第78話-1 それぞれの動向
番外編の一つが終了し、本編再開です。
第78話は、内容のかなりな増加により、分割することになりました。あの方の登場は、ネームの時には一切なかったのですが―…。
では、本編をお楽しみください。
【第78話 それぞれの動向】
第八回戦がおこなわれた日の夜。
リースの城の中。
リースの街並みを見渡せる場所。
そこに一人の少女、そう、礼奈がその場にいてリースの街並みを眺めていたのである。
この景色は、遠く、リースの港の向こうにある海を―…。
そして、風はそよぐように吹く。飛ばしてしまうのではなく、心地よいと思わせるように―…。
(綺麗ー。ここの景色は―…。)
と、礼奈は心の中で、今、自身が見ている景色の感想を自然と言う。
〔何、見ているんだ礼奈。〕
と、何かの声がする。
それは、他の誰かに聞こえるものではなく、今のこの場にいる礼奈にのみに聞こえるものであった。
〔リースの景色。綺麗だよ。地中海にある街並みみたいで―…。建物が白いんだよ。〕
と、礼奈が言う。
礼奈は、実際に、現実世界における地中海のヨーロッパ側の国々に行ったという経験はなかった。それでも、写真や映像などで見ることはある。パンフレットやテレビで流れ番組によるものとかで―…。
〔ち…ちゅ…う…かい? については、わからないが、良い景観であることはわかるな。で、ここにいるのは、その景観を見るためだけではないだろう。〕
と、その声は言う。
この声は、第七回戦がおこなわれた後に、礼奈が夜、寝室にいる時に聞こえたのだ。いや、ある程度、話すことはすでにできるようになっていたけど、まだ、それが自分の天成獣であることは理解できていたけど、天成獣からの一方的なものでしかなく、ところどころ聞き取りずらいものでしかなかった。そして、会話のようなことができるとは知らなかったのだ。理由は、礼奈の天成獣に関する知識の不足によるものであった。それまでは、簡単な質問は、できていたけど、その答えを完全に聞こえるまでにはなっていなかった。
そう、寝室にいる時に聞こえた時に、わかったのだ。これがアンバイドが第七回戦の時に言っていたことだと―…。天成獣との意思疎通である、と。
ゆえに、礼奈は、自らの天成獣であるゴルグとの意思疎通が可能になっているのだと理解した。
以後、礼奈は、ゴルグとの会話を時々、念話のような形でするようになっていたのだ。
〔本当に、鋭いね、ゴルグは―…。そう、これからの戦いのことを考えると、ね。私の水晶の力は戦闘でサポートをしてくれているけど、回復である以上、戦闘向きの能力ではないんだよね。そうなってくると、ゴルグの属性である水を氷にして使うのではなく、水として使って戦ったほうがいいのかなって―…。〕
と、礼奈は言う。
それは、礼奈にとっての今の悩みであった。礼奈の持っている青の水晶は、回復という能力を持っており、治癒や、自分の攻撃を強化することができている。それでも、天成獣の宿っている武器での戦いとなると、幻や時のような属性の場合はどうしても回復という能力で対抗できないのではと思うのである。
〔何だ。簡単じゃないか。その青の水晶というものは、結構戦闘向けだし、工夫しだいでは、幻や時の属性の戦いでも優位に進められるぞ。特に、時の属性の場合は―…、その青の水晶の能力は確実に必須になってくる。本物の使い手に対しては―…。〕
と、ゴルグは言う。
ゴルグは、礼奈の悩みが些細なことでしかなく、工夫しだいで、むしろ、青の水晶の能力は役に立つし、礼奈はそれをすでに実践できているのだと思っていた。
〔それに、礼奈は、むしろ、役に立ちすぎだろ。仲間の傷の治療から戦闘でのサポートおよびメイン攻撃、双方にとっても十分に活躍しているといってもいいぐらいだ。気にするな。礼奈は、礼奈らしく振舞っていればいい。〕
と、ゴルグは続けて言う。
〔うん、そうだね。ありがとう、ゴルグ。あと、残り二戦、頑張りますか。〕
と、礼奈は言うと、自分の部屋へと戻っていくのであった。
アンバイドの部屋。
そこには、当然、アンバイドがいる。
ベットに座り、何かを考える。
(うん。後、九回戦と十回戦を残すのみか。最後の方はランシュの方が出場してくるとして、その前の九回戦か。前に感じた、ギーランの関係者がランシュ側にいて、出場してきた場合、どうする。まあ、俺は戦う気はないが…、な。それに、別のことだが、瑠璃は、明らかに異世界の生まれではないのか。分からないが、仮にそうなってしまうと、他の世界というのが存在して、移動することができるということになる。魔術師ローなら可能かもしれないが、他の人物でできるものがいるということになる。さらに、あの瑠璃の容姿から考えて、ギーランの娘ってこともあり得る。確か、ギーランは、次女のほうが、その子が生まれた日に行方不明になっていたし。まあ、そんなことを考えてもどうしようもないし、まあ、偶々なことだろう。)
と、アンバイドは心の中で考える。
これからのことなどである。
そして、
(ふう、俺が力を入れるべきは、第十回戦での戦いだな。)
と、続けて心の中で思うのであった。
第八回戦がおこなわれた日の深夜近く。
レグニエドの肖像画がある部屋。
そこには、セルティーと瑠璃がいた。
ただ、互いに話したいことがあったわけではない。なぜかここに来たいと思ったが瑠璃がこの部屋に来たら、セルティーがいたのであった。
「瑠璃さんは、どんな用でここに。」
と、セルティーが瑠璃に尋ねる。
「う~ん、何となくここに来たいと思って―…。この肖像画のレグニエド王という人は、人が良さそうには見えるんだけど、何か、人が良すぎて騙されそう。」
と、瑠璃は言う。
瑠璃は、レグニエドという人物が素直な性格をしていて、人の良さそうな人物であるということがわかる。それでも、瑠璃には、レグニエドが人に騙されやすそうな感じがしていたのだ。さっきの瑠璃の言葉は瑠璃の素直な気持ちであるが、同時に瑠璃は、セルティーが父親をそのように言われて大丈夫かと少しだけ心配になるのだった。
セルティーは、
「騙されそう? 周りからは、父は、素晴らしい傑出した人物だと聞いているのだが―…。でも、お母様は、人が良すぎて、何も見えていないって言っていた。何も見ないで自分が称賛されることで重要なことから目を逸らしている、と。」
と、言う。
セルティーとしては、レグニエドの周りにいる重臣たちの評価によれば、レグニエドが傑出した人物であり、そのような評価が正しいのではないかと思う。セルティーのメイドのニーグとロメのレグニエドの評価も素晴らしく傑出した人物である。しかし、ニーグやロメは、セルティーにそのようにレグニエドのことを言うべきだとリース王国の中枢にいる権力者たちに言われているのである。本当は、セルティーには申し訳ないと思うが、レグニエドは素晴らしく傑出した人物とは思えなかったのだ。むしろ、人が良さそうで、簡単に悪い人に騙されやすそうな感じであった。
セルティーは、さらに、自らの母親であるリーンウルネのレグニエドの評価を聞いてもいた。しかし、その評価を信じることはできなかった。
セルティーにとってリーンウルネは、物凄く行動的な人物であり、人を引っ張る感じの人であるが、リース王国の中には収まりそうの感じがしなかった。そのせいか、セルティーは、リーンウルネを自由奔放で城の中になかなか帰って来ない、王家の一員としてはあまりにも尊敬することはできなかった。
それでも、セルティーは、リーンウルネを嫌いになることはできなかった。リーンウルネがなぜか輝いているように見えてしまうのだ。
「セルティーのお母さんの評価は、周りの人と何か違うみたいですね。」
と、瑠璃は言う。
瑠璃としては、周りの評価とセルティーの母親であるリーンウルネの評価が違っていることが気になったのだ。
「お母様はいつもそんな感じです。城の中にいる人の評価とは違った評価をするのです。さらに、教会に入る前は、良く城の外を出ては、リースの街中や、王国の領内のいろんなところに行っていたようです。そのせいで、お母様は、あまり周りから評価されていませんでしたね。」
と、セルティーは言う。
周りからというのは、リース王国の中の中枢で権力を握っている者たちの意向を言わされていることにもよるし、リース王国の城の外の人々の言葉は一切入っていないのである。
そのため、セルティーのリーンウルネの評価は、そんなに良いものではなかった。それでも自らの母親であったがために、完全に悪いものにはならなかった。
「自由奔放なのですね。」
と、瑠璃は、誤魔化すかのように言う。
それは、リーンウルネが何か壮大そうな人物、そう、あまりにも積極的に行動する人物なのではないかと想像した。
瑠璃は続けて、
「セルティーのお母さんが周りの人と評価が違うのならば、セルティーさんから聞いた二年前の話をセルティーのお母さんから直接、別の視点で聞いてみたいですね。」
と、言う。
セルティーは、瑠璃のさっきの言葉で、何かを思いつく。自分自身の盲点だったことを―…。
「そうだ。お母様に聞けばよいのか。なら、瑠璃さん、明日、教会に行きませんか。修業は明日、休みにしてもらって―…。」
と、セルティーは瑠璃に提案する。
その提案は、リーンウルネがいるリースにある教会へと行こうという話である。そうすれば、別の視点から二年前の話を聞くことができ、さらに、ランシュがどうしてレグニエドを殺したのかという理由を理解することができるかもしれない。
そのようにして互いのやりたいことが一致しているのか、
「アンバイドさんから許可をもらうのは大変だけど、私も行ってみたい。セルティーさんのお母さんに会ってみたい。」
と、瑠璃は、セルティーの提案にのるのであった。
翌日。
リースの城の中。
いつもの修行場。
「ああ、教会に行く~ぅ。」
と、アンバイドが機嫌悪そうに答えるのだった。
「ええ。急遽用事ができたのです。大丈夫です。修業に関して、サボりたいがためではなく、むしろ、このランシュが企画したゲームを真剣で戦うための覚悟を再度確かめたいがためです。」
と、セルティーは言う。
そのセルティーの言葉に、アンバイドは、
「そうか。それはいいことだな。………で……………、それが、どう関係してくるんだぁ~。」
と、まだ機嫌の悪そうな表情がなくなることのない状態で言い、さらに不機嫌にもなっていっていた。
アンバイドは続けて、
「ほお~、それで、セルティーは覚悟を再度確かめることができるとして、なぜ、瑠璃まで行く必要があるのかぁ~。理由を言え。」
と、言う。
アンバイドのイラつきは、いまだに治まることはなかったが―…。
瑠璃は、アンバイドの言葉に対して、
「この理由に関していえないことは申し訳ないと思います。しかし、私も重要なことだと思っています。」
と、瑠璃は言う。
瑠璃は、絶対に今日、教会に行って、セルティーの母親であるリーンウルネに会うという気持ちがここに存在した。アンバイドに反対されようが―…。
アンバイドも瑠璃の意志が強いことを理解できたがゆえに、
「……しゃあない。俺の方が折れよう。その代わり、礼奈も瑠璃と同行することにする。クローナと李章は、ここに残って修行だ。」
と、瑠璃の教会へ行くのを認めるのであった。
ただし、礼奈は瑠璃に同行させるようにした。それでも、アンバイドにとっては、セルティーと瑠璃がサボるという可能性がなくなるはずはないので、その見張りに礼奈を選んだ。李章とクローナは、まだ、礼奈ほどに戦えるわけではなく、強くしていく必要があったからだ。ようは、礼奈以外に同行させることが可能な人物がいなかったのだ。アンバイドは、李章とクローナの修行を見ないといけないから―…。
アンバイドの言葉を聞いた瑠璃とセルティーは、合意する。その返事は、
「はい、それで構いません。」
「私も。」
と、セルティー、瑠璃の順で言うのだった。
それでも、このことに意見しない人物はいなかった。まあ、予定調和といえよう。
「私も行きたぁ――――――――――――――い。」
と、クローナが教会へと行きたいと主張する。
それは、クローナにとって、アンバイドの修行をサボるための口実が手に入ると思ったからだ。それに、瑠璃、礼奈、セルティーが今日、修行にいないということは、確実に修行の内容が厳しいものとなり、かなりきついものになってしまうと感じたからだ。過去にも、瑠璃の大けが、李章の大けがなどによって修行の欠席者が出た時に、クローナはその分の修行を追加的にさせられたのだ。その原因は、クローナがよく隙を見て、サボろうとしたり、アンバイドをよく揶揄ったりしているためである。
「ダメだ。こいつは抑えておくから、さっさと出発してくれ。」
と、アンバイドは、クローナを動けないように肩を抑えつける(地面に押し付けてはいない)、瑠璃、礼奈、セルティーの教会へとさっさと出かけるように促すのであった。
理由がなんとなく理解できたために、瑠璃、礼奈、セルティーは、教会へと向けてリースの城の外に出ていくのだった。
第78話-2 それぞれの動向 に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
今回から内容は、第九回戦へ内容が向かっていき、第九回戦に入っていきます。ここで、重要人物についての重要なことが発覚します。伏線の一部の回収が始まります。第一編の、という方が正しいのだろうか? 判断は難しいです。第九回戦の終わると、重要人物の伏線を書かないといけなくなるかもしれません。ここ、第一編で重要になってくるところ、特にあの子についての自分を知るという面で―…。
次回の更新に関しては、2021年4月8日を予定しているのですが、夜頃になると思います。第78話と第79話は、見直して、修正するだけになっています。
では、次回の更新で―…。
2021年4月7日16時17分 「理由がなとなく理解できた」の部分を「理由がなんとなく理解できた」に修正しました。うちミスです。誠に申し訳ございません。