第94話-3 再会
カクヨムで『ウィザーズ コンダクター』投稿中。
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『水晶』の前回までのあらすじは、第九回戦が終わり、ミランと瑠璃の治療を終えるのであった。あっ、ついで、イルーナによって蹴られたアンバイドの治療も終わるのであった。
ここで、いったん時を戻す。
いや、夢を見ると、言ったことがいいのかもしれない。
瑠璃は、今、意識を失いながらも見ているのだ。
瑠璃が、自らの出生と本当のことの一部を知った日のことを―…。
だけど、忘れてはならない。瑠璃の出生は、後に語られるだろう、そう遠くない時に、いや、時間軸でいれば、瑠璃が意識を失っている間に、証拠とともに―…。
それでも、本当のことの一部はここで語っておく必要があるだろう。
ゆえに、時を戻すのだ。
時は、今から半年ほど前である。
まだ、瑠璃、李章、礼奈が住む現実世界が石化の日を迎える前のことだ。
状況でいえば、ちょうど、李章が瑠璃の家に同居するようになってから、一か月が経過しない時期であろう。
李章は瑠璃の家に同居してから、男友達も幾人かできたが、それでも、男友達と一緒に遊びに行くことはほとんどなく、家の庭で、毎日のように修行をしていた。蹴りの練習とかを―…。
その様子を瑠璃は、目をキラキラさせながら見ていたりしていた。それを礼奈は、親友がダメな方向に行っているのではないかと不安になるのであった。
そういう日々の中で、一つの事件が起こる。
夕食の後、瑠璃が部屋へ戻っていた時、その時、李章は瑠璃の母親とともに食事の片づけを一緒にしていた。
李章としては、居候をさせてもらっている以上、その家族に迷惑をかけないようにしたいと思ったからだ。ここを追い出されることになれば、自分に待っているのが、最悪の人生であるということも理解していた。そう、李章の実の父親による暴力に巻き込まれ兼ねないからだ。さらに、李章にとっては、瑠璃の家での居場所を確保するために、いい子であることが必要であると理解していた。自分は実の子ではないから―…。
一方で、瑠璃の両親は、李章のことは甥っ子であり、家族の一員であると思っていた。そして、李章の気持ちが何となくわかっていた。それは、実の子じゃない子が、居候しているのだから、自分の安全を確保するためにいい子でいようとしている。そうしないと、自分は家を追い出されるのではないかという脅迫観念が存在しているのだろうと推測することができた。
しかし、瑠璃の両親にとっては、血が繋がっていることイコール家族だとは思ってもいなかった。だけど、それゆえにより強い家族の絆がかえって、家族以上に家族の問題で苦しませることがあると知識のうえでは知っていた。その強い家族の絆が良いように作用すれば、血で繋がっている家族以上の家族になることはできると信じていた。
瑠璃の両親は、血が繋がっていることが家族になるとは限らないということは李章と李章の両親による関係から理解していた。さらに、瑠璃の両親自身も、血が繋がっていなくても自らの子どもと家族になれるということを経験していた。それでも、そのことを当の本人には知らせていないことに罪悪感を感じていた。
瑠璃の母親は、今日の夕食で使った食器を洗いながら、
(瑠璃に本当のことが言えないのよね。理世(瑠璃の兄の名前)には、昔、言ったことはあるけど―…。瑠璃に言える勇気が欲しいわね。瑠璃の父親もそうみたいだし―…。でも、いつかは言わないといけないし、李章君の方も知っておいた方が、肩身が狭い思いをしなくて済むかもしれない。)
と、心の中で思っていた。
そう、瑠璃は、実際は、松長家の子どもではないのだ。その理由に関しては、すぐ後にわかるので、今は語らないことにしよう。
瑠璃の母親は、いつかは瑠璃に対して、実の子ではないのだと言わなければならないと思っていたのだ。瑠璃の父親も同様であった。それでも言えなかったのは、家族関係が壊れることもあったが、同時に、瑠璃の笑顔や「お父さん」「お母さん」という言葉を聞いていると、つい言えなくなってしまうのだ。そのように呼ばれることに心地よさを感じてしまって―…。
そのために、瑠璃の両親は、罪悪感を感じてしまっている。瑠璃の前では、そのような表情をしないようにしている。かなりの気を使っているのであるが―…・
一方で、瑠璃の兄である理世は、両親の気持ちを察してか、瑠璃が血の繋がった家族ではないと瑠璃には言っていない。それに、瑠璃は長年、家族として過ごしている以上、血が繋がっていようといなかろうと関係のないことだった。それは、理世の家族観というものに反映されている。
それと同時に、瑠璃の両親が、瑠璃に向かって血の繋がった子ではないと言えなくてもいいと思っていた。知らないほうが幸せということもあるが、知ることによって得られるものもあるということを理解していた。ゆえに、瑠璃の両親が、選んだ選択およびそれを躊躇うことさえ、瑠璃の両親にとって必要なことだと思っているので、邪魔をしないようにしている。それぐらいしかすることがないと理世が思っているからだ。
話を戻すと、瑠璃の両親は、瑠璃に実はあなたは血の繋がった子ではないと言えないでいた。
そんな悩みをこの頃、そう、李章が居候するようになって抱いていた。李章が居候をしていて、李章自身が肩身が狭い思いを感じ取らせていたために、よりそう思うのであった。李章が少しでも楽に、瑠璃や理世のように、家事を手伝わないような親不孝ではないほどでなくてもいいから、遠慮というものをしないようにしてほしいと思っていた。
李章は、手伝いをすること自体が苦ではなかった。元々、祖父の家で暮らしていた以上、祖父から家事については教えてもらっていた。ただし、料理の方が、ザ・男の料理という感じであったことから、瑠璃の家での家庭の料理というのはあまり作ったことがなかった。ゆえに、瑠璃の母親から料理について教えてもらっているのは、李章にとって、楽しみの一つとなっていた。修行以外の趣味の一つとなっていた。
(李章君には、今日、話すことにするか。)
と、瑠璃の母親が心の中で決める。
そして、台所へと通りかかった瑠璃の父親に対して、
「あなた。」
と、言って、瑠璃の母親は、瑠璃の父親のもとへと向かって行き、ヒソヒソ話をする。
「李章君に、瑠璃の出生のことを言っておいてもいい?」
と、瑠璃の母親は、瑠璃に父親に向かって、尋ねる。
それは、李章に対して、瑠璃の本当のことを言ってもいいかということであった。これは、大事な事である以上、瑠璃の父親の確認をしておく必要があった。そうしないと、余計な溝を作ってしまい、夫婦関係に影響を及ぼすと考えたからである。実際は、瑠璃の父親がそのように大事な事でも、許可も確認もせずに、李章に言ったからといっても怒ることはない。瑠璃の父親は、瑠璃の母親を信じているからだ。言う必要があったからこそ、言ったのだと―…。
だから、瑠璃の父親は、
「いいよ。李章君なら、信用はできる。前に言っていたじゃないか。李章君、瑠璃に惚れているみたいだって―…。なら、李章君も知っておく必要があるから―…。もし、言えないのであれば、代わりに私が言おうか?」
と、瑠璃の母親に向かって言う。
それは、瑠璃の母親が瑠璃のことを李章に言っていいのかと尋ねてきたので、李章に言いづらいとも感じていたのだ。ゆえに、瑠璃の母親に代わり、瑠璃の父親が瑠璃のことについて李章に言おうかと提案したのである。
その答えは、瑠璃の母親の口からしっかりとかえってくる。
「いいえ、それは大丈夫。確認だけがとりたかったから―…。勝手に言うのは、お互いにとって気まずいことですし―…。」
と。
「そうだね。では、僕はお風呂にでも行くよ。」
と、瑠璃の父親は言う。
「わかった。」
と、瑠璃の母親は言い、瑠璃の父親が浴室に行くのを見るのであった。
そして、瑠璃の母親は、李章のいる場所へと戻っていくのであった。
「食器はすべて洗い終わって、今、水気を切っています。」
と、李章は、戻ってきた瑠璃の母親に向かって言う。
それは、夕食で食事を盛るのに使用した食器とコップを全部洗い終えたことを言い、そして、後は、水気を切った食器やコップを食器棚にしまうことだけであるということを報告する。
そうすることで、余計な質問を回避し、作業の効率化をはかることができるからだ。
李章は、作業の効率化のためにそうしている面もあるが、それ以上に、自分の居場所を確保するためのアピールでもあった。それは、このようにして、自分がこの家では役に立つことをアピールしていないと、自分の居場所を失ってしまうのだ。それぐらいに、李章は自身の立場は弱いと思っているのだ。
しかし、李章のことを本当の血の繋がった家族のように思っている瑠璃の母親にとって、李章の居場所を確保しようとしているアピールの方が、申し訳なく思い、罪悪感を感じさせてしまうものでしかなかった。
だけど、それでも言おうと思っている。瑠璃のことを―…。
だから、瑠璃の母親は、
「李章君。別に、自分の居場所をアピールしなくても、あなたはちゃんと私たちの家族。それと、重要な事を言おうと思っています。別に、李章君を追い出したり、暴力を振るったりすることのような理不尽なことではないよ。そんなこと、李章君に対して、したいとは思っていません。話すのは、李章君がお風呂、入り終えた後に、リビングに来てくれる。」
と、意を決して、話しをすることを伝える。
だけど、李章に具体的にどんな内容であるかを明かさずに―…。瑠璃に今、聞かれるのは良くないと思っていたからだ。瑠璃に言う時は、絶対に直接瑠璃に伝えたかったからだ。面と向かって、瑠璃が血の繋がった子ではないということを知ったうえで、その時の瑠璃の気持ちを受け止めたいと思っているからだ。卑怯なことはしたくない。
李章は、瑠璃の母親の言葉を聞いて、
「はい、わかりました。」
と、返事をするのだった。
こうして、李章は、食器の片づけを終えると、自分の部屋へと戻るのであった。今は、瑠璃の父親がお風呂に入っているようだった。
李章は自分の部屋へと戻る。
李章は、開いている時間を使って、今日学校から出た宿題に取り掛かる。
(1600年、関ケ原の戦いで勝利し、江戸幕府を開いた人物は誰ですか? ・・・答えは徳川家康。)
と、李章は心の中で言いながら、解答欄に答えを記入する。
今日、学校から出された社会科の宿題は、江戸時代の初期の歴史についての内容の問題が書かれたプリントであり、今、李章が解いた問題はその最初の問題であった。
(次は、問一の人物の孫である徳川家光が第三代将軍となります。彼がおこなったことのなかで、大名が一年おきに自らの領地と江戸の間を行き来する制度は何というか? ・・・答えは―…、参勤交代です。)
と、次の問題も解いていく。
そして、宿題のプリントを全問解き終えると、李章は、ちょうどその時、
「李章君、お風呂あがったよ。入ってきなさい。」
と、瑠璃の父親が李章の部屋をノックにしながら、呼びかけるのである。
だから、李章は、
「はい、わかりました。」
と、自分の部屋のドアに向かって返事をする。
その後、瑠璃の父親は、李章からの返事を聞くことができたので、自らの寝室へと戻っていくのであった。
李章は、パジャマと下着を衣服を入れるケースから取り出して、お風呂へと向かって行くのであった。
その時、
(重要な事とは、一体何でしょうか?)
と、心の中で、少し前に、瑠璃の母親から言われたことの重要な事が何かを考えるのであった。疑問というものを含めて―…。
それでも、李章のとっては、わからないことであったので、教えてくれる時にわかればいいと思っていた。知らないことをいくら考えても、わかるわけがないと李章は割り切ったからである。
そして、三十分ほどの時間が経過した。
李章は入浴を終えると、パジャマを着て、二階へと向かい、瑠璃の兄である理世の部屋をノックして、お風呂をあがったことを言い、次の番を伝えるのであった。
その後、李章は階段を下りて、リビングへと向かうのであった。
リビングでは、瑠璃の母親がちょうどテレビを見ていた。瑠璃はその場にいなかった。
李章は、リビングに入ると扉を閉める。ただし、リビングの扉に鍵で閉めるものではないので、誰かが開けるようなことをすれば、簡単に開いてしまう状態だ。
「大事な話とは何でしょうか。」
と、李章は、瑠璃の母親に向かって用件を尋ねる。
それは、李章が今も気になっていることだ。李章が現時点で考えられる重要なことは、李章をこの家に置き続けることが可能かということであった。ゆえに、李章の心の奥底ではビクビクと震えあがっていたのだ。ついに、自分の居場所がなくなってしまうのかと怯えながら―…。たとえ、瑠璃の母親がそれを否定したとしても、考えてしまうのだ。
「李章君、大事な話とは、瑠璃のことだから―…。震えなくても大丈夫。それに―…、これから話すことは瑠璃にはまだ言わないで欲しい。」
と、瑠璃の母親は言う。
この言葉を聞いて、李章は、
(瑠璃さんのこと? 一体、どういうことなんでしょうか?)
と、心の中で安心するも、瑠璃のことだと聞いて、何だろうと思うのであった。
それに、これから話すことを瑠璃に伝えて欲しくないと、言っている。そこから李章は、何か瑠璃には言えないことで重要なことなのだろうということを理解した。
ゆえに、今のところは、
「はい、わかりました。」
と、返事をするのであった。
「うん、話を始めよう。私たちの子どもは、理世と瑠璃の二人。理世は、私がお腹を痛めて生んだ子ども。」
と、瑠璃の母親は言う。
その言葉に李章は、
(うん、子どもは、母親から生まれるものです。当たり前のことです。だけど、理世さんの方だけですか? 瑠璃さんは?)
と、疑問に思う。
その疑問に気づくことはできるが、それ以上に話を進めておく必要があった瑠璃の母親は、
「だけど、瑠璃は、私たちの血の繋がった子どもではないの。」
と、衝撃の事実を言うのであった。
そのことに李章は驚き、動揺するのであった。
だけど、不幸なことにこの話を聞いていた人物が、リビングの扉の近くに一人いたのである。
第94話-4 再会 に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
今回から、瑠璃のことについて書いていきながら、リースでのベルグの動き(ベルグは登場しないと思いますが)について触れるようになると思います。瑠璃の出生がわかって、ミランとの関係が―…ってところが終わると、最終回戦へと入っていきます。
では、次回の更新で―…。