第81話 回復と成長
前回までのあらすじは、礼奈VS紳士のような服を着た背の高い人の試合は、天成獣の属性が時である紳士のような服を着た背の高い人の攻撃を礼奈が受けてしまうのであった。それでも、礼奈は、紳士のような服を着た背の高い人の靴とズボンの裾の部分を凍らせるのであった。
【第81話 回復と成長】
靴とズボンの裾の部分が凍らされていた。
紳士のような服を着た背の高い人は、驚いてしまったが、今は平然としていた。
それは、対処する方法が存在するからだ。そんなものは簡単だ。
紳士のような服を着た背の高い人の天成獣の属性は、時なのである。そう、凍らされたことをなかったことにすればいい。
ただし、注意しないとけいない。なぜなら、対戦相手である礼奈に、天成獣の属性が時だということを悟られないようにしないといけない。だけど、礼奈はすでに、紳士のような服を着た背の高い人の天成獣の属性が時だと気づいているのだから―…。自らの天成獣の属性が時だと悟られないようにしても意味がないのだが―…。
紳士のような服を着た背の高い人は、礼奈が対戦相手の天成獣の属性について気づいていることに気づいていないので、
「私を凍らせにくるとはねぇ~。さすがの私も驚いてしまいました。だけど、私の足を凍らせたとしても意味ありませんよ。」
と、紳士のような服を着た背の高い人は、再度、瞬間移動するかのように礼奈の目の前から消える。
(ま…ッ!!)
と、礼奈が心の中で言いかけようとしている時に、何かの衝撃を受けるのである。
蹴られているような―…。
いや、本当に蹴られているのだ。
(私の天成獣の属性である時の前では、いくら凍らせることができるとしても意味がない!!)
と、紳士のような服を着た背の高い人は、心の中で言う。
自らの天成獣の属性が時である以上、自分以外の時間を停止して攻撃することが可能である。時間停止されている間は、礼奈は動くことができず、礼奈は紳士のような服を着た背の高い人の攻撃に対処のしようがない。時間を停止している間に対処しようとすればに限られるが―…。
さらに、礼奈によって凍らされた部分をなかったことにしたのだ。時の属性の特徴の一つでもある。なかったことにするのは―…。
だけど、紳士のような服を着た背の高い人は、罠にここで引っかかることになる。
そう、礼奈が仕掛けた罠に―…。
「引っかかった。」
と、礼奈は、紳士のような服を着た背の高い人の攻撃を受けて、笑みを浮かべているのである。
礼奈は、相手に暴力を振るわれることで快感を感じるわけではない。むしろ、不快にしか思えない。それでも、相手を自らの罠に引っ掛けることができたのだ。そのことに対する、笑みなのだ。だけど、これさえ、礼奈にとって策の一つでしかないが―…。いや、策とはいえないものを策にしているが―…。
そして、紳士のような服を着た背の高い人は、礼奈の言葉で気づく。
(くっ、嵌められました。礼奈は最初から、私の攻撃をしてくるのを待っていたのか。)
と、心の中で、紳士のような服を着た背の高い人は、礼奈の意図の気づくのだった。
だけど、時すでに遅し。
礼奈は、
「凍れ。」
と、言うと、紳士のような服を着た背の高い人は、あっという間に全身を凍らされてしまうのであった。
これは、礼奈が自らの天成獣の属性である水を用いて、対戦相手の体の一部を凍らせて、青の水晶で一気に成長させたのだ。
そして、同時に礼奈は、青の水晶で、自らがダメージを癒すのであった。次の相手の攻撃がある可能性を考慮して―…。たぶん、あるだろうと予測して―…。
中央の舞台。
瑠璃チームの対戦チームがいる側。
一人の人物が、
「あの馬鹿!! 簡単に敵の罠に嵌ってしまうとは!!! 己の実力を過信しすぎだ!!!!」
と、声にして言う。
それほどに、紳士のような服を着た背の高い人の行動が、この人物にしてみては、馬鹿なほどに対戦相手である礼奈の策に簡単に嵌りすぎているのだ。最初から、わかっていることだろう。明らかに、今までの礼奈の試合を見たり、礼奈が対戦した相手から聞いたりして、分析していないことがバレバレなのだ。
ゆえに、一人の人物は呆れてしまうのだ。イルターシャやレラグから聞いておけよ、と思うぐらいには―…。この人物は、イルターシャが、瑠璃チームのメンバーの戦い方について分析しているのだから―…。
「まあ、気にする必要はないのではないか、アルフェ。マドルフの天成獣の属性は時だから―…。凍らされようとも意味はない。凍らされなかったようにできるのだから―…。」
と、グランチェが、一人の人物であるアルフェに向かって言う。
紳士のような服を着た背の高い人の名はマドルフといい、マドルフの天成獣の属性は時であるのだから、たとえ、礼奈の攻撃で凍らされたとしても、凍らされたことを時を戻して、なかったことにすることができる。それぐらいのことは、マドルフにとっては、朝飯前にできてしまう。そう、グランチェは、確信するのであった。
中央の舞台。
瑠璃チームの側。
「やったぁ!!」
と、瑠璃は言う。
瑠璃にとっては、相手を凍らせることができたので、礼奈の勝利は確定したものだと思う。それもそうだろう。礼奈は、対戦相手を凍らせて、戦闘不能にすることで、相手を倒しているのだから―…。経験に乗っ取れば、瑠璃の判断になるだろう。
「残念ながら、意味はないだろうな。凍らせたところでも―…。」
と、アンバイドは、瑠璃の考えがある程度わかったがゆえに、礼奈の勝利を否定する。
アンバイドには、わかりきってしまうことなのだ。マドルフの移動の仕方を見ると―…。
「えっ、どうして、どうして。瑠璃の喜びを否定しなくても、実際に、礼奈はマドルフをちゃんと凍らせてんじゃん。」
と、クローナは、瑠璃の喜びに賛成し、そのアンバイドの否定に対して、疑問に思い、口にするのだった。
クローナからすれば、どう考えても礼奈は対戦相手であるマドルフを凍らせることに成功している。つまり、相手は凍らされているので、身動きがとれず、降参若しくは場合によっては、気絶している可能性のほうが高い。礼奈の勝利は確定したものだ。
「李章、マドルフの動きのおかしな点を指摘してみろ。」
と、アンバイドは李章に向かって言う。
李章は、アンバイドにマドルフの動きのおかしな点を答えろと言われたので、瑠璃やクローナの近くへと行く。
到着すると、李章は、
「瑠璃さん、クローナさん。マドルフの動きは明らかにおかしいです。マドルフの移動の仕方から、天成獣について、少しだけ知識のある人ならマドルフの天成獣の属性を生と判断してしまうかもしれません。」
と、言う。
李章の言葉に対して、
「そうだよね。」
「瞬間移動ぐらいの速さで移動するし―…。」
と、瑠璃、クローナの順で答える。
二人にとって、李章の言っているマドルフの天成獣の属性が生であることは、当たり前のことだと思うのだった。だって、生の属性は、身体能力を純粋に強化するのだから―…。
李章は、続ける。
「だけど、あの移動の仕方は、天成獣の属性が生である者ができる移動方法ではありません。あまりにも速すぎるし、着地回数、地面に足が接する回数が少なすぎるのです。マドルフの天成獣の属性が生なのであれば、必ず山梨さんへの攻撃の時に、足を着地させた音の回数が多くなるし、移動しているのがある程度見えたりするものです。ようは、対処可能なのです。だけど、マドルフの攻撃に山梨さんは対処できていません。そうなってくると、マドルフの天成獣の属性が生ではないということになります。以上でよろしいでしょうか、アンバイドさん。後は、どうしても話したそうにしているので、お譲りいたします。」
と。
李章の言葉に、
(最後のは、余計だ、李章。)
と、心の中で、アンバイドは怒りがこみ上げるのであった。
それでも、アンバイドは、李章に対する怒りを抑えるのであった。李章に指摘させたのが、アンバイド自身である以上は―…。
「まあ、李章の指摘した通りだな。そうなってくると、マドルフの天成獣の属性が生以外であった場合、何の属性となるのか? そうなってくるな。この場合、マドルフの天成獣の属性として考えられるのは、一つしかなくなる。それは、時だ。マドルフの天成獣の属性が時ならば、礼奈への攻撃の時に、足を着地させる音の回数が少ないことと、移動が見えなかったことも説明できる。」
と、アンバイドが言う。
その時、瑠璃は、アンバイドに質問する。
「でも、私のように、赤の水晶の能力ではないにしても、瞬間移動できる人という可能性は?」
と。
「それはありえないな。異世界における能力者というのは、かなり例外的な存在で、その存在はほとんどわかっていない。むしろ、わかっている能力者の方が珍しく、実際に、本当の意味でわかっているのはごくわずかでしかない。本当の意味での能力は、隠されていることが多く、世間では知られないように能力者自身が隠そうとするからな。そうしないと、能力者ということだけで、大国から強制的に仕えさせられたりし、政治の駒として利用されかねないからな。まあ、いろいろだ。っと、マドルフの天成獣の属性が時であることだな。その証拠はもう一つある。それは、礼奈によって、マドルフの足部分が凍らされた時、礼奈へと攻撃したよな。」
と、アンバイドは言う。
アンバイドは、瑠璃とクローナに最後の自身の言うところで、返事を促すのであった。
「はい、ありましたね。そして、礼奈の策で、マドルフは凍らされていますが―…。」
「そうだけど―…、それがどうしたの?」
と、瑠璃、クローナの順で言う。
瑠璃とクローナにとって、礼奈の対戦相手であるマドルフが礼奈を攻撃したことが何かおかしなところがあったのか。そう、みえないことのほうが当たり前のことだけど、と思うのである。
それをアンバイドが察したのか、
「攻撃した時、足の部分の氷がなかったよな。それに、マドルフのいた位置に氷がなく、四角いリングの表面に氷の解けた後がまったくといっていいほどにない。そうなってくると、マドルフの天成獣の属性が時でないと、おかしくなってしまう。逆に、時であるならば、すべてのことを説明できてしまう。だから、礼奈にとっては、相手に攻撃させることによって策を仕掛けていくしかない。防御は、武器に宿っている天成獣の属性が時が対戦相手の場合は、対戦相手が動いてからでは、後手になってしまう。もう、対峙しているときから、仕掛けないと意味がない。まあ、礼奈の方はそれがわかっているみたいだな。どうやって、倒せばいいのかも。」
と、言う。
アンバイドは、礼奈が対戦相手であるマドルフをどう倒そうとしているのかが理解することができた。それは、策とはほど遠いものであるが―…。それでも、天成獣の属性が時である対戦相手を倒すための有効な方法であることに間違いはないのだから―…。
「だから、礼奈を信じることだな。戦いのセンスに関しては、天才と呼べるぐらいにはあるのだから、な。」
と、アンバイドは最後に付け加えて言うのだった。
四角リングの上。
マドルフは、凍らされていた。
礼奈の策に嵌って―…。
だけど、そんなものはマドルフにとって意味はない。
氷の中でマドルフは、
(凍らされたところで意味などない。私は、こんなものをなかったことにすることができるのだから―…。)
と、心の中で言いながら、時の能力を使って、自らを凍らせている時の時間を巻き戻し、なかったことにするのだ。
天成獣の属性が時の者は、自らの傷をなかったことにすること、相手の攻撃をなかったことにすることなどができる。ただし、条件をともなうものであるが―…。条件に関しては、後でわかることだろう。
マドルフは、礼奈によって凍らされたことをなかったことにする。
そう、凍らされせていた氷が、一瞬のうちにマドルフの周りから消滅したのである。
礼奈は、驚く。いや、感心する。
その様子を見たマドルフは、
「私を凍らせても意味のないことです。効くはずがないのです。」
と、言う。
その時、マドルフの言葉を繋ぐかのように、
「だって、マドルフの天成獣の属性は時、だから。」
と、礼奈が言うのである。
今度は、礼奈の言葉にマドルフは驚くのである。動揺に近いものと言ってもいい。礼奈は、すでに、マドルフの天成獣の属性が時であることに気づいていた。そして、ここでは、あえて、礼奈はマドルフの天成獣の属性を知っているぞということをアピールする必要があった。そうすることで、マドルフに時を使わせることを躊躇わせないようにしたのだ。
マドルフは、礼奈に自らの武器に宿っている天成獣の属性が時であることを見破られたことに動揺はするも、それで、礼奈に何ができるのだ、と考える。
時を相手にする者は、初見でそれを見破るのはかなり難しく、戦い慣れない限り、簡単に勝負がついてしまうのだ。それなのに、天成獣の属性が時との戦いに慣れていなさそうな礼奈が、見破ったのだ。それでも、対処が完全にできているわけではないと、マドルフは思うのだった。そういう面では、礼奈は、天成獣の属性が時の相手に、戦い慣れていないことはマドルフには丸わかりであった。
現に、礼奈は、天成獣の属性が時の相手と戦い慣れていないのは事実だ。だけど、それを戦いのセンスと知識で補うことは可能であった。すでに、その策は始まっているのだから―…。策とはいえない策が―…。
「だけど、私の天成獣の属性を知ったところで意味はない。礼奈に対処は不可能です。」
と、マドルフは意気揚々と言う。
それほどに、マドルフには自信があった。時間の停止に抗うことはできないのだから―…。天成獣の属性が時の者以外は―…。
そして、礼奈は、
「凍れ。」
と、言う。
すでに、マドルフとの会話の中で仕掛けてしたのだ。マドルフのいる位置の周囲に水の粒子を―…。それを氷に変えつつ、青の水晶を使って、急激に成長させていったのだ。
今度は、氷を厚めにさせたのである。
そうしたところで、マドルフにとっては、意味のないことのようにしか思えなかった。それもそうだろう。時で凍らされたことをなかったことにできるのだから―…。
現に、マドルフは、礼奈によって凍らされたことをなかったことにした。
そして、
「再度、凍らせにくるとは、礼奈にはガッカリです。私の天成獣の属性を見破ったことに関しては、感心しました。だけど、戦い方があまりにもお粗末すぎます。これで、終わらせ―…。」
と、マドルフが言いかけると、
「凍れ。」
と、礼奈が言い、マドルフは凍らされるのである。
そう、氷の中に閉じ込められるのである。
マドルフは、さっきの自身の言葉にもあったように、礼奈が、マドルフの天成獣の属性を見破ったことに関しては、感心していたし、分析力の高さに感服していた。だからこそ、何かマドルフを驚かす手を使ってくるのではないかと思ったのだ。だけど、期待外れでしかなかった。ゆえに、マドルフは礼奈に対して失望したのだ。だから、マドルフは、この一撃で礼奈を倒そうとした。その時に、礼奈に凍らされてしまうのである、が―…。
マドルフには、意味のないことようにしか感じないし、そうとしか思わない。だから、自らが凍らされたことをなかったことにした。
そう、マドルフを凍らせていた氷はさっぱりなくなるのである。跡形もなく―…。溶けた跡すら残さずに―…。
「凍らせても意味がない。何度言えばわかるのですか。私は―…。」
と、マドルフは、言う。
その言葉は、礼奈がマドルフを凍らせるというあまりにも単純で意味のないことでしかなかった。それは、礼奈にとってはとても意味のあることであったが―…。
「凍れ。」
と、礼奈は言うと、マドルフを凍らせるのであった。
その繰り返しが二~三分続くことになる。
そして、決着がつくことになる。
もう、十数回目に凍らせ、マドルフがその氷をなくさせた時、マドルフはあることに気づく。
(もう、これ以上は使えない。まさか!!! 最初からこれを狙っていたのか!!!!)
と、マドルフは心の中で驚く。
表情は、顔面に完全にでていて、礼奈にバレバレだった。
「氷の針」
と、礼奈が言うと、マドルフの周囲に覆うように形成された氷の針がマドルフに向かって放たれるのであった。
この氷の針は、長さに二~三センチメートルほどの大きさで、数は五十を超えていた。
そして、マドルフは氷の針を避けることができるに、全部を受けてしまい倒れるのであった。倒れる時に、礼奈は、地面に接する方の氷はすべて水にしたのであるが―…。
マドルフは、四角いリングの上に倒れると同時に、気絶した。
観客席から試合を見ていた審判であるファーランスは、マドルフが気絶していることを確認し、
「勝者、山梨礼奈!!!」
と、勝者を告げるのであった。
こうして、第九回戦第一試合は礼奈の勝利となる。
【第81話 Fin】
次回、長刀VS刀!!
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
では、次回の更新で―…。