第90話-2 睨まれる理由
前回までのあらすじは、瑠璃に似ている少女の名前がミランであり、ギーランとイルーナの娘であることがわかった。彼女の目的は、瑠璃への復讐であった。
瑠璃チームのメンバーは驚愕する。
それはそうだろう。
瑠璃に似ているのだから―…。
厳密に言うと、瑠璃が少し成長した感じなのだ。
赤髪と首筋に埋め込まれている水晶。水晶に関しては、瑠璃とアンバイド以外は気づかなかったが―…。
それもそうだろう。この水晶が世間の多くの人々に見えてしまえば、どんな悲惨な目に会うのか。
さて、話を戻すと、アンバイドは、言葉を続ける。
「ギーランは、元気にしているか。」
と、アンバイドは言うのである。
「ええ、元気じゃないでしょうか。ローさんと一緒にいつもいるみたいですから―…。それよりも、アンバイド、いや、伯父さん、邪魔。瑠璃と対戦相手変わって―…。瑠璃には復讐しないといけないから―…。わかったら、さっさと行動して―…。」
と、瑠璃に似ている少女、もといミランは、まるで、近づいてほしくないような感じで言う。
ミランにとっては、アンバイドとは対戦したいとは思わない。思うわけがない。実力差ぐらいはっきりと理解しているから―…。
ミラン自身が弱いのではない。アンバイドが強すぎるのだから―…。本気を出せば、捻り潰されることぐらいわかっているからだ。
「ああ、はいはい、って、素直に賛成するとでも思ったか。ミラン、ものには頼み方ってものがあるんだ。さあ~、さあ~。」
と、アンバイドは、意地悪そうに言いながら、ミランに顔を近づけ、さあ、さあ、頭を下げろ、と思いながら意地悪い表情を滲ませるのだった。
アンバイドとしては、大人げない行動でしかなかった。理由は、過去にミランの母で、自らの妹であるイルーナに揶揄われまくったことに起因している。特に、アンバイドへの揶揄いは途轍もないほどの年数におよび、そのため、娘であるミランの態度に対して、ついつい、過去を思い出し、意地悪な気持ちが出てしまったのである。
「そうね。ものには頼み方ってものがあるよね。まあ、ここで、私が伯父さんにこの世界にとって屈辱的なものの頼み方をすると、観客の人はどう思うことだろうか。わかるねぇ~。お・じ・さ・ん。」
と、ミランも負けじ、言い返すのであった。
ミランの気持ちとしては、
(姪に対して、大人げな!!! どうして、フィナさんは、こんなろくでもない男と結婚したんだろう。それに、こいつ、リンちゃんから痛い目にあえばいいのに―…。)
と、思うのであった。
ミランとしては、自分の父親であるギーランも、どうしようもないが、アンバイドもそれと同等である。自らの妻であるフィナを失ってから、自身の息子と娘をあの一族に預けて、復讐対象を探しているという。ミランも自分のことは言えないのであるが―…。
「相変わらずの俺に対しては毒舌だなぁ~。本当、イルーナの娘ってことはあるな。だけど、瑠璃との対戦に拘るのはなんでだ。理由を教えてくれれば、考えなくもないが…な。」
と、アンバイドは、ミランに舌戦で対抗するかのように言う。
アンバイドにとっても、ミランの言葉を聞いているとイルーナを思い出すので、絶対に舌戦で負けたくないと思っているのだ。
「ここまでやっても埒が明かないわ。理由は、瑠璃が私たちの家族の幸せを奪ったから―…。瑠璃が生まれた日にどこかへ行方不明にならなければ、家族がバラバラになることはなかった。だから、復讐するの。お母さんを悲しませたという理由で―…。言ったわ。だから、邪魔、変わって―…。」
と、ミランは、はっきりと言うのである。
その言葉は、ミランにとって事実であった。ミランは、はっきりと証拠をもって聞いているのだから―…。それでも、その証拠は持っていた奴が今も持っているのでここで提示することはできない。
「はあ~、おいおい、ミランも異世界から来たとかそういう妄言でも言うのか。ギーランからはっきりと聞いているぜ。ミラン、お前は、イルーナとギーランの子だってこと―…、そうなると、瑠璃が異世界生まれになるんじゃないのか。矛盾するだろ。」
と、アンバイドは事実を指摘するのである。
まあ、異世界とか言ったとしても、今の観客には、妄言のようなことでしか思えないだろう。
「そうね。今のところは―…。だけど、事実になのだから―…。証拠をある人から見せてもらったわ。ゆえに、確証をもって事実といえるが、ここにある人はいないみたいだし―…。」
と、ミランは、証拠を出せないことを間接的に言うが、自分はその証拠を見ているので、これが事実であることがわかっているし、確信している。
(伯父さんの方は信用しないだろうけど―…。でも、瑠璃に復讐するためにここにいるのだから、絶対にここでアンバイドとなんか対戦するか。)
と、心の中でミランは、瑠璃との対戦を熱望以上に望むのであった。
ミランは、今、第九回戦での勝利チームは、瑠璃チームに確定しており、ミランが勝とうが負けようが瑠璃との戦いは実現しないのだ。ゆえに、アンバイドから瑠璃へと対戦相手を変えさせないといけないのだ。
その時、四角いリングへと瑠璃が向かって来るのであった。ミランにとっては、チャンスだと思った。
瑠璃は、アンバイドに向かって、
「アンバイドさん。」
と、アンバイドを呼びかける。
「何だ。瑠璃。」
と、アンバイドは、瑠璃に向かって返事する。
「アンバイドさん、言っていましたよね。もし、はやい試合に出たいのなら、相手チームの誰かに指名してもらうのだな、って―…。なので、私に対戦相手チェンジ可、ですよね。」
と、瑠璃がアンバイドに圧力をかけるように言う。
その表情は、黒い何かのオーラのようなものが感じられた。
それを感じたアンバイドは、
(……何か、途轍もなく強いんだが―…。って、そういやそういうことも言ったな。)
と、心の中で思い出すのである。
第九回戦の試合の出場順を決める時に、実際にアンバイドが瑠璃を第六試合にしたくて、納得させるために言ったことを―…。
(しかも、一言一句間違いなく―…。どんだけの記憶力だよ。)
と、続けてアンバイドは、心の中で言葉を続けるのであった。
心の中でアンバイドが言っている間にも、瑠璃の圧力がどんどん強くなっていくのを感じた。
(これ、瑠璃に対戦を譲らないと、後で何かしめられそう。ヤバい奴のほうで―…。)
と、心の中で、アンバイドは結論に達するのである。
「わかったよ。」
と、アンバイドが言うと、瑠璃に第九回戦第四試合を譲るのであった。
そして、瑠璃は、
「ありがとうございます。」
と、喜んだ表情で、四角いリングへと向かうのであった。
この時、李章以外の瑠璃チームの全員が瑠璃のことを
((((戦闘狂になってしまった。))))
と、心の中で評するのであった。
危ない人扱いで―…。
瑠璃は、四角いリングの上に立つ。
「今日の試合の間、ずっと私を睨みつけていたよね。なんで―…。」
と、瑠璃は、ミランに向かって言う。
その瑠璃の目は、相手を睨みつけてはいないが、視線を強くさせていた。それほどに真剣な言葉であることを印象付けるものであった。
「瑠璃が復讐対象だから―…。さっきも言ったけど、私の家族の幸せを奪ったのよ、瑠璃は―…。」
と、ミランは、苦虫を噛みしめるように言う。
ミランの感情は、瑠璃への復讐という気持ちをどんどん燃え上がっているのだ。目の前にいる瑠璃という存在の油によって―…。
「私には、記憶がないことなんですが―…。」
と、瑠璃は正直に言う。
瑠璃の思い出せる記憶の中に、ミランの家族の幸せを奪った記憶はまったくといっていいほどないのだ。絶対にそう確信できるものであった。
「そうね。瑠璃が生まれたばかりの出来事だから―…。それでも、その出来事が私の家族の幸せを奪ったの―…。実の血の繋がった妹が行方不明になることで私の家族を―…、お母さんに辛い思いをさせたのだよ。」
と、ミランは、自らが知っていることの事実を瑠璃に突き付けるように言う。
その事実は、ここにいるものが知るはずもない。突然出てきた、瑠璃、あなたの設定ですよ、という意味不明なことでしかない。
瑠璃には、ミランの言っていることを繋げれば、納得できる解答が得られるのではないかというものがあった。それでも、否定する材料も存在した。たとえ、自分が親に聞かされたことのある事実が否定とは逆となる材料になるとしても、異世界出身であるという自身も知らないことに対して―…。
この、瑠璃とミランの会話は、中央の舞台や観客席にいる者たちにも聞こえていた。
そして、瑠璃チームのいる側では、
「えっ、でも、瑠璃はおじさんとおばさん、お兄さんの四人家族じゃなかった。そうなると、瑠璃は、ミランさんの血の繋がった実の妹に関することには矛盾が生じるんじゃないの。」
と、礼奈がミランの言葉に対して、その矛盾を指摘する。
礼奈は、実際に、瑠璃の家族に会ったことが何回かあるからだ。ゆえに、瑠璃の家族は、瑠璃の父と母、兄で、血が繋がっているはずだ。髪の色の違いを知った後だとしても、たまたまのことだろう、と思っていたのだ。
だけど、李章が近づいてきて、
「礼奈さんは、知らないと思いますが、瑠璃さんは、伯父さんと伯母さんの実の子ではありません。」
と、衝撃の一言を言う。
「えっ、どういうことそれ!!!」
と、礼奈は驚く。
驚かずにはいられなかった。それほどの重大な事実なのだから―…。
「私自身も知ったのは、半年前のことです。瑠璃さんは、伯父さんと伯母さんが今の家に引っ越してきた時に屋根裏にいた子どもです。それも、まだ生まれたばかりの子どもだったそうです。瑠璃さんの実の親は結局現れず、伯父さんと伯母さんが娘として引き取ったそうです。瑠璃さんもそのことを知っています。伯母さんがそのことを私に話した時に盗み聞きされたんです。あの日は、いろいろ大変でした。」
と、李章は、自らの知っている事実で、重要なところを話すのであった。
あの時に起こった出来事を李章は思い出す。李章にとっては、とても大変な日でしかなかった。李章自身の寿命が縮まったのではないかというほどのストレスを感じたのだから―…。
ただし、李章も瑠璃の父親および母親も知らなかったことであるが、瑠璃は首筋に水晶が埋め込まれている。その事実は、未だにわかっていない。瑠璃は、義理の両親に言ったこともあるが、何を言っているのかわからなかったので、頭の片隅のその事実を追いやってしまっているのだ。
礼奈は、その事実を聞いて、
「でも、瑠璃がもし仮に、あのミランという人の妹だったとしたら、瑠璃は、どうやって現実世界に来たの?」
と、瑠璃がミランの妹で本当であった場合にいたるであろう当然の疑問を口にする。
この中で、そのことに対して、明確な解答ができる者は誰もいなかった。
そのことがすぐにわかったアンバイドは、
「瑠璃のことに関しては、後だ。今は戦いの方に集中しよう。試合後に、ミランから問い詰める。」
と、今は考えてもわからないので、第九回戦第四試合終了後に、ミランから聞き出せばいいと言う。
その言葉は、結局、瑠璃のことに関しては、なるようにしかならないのだから、考えても意味がないということだ。
(つ~か、ギーランの野郎。何をやっているんだ。)
と、アンバイドは心の中で、ギーランに対して悪態をつくのであった。
一方で、四角いリングの上では―…。
(たぶん、これ以上、記憶にないと言っても、聞いてもらえるわけがない。ミランって人は、絶対に私が倒さないと―…。ここで復讐っていうことは、私を殺しにくる。とにかく、ミランを戦闘不能にさせるしかない。)
と、心の中でミランを倒す覚悟を決めるのであった。
瑠璃としては、この勝負は、第七回戦第六試合のレラグとの試合に近い感じであった。あの時は、自らの武器である仕込み杖の仕込まれていた剣を抜いて、光を使って勝つことができた。それでも、瑠璃にはわかる。ミランという人が、レラグよりもはるかに強いということを―…。
それでも、瑠璃にはミランに負けないという確信があった。それは、剣での戦い方も修業してきたし、光での戦い方も修業してきた。ゆえに、後は実戦だけなのだ。そして、第七回戦第六試合の時よりも強くなっていると、瑠璃は思っている。実際に、第七回戦第六試合よりも確実に強くなっている。光の扱い方に関しては、確実に成長している。
ゆえに、瑠璃は、
「試合を始めようか。いちいち、恨み事なんて言っても―…、ね。審判さん、私の方はいつでも試合を開始しても構いません。」
と、最後に審判であるファーランスのいる方向に向くのである。
その言葉を聞いたミランも同様に審判であるファーランスのいる方向に向いて、
「さっさと試合を開始しなさい。私も準備は完了している。これ以上、待たせないでほしい。」
と、ミランも試合を開始してもいいということを言うのである。
瑠璃、ミランの言葉を聞いた観客席にいるファーランスは、
(ホント、あそこの中に今は入っていきたくはないが、試合を開始しないと、何かこっちがヤバい。)
と、心の中で言いながら、右手を上に上げる。
「これより、第九回戦第四試合―…、開始!!!」
と、上に上げた右手を下に向かって、振り下ろすのであった。
こうして、第九回戦第四試合が始まった。
そう、因縁の対決が―…。
第90話-3 睨まれる理由 に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
次回の更新は、2021年5月18日の予定となります。原因は、ストックの減少です。
では、次回の更新で―…。