第94話-4 再会
カクヨムで、現在『ウィザーズ コンダクター』を投稿中。
興味がある人は、ぜひ読んでみてください。
アドレスは以下となっております。
https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
宣伝終わり。
『水晶』の前回までのあらすじは、李章は瑠璃の母親から告げられる。瑠璃が松長家の子ではないということを―…。
(えっ、どういうこと。)
と、一人の少女が動揺する。
動揺しない方がおかしい。
動揺しないなんて、どんだけ精神が強いのか、感情が鈍いのか。
そう思われてしまっても仕方ないだろう。
今、一人の少女は、リビングの入り口の扉のところで、聞いてしまったのだ。
自分のことを―…。
そう、一人の少女とは、瑠璃のことである。
瑠璃は、自分が自らが父親と母親と思っていたが、実の子ではなく、血が繋がっていないということを始めて知ってしまったのだ。
なぜ、瑠璃がリビングの方へと向かっているのか。それは、瑠璃が李章と同じ宿題の途中で、難しい問題に当たってしまい、それを解こうとしても解けないので、何か気分転換に甘いモノでも食べようとして台所へと向かう途中であった。その途中で、リビングに李章が向かっているのを見て、直感的に疑問に思ったけれども、先に台所へと向かい、冷蔵庫の冷凍室に入っていた棒アイスを一つとって、咥えながら、リビングに向かおうとしていたのだ。部屋でアイスをこぼしたくないからだ。その可能性はかなり低いのであるが―…。
そこから、リビングの扉を開けようとした時に、聞いてしまったのだ。「だけど、瑠璃は、私たちの血の繋がった子どもではないの」と、いう瑠璃の母親の言葉を―…。
瑠璃は、ただそこで、すべてのことを聴き始める。
話を戻す。
瑠璃に聞こえてしまっているのを知らない、瑠璃の母親と李章。
二人は、瑠璃の出生についての話を進めていくのであった。
「どういうことですか。瑠璃さんが、血の繋がった子ではないということは―…。」
と、李章は動揺し、最後の方にある「です、ます」調で言うことを忘れてしまっていた。
これが李章の今の感情の衝撃度を表している。それぐらいに衝撃がすごいということだ。
李章にとって、昔から、瑠璃という女の子については、親戚であり、一緒にいることもあったから血が繋がっていると思っていた。これは、李章による勝手な思い込みであるし、瑠璃の両親が瑠璃を実の子のように接していたためでもある。
現に、瑠璃の両親は、実の子である理世に対してと同様に、瑠璃のことを実の子のように育てようとしている。実の子ではないからといって、瑠璃に対して酷い扱いをしてきたわけではない。そのようにするのであれば、最初から瑠璃を育てようとはしなかった。するはずもない。
瑠璃の父親は、瑠璃という少女の未来が理世と同様に明るいものであってほしいと願っていたし、どんな困難も一人の力ではなく、信頼できる友や生涯のパートナーと協力して乗り越えてほしいと思っていた。瑠璃の父親は、今こそは一人ではなくなっているが、昔、自らが優秀すぎるせいで、弟を苦しめてしまったという罪悪感を感じているので、瑠璃や理世にはそうなってほしくないと思っていた。
瑠璃の母親にいたっては、瑠璃が元気で育って、独り立ちをし、自分が良いと思える人生をまっとうしてほしいと思っている。その気持ちは理世に対してそう思う気持ちと同じくらいものである。
ゆえに、瑠璃を実の子でなくても、実の子のように愛情を注いで育てていた。それぐらいの覚悟は瑠璃を拾った日から決めていたのだ。
「事実よ。李章君のおじいさんも知っているし、理世も知っている。瑠璃だけは知らせようと思うけど、踏ん切りというものがつかない。」
と、瑠璃の母親は、最後には申し訳ないような罪悪感を感じているかのような表情で言うのだった。
実際に瑠璃の母親が、瑠璃に対して罪悪感を感じているのは事実である。
李章は、話を進めるべきだと判断する。それは、今は瑠璃の出生について判断するのに情報が必要だと感じたからだ。
「でも、そのことを話したくない気持ちは理解できなくもないのですが―…、どういった経緯で瑠璃さんを自らの子にしたのですか?」
と、李章は、質問する。
瑠璃が瑠璃の両親と実の血の繋がった子でないというのなら、養子とした経緯があるはずだと李章は考えた。それは、李章が物心がつく時には瑠璃はすでに家族であったし、李章と瑠璃は同年代である以上、李章が生まれ物心がつくまでの期間のいつかということになるだろう。いや、正確に言えば、李章が生まれた年の中のいずれかの時期になる。
「それは―…。」
と、瑠璃の母親は、瑠璃の自らの子とした経緯について話し始める。
時はさらに、遡り十二年前。
その年の五月の下旬ごろであった。
松長家は、新しい家を購入した。築二十年前後ほどの家であり、そこからさらに、リフォームがなされていた。
さらに、その家は、前に住んでいた人が、大工とともに自由に作っていたり、基礎にはやたら拘ったりしていたせいか、土台はかなりしっかりとしていた。
それでも、二十年ほどの年月が過ぎれば、家にも痛みが出ていたので、リフォームして、新品に近い状態にしたのだ。そのリフォームは、松長家のお金でおこなわれた。
理世の父親は、優秀であったことから、若い年齢で新興企業の成長に協力しながら、出世も他の同期と比べて早かった。ゆえに、収入も高収入とまではいえないが、しっかりと稼ぐことはできていた。稼いだお金は、理世の母親がしっかりと貯蓄して、重要な時に使おうとしていた。いい家を建てる時とか、子どもの進学費用などの将来にとって必要なものに使うために―…。
それでも、理世の父親は、同年代比べて小遣いが少ないというわけではなく、自分が欲しいと思った本を買っても、交際費などの食事費用が賄えるほどであった。
つまり、理世の父親と母親はともに、金銭の扱い方に関して、ケチというほどではなく、使うところをしっかりと弁えていたということである。無駄遣いもほとんどしないというぐらいに―…。
さて、リフォームの話しに戻すと、そのお金は、理世の父親と母親の双方の合意によって使われたのである。痛んでいても、基礎がしっかりとしていたので、リフォームすることで快適に過ごせると判断してのことだった。
そして、今日は、念願のリフォームを終え、引っ越してくる日であった。
この時、理世は四歳という年齢になる年であった。幼稚園にも通い始め、幼稚園のお友達と一緒に遊ぶのがたまらないほどに楽しい時期であった。好きな女の子には、悪戯をしてしまうような困った一面も持ち合わせていたが―…。
松長家のメンバーは、子どもである理世を真ん中にして、理世の父親と母親が双方から理世の手を繋ぎながら、新しい家へと向かっていた。
そこには、リフォームを請け負った会社の社員が一人、同行していた。
「理世、楽しみね。新しいお家。」
と、理世の母親は言う。
その言葉は、子どもに向けるように、優しさを感じさせるものであり、子どもが元気な返事を自然としてしまいそうなものであった。
「うん、楽しみ。」
と、今の理世の性格からは、想像できない返事であった。
そう、理世は、まだ幼稚園に通い始めた頃は元気いっぱいな性格でよく動く子どもであった。お外で遊ぶのもかなり好きであった。現在は、音楽を嗜み、友達もそこそこいるが、インドアになっている。アウトドアからインドアへとどうやって変化したかは、今は関係なのことなので、語る必要はないだろう。
そんな、楽しそうな表情をしている理世は、新しい家がどんなものであるかワクワクがとまらない状態であった。
理世の父親は、そんな子どもの姿を見ながら、微笑むのであった。理世の姿に影響されて―…。
松長家の面々が新しい家に到着する。
「ほ~お、見た目は立派な感じがします。」
と、理世の父親が言う。
その新しい家は、全体の色は、前の家と変わらない茶色と黒の二色で構成されている。屋根には、屋根瓦がいくつも敷き詰められて、覆い、その悠然さを表現している。まさに、日本の家屋と言っても言い過ぎではないほどでないかもしれない。それほどのものであったということだ。
「ええ~、松長様の要望におこたえできるものにいたしました。では、家の中に入ってみましょうか。」
と、リフォームを請け負った業者の社員が言って、玄関へと案内する。
そこから、その社員が、鍵を取り出して、家を開け、中へと案内するのであった。
一通り、屋根裏の倉庫まで見て、業者は、理世の母親にこの新しい家の鍵を渡し、家から出ていくのであった。
そして、引っ越し業者は前日に入って、荷物を運んでいてくれた。ただし、松長家は、父親も母親も働いており、母親も個人で請け負っているデザインの仕事の締切のために、忙しくて、新しい家に来るのは今日が初めてとなってしまったのだ。
ゆえに、引っ越し業者にお任せにしていたのだ。家具の配置とか―…。それでも、引っ越し業者の家具配置はさすが、業界ナンバーワンと言われているほどであり、仕事の一つ一つが丁寧でしっかりとしたものであった。家具に見た感じでは傷が見当たらないほどだった。
「今日から生活ができそうだな。」
と、理世の父親は言う。
「そうね。今日は、折角引っ越してきたのだから、近所にご挨拶をして、それから、買ってきた蕎麦をご近所さんに渡して、家でも蕎麦にしましょうか。」
と、理世の母親は、言うのであった。
蕎麦に関しては、引っ越すこともあって、買っておくほうが良いと判断して、冷凍蕎麦で少し高めの有名なところの蕎麦を、数日前に買っておいたのだ。汁などを含めて―…。
そして、理世の父親と母親は、近所にご挨拶に行き、引っ越し蕎麦を配ったという―…。
その後、家に帰ってくると、すぐに、引っ越し業者に頼んでいなかったものを片付け始めるのであった。
ここでは、あくまでも生活に必要なものであるが―…。
そして、午後五時を過ぎたあたりになると、さすがに夕食の準備をし始めていたほうがいいし、理世もお腹を空かせると思ったからだ。
理世の母親は、すぐに夕食の準備に取り掛かる。今日は、簡単に蕎麦である。さすがに、蕎麦以外に用意できるものはないし、明日の朝は、冷蔵庫に入れているパンなどで済ませ、昼にかけて、食材や足りない日用品を買う予定である。
その後、30分ほどで夕食の準備を終えた理世の母親は、リビングでテレビでアニメを見ていた理世に、
「夕食、できたから来なさい。」
と、理世に向かって言う。
その言葉を聞いて、
「今、アニメが始まったところなのに~。」
と、不満そうに理世が言う。
当時の理世にとって、この今始まった子ども向けのアニメは理世によって大好きなものだ。少年が正義の力を得て、世界を征服しようとする悪の組織に対抗するという、どこにでもあるものであった。それでも、小さい子どもであった理世にしてみれば、それ自体が新鮮で、まるで自分がその主人公であるかのような気持ちを体験していたのだ。決して、その主人公になれないという現実がそこに存在したとしても―…。
「ビデオに撮ってあるから、後でちゃんと見れるから―…。」
と、理世の母親は、理世を説得しようとする。
けど、理世もこのアニメは大好きだ。生で見るからいいという子どもでは無意識の状態でしかわからないし、意味も理解できていなかった。その気持ちのため、
「え~、今あるんだから、今見たいよ。」
と、理世は、反抗する。
「そう、夕食がなくなってしまうかもしれないよ。」
と、少し脅しにもならないものを優しく言ってみる。
理世の母親は、別に理世を本当の意味で脅したいわけではなく、夕食をさせて少しでも家事を一気にまとめて終わらせようとしているためだ。そうしないと、家事というものはなかなか片付かないものなのである。
さすがに、理世はそういう面で物分かりがよかったのか、
「わかったよ~。」
と、言って、夕食を食べに向かうのであった。
そして、理世の父親とともに夕食の蕎麦を食べるのであった。
食器を洗い終える。
そうすると、何か泣き声のようなものが聞こえてきた。
「オギャーァ、オギャーァ。」
と、その泣き声は、何かを訴えているようであった。
(何、この泣き声―…、まさか、お化け? でも、事故物件というわけでもないし―…。)
と、瑠璃の母親は、心の中で業者の社員の説明の中に、何かこの家で前に事件があったという噂は聞いていない。
さらに、その声を聞いた理世の父親が台所に来るのであった。
「何か、聞こえないか。赤ん坊の泣き声が―…。」
と、理世の父親は言う。
「ええ、聞こえる。どこからだろう。」
と、理世の母親は言う。
そうして、理世の父親と母親は、泣き声がする方へと向かって行くのであった。
声は、二階のほうからしてくる。
まだ、赤ん坊の泣き声と思われるものは続いていた。
「オギャーァ、オギャーァ。」
と。
そして、二階にくると、よりはっきりとその声が聞こえるようになり、声のする方へと向かって行く。
二階の屋根裏倉庫のところまでくると、より一層、はっきりと声が聞こえる。
理世の父親と母親は、その屋根裏の倉庫の中に入っていく。
その中は暗くなっていたので、部屋に入る廊下の明かりをつけたままにしておいた。
そして、偶然、光があたったのか、泣き声の正体が見ることができた。
「赤ん坊―…。」
と、理世の父親は、驚くのであった。
今日の部屋の案内で、ここを見た時には、赤ん坊はいなかったのに、どうして急に―…、一体誰が―…、と思考をするのであった。
どうして屋根裏倉庫に赤ん坊がいるのか、いくら考えてもわからなかった。
そこにいた子こそ、松長瑠璃と名付けられる少女の現実世界における始まりであった。
第94話-5 再会 に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
次回の更新までの分がぜんぜん進んでません。昨日までの数日は、うまく進んでいたんですが、疲れがでたのか、あまり進みません。なので、次回の更新は、確定しだい、この部分で日にちを記すことにします。活動報告には記しませんので、ご注意ください。
では~、次回の更新で―…。
2021年6月7日 「第94話-5 再会」が完成したので、その投稿を2021年6月8日頃を予定といたします。