第82話 風VS生
前回までのあらすじは、第九回戦第一試合に礼奈が勝利するのであった。
勝者が決まる。
第九回戦第一試合の―…。
勝利したのは、礼奈だ。相手の天成獣の属性である時を策とはいえない方法で攻略して―…。
そう、それは、相手の時を使わせることによる消耗で、天成獣からの力を借りさせることができなくなるという消耗させる方法で―…。
これは、天成獣の属性が時である相手にとっては、有効な戦い方の一つである。礼奈は、気づいていた。時の力を使うことが無条件で使えるはずがない。天成獣の宿っている武器を扱う者は、必ず借りられる力の量に限りがあり、その量以上の力を使うことはできないのだ。
ゆえに、時であったとしても、その条件に当て嵌まらないというのは、おかしい。礼奈は、その点をしっかりと理解していたうえで、相手の時を使わないといけない機会を大量に提供したのである。
時の力を使うのには、必ずと言っていいほどの条件があるのだから―…。
礼奈は、四角いリングを下り、自らの属しているチームのもとへと向かって行く。
「礼奈、勝利おめでとう。」
「すごっ、どうやって倒したのだよ。」
「素晴らしい戦いでした。」
と、瑠璃、クローナ、セルティーの順で言うのであった。
三人とも、礼奈が勝利を心の底から喜んでいるのである。そして、クローナの言った言葉と同様に、瑠璃もセルティーも疑問に思うのであった。
マドルフの天成獣の属性は時であり、どうやってマドルフを倒したのか。
「ありがとう。クローナ、マドルフの天成獣の属性は時だから、相手に時の力を使わないといけない機会を多くしたのだよ。そうすれば、時の力を行使することができなくなるから―…。」
と、礼奈は言う。
礼奈が考えていたのは、ここまでであった。礼奈は、時の力を使う時の条件までは、詳しく知らなかった。知っている範囲でいえば、大きな攻撃、もしくは行使するのであれば、多くの力の量を使わないといけないことを何となく、勘ではあるが、思っていたのだ。
礼奈の思っている時の力を使う時の条件としては、ほとんど正しかったのだ。時の力を使う時の条件は、アンバイドの方が詳しいのだ。経験している関係上―…。
「まあ、そうだろうな。礼奈、ナイス策であった。たぶん、策っぽくない策と思うかもしれないが、天成獣の属性が時の者と戦ううえでは、あれが一つの有力な答えだ。」
と、アンバイドは礼奈に向かって言う。
そのアンバイドの言葉に礼奈は驚く。それでも、アンバイドが続けて言いそうなので、今は言葉を発することはなかった。瑠璃とクローナ、セルティー、李章も含めて―…。
「天成獣の属性が時の者は、時の力を使う時、必ず、これから行使することの現実に干渉する範囲の影響の大きさによって、自らの力の消費量の大きさが異なってくる。例えば、一秒時を止める、二秒時を止めるでは、二秒のほうが消費量が多くなる。さらに、大きい氷をなかったことにする、および、小さい氷をなかったことにするでは、大きい氷のほうが力の消費量が多くなる。このように、行使する時の干渉の度合いや範囲、影響の大きさで、力の消費量が決まってくる。さらに、他の属性の者よりも、時は一回における力の消費量も多く、多用させることを機会に追い詰めていくんだ。天成獣の属性が時の者を倒すときは―…。」
と、アンバイドは続けて言う。
つまり、策とは思えない策が天成獣の属性が時の者を倒すのに一つの重要な策となるのだ。
中央の舞台。
グランチェがいる側。
「マドルフの野郎が負けやがった。礼奈の戦略も理解できず、時の力をどんどん使うから―…。」
と、アルフェは言う。
アルフェとしては、明らかに礼奈がマドルフの天成獣の属性である時を使わないといけない機会を大量に提供していたのだ。その時から、借りられる力をすべて使わせようとしていることが丸見えであった。
ゆえに、
(少しぐらい、自分の状況と、相手の状況を素直に見るんじゃなく、意図というものを読めよ。)
と、アルフェは心の中で指摘するのだった。
だけど、マドルフは気絶しているので、聞こえるはずもなく、さらに、アルフェは心の中で指摘しているので、そもそもマドルフが気絶していなくても、聞くことはできないのであるが―…。
グランチェは、
「馬鹿ですからね。ジェントルマンとかいう異国の格好をしていたとしても―…。まあ、彼はそれでも私としては、仲間と思えますが―…。でも、それにしても、実力が私よりも上だから、組んでいるのですが―…、あのイラついた表情はムカつきますよ、あの女は―…。」
と、グランチェはそう言いながら、自らのチームのメンバーであるフードを被っている瑠璃に似ている少女を見て言うのであった。
実際に、素顔を見ることはできていないが、だけどわかるのだ。そこから雰囲気で伝わるほど、イラついているのが―…。だから、グランチェは、頭にくるのだ。常に愛想が悪く、コミュニケーションすらとれないのだ。ゆえに、グランチェは、瑠璃に似ている少女のことを嫌っているのだ。
瑠璃に似ている少女の側でも、自らのチームのことなんて、このゲームだけの関係でしかないのだ。彼女にとって、自らの目的を達成するために今属しているチームにいるのだから―…。瑠璃に復讐するということだけのために―…。
【第82話 風VS生】
ファーランスは、見る。
次の試合を開始してもいいぐらいに四角リングの損傷が存在しないことを―…。
まだ、気絶して倒れているマドルフがいるが―…。
「では、第九回戦第二回戦に出場する方を四角いリングへ。」
と、ファーランスは、次の試合に出場する双方のチームのメンバー一人を四角いリングの上へ来るように言うのであった。
「じゃあ、俺が行くぜ。」
と、アルフェが言うと、四角いリングへと向かう。
そして、四角いリングへと到着すると、すぐに、気絶しているマドルフのもとへと向かい、マドルフを引きずって、四角いリングの下の四角リングから手渡しできる場所にいるグランチェにマドルフを渡して、気絶しているマドルフを四角いリングの上から下ろすのであった。
その時、アルフェは、
「本当、迷惑かけさせるぜ、マドルフは―…。」
と、悪態に近いものを抱くのであった。
第九回戦で瑠璃チームが戦う相手チームというものは、実力はともなっているが、あくまでも、個人優先でチームでの勝利というものを考える集団ではないのだ。現に、ランシュが企画したゲームは、チーム戦ではあるが、協力戦というものがなく、個人対個人の勝敗数でチームの勝利を判定するものである以上、個人優先のチームでも不利になることはない。チームワークなどなくても結局のところは大丈夫なようになってしまうのだ。
そして、マドルフは、四角リングの中央の方へと向かって行く。
そこには、すでに、四角いリングにマドルフを四角いリングへと運ぶ間に上がっていた李章がそこにいた。
「俺の相手が、こんな子どもだとはなぁ~。だけど、油断するとやられるのは俺か―…。よろしくな、李章。」
と、アルフェは李章に向かって言うのだった。
アルフェとしては、李章の実力が、油断すると、さっきの第九回戦第一試合で負けたマドルフのようになることをすぐに理解した。それぐらい、李章とアルフェの実力が拮抗してくる可能性を感じた。だけど、そこで弱気になれば、李章にやられてしまうことはわかっていた。ゆえに、油断しない程度に強気に振る舞おうとしているのだ。
「ええ、こちらこそよろしくお願いいたします。」
と、李章は、対戦相手であるアルフェに向かって言い、言い終えると、アルフェに向かって一礼をするのであった。
(礼儀正しいな。まあ、マドルフのような奴もいると考えると、腹の底で何を考えているのかはわからないということにしておこう。礼儀正しいからといって、善人とは限らないのだから―…。)
と、アルフェは心の中で李章のことを分析するのであった。
アルフェは、マドルフという人間は、そこまで残酷であるというわけではないが、紳士のような服を着ていたとしても、人に対する思いやりや優しさのある振る舞いができるとは限らない。人は見た目も重要な判断要素になるが、その見た目と中身が繋がらないような形の見た目にされてしまえば、見た目では判断できないのだ。だから、相手の中身というものをしっかりと吟味しないといけない。アルフェは、そのことをよく理解していた。
ゆえに、李章という人物が、決して、善人とは限らない可能性も考慮したうえで、観察しているのであった。
だけど、戦い方というものは、その人の性格を表すということもあるのだから―…。アルフェは、経験上そのように思うのである。
一方で、李章の方は、アルフェのイメージを、
(口が悪い人ですか。油断してはいけません。油断は最大の敵です。)
と、心の中で思うのだった。
ゆえに、李章はアルフェに対して、油断するのは危険だと考える。油断すれば、相手に付け入る隙を与えることになってしまうから―…。それが、勝敗を左右することになるかもしれないからだ。だから、落ち着きながら、アルフェを観察するのであった。
「両者とも準備はよろしいでしょうか。」
と、ファーランスは、試合を開始してもいいかと、李章とアルフェに尋ねる。
「ああ、構わないさ。」
「ええ、試合を開始してもらっても構いません。」
と、アルフェ、李章の順で言うのだった。
アルフェと李章のさっきの言葉を聞いたファーランスは、自らの右手を上に上げ、
「これより、第九回戦第二試合、開始!!!」
と、宣言し、上に上げていた右手を下に向かって振り下ろすのであった。
こうして、第九回戦第二試合が開始される。
アルフェは、
(李章は、八回戦でイルターシャを実際に倒している。なら、先手をうって様子を見るか。)
と、心の中でおこなうべきことを決める。
「もう、勝負は始まっているんだ。攻撃もな!!」
と、アルフェは、李章を挑発するように言う。
そう、アルフェは試合開始後、すぐに、自分の後ろにさげていた長刀の柄の部分を持ち、自らの目の前へと構え、攻撃に移るのであった。
その長刀は、李章の刀よりも短刀の半分の長さぐらいに長く、横幅は、李章の刀の二倍の長さであった。
アルフェは、目の前に構えていた長刀を、すぐに攻撃へ移るために、右横にして、刀の軌道が横になるようにして右から左に向かって長刀を振るう。
長刀の振るわれた軌道から、風が発生し、そこから、虎のような生物みたいなものが発生し、李章へと向かって行くのだった。
「風虎。」
と、この時、アルフェは叫ぶのであった。
風虎は、李章へと向かう。李章という存在の体を切り裂かんがために―…。
そして、そのまま、李章の位置へと到達し、衝撃音を起こすのであった。その時、李章はそこにいたままだった。
そして、アルフェの風虎という攻撃は、四角いリングの表面を細かく多くの量を李章のいる位置を中心に半径二メートル前後の範囲できれいに削ったのだ。そのため、そこに、細かく削られた四角いリングの表面の白いものが風によって舞い上がり、李章のいた位置あたりが見えなくなってしまっていたのだ。
李章が、アルフェの風虎を避ける動作をしなかったのを見て、
(へえ~、俺の風虎を避けないとはな。馬鹿か。まあ、俺の風虎は攻撃スピードが速く、威力も十分だ。避けなければ、大ダメージになる。それを真っ向から受けるとは―…。)
と、心の中で、李章の行動を愚かなものと考えるのである。
アルフェとして、そう思うのは至極当然のことである。
一般に、考えてもアルフェのような考えになるだろう。風虎のような如何にも威力がありそうな攻撃を避けないのは、命知らずの愚かな行動でしかない。
そんなことは、李章も理解している。
そして、アルフェは、気づく。ゆえに、下の方を向く。
そこには、李章がいたのだ。しゃがんだ態勢で―…。
「何!!」
と、アルフェは驚く。
李章は、さっきのアルフェの攻撃である風の攻撃はいっさい受けていない。ちゃんと避けているのだ。それも、風虎の攻撃が衝撃音を発生させるほんの一秒にも満たない前に―…。後ろへと回避し、すぐに、速いスピードで迂回して、アルフェの真下へと移動したのだ。瞬間移動したのかと思わせるほどの速さで―…。
李章は、すぐに、左手を地面につけ、右足でアルフェに向かって蹴りを入れるのであった。
だけど、アルフェの方も対処は可能で、長刀を横にして自らの前にして、防御の体勢をとる。
そのため、李章の右足は、アルフェの長刀に触れるのであった。
(ッ!! 防がれた!!!)
と、李章が驚くのであった。
「甘すぎるぜ、李章。風。」
と、アルフェは言う。
アルフェとしては、李章が自らの目の前でしゃがんでいたことからどのように攻撃をしてくれるのか予想ができたのだ。イルターシャたちから、瑠璃チームの情報を得ていたのだから―…。そこから、李章が蹴りで攻撃してくることはわかっていた。むしろ、アルフェが恐れていたのは、李章の刀での戦闘だ。だけど、それに関しても対策はすでにうっていた。
そして、アルフェは言い終えると、アルフェの周囲に風が起こる。
「!!!」
と、李章もアルフェの周囲に風が起こっていることに気づく。
李章は、アルフェから距離を取ろうとする。だけど、すでにそれは遅かったのだ。
李章は、すぐに弾き返されるように飛ばされるのだった。
李章は、すぐに、抜刀して、自らの武器である刀を四角いリングの表面につけて、四角いリングの外に飛ばされないように凌ぐのであった。
そのおかげで、何とか、李章は、四角いリングの外に飛ばされることは回避された。
李章は、自らの体勢を立て直し、真っすぐアルフェの方を見る。
そこには、周囲が風で覆われていたアルフェが立っていたのだった。
【第82話 Fin】
次回、奪われる!!
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
第九回戦第二試合がちょうど切りの良いところで、話数が終わりそうなので、第九回戦第二試合が終わると同時に、更新をしばらくお休みしようと思います。話数でいうと、第86話が終わってからになると思います。
再開は、たぶん2021年5月中旬頃を予定しています。理由は、カクヨムの方で新たな作品を更新をおこなっていくと思います。カクヨムでの新作作品は、2021年5月上旬ぐらいになると思います。まだ、第9部分までしか書いていない。そっちのほうの作業を進めないと―…。
では、次回の更新で―…。