第78話-3 それぞれの動向
前回までのあらすじは、教会へ向かった瑠璃、礼奈、セルティーは、リーンウルネに会う。そして、リーンウルネから、二年前の事件のことを中心に聞こうとするのであった。そして、リーンウルネは、瑠璃、礼奈、セルティーに向かって話すのであった。ローから聞いたことと、自らが見たものを合わせて―…。
瑠璃、礼奈、セルティーは長椅子に座る。
三人が座ったのと同時に、近くにあった長椅子ではない、一人座りの椅子を三人の近くに持ってきて、リーンウルネは座るのであった。
リーンウルネは語りだす。
「時間を追って話すほうがいいだろう。第一に、ランシュがどうして二年前の事件を起こしたのか。それは、十五年ぐらい前のリース王国の中のアルデルダ領で起こった謀反じゃ。その謀反を起こそうとしたのは、今はなきクルバト町の町長バトガーであった。バトガーは当時のアルエルダ領の領主エルゲルダという人物の増税政策に反対したことにより対立して、クルバト町の住民を全員を洗脳して謀反をバトガーが起こさせたという。それをエルゲルダとリース王国の軍で鎮圧することに成功した。それが原因でクルバト町はなくなり、アルデルダ領の収入は減少し、領の経営は一気に傾いたのだ。」
と。
そこで、セルティーは、
「それ、知ってます。町長バトガーは、町の人を洗脳したんですよね。その町の人々は、洗脳を解こうとすると死んでしまうものを―…。本当に、残酷です。私もその出来事に関しては、城にいる教育係からしっかりと教えられました。バトガーは人の道を踏み外す行為をしたのだと。」
と、追加するように言う。
リーンウルネは、真実を話すべきかと悩まざるをえない。だけど、後ろの瑠璃という人物は、どこか疑問に感じることがあった。
瑠璃としては、感覚的なものであって、勘でしかなかった。
礼奈は、何の話をしているのかわかりずらかったが、内容をところどころを聞くと、矛盾していることに気づいていた。
ゆえに、礼奈は、
「セルティーのお母さん。疑問なんですが、どうして、増税政策を反対した人がクルバト町の人々を洗脳する必要があったのでしょうか?」
と、リーンウルネに尋ねる。
「そうじゃな。そこだ。そこに矛盾がある。まず、このクルバト町の謀反は嘘じゃ。」
と、リーンウルネは答え始める。
このクルバト町の謀反が嘘だということに、瑠璃、礼奈、セルティーは驚かずにはいられなかった。そうだろう。さっき、リーンウルネは、クルバト町は謀反を起こしたと言っているのだ。なのに、どうしてそれを嘘と言ったのか。どうして、リーンウルネは、嘘を言う必要があるのか、疑問に思わざるをえなかった。
「儂は、別に、嘘を付きたいから付いたわけではない。まず、クルバト町の謀反は、世間で広まっている一般常識のようなものだ。十五年前の、な。だけど、それを広めたのは、エルゲルダとリース王国で権力を古くから権力を握っている者たちだ。彼らとしては、このクルバト町が謀反を起こしたということにしておかないとまずいのじゃ。ここから、このクルバト町の謀反の真実を話していく。」
と、リーンウルネは言い終えると、一息を入れる。
そして、リーンウルネは、続けて、
「クルバト町がアルデルダ領と増税政策で対立していたのは事実だ。その当時のアルデルダ領は、財政がかなり悪化していたようじゃ。原因は、領主エルゲルダが領内の投資を私的に流用して、自らの利権に関係あるところにバラまいていたようだ。その関係のあるものたちの事業が、アルデルダ領の荒廃をもたらすものであってな。そのせいで、財政が悪化して、私的に使える金の維持のためにエルゲルダが欲したがゆえに増税政策となった。その増税政策の対象がクルバト町だったわけだ。税収も良好だったし。町長バトガーはその政策に反対したんだ。エルゲルダの私的利用を指摘してな。まあ、エルゲルダは、私の夫の前では、善人ぶっていたが、あいつは稀に見る愚か者で、悪人だった。反対されたもんだから、遠征軍を送って、クルバト町の住民ともども殺してしまったわけだ。クルバト町の中にいるエルゲルダの味方をも関係なく―…。町を燃やしてな―…。あまりにも短絡的で、愚かだ。儂にも多くの一般的な常識を備えた者たちでも理解はできないだろうな。」
と、言う。
瑠璃、礼奈、セルティーは、エルゲルダの非人道性に怒りの感情を浮かべる。
「さらに、その怒りを付け加えるのなら、クルバト町の住民は誰も洗脳はされていなかったようだ。」
と、リーンウルネは付け加えるように言う。
セルティーは、
「私が教えてもらったことは、嘘なのですか。」
と、怒りと動揺が混じったような表情で言う。
ゆえに、言葉が震えてしまって、普段の話すスピードよりも遅くなっていた。
「まあ、何を教えてもらったかは、大方予想はつくが、嘘が多いな。城の中では、真実が見えないこともあるだろう。あの城は、陰謀と権力欲しか渦巻いておらんからの~う。善人がいないわけではないが、力ある者は、私欲塗れで他者に慮ることに欠如しているものが多いからなぁ~。」
と、リーンウルネは言う。
そのリーンウルネの言葉を聞いたセルティーは、落ち込むのであった。それでも、聞かないといけない。そうしなければ、ここにきた意味がない。
その様子を見たリーンウルネは語りだす。
「クルバト町への遠征の結果、想像できることじゃがな、アルデルダ領の経営は完全に悪化していき、領土内での税がどんどん膨れ上がっていったのだ。そのせいで、アルデルダ領の外へと逃げる者、自らの子どもを身売りする者、自らの身を売る者、乞食になる者、果てには自らの命を絶つ者、家族全員で命を絶つ者さえいたそうだ。実際に、税収も、人口も減少していった。また、この繰り返しでもあった。そして、リース王国でのエルゲルダの影響力も低下していった。まあ、エルゲルダに関しては、自らが蒔いた種だ。まさに、この教会が信仰している宗教では、こう言うのであろう。
神に対する罪は
その者の命と災いによってのみ
償わなければならない
と。まあ、エルゲルダに関しては、そうなったみたいじゃが。これに関しては、話を進めていけばわかる。結局は、アルデルダ領の外へ逃げる者の増加が隣国の政治に影響を与えてしまったのじゃ。隣国のミラング共和国は、このアルデルダ領からの逃亡してきた難民たちの問題をどうにかするために、いや、これを契機と判断した者たちがリース王国へと戦争を仕掛けたのだ。その戦争は、最初から、収益のあがらないアルデルダ領を捨てて、アルデルダ領以外のミラング共和国と接する方に騎士を防衛として使ったのだ。アルデルダ領を守ったとしても、王国の収益に不利益をおよぼすだけだった。クルバト町の遠征以後に、リース王国は、いくらかアルデルダ領への支援金を送ったのだが、効果がなかったようじゃ。たぶんじゃが、エルゲルダの懐に入っていただけのことであろう。結局、アルデルダ領をミラング共和国に割譲して、この戦争は終わったようじゃがな。」
と、ここで、一回リーンウルネは話をきる。
息を吸って、リーンウルネは話を続ける。
「こうして、エルゲルダは、領主としての地位を失ったようじゃ。哀れじゃ、と言いたいところだが、その後、ミラング共和国をあいつは、弁論術と詐術で乗っ取ってしまった。まあ、死んでしまえば、乗っ取ろうと意味がないんじゃがな。」
と、リーンウルネは一回言い終え、
「喉が乾いたの~う。少し水を飲んでくる。」
と、言って、教会の中にある台所へと向かって行ったのである。
そのため、瑠璃、礼奈、セルティーのいる場は、し~んとするぐらいに静かになるのだった。
この沈黙は、瑠璃、礼奈、セルティーに耐えさせることを拒絶させた。ゆえに、沈黙は破られる。
「あの~、リース王国って、よくここまで生き残ることができましたよね。」
と、礼奈がセルティーに向かって言うのだった。
礼奈としても、言葉を選びたかったのだが、それをさせるほど、褒められた王国ではないと思ったのだ。さらに、セルティーの父親であるレグニエドは、人に騙されるお人よしなのではないかと思ったのだ。さすが、そのことを言うとまずいと思ったので、言わなかったのであるが―…。
それでも、さっきの礼奈の言葉は、セルティーに申し訳ない気持ちを抱かせるものであった。セルティーが傷つくほどには―…。
「礼奈、それは、言いすぎ。」
と、瑠璃がツッコミをいれる。
「ごめんなさい。」
と、礼奈は、セルティーに謝るのであった。
それでも、セルティーは、少しだけ落ち着いたのか、
「まあ、お母様の話しを聞けば、そう思いますよ。私は、知りませんでしたし―…。申し訳ないと思っています。でも、まだ続くようでしたし―…、これは、今の私にとってとても重要なことです。聞き逃すわけにはいきません。」
と、言うのだった。
セルティーとしては、知らなかったから許されるというものではなかった。理解はしている。それでも、逃げたい、知らなかったら許されるんだよという誘惑に飲まれたいという気持ちがなくなるわけではない。むしろ大きくなる。だけど、リース王国の王族の一人である以上は逃げてはいけないと思った。被害を受けた者の気持ちを考えれば―…。
そして、また、沈黙が訪れる。その沈黙は、今度は、瑠璃、礼奈、セルティーにリース王国について考えさせる機会を与える。
(……………。)
(……………。)
(……………。)
と、瑠璃、礼奈、セルティーに何も思い浮かばせることがなかった。
それは、問題の性質が複雑で、大きすぎ、考える機会すらなかったことなのだ。今のところは、どうすることもできなかった。
そして、五分ほどの時間が流れる。
リーンウルネが、水分補給をして、瑠璃、礼奈、セルティーがいる場所に戻ってくる。
リーンウルネは、
「待たせたの。久々に長く話すと喉が乾く。あと、セルティー、あとに二方も水しかないが、喉でも乾いていないか。最初に、これを出すべきだったが―…。アハハハハ。」
と、少しだけ礼を欠いてしまったと思い、苦笑いを浮かべるのであった。
教会としては、そこまで豪華なものを置いているわけではないので、飲み物といっても、大きな行事がなければ水しかないのだ。本当は、水以外のものを出すべきなのかもしれないと思っていて、瑠璃、礼奈、セルティーに対して、礼が欠いてしまって申し訳なく思うのである。
「いえ、こちらこそお構いさせてしまって―…。」
と、礼奈が代表して言うのであった。
セルティーは、礼を欠いていると思っている自らの母親であるリーンウルネに対して、
「教会なのですから。」
と、気にするなという意味を込めて言う。
「それでもな、お客に対しては、いろいろを気を使いたくなるんじゃよ。」
と、リーンウルネは言う。
リーンウルネは、コップをのせた丸い形をしたお盆を片手で持ちながら、瑠璃、礼奈、セルティーのもとへと向かって行く。
瑠璃、礼奈、セルティーのもとへとたどり着くと、瑠璃、礼奈の順で、「ありがとうございます」と言って、お盆からコップ一つずつとり、コップに入っている水に手をつけるのであった。飲む量はそこまで多くはなかった。セルティーもその後、コップを受け取るのであった。
そして、瑠璃、礼奈、セルティーは、コップを自らのふとももの間にのせるようにして、両手で持つ。
瑠璃、礼奈、セルティーが、コップを受け取ったのを確認すると、リーンウルネは再度、椅子に座るのであった。前に座った椅子と同じ椅子に―…。
「では、続きといこうか。ミラング共和国がエルゲルダに乗っ取られたところであったな。乗っ取った後、すぐに、リース王国へと攻めてきたのだ。今から四年前のことだな。この時、一人の青年が大活躍したのだよ。セルティー、お前も知っているだろ。」
と、リーンウルネは、最後に、セルティーに向かって問う。
それは、セルティーも知っている人物であるからだ。そして、この四年前の事件のことをセルティーは、しっかりと知っているから―…。
だから、セルティーは、
「ええ、ランシュですね。」
と、答える。
「そうじゃ。ランシュが天成獣の力を用いて、圧倒的な実力で倒したみたいだ。まあ、その情報は、ある程度、捏造されているのだがな。むしろ、捏造されたほうが真実なのではないかと思えるほどだ。実際は、ランシュがほぼ一人で、ミラング共和国を滅ぼしてしまったのだ。まあ、当時は、捏造されたほうをリース王国の方で信じてしまったようだし、儂も実際にそうだった。」
と、リーンウルネは、当時、その事実を知った時に驚いてしまったことを思い出しながら言う。
それほどに、インパクトの強いものであったからだ。
瑠璃、礼奈、セルティーは、驚くのであった。目を見開かせながら―…。
(ランシュって、人は―…、どれだけ強いのですか。)
と、心の中で礼奈は思う。
礼奈にとっても、天成獣の宿っている武器を扱う者であっても、一人で一国を滅ぼすなんて到底ありえないと思う。だって、天成獣の宿っている武器を扱う者は存在し、彼らだって、一国ほどであれば、それなりの数がいると考えられる。そんなのを相手にしていれば、すぐに、天成獣から借りられる力を使い果たしてしまう。
そう、それだけランシュの実力は、ありえないほどと言ってもいいぐらいに強いのだ。
(……………。)
と、瑠璃は心の中でも言葉にすることすらできないほどに驚くしかなかった。
ランシュの強さに、瑠璃の語彙が追いつかなかったのだ。表現しようがなかったのだ。
セルティーにいたっては、
(今の私では、どうあがいても勝てない。)
と、心の中で絶望する。
セルティーとしても、修行によって強くなっているのは、自覚することができる。はっきりとそのようにも感じるし、試合の結果にも現われているのだから―…。
それでも、セルティーは、一人で一国を滅ぼすほどのことをやれと言われても、できるはずないと思った。現に、セルティーが思っている通りであり、一人で一国を滅ぼすのは並大抵のことではなく、ずば抜けたもしくは天成獣が宿っている武器を持つ者の中で、指に数えられるぐらいの実力があって、可能かどうかという具合である。実際には、それ以上いるのかもしれないが―…。
リーンウルネは、瑠璃、礼奈、セルティーの表情を見ながらも話を続ける。
「まあ、それぐらいにランシュの実力は、ずば抜けて高いというわけだ。今のお前さんらでは、対抗できないだろう。じゃが、実力というものは日々変動していくから落ち込むことよりも弱いと認めたうえで、どう対抗するかだな。それに、ランシュは、意志という面をかなり強くもっているようじゃ。」
と、リーンウルネは言うと、再度、瑠璃、礼奈、セルティーの表情を見る。
それは、瑠璃、礼奈、セルティーが確実に話を聞いているのかを確かめるためだった。そろそろ、重要な話の中のさらに重要な面を言うことになるのがリーンウルネにはわかっていた。セルティーにとって重要なことを―…。
(話は聞いておるようじゃ。なら、言うか。)
と、リーンウルネは心の中で覚悟を決める。
そして、
「ここからさらに、重要なことなのじゃ。ランシュが一人滅ぼしたミラング共和国には、復讐すべき相手がいたのじゃよ。それは、ミラング共和国を乗っ取ったエルゲルダじゃ。」
と、言うと、セルティーは驚きをあげる。
そして、礼奈はある事実に気づくことになる。
(まさか!!)
と、心の中で言葉にして、表情で驚きながら―…。
瑠璃は、真剣に聞き及んでいた。
リーンウルネは、言う。
「礼奈だけ答えに気づいたようじゃの~う。そう、ランシュは、エルゲルダによって滅ぼされた町、クルバト町の出身じゃ。唯一の生き残りと言ってもいい。」
と。
第78話-4 それぞれの動向 に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
第九回戦を今、書いていますが、第九回戦は、一話の文章は、あまりに増えることはないと思いますが、話数がかなり進むと思います。第十回戦よりは短いと思いますが―…。
次回の更新に関しては、2021年4月11日頃を予定しています。
では、次回の更新で―…。