第78話―4 それぞれの動向
前回までのあらすじは、ランシュがクルバト町の出身であることを瑠璃、礼奈、セルティーはリーンウルネから聞かされるのであった。
少し、更新する時間が遅れてすいません。
セルティーと瑠璃は驚く。
瑠璃の驚きは、ランシュがクルバト町の出身であったことに―…。
セルティーは、それに付け加え、別の町の出身であることをランシュ自身から聞かされていたのだ。
驚きの度合いがかなりのものでしかなかった。要は、セルティーはランシュに嘘を付かれていたのである。
(まさか、ランシュが―…。そうなると、お父様を殺したのも―…。)
と、セルティーは心の中で思い始める。
「驚くのも無理はないだろう。ランシュをリース王国の騎士見習いにしたのは、そのクルバト町への遠征後に宰相の地位を辞任したベルグなのだから、な。」
と、リーンウルネは付け加えて言う。
その言葉に、瑠璃は驚き、
「えっ、どういうことですか。」
と、大きな声で言ってしまう。
その声にリーンウルネは、驚いてしまう。
「? 瑠璃さん、ベルグのことを知っているのか。」
と、瑠璃に尋ねる。
「私たちが、探している人物です。」
と、瑠璃は答える。
その瑠璃の言葉にリーンウルネは疑問に思い、
「どういうことじゃ。」
と。
そこで、瑠璃は礼奈と相談しながら、自分たちが異世界から来たと言ってもいいものかを考え始める。それは、あまり現実世界のことを言うのは良くないのではないかと思ったからだ。話が悪用する者に漏れて大変なことになるかもしれないからだ。
(別の世界から来ました、ってことは―…。)
(リーンウルネさんは、信用できるけれども、ここで話してしまったことが他の誰かに盗み聞きされていたら漏れるかもしれない。なら、別の世界から来ましたということは言わないほうがいいね。)
(うん、そうしよう。)
と、瑠璃、礼奈、瑠璃の順でヒソヒソ話をするのであった。
リーンウルネに聞こえないようにして―…。それでも、リーンウルネには聞こえてしまっていたが―…。
リーンウルネは、聞かなかったことにした。たぶん、瑠璃や礼奈には、リーンウルネに言いたくないと思っていることは、自分たちが別の世界から来たことを知られることが悪用されることになることを考慮してのことだろう。さらに、瑠璃や礼奈は、何かこの異世界から元の世界へ帰れる方法を見つければ、元の世界へと帰るのだと思い、二度とこの異世界にやってくることがないからであろうから、あえて、現実世界のことを秘密にしたいのだろう。今まで、接したことのない世界と接すれば、場合によって、争いの種になってしまうのだから―…。別の点では、接したことのない世界と接して、抗体のもっていない病気がそれぞれの世界で流行して、多くの人が亡くなる可能性が存在することなどを加えて―…。
「実は、私たちの生まれた村が、ある日、村人が石化する現象が起きて、そのような現象のなかで私たちは逃げてきたのです。その途中で、ローさんに知り合って、その石化の解き方を知っているのがベルグという人だと言われたんです。そのために、ベルグという人を探しているのです。石化を止める方法を聞き出すために―…。」
と、礼奈は言う。
このような偽の自分たちの設定を、過去にアンバイドにしたのを応用して―…。
そのように嘘を言うことの理由は、何かまではリーンウルネは聞くこともなく、
「そうか。」
と、受け答えをするのであった。
興味がないといえば、嘘となってしまうが、リーンウルネ自身は聞くことではないので、礼奈の言葉に頷いて、関心を少し薄い者と瑠璃や礼奈に思わせるようにする。そうすれば、互いに、これ以上の追求がなくなるであろう。
「そうなんです。」
と、瑠璃は付け加えるのである。
もしも、これを聞いたのなら、礼奈の言っていたことが嘘だとすぐにわかってしまうであろう。だけど、リーンウルネは、そのことに気づかぬフリをした。
「お前さんらが、会いたいと思われるベルグという人物は、とっくの昔にリース王国からいなくなったようじゃ。宰相を辞任して以降…な。」
と、リーンウルネは、残念そうに言う。
瑠璃も礼奈も、残念な表情をする。だけど、手掛かりがないわけではない。ランシュが企画したゲームでランシュ側に最終的に勝てば、ランシュからベルグの居場所を教えてもらえるのだから―…。
「話をそろそろ進めていくぞ。ランシュがエルゲルダを憎んでいる理由は、自分の生まれ育った町を滅ぼされたからだ。たぶん、ランシュ自身も知っているのだろう。そうなってくると、ランシュは、エルゲルダを殺したのなら、もう一人の人物、リース王国の前王だったセルティーの父親で私の夫であるレグニエドへの復讐じゃろう。夫は、クルバト町への遠征で住民を殺す命令を現に出しておる。その理由は、セルティーが言っておったクルバト町の町長バトガーが住民を洗脳したということを真に受けてしまったことだ。」
と、リーンウルネは話を続ける。
その話にセルティーは俯くのであった。自分の知っていることに嘘があったことに、残酷なことをリース王国がしてしまっていたことに―…。
「ランシュは、計画していたのだろう。クルバト町が廃墟にかした日から、ずっと―…。そして、二年前の夫の誕生日に事件が起こる。あの日、ランシュは夫を殺し、圧倒的な実力でリース王国の騎士団を一人だけ殺して、それ以外は全員、傷を負わすだけだったようだ。その時、死んだのが、夫と、宰相のメタグニキア、メタグニキアの護衛の騎士であったミドールであったがな。厳密言えば、ランシュが殺したのは、夫一人のみじゃ。後の二人は、メタグニキアの裏の仕事をしていた奴じゃ。奴は、ランシュと繋がっていたようじゃ。」
と、リーンウルネは続ける。
「そして、セルティー、お前はランシュをどうしたいと思っている。」
と、急にリーンウルネは、セルティーに尋ねるのである。
これには、リーンウルネにとっての深い意味があった。セルティーの答えによって言い方を変えないといけないから―…。事実の方ではないが―…。
セルティーは、少し考える。
(お母様には、嘘が一切通用しません。経験上―…。ここは正直に言うべきですね。)
と、心の中でセルティーは決意する。
そう、リーンウルネに事実を言おうと。
「私としては、お父様を殺したランシュに関しては復讐してやりたいと思っています。しかし、今はそれがわかりません。」
と、セルティーは正直に言うのだった。
「そうか。」
と、今度は、セルティーの言うことを理解し、優しく、寄り添う感じに言う。
続けて、
「セルティー、ランシュに復讐したいという気持ちもわかるが、二年前のあの日、お前はランシュによって救われたのじゃよ、殺されそうになったところを―…。」
と、リーンウルネは言う。
そのリーンウルネの言葉に、瑠璃は驚く。瑠璃は、セルティーがミドールによって展開された上にある大きなものについて知らないからだ。その内容は、セルティーが実際には見ておらず、ショックのあまりであったことから、セルティーから聞けるはずもなかった。
セルティーは、リーンウルネの言葉に、
「えっ、どういうことですか。」
と、言う。
その表情は、知らなかった、なんで、などというはっきりとしない動揺の気持ちであった。そうもそうだろう。自らの父親であるレグニエドを殺したランシュが、その日、セルティーを救ったという事実に―…。
「セルティーがそう思うのも無理はない。お前さんは、レグニエドが殺された時、ショックでずっと下を向き続けておったからの~う。だから、もう一度、二年前の事件について話そう。」
と、リーンウルネは息を再度整える。
「二年前、夫は自らの誕生日イベントで各国の出席者の前でランシュによって殺された。その後、宰相メタグニキアや騎士たちがランシュを捕まえようとしたが失敗した。その結果、メタグニキアとミドールがメタグニキアの部下で裏の仕事をしていたヒルバスによって殺された。ランシュとヒルバスは繋がっていた。その間に、私も、ランシュを抑えようとしたが、メタグニキアの命を受けたミドールに不覚にも人質にされてしまった。それも、セルティーの命を奪うと脅されて、ランシュと騎士たちの戦いを眺めることしかできなかった。そう、セルティーの上に何かを展開し、私が騎士やセルティーを助けにいけば、それを落下させて殺そうとしたのじゃ。」
と、リーンウルネが言う。
そこで、セルティーが、
「えっ。」
と、驚くも、リーンウルネは続ける。
「結局は、セルティーがランシュに攻めて気絶し、その後にランシュが、圧倒的な力でそれを破壊したおかげで何とか救われたのじゃ。これは、儂も見ていたし、多くの招待客が見ていることだから、事実だ。」
と。
「……………。」
と、セルティーは言葉にすることができなかった。
復讐しようと考えていたランシュに、実は自らの命が救われていたのだ。二年前のレグニエド王暗殺事件の時。
それでも、セルティーは言葉にする。
「じゃあ、ランシュは―…。」
と、言いかける。
そこで、リーンウルネはセルティーの言いたいことを察する。
「ただし、ランシュが夫を殺したのは、事実じゃ。あ奴の意志であっただろう。別にセルティーの命を狙っていたわけではないだろう。現に、セルティーをミドールの攻撃から助けている。たぶんじゃが、ランシュは、復讐対象以外はほとんど無用に殺す気はなかったようじゃ。ミドール以外の騎士は、気絶させるだけで制圧してしまっているからの~う。」
と、リーンウルネは言う。
セルティーに判断させる材料を与えるために―…。より正しい判断をなさせるために―…。
「私は―…、なんてことを―…。」
と、セルティーは泣き出す。
これは、自分が復讐しようとしていた相手であるランシュが実は、二年前のレグニエド王の暗殺の時に命を狙われて、救われたのだ。だが、それでも疑問に思うことがあった。なぜ、レグニエドを殺す必要があったのか。復讐ならばレグニエドを追放することだってできる。じゃあ、なぜランシュは―…。
セルティーは、泣き出しながら、複雑に、そして、泣きながらも考える。必死に自分なりの答えを見つけようとして―…。これからどうするべきかの―…。
それを理解できるのだろうか、リーンウルネはそっとセルティーに寄り添って、自らの手をセルティーの背中にあて、撫でるように落ち着かせるのであった。
(私も、あの人が亡くなった時は、ショックを受けたものだ。無気力になるぐらいに―…。この子も乗り越えないといけないことだ。自分という人間の時間を進めるために―…。)
と、リーンウルネは心の中で思うのだった。
かつて、リーンウルネは、自分の人生を示してくれた人、そして、レグニエドという自らの夫を死なせてしまったことを思い出す。
リーンウルネ自身も、セルティーのように複雑な気持ちになることはあった。自身は、それを人に慰められるよりも、自身と相手の言葉によって乗り越えている。これからやるべき事が、誰かの言葉によって、自身に浮かんだために―…。復讐とは違う意味で、生きる活力を手に入れることができたのだ。
そして、しばらくの時間が経過した。
リーンウルネは、礼奈にセルティーの様子を見させてもらうことにして、瑠璃と二人で話すことにした。
それは、瑠璃という人物が不思議に感じたからだ。
「お主、名前は何という。」
と、リーンウルネは瑠璃に尋ねる。
「私ですか―…、松長瑠璃といいます。セルティーのお母さん。」
と、瑠璃は答えるのだった。
「そうか、なら、松長瑠璃。お主は、魔術師ローやそれに付き従っているギーランと同じ匂いがするのだが―…。もしかして、人に創られし人の一族の者か?」
と、リーンウルネは問うのであった。
「??? 人に創られし人の一族? 何ですかそれは? ローさんのことを知っているのですか?」
と、瑠璃は、疑問を疑問でかえすのであった。
瑠璃は、知らない。この異世界において、あまり知られていないが、国の要人ともなれば誰もが知っていることだ。そう、人に創られし人の一族とは、過去の時代、どこか別の大陸で、人によって創られた人がおり、その子孫であることだ。その一族は、世界に暗躍しているといわれる“黒い影”の「私」と言った存在を追っている。
「魔術師ローとは、昔に何回かあったことがある。それにしても、人に創られし人の一族のことを知らないのか。なら、そのほうがいいじゃろう。ローのことについても同様に、な。彼らの戦いに巻き込まれないことが平和に生きるために必要であろう。いや、巻き込まれたとしても知らない方がいいかもしれないな。知れば、引き戻れなくなる。その戦いに―…、「儂」といわれる存在と「私」といわれる存在の戦いに―…。」
と、リーンウルネは言う。
リーンウルネとしては、何となくではあるが、瑠璃からローやギーランと同じ感覚がしたのだ。それを「匂い」と表現したのだ。だから、瑠璃と二人で話しておく必要があったのだ。瑠璃が人で創られし人の一族ではないかを確かめるために―…。
結果、瑠璃は、人に創られし人のことを知らなかった。ゆえに、これ以上聞くことはしなかった。だから、知らないほうがいいと。知れば、確実に「儂」と「私」の長きに渡る戦いに確実に巻き込まれることになるのだから―…。
しかし、リーンウルネは間違っていた。そう、瑠璃たちは、すでに「儂」と「私」の戦いに巻き込まれてしまっていたのだ。最初から―…。
第78話-5 それぞれの動向 に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
では、次回の更新で―…。ちゃんとできるかな。