第90話-3 睨まれる理由
『ウィザーズ コンダクター』をカクヨムで更新しています。今日は、18時30分に第26回を更新する予定です。興味のある人は読んでみてください。
アドレスは以下となります。
https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
お知らせ終了。
ここから、『水晶』の内容です。
前回までのあらすじは、第九回戦第四試合、瑠璃VSミランの試合が開始されるのであった。因縁の対決(?)が―・・・。
今回で、第90話は完成します。
時間は少しだけ戻る。
リースの競技場の観客席が見渡せる場所。
そして、同時に、中央の舞台、四角いリングを見渡せる場所。
彼の存在には、誰も気づかなかった。気づくわけがない。気配を消しているのだから―…。
(俺の情報網を舐めてもらっては困る。ベルグ様。私は、たとえあの方々やランシュ、フェーナ様より実力で劣っているとしても、十分に強い。ミランや瑠璃ごときに負けることはありえない。天と地がひっくり返ったとしても―…。)
と、心の中でその人物は言う。
彼の名前は、まだ伏せておいたほうがいいだろう。
だけど、今の心の中の言葉からどういう人物なのかはわかることであろう。
(だが、念には念を入れて…だ。ミランと瑠璃がどちらかを倒し、弱っているところをこれで ―…。)
と、心の中で言いながら、自らの持っている弓矢に目を向ける。
彼の戦い方は、弓矢による遠距離攻撃を得意としている。スナイパーのように、一瞬で相手を倒すこと、もしくはその命を奪うことが得意である。ベルグから言わせてもらえば、卑怯な奴なのかもしれない。
それでも、相手の予想しない攻撃、一撃で仕留めるのは、戦場では絶対に必要なことなのだから―…。軍勢による戦いであれば、戦局さえ変化させることがある。
(まあ、フェーナ様の弟の野郎ばかりが期待されるが、あんな雑魚が何で―…。意味不明。この二人を殺した首で、今度こそ俺がベルグ様の寵愛を受けるんだ。臣下としての―…。)
と、心の中で密かに野心を燃やす。
それは、彼にとって、彼よりも確実に弱いのに、ベルグ様からそこそこ力を認められているのだ。そう、フェーナの実の弟である人物が―…。まだ、子どもであり、隠れて相手を倒すことしかできず、かつ、近接戦の対処もできないような人物なのに―…。実際は、子どもでも李章より年上ではあるが―・・・。
彼にとっては、フェーナの弟が評価されるのが気に食わなかった。ゆえに彼はこう思ってもいた。
(フェーナ様の弟というだけ評価されているに違いない。ここで俺が成果をあげれば、きっと俺の方が評価されるに決まっている。)
どこまでも都合の良い思考であろう。
ベルグは、彼のような人材の必要性も認識しているし、フェーナの弟よりも実力は今のところあるとして評価は心の中でしている。だけど、ベルグは、彼の異常なまでの野心への執着をあまり好んでいなかった。そのために、彼をあえてフェーナの弟よりも評価していないのだ。
フェーナの弟は、野心自体はあるが、あくまでも姉であるフェーナのためというところが大きいのだ。そのため、利用しやすいといえばしやすいのだ。彼のように、自分が一番になるためなら、他人を必要以上に貶めることはないのだから―…。
だから、ベルグは、彼の勝手な行動がベルグ自身の危機を招くかもしれないと思い、今回の彼の瑠璃とミランの暗殺を止めようとしているのだ。
魔術師ローのいる場所は、何となく予想がついていたという。ベルグはギーランに出会った時に、密かにギーランを追跡できる「私」の力をかけていたのだ。ギーランに気づかれることなく―…。
そして、今回の彼の暴走を知って、ギーランのいる場所に向かったわけだ。ギーランがいる所にローがいる可能性が高いためである。それは、二年前のある出来事で、今とある国で元首となっている人物の父親から手に入れた情報であるが―・・・。その父親も息子から聞いたことらしい。
実際、ビンゴなのであった。そこで、ミランの居場所と彼の野望のことを言ったのだ。彼の暴走は、ベルグとして余計な事でしかなく、迷惑であった。
そして、ベルグは、すぐに、自らの計画のために、自分が拠点としている場所に戻っていったというわけだ。
そんなことを彼は、一生知ることはないだろう。
彼は、瑠璃とミランの戦いが見える場所で、弓を構える準備をして、試合の行く末を見守るのであった。
(あの囲いに関しては、上から下へという感じいいのか。)
と、余計な事をしてくれたと管理室長のことを恨むのだった。
弓を射る方法を変更せざるをえなくなったのだから―…。
管理室長のことは、さっきの放送でその名を知ることになったのだから―…。
四角いリングの上。
ここでは、第九回戦第四試合が開幕していた。
その開始後、すぐに、ミランは、
「瑠璃を倒して、復讐する。」
と、言い、ポーチの中に入れていた一つの武器を取り出す。
その武器は、剣などの武器の柄でしかなかった。握る所は存在するが―…。
それを見て、瑠璃は、
(えっ、あれで戦うの。あれがミランって人の武器。・・・・・・うん、武器も持てないほどに貧しい暮らしを―…。何か可哀想だなぁ~、少しぐらい手加減しても―…。)
と、心の中で、瑠璃を復讐対象にしてきたミランを哀れに思うのだった。
剣などの使われる武器の柄でしかミランは戦えないのだから、よっぽど大変だったのだなぁ~と、瑠璃は感じ、少しぐらいは手加減して適当に戦おうとした。
そこに、瑠璃の油断が生じたのだ。
だけど、それを注意する人が存在したのだ。
「瑠璃!! ミランの武器はその柄だ。柄だけだと舐めると痛い目に会うぞ!!! 油断するな、柄から闇で固めた武器をくっつけて戦う!!!!」
と、アンバイドが瑠璃の油断を見抜き、すぐさまに注意する。
そう、アンバイドは、ミランの戦い方を知っていた。ミランと親戚である以上、ミランの戦い方を見たことが何回かあるからだ。
ミランの武器の柄は、天成獣の宿った武器であり、剣の金属部分がつけられていないだけで、そこに自らが展開した闇を付けることができる。応用が普通の天成獣の宿っている武器よりも応用がきくのだ。武器としての形が―…。
「えっ!!!」
と、アンバイドの言葉に、瑠璃が驚く。
(柄だけっていうのは、ただ貧しいということじゃなくて、柄そのものが武器ってこと!!)
と、瑠璃は心の中で驚き、ミランに向かって視線を合わせるのだった。
「本当、舐められたものね。やっぱり、人を不幸にしてそんなに楽しいのかしら―…。」
と、ミランは、瑠璃の可哀想な目で見てくることに腹を立てる。
それもそうだろう。瑠璃は、ミランの武器を見て、そう思ったのであり、ミランにとっては真剣そのものであるのだから―…。
そして、ミランは瑠璃が復讐対象であることから、瑠璃の可哀想な目で見られるのは、ミラン自身が馬鹿にされているのだと思い、屈辱的な感じがして、怒りの感情がミランに湧くのだ。
そうなってくると、ミランは、自らの不幸を思い出し、瑠璃の性格を人の不幸を楽しんでいるという被害妄想に陥ってしまうのだから―…。
「いや、そういうわけじゃないです。ただ、ミランさん、の持っている武器が柄だけだったので、てっきり…ここまで苦労されたのかなぁ~、と。」
と、瑠璃は、何とか誤魔化そうとする。
だけど、その言葉は、ミランの怒りを逆なでするだけだった。
そりゃそうだろう。ミランだって、好きで天成獣の宿った武器が柄だけのものを扱っているわけではないのだ。
それでも、戦っていくうちにミランは、自らの武器の応用性の強さに、愛着がわき、さらに、実力をはやく上昇させていったのだ。
今は、ミランは自身の武器に感謝している。それを、苦労…で、同情されるなんて―…、ふざけるなと心の中で叫びそうになっていた。
瑠璃がこう思うのも無理はないだろう。瑠璃の今までの人生をミランが知らないように、瑠璃もまたミランの今までの人生を知らないのだから―…。二人は、今日、この場で始めて、会話しているのだから―…。
「わかったわ。瑠璃は徹底的に私がぶっ潰す。」
と、ミランは宣戦布告するかのように言う。
ミランは、柄を右手で持ちながら、柄から闇を展開し、それを剣の金属部分の形にしていく。
瑠璃は、その光景を見ながら戦闘準備をする。杖を握り、水晶玉の部分に電玉を形成していくのだった。
最初に、動いたのは、ミランであった。
ミランは、瑠璃のように、電玉をつくったりする必要はない。闇の形を完全にしていなくても、動くことができる。展開した闇を柄で、武器のような形にすればいいのだから―…。
剣の形にしたミランは、突きの攻撃の態勢に移行する。それは、一突きで瑠璃を刺し殺せるほどに―…。
だけど、瑠璃もそれに気づき、ミランの武器の闇の部分を電玉に当たるように、位置を上下させる。
その結果、ミランの突き攻撃で闇の先端は、電玉の部分に当たるのであった。
「!!」
と、ミランは、驚く。
(チッ!! 簡単に対処されたか。これぐらいはやるわよね。)
と、ミランは心の中で、瑠璃の実力なら突きの攻撃を対処するぐらい簡単にできるのではないかという結論にいたる。
ミランは、同時に気づく。
瑠璃が、ミランの突き攻撃を防ぐためにだけに、電玉の部分にミランの持っている武器を当てさせたのではない。
「征け。」
と、瑠璃が言うと、電玉部分から雷が発生し、電流が流れるように、ミランに一つ向かって行くのであった。
そう、瑠璃は、ミランの突き攻撃に対して対処し、次の反撃の準備をしっかりとしていたのだった。
ミランもそのことに気づく。
ゆえに、ジャンプして、瑠璃から素早く距離をとるのであった。
そのおかげで、瑠璃の雷の攻撃を受けることを免れるのであった。
結局、瑠璃の放った雷は、四角いリングの地面に衝突することになった。四角いリングの当たった面を焦がすほどの後を残したのだった。
(威力は十分ってことね。私と同等かそれに近いということ。だけど、私も何もせずに距離を取ったわけじゃない。)
と、ミランは、心の中で思う。
ミランとしては、瑠璃が反撃を仕掛けたように、ミランの方も仕掛けていないわけではない。むしろ、すぐにどうすればいいのかぐらいのことはすぐに気づいた。
ミランと瑠璃の天成獣が宿っている武器を扱う期間の長さは、比較するまでもなく、ミランのほうが長いのだ。
ゆえに、天成獣が宿っている武器の扱いに関しては、ミランの方が、一日の長があるというものだ。
ミランは、剣の金属部分を闇で形づくっており、その部分の一部から、ブクっと球体のものが三つほどできて、離れていく。
「いけ!!!」
と、ミランが言うと、三つの球体は瑠璃に向かって、放たれるのであった。
「闇玉」
と、さらにミランは続けて、言いながら―…。
闇玉が瑠璃に向かって来ているのを、瑠璃は気づく。
〔油断も隙もないな。〕
と、グリエルが瑠璃に念話してくる。
〔そうね。〕
と、瑠璃はグリエルに対して、念話で返事をする。
瑠璃としても、ミランの攻撃の仕方には、驚くものと、関心するものであった。武器の形が決まりすぎることは、同時に、柔軟な戦いをしていくのが難しくなることを意味した。ゆえに、柔軟な戦いができるミランをすごいと思うと同時に、負けるわけにはいかないと思った。
瑠璃としては、とにかくこれからは、集中して本気で戦わないと不味いと思った。
瑠璃は、すぐに、電玉から向かって来る闇玉に向けて、雷を三つ放つのである。そう、闇玉と同じ数だけの雷の攻撃を―…。
瑠璃の放った雷攻撃の三つとミランの放った闇玉は、すべて、衝突するのであった。相手の攻撃に―…。
すぐに、雷と闇玉は消えていくのであった。
(相殺か。)
と、ミランは、心の中で言う。
ミランとしても、ここまで互角となると、戦い方に工夫が求められる。ミランの戦い方は、柄に展開した闇を装着させるだけがその方法なのではない。それ以外にも戦う方法をもっており、戦い方の種類の多さもミランの戦い方の特徴である。
中央の舞台。
瑠璃チームのいる側。
(瑠璃さん。)
と、心の中で心配になりながら、瑠璃とミランの戦いを李章は見ていた。
李章としては、瑠璃の勝利を何よりも祈っている。
そして、
(瑠璃さんは、ミランに何かをしたのでしょうか。でも、瑠璃さんは、伯父さんや伯母さんに拾われてから、ずっとあの家で育ってきました。そう考えると、ミランの言っていることは矛盾でしかない。)
と、李章は、ミランの復讐対象にはなりえないと、思うのであった。
李章から見れば、矛盾だらけだ。瑠璃は、李章の伯父と伯母に拾われたとはいえ、それは瑠璃がまだ生まれたばかりのことであり、瑠璃がミランに何かをすることはできない。そうとしか思えなかった。真実を知れば、覆るかもしれないが―…。
一方で、アンバイドは、
(第九回戦第四試合。思っている以上に長引くな。)
と、感覚的ではあるが、第九回戦第四試合が長い試合になりそうだと、予想するのであった。
確定的なものに近いものを感じながら―…。
四角いリングの上。
瑠璃は気づく。
「!!」
と。
瑠璃は、
(鞭!!)
と、心の中で言う。
そう、今、瑠璃に向かってきているのは、鞭のようなしなる動きをした闇であった。そのスピードはとてもはやく、瑠璃も対処するので精一杯であった。避けるのに―…。
何とか、瑠璃は、ミランの体の後ろから生えているのではないかと思える二つの蛸の脚に先を尖らせたものを見ることができた。ただし、蛸の脚とは異なり、吸盤のようなものは存在しなかった。
そして、ミランは、
「倒しなさい。」
と、言うと、ミランの二つの闇のうねうねとしたものが、瑠璃に向かって突きに真っすぐ移動を開始するのであった。
【第90話 Fin】
次回、鞭に、串に、砲撃、何これ!!?
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
『ウィザーズ コンダクター』をカクヨムで更新しているので、『水晶』を書く時間を減らしているのですが―・・・、それでも、なぜか疲れます。疲れるけど、頑張って二作品とも更新していきたいと思います。しかし、『水晶』の更新ペースが落ちそうな感じがします。なるべく、頑張りますが、難しそうです。
なので、次回の『水晶』の更新は、2021年5月20日の予定となります。ストックがこの部分を除くと一つしか見直すだけのものができていません。頑張ります。
やけに、頑張るの言葉が多いような―・・・。
今後とも、『水晶』、『ウィザーズ コンダクター』ともどもよろしくお願いいたします。
では、次回の更新で―・・・。