第88話 鋏
前回までのあらすじは、第九回戦第三試合、クローナVSグランチェの戦いが始まる。グランチェの光の突き攻撃を過去の経験と勘からうまくクローナは対処するのであった。
本日、三回目の投稿です。
カクヨムで、『ウィザーズ コンダクター』投稿中です。
https://kakuyomu.jp/works/16816452219293614138
読んでいただけるとありがたいです。頑張って投稿しています。
『水晶』よりも、一部分の量が少なめです。
試合は続く。
すでに、何度目の光の突きの攻撃。
この攻撃をするのは、グランチェである。
その突きは、攻撃を重ねていく度に、その精度が鋭くなっていく。
それを何とかグランチェの対戦相手であるクローナは防ぐ。
キン、と金属音させて―…。
(いくら攻撃しても防がれてしまうか。第六回戦第一試合での経験も活かされ、かつ、完全に対処されているか。こうなったら、このような単調な攻撃は意味がないでしょう。なら、あれで攻めていくことにするか。)
と、心の中でグランチェは言う。
グランチェとしては、光の突きの攻撃だけでクローナを倒せれば、儲けものだと思っていた。だけど、それは失敗に終わる。
クローナが第六回戦第一試合でファーキルラードの攻撃である伸びる突きの攻撃を経験して、対処しているのだから―…。意味がない。
さらに、グランチェのファーキルラードが最初からしなかったような攻撃方法で攻撃しても、勘で対応されてしまう。
だから、グランチェは、これ以後の攻撃方法を変更するのである。グランチェは、ファーキルラードとは違う戦い方ができるのだ。そのほうが、グランチェにとって、個人対個人での攻撃の時に使う戦い方である。
【第88話 鋏】
中央の舞台。
瑠璃チームのいる側。
アンバイドは、
(光の突きか。クローナが長突と戦った時に経験しているから大丈夫だろう。だけど―…、長突よりも、最初から背後を突いて攻撃してくるか。グランチェは、戦闘慣れ、もしくは、隙を突いて、頭を使って戦うのか。それに―…、本気ではないだろう。背後を突く人間が、こんな単調な攻撃だけとは思えない。何かあるな。気をつけろよ、クローナ。グランチェは、今までの対戦相手とは実力が一段階上だからな。)
と、心の中で言う。
この時、アンバイドは、グランチェの戦い方を観察していた。グランチェは、槍を武器にしていることから突き攻撃は得意なのであろう。だけど、グランチェは、その戦い方を主としているわけではないように感じる。
突き攻撃は、そのスピードや相手の隙を一瞬で突くことが必要である。だけど、グランチェのそれは、最初の背後の突きこそ、それらしさを感じるのであったが、後の攻撃は、単にクローナの目の前で速い突き攻撃をしているだけで、威力こそは上がっているのだということはわかるが、あまりにも単調すぎるし、突き攻撃を使いすぎである。
そうなってくると、何か別の戦い方のほうがメインなのではないかとアンバイドは疑うのである。
さらに、グランチェの強さは、アンバイドの見立てでは、マドルフやアルフェよりも一段階ほど上の実力を有している。もう一人の人物、瑠璃に似ている少女と互角もしくは少し劣っているぐらいには―…。
(そして、瑠璃に似ている少女―…、絶対に―…。)
と、アンバイドは、瑠璃に似ている少女の方を見て、その正体を推測するのであった。
アンバイドの推測が正しければ、アンバイドはたった一人の人物を思い浮かべて、何をやっているんだと言ってやりたい。それでも、確実な確証を得ることはできない。なぜなら、瑠璃に似ている少女をフードを被って、素顔を見せていないのだ。
(俺の推測が正しいのなら、今は正体をバレたくないと思っているのか。)
と、アンバイドは心の中で思うのだった。
四角いリングの上。
クローナとグランチェが戦っている。
クローナは、再度、風を纏わせようとする。
クローナは、相手のスピードにより、風を纏う時間を確保できないと判断し、できるときにしておくのが良いと決めて、風を纏わせるのである。
グランチェにしても、クローナに風を纏わせる時間を与えたいわけではない。
グランチェは、準備していた。これから、おこなわれる戦い方に対して、光をうまく維持して展開できるように準備をしていた。それに少しだけ時間がかかるのだ。
この展開がうまくいけば、戦局は、グランチェに優位になってくるだろう。そして、欠点を補うために、防御用の光に関しても、いつでも瞬時に展開できるように準備するのであった。
観客席の中の貴賓席。
ランシュが、楽しそうな表情になる。
「ほう、グランチェ。本気を出すつもりだな。」
と、ランシュは言う。
声からもランシュが楽しそうな気持ちであるのがわかるほどだ。
ランシュとしては、久々ぐらいに見るグランチェの本気に興奮していた。グランチェの実力に関しては、十二の騎士の中で、上位に位置し、もしも、リースの騎士部隊に入団すれば、ランシュに次ぐ地位を与えてもいいと思っている。ヒルバスはあくまで、秘書や裏の仕事がメインであり、騎士部隊のナンバー2という地位が相応しいとは思えなかった。そうなってくると、頭が回り、実力があるグランチェが残ってくるのである。
ランシュのチームメンバーは、集団行動を得意とするのがヒルバス以外に存在しないので、騎士部隊のナンバー2にするのはもってのほかだ。ありえない。
「そうですね。ランシュ様。グランチェは、あの大きな武器にして戦うようですね。これは、グランチェ優勢となりましょう。」
と、ヒルバスは冷静に言う。
ヒルバスは、グランチェが実力を有し、戦い方も優れているという点から、クローナよりも戦いを優勢に進めていき、いずれはクローナを追い詰めてグランチェが勝つだろうと考えるのである。ヒルバスの経験上からしても、そうなるほうが自然なことであると思う。
そして、ヒルバスは、グランチェの本気と、戦い方であることに気づく。それがどうなることを意味するのかを理解していた。
ゆえに、
(このままでは、この競技場自体がダメージを負ってしまい、観客席に危害がおよぶ可能性があります。管理室に行って、観客席と中央の舞台の間にある壁のバリア強度を上げさせないと!!)
と、ビルバスは心の中で言う。
「ランシュ様。しばらくの間、ランシュ様の護衛ができなくなりますが、よろしいでしょうか。」
と、ヒルバスは、ランシュに向かって尋ねる。
それは、これからヒルバスが心の中で思っていることを実行するにあたり、ランシュを守ることができなくなるからである。そのことによって、ランシュにもしものことがあれば、ヒルバス自身の責任を感じてしまうし、ランシュから許可を得たとしても同様である。それでも、グランチェのこれからの戦いでリースの競技場が大ダメージを受けて、観客席への被害がおよんだなら、ランシュにとっての政治的ダメージとなってしまい、今は弱まっているかつてのリースの中央で実権を握っていた者たちの権力を回復させる好材料になりかねない。さらに、これはあくまでもゲームであり、観客を犠牲にするものではない。ゆえに、ランシュに許可をとり、対処しておく必要がある。
ランシュは、ヒルバスの言っている意図を理解して、
「大丈夫。俺は、ヒルバスよりも強いからな。護衛はいらん。グランチェの攻撃の威力を考えれば、ヒルバスの行動は大事になる。行ってこい。」
と、ヒルバスに自由に行動させる許可を出す。
ランシュは、自分のことを自分だけの力で守ることはできるし、ヒルバスが少しの間いなかろうと、それよりも多く時間いなくなろうとも、大丈夫なのである。ただし、裏のことに関しては、不安になるのであるが―…。そして、グランチェの攻撃の方法から考えると、何かしらの対処をしておかないと、観客席に被害がおよぶ。それは、余計な被害でしかない。防ぐ必要がある。観客には、試合を楽しんでもらう必要がある。娯楽は、彼らの仕事やエネルギーにも、モチベーションにもなるのだ。被害はその逆しかもたらさない。
「ありがとうございます。ランシュ様。」
と、ヒルバスは言うと、貴賓室から出て、ある場所へと向かうのであった。
四角いリングの上。
すでに準備を完了したグランチェは、戦い方を変更する。
グランチェは、自らの武器である槍を真っ二つにくっついていたのを離す。
そして、離されたグランチェの武器は、それぞれ片方の手だけで持ち、光りを発生させる。
「!!」
と、クローナは驚く。
(自分の武器を二つに!!! それにあの光、かなり私にとって嫌な攻撃になることは間違いない!!!!)
と、クローナは心の中で考える。
クローナは、感覚的であったが、嫌な予感を感じることができた。それは、グランチェが武器を二つに離して、光を放ったことだ。
考えて、それが何なのかという答えが出ることもなく、グランチェの攻撃方法が完成してしまう。
「光の鋏」
と、グランチェが叫ぶと、グランチェの持っている光が直線状の拡大し、まるで、鋏の金属部分のようになり、切る部分を形成する。
「切られろ!!」
と、グランチェが叫ぶように言うと、鋏でものを切る動作と同じ感じで、グランチェは両手を近づける。
それは、両手を伸ばしたままをおこなわれ、結局、鋏で紙などの物を切るという動作そのものである。
そう、クローナを切り殺そうとしたのだ。このランシュが企画したゲームで殺してはならないというルールは存在しない。ただし、勝敗がついた以後は、殺すことはできないのであるが―…。
さらに、勝敗の決定方法に相手を殺すことということが条件の一つとしてある。ただし、殺さなくても、相手を四角いリングの外もしくは気絶させること、審判であるファーランスが確認して勝敗がついたと判断した時なのだから―…。
クローナは、この攻撃に対して、避けることは難しいと判断した。下に体を下げれば、避けることは可能であろう。それでも、今のクローナは、そこまで思考することはできなかった。
だから、クローナは、自らの武器(両手に持っている)をグランチェの光の部分に接するように両手を広げる。そう、両手に持っている武器に纏っている風で攻撃を防ごうとしたのだ。
そして、クローナの両手に持っている武器がそれぞれ、グランチェの武器の光の部分で接し、鋏で切られることをなんとか、一時的ではあるが、その移動を抑えることに成功する。
「両方を抑えられるとは―…。だけど、いつまでその態勢でいられるのでしょう。」
と、グランチェは余裕の笑みであった。
グランチェにとっては、少女でしかないクローナ相手に力負けするとは思っていない。それに、鋏のように切ることだけしか攻撃方法がないわけではない。ゆえに、余裕の笑みさえ浮かべられるのであった。
(ウッ!! クッ!!! とにかくここから回避しないと…。)
と、クローナは心の中で焦るのである。
表情も苦々しいものになっている。対戦相手であるグランチェが気づくぐらいには―…。
(次の攻撃です。)
と、グランチェが心の中で言う。
そうすると、グランチェの両方の持っている武器と手との距離が近いところの武器側で、両方の中央に光が一部が漏れるようになり、集まってくる。それがしだいに球体へとなっていく。
「!!」
と、クローナは、嫌な予感を感じる。
(早くしないと、あの攻撃を喰らってしまう。でも、両手を今、相手の武器から離すことはできない。いや、ある。白の水晶なら―…。)
と、心の中でクローナは、解決方法を見つけるのであった。
その時、
「発射!!!」
と、グランチェの声が聞こえるのであった。
そう、グランチェは、球体になっていた光をクローナに向かって、発射する。
もし、この攻撃を喰らってしまえば、クローナは、戦闘不能もしくは最悪の場合、生の終わりを告げてしまう。
それでも、クローナには、回避する方法はあった。
「白の水晶。」
と、クローナは言うと、いくつもシールドを展開するのであった。
そして、グランチェの発射した攻撃は、クローナのシールドに衝突するのであった。
今回、展開したクローナのシールドは、テント状のバリアではなく、一面を八角形の厚い板で、透明のものであった。
だけど、防げているのは一時的なことでしかない。
だって―…。
(削れている!!)
クローナは、心の中で驚く。
そう、グランチェの光の放射攻撃がクローナの展開したシールドを貫こうとして、削っているのである。
それを感じることができているグランチェは、
(貫け!!)
と、心の中で言いながら、自らの放射攻撃の威力を強めるのである。
中央の舞台。
グランチェ率いるチームがいる側。
そこに気絶している二人の人物がいた。
マドルフとアルフェだ。
そのうちの一人が、気絶という名の一瞬で終わるかもしれないし、夢などを体験して終えるかもしれないというものを経験して、自らの意識をこの世界へと浮上させる。
思考をさせていく。
「うっ…。」
パチパチッ。
火花の音ではなく、目が開いたり、閉じたりする音だ。
その音は、あくまでの周囲には聞こえないほどを短く、小さい音だ。
「ここは―…。」
そして、目を開けることによるこの世界へ舞い戻る。
目に見える世界がどうなっているのかということがわからずに―…。わかるはずもない。気絶した時の世界と目を覚ました世界は時間が違うのであるから、すべて同じということは絶対にないのだ。共通するところはあるかもしれないが―…。
目を覚ました人物は、くる、くる、と自らの周囲を目で見る。今、ここの状況がどうなっているのかを認識するために―…、環境に適応するために―…。
そして、記憶を思い出す。
(俺は、李章の攻撃を喰らって、気絶していたのか…。なら、俺は第九回戦第二試合に負けたのか。)
と、アルフェは心の中で、第九回戦第二試合の試合の結果を推測する。
現実においても、正しい。そう、アルフェは、最後の攻撃で、李章の放った生刀飛斬に自らの攻撃が負け、それをも受けてしまい、気絶したのだ。そして、ファーランスも第九回戦第二試合での李章の勝利を宣言している。
このようにアルフェが自らの試合の結果を推測している間に、瑠璃に似ている少女が向かってくるのであった。
「アルフェは、第九回戦第二試合で負けた。それは事実。そして、アルフェが気絶している間に、第九回戦第三試合が始まっている。」
と、瑠璃に似ている少女は言う。
瑠璃に似ている少女にしても、アルフェが起き上がれば、今の状態に関して、質問される想定済みであった。そして、質問を無視すれば、しつこくその理由を聞かれることが想定される。それは、面倒なことでしかない。ゆえに、ある程度、戦局を理解しようとした。
アルフェは、
「俺が負けた…の…か。それは、まあいい。お前が戦っていないということは、第九回戦第三試合はグランチェが戦っていることになるのか。戦局は―…。」
と、自らの状況と周囲のそれを理解し、瑠璃に似ている少女にグランチェとクローナの試合の状況について尋ねる。
想定されていたことなので、瑠璃に似ている少女は、
「グランチェが、優勢だ。」
と、素直に答える。
四角いリングの上。
そこでは、クローナとグランチェが戦っている。
グランチェが放った光の攻撃は、クローナの展開したシールドで動きを止められるが、それでも貫こうとしている。
光の攻撃が回転しながらドリルが穴を開けるようしてである。
そして、シールドは、光の攻撃によって削られていく。
時間にして一分から二分ぐらいの時間で、クローナが白の水晶を使って展開したシールドは貫かれるのである。
「貫かれた!!」
と、クローナは思わず声を出してしまう。
それは、白の水晶で展開されたシールドが時間がかかるにしても、結果、貫かれてしまったのだから―…。そして、シールド自体も厚さのあるものであり、そう、簡単に貫かれるものではなく、クローナの推測では貫かれるはずがないと思っていたのだ。
その予想が覆されることに結果としては、なってしまった。
だが、貫いた後も、グランチェは、
「さらに、威力増大!! いけええええ―――――――――――――――――――――――――。」
と、叫びながら、光の攻撃の威力を増大して、発射し続ける。
そして、これは、クローナを覆ってしまうのであった。
【第88話 Fin】
次回、光の鋏へ対処であるのか?
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。