を予定しています。このことを追加します。では、次回の更新で―…。