第93話-2 狙う者
前回までのあらすじは、ロー、ギーラン、イルーナは、第九回戦がおこなわれているリースの競技場の到着し、観客席へと向かい、そこで、瑠璃とミランが戦っている試合を見てしまうのである。
今回で、第93話は完成します。
(どうして、ミランが―…。)
と、ギーランはさらに気づく。
そう、戦っている側の瑠璃は、現実世界の石化の時に助けて、この異世界に送った少女の一人だ。
さらに、李章と礼奈も中央の舞台にいるのをギーランは、確認する。
(ミランがどうして、俺が助けた子と戦っているのだ…。)
と、心の中で今の状況をまるで、理解できなかった。
ここからのこの光景を見たものには、理解できないだろう。その前の前提というものがないのだから―…。
ギーランも、ローも、イルーナも混乱する。混乱しないほうが無理であろう。
だけど、同時に、ある人物にも気づく。
「あれっ!! うちの兄がいる。」
と、イルーナが言う。
そう、瑠璃、李章、礼奈とともにアンバイドがいたのだ。ただし、瑠璃は試合中であるが―…。
「どうして、アンバイドがここにいるのだ。いや、ローさんから聞いている。ルーゼル=ロッヘの時にはすでにいたみたいだが―…。その理由は、ローさんにも分からないみたいだし―…。」
と、ギーランは言う。
それでも、ギーランは、予想することができる。たぶん、復讐だろう。瑠璃、李章、礼奈と一緒にいることから復讐対象に接する機会があると判断して一緒にいるのだろう。
「まだ、復讐にこだわっているの。フィナ義姉も報われないわねぇ~。一発、後で蹴り入れときましょう。」
と、にこやかな表情でイルーナは言う。
アンバイドの復讐をアホなことであり、馬鹿々々しいことだと思っている。復讐したからといって、その人は帰ってきますか。そんなわけがない。憎くても、結局はある程度は耐えるしかない。それでも、我慢の限度というものは、イルーナにも存在する。その限界を超えれば、復讐よりも恐ろしい方法で対処すればいい。そういうことだ。
「蹴りって―…。アンバイドは強いのだから、やめなさいって―…。」
と、ギーランは、イルーナがアンバイドに蹴りを入れるの止めさせようとする。
ギーランの本当の意味するところは、アンバイドがガチで蹴り飛ばされて、重傷になりかねないからだ。本当の本当に―…。イルーナの特殊能力のせいで―…。それが成り立っているのがアンバイドが強いということだ。
「え~、それは嫌です。ギーランには甘えと甘えられを、アンバイドには一撃必殺と揶揄いを―…。」
と、イルーナは、まるで、それが真理であり、常識であるように言う。
「………。」
と、ギーランは、無駄だと思って、諦めるのだった。
それと同時に、ギーランは、四角いリングの方へと向かおうとするが、
「今は、止めるべきじゃのう~。」
と、ローが、ギーランを静止するのだった。
「なんでですか。」
と、ギーランが言うと、ローは、
「理由は簡単じゃ。この戦いで今、儂たちが乱入すれば、事態をややこしくしてしまう。それに、もう一つ、この試合に参加しているミランと瑠璃を狙っている奴の視線を感じる。」
と、言う。
その言葉をギーランは、周囲を探る。観客席にはそのような感じのものはいなかった。だけど、範囲を広げて探る。
そうすると、
(競技場の上に人。)
と、ギーランも気づく。
そう、リースの競技場の柱の一番高く、競技場内でも一番高い所に人がいるのだ。観客は、試合に夢中で気づいていないようであるが、試合に興味がなくかつ視線を上に意識させれば、気づくことは可能であろう。
それぐらいには、わかりやすかったのだ。ギーランは、ローとヒソヒソと話し始める。
「ローさん。あそこにいる人―…。スナイパーのようですね。だけど―…、スナイパーならもっと誰にも気づかれないような場所に隠れませんか―…。一流なら―…。」
と、ギーランが言う。
そうすると、ローは、
「そうじゃな、ギーラン。あそこにいる者が一流のスナイパーならば…な。」
と、ギーランに対して返事をするのであった。
ギーランとローは、二人して、ミランと瑠璃を狙っているという人物に気づくが、本当に一流のスナイパーならターゲットにあてるまで、気づかれないようにしているものだ。
ゆえに、今、ミランと瑠璃を狙っている人物は、一流のスナイパーではないということになる。だけど、銃という武器を用いてターゲットを狙うわけではない。彼の武器は、弓なのだ。
そして、野心が強く、フェーナの弟よりも優れているとしても、策を練れるほどに素晴らしいわけではない。策という面では、フェーナの弟よりも劣っているといってもいいだろう。
ギーランとローは、この人物が瑠璃とミランを狙っていることには気づいている。
「なら、彼の動向をしっかりとみておくべきですか、ローさん。」
と、ギーランは言う。
「そうじゃな。儂の能力を気づかれずに向こうさんにかけておくか。」
と、ローは言うと、ボソッと何かを言い、ミランと瑠璃を狙っている人にローの能力をかけるのだった。
それは、
「目的者の行動通知。」
と、ローが言うものであった。
目的者の行動通知とは、目的人物にその能力をかけ、その目的人物が行動するとすぐに、言語化してその能力をかけた人に通知されるのだ。
なぜ、ローがこのような能力を有しているのか、まだ、これについては、触れる必要のないことだ。かなり後になって、ローの能力を知ることでわかることになるのだから―…。
今は、そんなことよりも話を進めていく。
ローは続けて、
「これで、向こうの動きがあれば、儂に知らせることになる。」
と、言う。
ギーランは、ローの言葉を聞いて、
「わかりました、ローさん。」
と、返事をするだけだった。
イルーナは、娘の戦いを心配そうに見るのであった。ミランが殺されないことを祈るのであった。そして、
(ミランと戦っている瑠璃。何か、赤の他人のようには感じない。まるで、懐かしい―…、ずっと私が会いたくて、会いたくて、たまらない―…。そんな気分。何でだろう。)
と、心の中で思うのだった。
イルーナとしては、瑠璃という子に会ったことはないと理性的には判断する。だけど―…、心の奥底ではそうではないと感じてしまう。懐かしい何か。そのような感じで―…。だから、瑠璃のことが少しだけ気になるのであった。いや、とてもになるかもしれない。
ミランと瑠璃を狙っている者がいる場所。
彼は、何も気づいていなかった。
ローによって、自らの行動が逐一、ローにだだ漏れになっていることを―…。
そんな中、彼は、ただ、ただ、ミランと瑠璃の第九回戦第四試合を眺めるのであった。
(ほお~、ミランの対戦相手の三人組の一人は、出血で倒れてもおかしくない状態だ。とどめをさす必要はないな。だけど―…、ミランの方は思ったよりも、まだ戦えるのか―…、弓での攻撃が失敗しやすい。もう少しミランにダメージを与えろよ。)
と、心の中で思う。
瑠璃に対して彼は、不満があるのだ。いくら一発でミランと瑠璃を殺さないといけないということであったとしても、相手がある程度、瀕死状態であるのが望ましい。そうすれば、弓での攻撃が当たる確率が上昇するからである。
それもそのはずだ。動く獲物を狙うよりも、動かない獲物を狙うほうが簡単なのだから―…。まあ、そうではない人もいるだろうが―…。
(まあ、事は俺の思惑通りに進んでいる。あの二人を討ち取れば、ベルグ様もきっと私を認めてくれるはず。ああ~、私の野心が満たされる~。)
と、彼は心の中で悦に浸るのであった。
四角いリングの上。
第九回戦第四試合がおこなわれている。
瑠璃とミランの戦いが―…。
ミランが、自らの武器である柄に纏わせた刀の形を闇で斬撃をおこなう。右から左への軌道で―…。
「闇斬」
と、言いながら―…。
ミランが振った刀の軌道上から瑠璃に向かって、闇の斬撃が放たれるのであった。
瑠璃は、自らの武器に宿っている天成獣グリエルの能力である光を使うという選択肢はなかった。それとは別の選択肢をすでに瑠璃は選択済みであった。
「赤の水晶。」
と、瑠璃が言うと、赤の水晶が瑠璃の前に空間の裂け目を展開するのであった。
ミランはそれに気づく。
(チッ!! またか、でも、次の攻撃は―…。)
と、ミランは心の中で思うのと同時に、ミランの頭上から何かが落ちてくる。
ミランは、瑠璃が展開した目の前にあるものには気づくが、しかし、瑠璃が真上に展開した別の空間の裂け目には気づかなかった。
瑠璃は、ミランにこの一撃を当てて、勝利するために狙っていたのだ。
「地向雷」
と、瑠璃が言う。
そして、ミランを覆うように、雷が一つ、四角いリングのおちるのであった。
ピッ、シャアアアアアアアアアアアアアアア、と、鼓膜を破るような音をさせながら―…。
それは、ミランをも飲み込んでしまう。大ダメージは避けられないだろう。
瑠璃は見ていた。
対戦相手であるミランが確実に倒れる場面を見るまで、自分も倒れるわけにはいかない。自らの命を守るために―…。
しばらくの時間が過ぎた。
それでも、数秒のことであった。
そして、煙のようなものは発生していたが視界が確保できないほどではない。
むしろ、ミランの姿が見えていた。
ミランは、ある程度焦げているように感じるが、それでも完全にそういうことではなく、何とか命を繋ぎとめるほどであった。
そして、ミランは気絶してしまったのだろうか―…、倒れ始めるのであった。
それを見た瑠璃は、
(これで私の……か……………ち…………………………。)
と、心の中で思いながら、意識を切らしていくのであった。
そう、瑠璃もまた、ミランと同時と言ってもいいぐらいで、自身の体は倒れていくのであった。
ガタン、と。
双方が同時に、四角いリングの上に倒れたのである。
中央の舞台にいる両チームの意識のある者たちは、騒然とする。
観客席にいる者たちもそうだ。このような試合、ランシュが企画したゲームの試合の中で、こんな試合は一度もなかった。近い試合といえば、第一回戦の時であったろう。それでも、同時ではなく、瑠璃が審判であるファーランスの勝利宣言が終わるまでは、意識を保つことができていた。
今は、そうではない。両方とも同時に倒れたのだ。
観客席にいた審判であるファーランスも騒然とする。
その中で、ファーランスは、引き分けが試合の中であることを思い出す。忘れていたのは、今までの試合で、引き分けという結果がなかったからだ。
「第九回戦第四試合、勝者なし!!」
と、ファーランスは、そう宣言するのであった。
ミランと瑠璃を見つめる者。
そこは、観客席ではないが、競技場の最も高い柱の上にいる人物。
その人物は、第九回戦第四試合の経過をすべて、見てすぐに仕事にとりかかる。
まあ、仕事といっても、自分の意志でやっているものであるが―…。
(やっと、決着が着いたか…。準備はすでに完了している。さあ、行ってこい。瑠璃はすでに出血量でダメだろう。なら、狙うはミランの方―…。さよなら。)
と、心の中で彼は言いながら、矢を放つのであった。
ミランに確実に向かうようにして、囲いを越え、落下するようにして矢がミランの当たるようにして―…。矢の先端には猛毒を塗っており、矢に触れれば、数時間ほどで死んでしまうほどだ。
一方で瑠璃に対しては、矢を放たなかった。それは、瑠璃が出血をしており、試合時間が長かったことにより、出血多量でじきに死んでしまうと思ったからだ。
だけど、ここに礼奈が回復させるということを知っていたのであれば、確実に矢を放っていただろう。つまり、彼は礼奈の存在を知らずに今の作戦を実行しているのである。青の水晶の存在は確実に知っているわけがない。
(さあ~、後は、待つだけだな。)
と、心の中で安堵の表情をするのであった。
確実に当たるということは、自分自身が一番わかっている。今は試合が終了して、時間がそれほどまで経過していないからだ。そして、矢が当たるのは、十秒も時間が経過しないのだから―…。彼は矢を何度も放っていることから、経験上理解することが可能であったのだ。ゆえに、この時間の予測も正確性の高いものであった。
矢は、ミランに向かって落下していく。
(いけ、いけ!! いけ!!! いけぇ――――――――――――――――――――――――――――!!!!)
と、心の中ではすでに自らの成功しているのだという確信を持ち、さらに、自らにとっての欲望が叶う瞬間を今か今かと期待に満ちあふれていた。
だけど、そんな瞬間が訪れることはなかった。
「!!」
と、驚きながら、
(どうして、そこに、人がいる!!!)
と、心の中で、表情ででている以上に動揺するのであった。
四角いリングの上のミランのいる場所に、ギーランがいたのだ。
「私の娘に手をださせない!!」
と、ギーランは、ミランを抱えながら言うのであった。
ギーランは、自らの武器である剣を矢を四角いリングを覆う囲いの方へと飛ばして―…。
【第93話 Fin】
次回、再会する!!
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
次の『水晶』の更新がいつになるかはわかりません。理由は、カクヨムで投稿している『ウィザーズ コンダクター』のストックを増やそうとしていて、その作品を書いている間に『水晶』を書く気力が奪われてしまっています。よう、疲れているような状態になっています。
なので、次回の更新を正確な日付言うことはしばらく無理かもしれません。頑張っていたいのですが―…。
では、次回の更新で―…。
2021年5月27日 次回の更新の時期が決まりました。2021年5月28日に次回の更新の予定となりました。第185部分が今日、あとは、文字のミスがないか確かめるところまでに到達しました。しばらく、次回の更新に関して、正確な日にちを出すことができないことが続くと思いますが、それが決まり次第、更新した最新の部分でお知らせしていきたいです。
今後とも、『水晶』をよろしくお願いいたします。では~。