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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
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番外編 リースの章 序章 クルバト町の虐殺(10)

前回までのあらすじは、クルバト町の入口にいて、クルバト町が燃えるのを眺めていたエルゲルダ。そこに、一人の人物が現れる。

 エルゲルダは、驚く。

 まだ、生きていたのだ。

 バトガーは、すでに殺されている。

 それは、アババがさっき言っていたので、事実だ。

 そして、まだ、殺し終えていないことをエルゲルダは、理解する。

 「ミングロマー(お前)は、クルバト町の者か。」

と、エルゲルダは声を張り上げ、ミングロマーに問う。

 ミングロマーは、少しだけ考える。

 (ここで、嘘を付いても意味がない。それに、アルデルダ領の兵士がここにいる。盗賊退治なら、こんなに火を燃やす必要はない。それに、目の前にいるの領主のエルゲルダか。バトガー(町長)と対立していた。なら、クルバト(この)町を潰そうとしているのか。それなら、納得はいくが、同時に、それだけで、ここまでのことをするか。人としてどうかしている。)

と、心の中で言葉にしながら―…。

 「はい、そうです。」

と、ミングロマーは、はっきりとエルゲルダに聞こえるように言う。

 それを聞いたエルゲルダは、

 「ミングロマー(そやつ)を殺せ!!!!」

と、叫ぶように命じる。

 エルゲルダは決めていた。クルバト町へ遠征する時に、クルバト町の住民を殺すことを―…。

 今、まさに、それを実行するための命令を二度目として下す。

 エルゲルダの近くにいた、アルデルダ領の兵士たちは、ミングロマーに向かって、攻撃を仕掛ける。

 ミングロマーは、覚悟を決める。

 (この数だ。私は助からない。それでも、クルバト(この)町を守るため、一人でも多くを道連れにする。)

と。

 ゆえに、

 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。」

と、ミングロマーは叫び、アルデルダ領の兵士へと果敢に向かって行く。

 自らはここで死ぬであろう。このクルバト町のために―…。それは、誰からも命令されていない。己の意思であり、意志だ。生き残るほうが重要であることはわかっている。それでも、今、クルバト町を守ろうとしている同じ同僚のために自らの命を賭してでも戦う。

 これは、エルゲルダには、できないことであろう。

 ミングロマーの表情にエルゲルダは、恐怖を感じていた。

 死を恐れず攻めてくるものは、愚か者に恐怖を与える。その意志と意思に、恐れ戦く。わかるだろう。気迫にすごく、その気迫に愚か者であるエルゲルダは飲まれてしまうのだ。己の弱さを認められないがゆえに―…。

 ミングロマーは、一人、また、一人とアルデルダ領の兵士を斬っていく。彼らにとっても、今のミングロマーは恐ろしい存在でしかなかった。

 しかし、たとえ、恐ろしい存在であったとしても、人は人だ。気合が精神だけで、すべての不利の状況を逆転できるわけではない。要は、数は最大の武器であり、数には、いくら気迫を最大にしようと、精神を強くしようと勝てないのだ。

 ミングロマーは、すでに、数人のアルデルダ領の兵士を剣で斬り伏せるが、斬り伏せると同時に、隙を狙ったアルデルダ領の兵士の一人、また、一人によって、斬られていき、血を流す。

 それが何度も続けばいよいよ、ミングロマーは、立っていることができなくなり、体が倒れていくのである。

 (私もここまでか―…。後は頼んだ…ぞ……。)

と、ミングロマーは声にすることができなくなっており、言葉を心の中で言い、意識を失っていった。

 そう、これが、ミングロマーの生の終わりの瞬間であった。

 ガタッ!!

 ミングロマーが倒れた時に、音がした。

 倒れた瞬間を見て、エルゲルダは気づく。自身に汗が出ていたことを―…。

 (汗…。やっぱり、炎の大きくなってかいたとか―…。いや、そんなことよりも、やっと、一人死んだのか。本当に、我を焦らせやがって―…。こいつも燃やしてしまったほうがいい。もう二度と見たくもない。)

と、エルゲルダは心の中で思う。

 エルゲルダが汗をかいた理由は、炎が大きくなり、熱さがここまで伝わってきたものではなく、ミングロマーの気迫と中々、倒れなかったことによる、エルゲルダ自身がミングロマーに殺されてしまうのではないかと恐怖したことによる冷や汗である。

 そんなことをエルゲルダは認めるわけにはいかない。気づいていたとしても、認められるわけがない。下賤の者であるミングロマーに領主であるエルゲルダがどうして恐れを感じないといけないのか。そういう自らのプライドのためにエルゲルダは、炎を自らの恐怖を誤魔化すための材料に使ったのである。

 そして、ミングロマーの死体をこれ以上見てしまうと、恐怖を認めなければいけなくなるので、さっさと燃やしたいと思う。

 ゆえに、

 「ミングロマー(そやつ)を燃やしてしまえ。」

と、エルゲルダはミングロマーの近くにいる兵士に命じる。

 そして、ミングロマーの死体は燃やされるのであった。

 それを、見ながらエルゲルダは、

 (我が恐れる者はない。下賤の者に対しては、絶対だ。結局、ミングロマー(こやつ)は死んだ。燃やされている。あんな気迫をだす相手でも、我は勝てる。我は…我は最強なんだ。)

と、心の中で、自らに暗示をかけ、ミングロマーよりも自身が強いと思わせる。


 クルバト町の中。

 そこでは、武器を交える者どうしがいた。

 お互いに今は、敵でしかない。片方は奪う者、もう一方は、守る者である。

 信念があるのは、守る者の方であろう。欲があるのは、奪う者のほうだろう。

 武器が衝突する時に、金属音がさせる。

 奪う者は、細い剣を、守る者は、盾と槍をもっていた。

 攻撃の速さでいえば、奪う者のほうが圧倒的に速い。しかし、守る者はそれについていく。それでも、攻撃の速さには、勝つことができずにやがて、その生を終える。

 このように、クルバト町を守ると決めたバトガー支持者たちは、次々とアウトロー集団によって殺されていく。それでも、アウトロー集団もバトガー支持者で武器を持った、いや、バトガー支持者の数倍の人間が殺されていった。それは、住民の抵抗およびバトガー支持者たちの町を守ろうとする意志によってなされた結果である。

 だけど、クルバト町の住民よりは、アウトロー集団は殺されていない。

 そして、クルバト町のすべての者は、町を脱出することができずに生を終えていく。周囲を囲っていたアルデルダ領の兵とリース王国の騎士によって、外に出た途端に剣もしくは弓、槍などの武器で次々と殺されていった。

 クルバト町の住民は、どうしてアウトロー集団に襲われ、町に囲うようにいるアルデルダ領兵士とリース王国騎士達に訳も分からずに殺されていった。

 それでも、クルバト町の住民の中には、一人だけ生き残りがいた。

 その人物は、リース王国の宰相に出会い、町の中を移動している。

 「ランシュ(きみ)の家はどっちの方へ行けばいい。」

と、リース王国の宰相であるベルグが言う。

 ベルグは、いまだにランシュの家がどこにあるかを知らない。ゆえに、ベルグは、ランシュに尋ねながら、移動している。そのため、移動速度はゆっくりのものとなっているが―…。

 「あっち。」

と、ランシュは言いながら、右の方向を指す。

 クルバト町に生まれてからずっと過ごしているので、ある程度、町の中については理解している。ゆえに、自分の家がどっちの方向か簡単にわかるのだ。

 「わかった。」

と、ベルグは返事をして、ランシュが指した方向に向かって、移動を開始するのであった。

 ランシュも、ベルグの移動スピードに慣れたのか、驚かなくなっていた。


 クルバト町の入り口。

 エルゲルダは、再度、自分の方へ向かってくる影を見る。

 それは、ハグルンデを探すために送っていた兵士全員と、ハグルンデその人であった。

 影は、次第に大きくなる。

 (戻って来たか。)

と、エルゲルダは心の中で呟いた。

 そして、ハグルンデと、彼を探すためにクルバト町の中に派遣されていた兵士がエルゲルダの目の前に到着するのであった。

 ハグルンデは息を整える。

 それに要した時間は、数十秒であった。

 息を整え終えると、ハグルンデは言い始める。

 「理由だけは聞かせていただきたいのです。どうして私には、クルバト(この)町を燃やすことを教えてくれなかったのですか?」

と。

 これは、ハグルンデにとっての怒りに近いものであった。ただし、ここで、すぐに自身が殺されていない以上、自分を殺すことはできない理由があるのだと推察する。ハグルンデは、それが何なのかは、どういう意図でエルゲルダがそう思っているのかわからなかった。ゆえに、聞いたのだ。

 「そうか―…、それはすまないことをした。我は、ハグルンデ、お主を殺すことは考えていなかった。現に、我の兵士にここまで戻ってこられるように捜索させたのである。なぜか、わかるか。―……………お前がいないと首都ミグリアドの裏の人物たちをコントロールすることができないのだ。ハグルンデ、お前は、本当に優秀な男だ。それに―…、我は信じている。お前はきっと生きてここに戻ってこれることを―…。そして、お前に申し訳ないことをしたと思ってもいる。本当に申し訳ない。だが、クルバト町を燃やす必要があった。もし、仮に一人でもクルバト町の者が生き残れば、必ずや我に復讐をしてくるであろう。その時、ハグルンデやアルデルダ領の者の命を守ることができないこともありうる。そうなってしまえば、我は、かなりのショックを受け、アルデルダ領の繁栄を失ってしまうことであろう。ゆえに、ハグルンデの集団には事前に伝えることができなかったのだ。伝えてしまえば、集団が逃げ出し、クルバト町に住む多く者が逃げ出すことに成功していただろう。現に、お前の近くにある燃えている死体は、このクルバト町の者である。そのような輩が出ているのだ。最後に、詫びと言ってはなんだが、ハグルンデ、お前には、今空位であるミグリアドの警備隊長に就かせようと思っている。これで、実だけでなく、形式においても、我の臣下になる。どうか、受け入れてくれないか。」

と、長々とエルゲルダは言うのだった。

 それでも、ハグルンデは、エルゲルダの話の長さを知っているため、重要なところだけを頭の中で整理しながら聴いていた。

 ハグルンデは、理解した。

 (俺の集めた集団を捨てて、本当の意味でエルゲルダ様の部下になれー…、と。)

 すでに、答えは決まっていた。

 「はい、ありがたき幸せでございます。その話、お受けいたします。」

と、エルゲルダに跪き、頭を下げるのであった。

 ハグルンデとしては、今までともにした仲間を売ることに抵抗はなかった。このアルデルダ領、特に首都ミグリアドでは、一部の地区で治安が悪化している。そこで生き残るのには、仲間を相手に売ることなど日常茶飯事である。そうしないと、強い相手には勝てないから―…。そして、ハグルンデは、そこで生き残ってきたために、ともにした仲間を売ることを判断するのは簡単だった。そうやって、自身も自らの勢力を拡大させてきたのだから―…。

 (やっぱり、ハグルンデは、楽でいい。そして、賢い。下賤の者であることが惜しいの~う。まあ、まだ生かしておくことにするか。)

と、エルゲルダは心の中で思うのだった。

 ハグルンデは、

 (仲間には悪いが、俺は俺のために生きてきた。その生き方を変えることはできない。じゃあな。)

と、仲間を見捨てることに後悔などしていなかった。

 そして、エルゲルダは、

 「町を封鎖せよ!! 入口も燃やしてしまえ!!!!」

と、言うと、近くにいたアルデルダ領の兵士は、クルバト町の入口をも火で燃やすのであった。

 こうして、クルバト町の住民および首都ミグリアドにいて、今回の遠征に参加したアウトロー集団は、ハグルンデ以外は、火の中に閉じ込められ、ただ、炎の中で、自らの命を奪われるのを待つしかないという運命になるのであった。

 ただし、炎の中にいたベルグとランシュのみがここからうまく脱出し助かることになるのである。


次回に続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


では、次回の更新で―…。

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