第86話 決着の時が来た
前回までのあらすじは、李章が自分の武器である刀を取り戻した。
李章は、右手を見て感じる。
取り戻したことを―…。
右手には感触があるのだ。自らの武器である刀の―…。
〔やっと、取り戻してくれたようだね。それにしても、よく、あの風の攻撃を防げるよね~。〕
と、フィルネが念話をしてくる。
フィルネとしては、うまくアルフェに抵抗していることに気づかれないようにうまくしていたのだ。それは、フィルネにとってかなり神経を使うことであったが―…。
〔何となく、威力を発揮するのは、風の攻撃面に接するときでした。それに、派手で大きな攻撃だったので、細かいところまで風の密度はないのかなとそこから推測しました。さらに、他人の天成獣の宿っている武器を奪う人はいなかったので、奪うことで何かリスクがあるのではないと思っていました。〕
〔ふ~ん、ある意味当たりってところね。私は、抵抗していて威力が落ちていたのではないかと気づいてくれていたと思ったけど―…。まあ、リスクがあると気づいていたので―…。ガクッ!!〕
と、李章、フィルネの順で念話するのであった。
李章は、たんたんと冷静にアルフェの攻撃の弱点について言葉にするのであった。
一方で、フィルネは、抵抗していたことに李章が気づいていたのではないことにガッカリするのであった。
しかし、李章が天成獣の抵抗に気づかないのも無理はないだろう。天成獣が宿っている武器は、所有者を選ぶことから、奪ったとしても、その人間が天成獣に選ばれないと使えないのだ。ゆえに、天成獣の抵抗という所有者から奪った天成獣の宿っている武器を無理矢理使おうとするもしくは自らの武器に宿って天成獣の属性を纏わせるようなことで天成獣が抵抗することなど知っている人物はほとんどいないのである。知っているとすれば、天成獣マニアやその分野のオタク、研究者ぐらいであろう。普通に天成獣の宿っている武器を扱っている者は、知らないことがほとんどであり、知る必要もないことであるから―…。
李章もフィルネががっくりしているのに気づき、
〔ごめんなさい。だけど―…、フィルネが頑張ってもらえたおかげで、相手から自分の武器を取り戻すことができました。ありがとうございます。〕
〔そうね。〕
と、李章は、フィルネの努力に気づけなかったことに対して反省して、謝りと感謝を言い、フィルネは照れてしまうのである。
そして、李章は、対戦相手であるアルフェの方を向くのであった。
一方でアルフェは、
(一瞬の隙を突かれた。避けるタイミングを見計らっていて、さらに、俺への攻撃するタイミングまで計っていたとは―…。だが、それでも、俺は強い。なぜか知らないけど、俺が攻撃に費やせるのは、この大きな一撃だけか。)
と、心の中で考えるのであった。
アルフェは、李章の持っている天成獣の宿っている武器を奪い、風を纏わせて攻撃していたのだ。ゆえに、天成獣の抵抗を受けて、自らの天成獣から借りられる力の量を余計に減らしてしまっていたのだ。ここで、アルフェは李章の持っている天成獣の宿っている武器を奪うということが仇になってしまったのだ。
アルフェは、続けて、
(それだけで十分だ。これで、決着をつけることにしてやる!!)
と、心の中で言い、李章へとその視線を向けるのであった。
そう、第九回戦第二試合のクライマックスへと向かっているのである。
【第86話 決着の時が来た】
「李章が己の武器を取り戻したとしても意味などない。この俺の一撃で終わらせてやる。」
と、アルフェは、李章に向かって言う。
それは、これがアルフェ自身の最後で最大の攻撃であることを示すように―…。そのことに李章が気づかないようにさせるために―…。この二つのことの意味を含ませて―…。
李章は、アルフェの言葉の意図およびその状態に気づくことはなかった。それでも、アルフェの最大の一撃を受けて立つ必要があった。李章にとって、刀で戦って勝つための方法は、今のところほとんどない。やっと、使いこなせた技は一つしかないのだ。その一つに賭けるしかないのだ。
そう、互いにこの一撃が勝利か敗北を分けるのだ。
両者は、自らの武器に纏わせるのである。アルフェは、長刀に風を、李章は、刀に生を―…。
その間、試合は動かなかった。
観客も動けなかった。動けるわけないであろう。一部の例外を除いて―…。
それほどに、これから起こることに固唾をのんでいたのだ。
多くの観客たちは、喉をゴクンとさせる自身の音が聞こえただろう。だけど、そんなことは、ただ、聞き流される他者の会話と同等でしかない。
時間の流れさえも同様だ。
もしも、この場を見た詩人はこう思うだろう。ここだけ、時間が止まってしまっているのか、と。
それでも、時間がずっと止まるような感じを思わせることはないだろう。動き始めるのだ。いや、動いているのだ。観客や、瑠璃チーム、相手チームを含めて、心の中では―…。
それぞれの思いを心の中で言葉にしながら―…。
止まっているように思われるのではないか、時は動く。
決着へと向かって―…。
さあ、動き始める。風を最大の長刀に纏わせることができたアルフェから―…。
(風は纏い終えた。後は、この一撃をぶつけてやるだけだ。俺の最大の攻撃を―…。)
と、アルフェは心の中で思う。
これは、アルフェにとって最大の一撃であり、この第九回戦第二試合の試合の中で最後の一撃でもある。この一撃を放てば、自らにはもう次の攻撃をすることはできないのだ。そう、正真正銘の最後の一撃だ。
アルフェは、両手で自らの武器である長刀を持つ。
そして、左から右になるように、横向かって振るうのである。
「はあああああああああああああああああああああああああああああああああ。」
と、アルフェは、自らが出せる声を背一杯出しながら―…。
それは、まさに一振りである。
自らの魂を振り絞るのような、気迫であり、攻撃にそれを込めるかのようだ。
「風刀 一振!!!!」
と、自らの技名をアルフェは言う。
アルフェが振るった軌道上に、風の攻撃が放たれるのだ。斬撃が―…。飛ぶ斬撃が―…。
李章へとアルフェの放った攻撃が向かってくる。
李章は、集中していた。周りが見えなくことで人は集中しているというが、実際に、そうなのかもしれない。だけど、李章の今のこの状態における集中は違っていた。むしろ、周りのことがすべてわかるぐらいのものであった。そして、その中で特に、対戦相手であるアルフェの動きや武器の流れが音だけで実際に形になって視界に再現されるかのように―…。
ゆえに、李章は目をつぶっていたとしても、わかるのだ。
李章は、視界をあやふやにする。そうなってしまうのだ。
アルフェの風の攻撃が向かってくるなかで、ある言葉を待つのだ。すでに、李章のできる攻撃の準備はすでに完了していた。
そして、その言葉はやってくる。
〔こっちの準備は完了した。攻撃――――――――――ッ!!〕
と、フィルネの声が李章に聞こえる。
李章は、この声を聞いて、自らに持っている武器に、目に見えるほどの生を出現させる。その色は、黄色に近く、光り輝いていたのだ。
そう、刀に生を纏わせていたのであるが、今までは、その纏わせたものがあまりにもバラバラで小さいの多かったので、李章以外から見えなかったのだ。それをまとめるのを李章ではなく、フィルネがしていたのだ。この李章の一撃は、今ところ、最大の威力をもつのである。一つしか技が使えないので、そうなってしまうのであるが―…。
その光輝いている光景にアルフェも気づく。
(何だ、あれは―…。それでも、俺の一撃が強いに決まっている、そうだ。)
と、その光輝やいているの見たアルフェは、心の中で動揺するのであった。
感覚的に思ったのだ。自らが今、放った一撃よりもこれから李章が攻撃するものが、確実に強い攻撃であることを―…。だけど、それは分からない。まだ、その二つ攻撃が接したわけではないのだから―…。
そのことを思うことができたアルフェは、しだいに冷静になり、自らの一撃が強い攻撃であり、これから放たれる李章の攻撃よりも強いと思うことができたのだ。思っていないと、自らの攻撃が弱いということを認めてしまうということもあったかもしれないが―…。それは、すぐにわかってくることだろう。
そして、李章は、自らの刀を振り上げる。
それを、今度は、李章から見て右斜め上から左斜め下になるように振る。それは、まさに、剣豪の一振りのように―…。だけど、李章にそこまでの気概のある一振りが形の上できるわけではない。それを感じさせるものが補ってできたのだ。強い意志が―…。
それは、アルフェに不安を抱かせるには十分であった。
李章がさっきの一振りの軌道から、生の力が斬撃となる。
「生刀 飛斬!!!」
と、李章が言う間に、完全に李章の斬撃がアルフェと向かっていくのであった。
アルフェの風の斬撃、李章の生の斬撃が、お互いの斬撃へと真っすぐ向かって行く。それは、敵をダメージを与え、敵を倒さんがために―…。
そして、双方の斬撃は衝突する。これは決まりきったことである。そうなってくると、どっちの斬撃が強いのか、結局はそのことが重要となってくる。
双方の斬撃の衝突時には、互いに拮抗した。そして、その衝突点を起点として、後ろに衝撃波がとんでいくのであった。
(くっ!!)
と、李章が心の中で歯を食いしばりながら耐える。
李章にとって、今の双方の斬撃で衝突して発生している、衝撃波の強さは尋常なものではなかった。それほどに斬撃の一撃が双方ともに強いのだ。さらに、その強さのせいで衝撃波のほうも強くなっており、李章やアルフェの体を四角いリングの外へと飛ばしてしまうのではないかと思われるぐらいになっていたのだ。
(くっ!! すごい衝撃波になってやがる!!!)
と、アルフェは心の中で言う。
それでも、アルフェは耐えることができる。それはそうだろう。李章よりも年上であり、李章よりも体がしっかりしているのだから、当然のことだ。
そんな中で、ある変化が起こってくることになる。
そう、勝敗が決める瞬間が―…。
しだいに、飲み込んでいく。
飲み込んでいくのだ。
李章の斬撃が―…。
数秒の時間が経過した時、それがはっきりするのだった。
そして、爆風のような衝撃がさらに発生する。
アルフェも李章も、目の前を見ることができないほどになる。それは、衝撃がアルフェと李章の双方に向かって、波となって吹いていたからだ。ゆえに、腕を目の前に出して、衝撃波から顔を守ろうとしたのだ。
結果、衝撃波が四角いリングの表面を削って、李章とアルフェの間に、粉塵のようなものを舞わせるのである。
ゆえに、李章とアルフェは、相手がどうなったのかを視界で確認することができなくなったのだ。
十分ほどの時間が経過する。
その間に、粉塵のようなものがしだいに、おさまっていく。
そうしていくと、李章とアルフェは、相手の状態をしだいに視界で確認できるようになっていく。徐々にであるが―…。
「はあ、……はあ、………はあ。」
と、李章は息を整える。
李章は、さっきの衝撃波から飛ばされないようにするの必死だった。さらに、自らの武器である刀を四角いリングの表面に突き刺すことで何とか飛ばされずにすんだのだ。
同時に、李章の意識ははっきりしている。
それは、対戦相手であるアルフェの風の斬撃が李章のところまで届かなかったからだ。
李章は、目の前で、アルフェの様子が見れることに気づく。
「!!!」
と、李章は驚く。
そう、アルフェは、立っていたのだ。そのことに李章は、動揺した。
(立っている!! 生刀飛斬でも無理なんて!!! …ッ!!?)
と、李章は心の中で思いながら、目の前での変化に気づく。
アルフェが倒れていくのである。
それを李章は、ただ茫然と眺めていた。そこに感情というものは入っていなかった。魅入ってしまっていたのだ。だから、この時は目の前のアルフェの倒れていく姿を見ることに集中してしまって他は、忘れ去られてしまったのだ。呼吸はしているだろうが、それさえ忘れてしまっているのではないかと見た目からは思えるほどだ。
ガタン!!
音が鳴る。
アルフェは四角いリングの上に倒れた。
それは、李章の斬撃がアルフェの斬撃を飲み込んだ後に、アルフェを向かって行き、アルフェに大ダメージを与えたのである。何とか長刀を用いて防ぐが、その長刀さえも最後は、四角いリングの外へと飛ばされていき、中央の舞台のアルフェが属する自チームの近くに落下したのだ。
アルフェが倒れる様子を見ていたファーランスは、観客席から双眼鏡のようなものを使って、確認する。
そう、アルフェが戦闘不能になっているのかを確認するために―…。
結果、ファーランスは、
「勝者!! 松長李章!!!」
と、勝者を宣言する。
そう、第九回戦第二試合の勝者は、李章であった。
そのファーランスの勝者宣言に、観客は歓声をあげるのだった。
【第86話 Fin】
次回、光る~!!
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
第86話で、第九回戦第二試合がちょうど終わり、切りが良いので、ここで更新をしばらくお休みすることにします。理由は、以前にも言いましたが、カクヨムでの新たな作品の更新開始のためです。まだ、第9部分までしか書けていませんが―…。プロットのようなものでは第3章の途中なのですが―…。
カクヨムでの新たな作品の更新は、たぶん、2021年5月上旬頃になると思います。『水晶』よりも一部分の文章量はかなり少ないものとなります。主人公は女性ではなく、男性となる予定です。作者名は同じです。
次回の『水晶』の更新は、2021年5月中旬頃になると思います。活動報告の方で、再開の詳しい日程がわかれば、報告すると思います。しない可能性もありますが―…。
では、次回の更新で―…。