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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
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番外編 リースの章 序章 クルバト町の虐殺(8)

前回までのあらすじは、クルバト町にエルゲルダ領の軍とリース王国の軍が到着するのであった。そして、クルバト町の入り口にはハムゴスらが待っていたのである。

前回の更新で、『水晶』の合計の文字数が80万を超えました。文字数100万まであと20万をきりました。

 一人の従者がエルゲルダに告げる。

 「エルゲルダ様。クルバト町に到着しました。」

と。

 「そうか、報告ご苦労。では、私が先頭へと向かうとしよう。道を開けてくれ!!!」

と、エルゲルダは言う。

 そういうと、前の兵士たちが道を開ける。

 そこをエルゲルダは進んでいき、クルバト町へと向かって行く。

 そうして、エルゲルダはクルバト町の目の前の入口へと到着した。


 ハムゴスは見る。

 その姿を―…。遠征軍は止まり、しばらくすると、そこから波をかき分けるようにして、真ん中があけられ、そこから馬に乗りこなしながら、エルゲルダがやってきた。

 ハムゴスは、町長になることはできなかった。ここだけ嘘をついていいと思った。後は降伏するだけで、領主に次ぐ地位を手に入れられるのだから―…。

 期待、いや、欲する者が手に入れるということを言うことは、疑いというものを押し殺す。自分の最大の利益を欲する者には、最大の利益となる餌を撒けばいい。綺麗に罠に引っかかるのだから―…。そんなうまい話しは存在しないということに気づきもせずに―…。

 「ハムゴス。」

と、エルゲルダは言う。

 エルゲルダは、馬をハムゴスまで近づけ、そこで馬を止める。

 そして、近くに歩きで来た兵が二人ほどエルゲルダの護衛につく。

 エルゲルダの表情は、ハムゴスを憐れむのではなく、侮蔑の目で見る。ほんの一瞬で、ハムゴスが気づかない程度であったが―…。

 「エルゲルダ様。」

と、言って、ハムゴスは跪き、エルゲルダに向かって礼をする。

 これは、上の者に対して、おこなわれるものである。エルゲルダはこれを気に入っている。理由は、偉大な自分に対して、(こうべ)をたれ、自らが敬われているように感じるからである。そう、エルゲルダの支配欲を満たすことができる素晴らしいものだった。

 「頭を上げよ、ハムゴス。いや、ハムゴス町長。」

と、エルゲルダは言う。

 エルゲルダとしては、すでにハムゴスがクルバト町の町長になっていると思っていた。まあ、実際、クルバト町の町長になっていなくても問題はなかったのであるが―…、なろうがなるまいが、どのみちハムゴスは用済みの存在であった。

 領主に次ぐ地位などを最初からエルゲルダが与えるわけがない。ハムゴスなんかの身分の低い者よりも、自分の血が入った息子の一人に与えておけばよい。確実に、自らの言うことを聞くような奴に育てたうえで―…。

 ハムゴスは、頭を上げる。

 ハムゴスは、すでに準備できたかのように、その確認のために言う。

 「領主エルゲルダ様、如何様の御用件でこのクルバト町にお越しなられたのでしょうか。」

と。

 エルゲルダには、わかっていた。確認であると。

 「用か。用は、我の政策に反対した町長がおった。その者バトガーといい、我への逆恨みのためだけに、我の政策に反対し、さらに、我の政策を実行させないために、住民全員を洗脳したという―…。住民が仮に洗脳が解けようとするものなら、洗脳が解けると同時に死ぬように細工したという。その非人道的なおこない後悔させるために、我々はリース王国の兵に援助を要請し、ここに参ったしだいだ。罪人バトガーはいるのか?」

と、エルゲルダは表向きの遠征の理由を言う。

 本当は、エルゲルダの方が、バトガーに増税政策を反対され、勝手に逆恨みしてクルバト町を滅ぼそうしているのであるが―…。

 「いえ、バトガーは行方を眩ませています。領主エルゲルダ様の軍勢に恐れをなして逃げてしまった模様です。エルゲルダ様の日ごろの人徳によって軍勢が強く見えるようになったことによりおきたものでしょう。そして、私が、クルバト町の町長となり、今、ここで、アルデルダ領の領主であるエルゲルダ様に降伏し、エルゲルダ様の政策にすべて従いましょう。」

と、言い、ハムゴスは最後に頭を下げ、エルゲルダの軍勢に降伏するのである。

 ハムゴスは、この時、心の中で、

 (これで、領主に次ぐ地位は手に入った。)

と、確信をもつように思った。

 ハムゴスらの周りにいる者たちも、ハムゴスの頭を下げる動作とともに、エルゲルダに向かって頭を下げるのであった。

 エルゲルダの軍勢と戦う意義はなく、これから訪れるエルゲルダの利権の一部に預かれることに期待しながら―…。

 「そうか。良き選択である。我の軍勢に恐れをなし、町長であったバトガーは逃亡、新たに町長となったハムゴスは我に降伏。素晴らしい。さらに、ハムゴスや、我の政策に間違いがあるか?」

と、あえて、エルゲルダは質問するかのように尋ねる。

 このことは、いいえという解答は存在しない。答えはわかりきっている。エルゲルダが望む答えは一つしかない。

 「間違いなどございません。エルゲルダ様は、アルデルダ領の領主の中で、最高の領主であり、この世界で一番の徳の高い人物でございます。それを否定するものは、エルゲルダ様の徳さえわからない、下賤で、いや、人ですらありません。」

と、ハムゴスは、エルゲルダが求める答えを言う。

 ハムゴスの表情は、これでアルデルダ領でのエルゲルダに次ぐ地位が入るため、喜びで顔が惚けそうな感じになっていた。エルゲルダにもわかるぐらいに―…。

 エルゲルダも満足している表情である。

 そして、エルゲルダは、残酷で狡猾な表情になる。

 「そうか、そうか。ハムゴスよ。お前という素晴らしい友ができて、我も幸せだ。こんな幸せな日があっていいのだろうか。いや、あっていい。我は、我にとって幸せの日がなければいけないのだから―…。それこそが、我以外の者にとっての幸せであり、幸福なのだ。だから―…。」

と、エルゲルダは言い終えると、歯をぎらつかせ、

 「我は、ハムゴス(お前)らの死を望む。」

と、続けて言う。

 そのエルゲルダの発言とともに、兵士がすぐに、ハムゴスらを囲んで、一斉に剣を振り落とすのである。ハムゴスらの首をめがけて―…。

 ハムゴスらは、理解する時間を与えられなかった。考える時間を与えられなかった。動揺する時間で終わったのだ。彼らの生は―…。


 そこには、無数の死体がある。

 ハムゴスらの、である。

 これ以上は、語るまい。語る必要もない。

 結果などのほんの少し想像すればわかるだろう。

 ハムゴスらに再生能力などない。これを付け加えれば、納得のいく答えになろう。

 この光景に、エルゲルダ領の兵士たちは、喜び、悲しみも感じなかった。感じていたら、きっともう二度と兵士として復帰することなどできないであろう。どんな残酷な命令で人を殺したとしても、感情という感覚が鈍くなって、何も感じないようにならないと、この領の兵士としては仕事ができない。多くの者は、領主の命令で仕方なく殺したのだ、ということにして、自分は悪くないということを正当化するのだ。殺さなければ、自分が殺され、殺される対象に自分が加わるだけなのであるから―…。

 「下賤の者などは、死のうが我にこのような気持ち悪い感情を抱かせるだけか。さすがというべきか。哀れというべきか―…。気にしても仕方がない。」

と、あえてエルゲルダは言葉にする。

 そこに、深い意味などない。あるのは、下賤な者は、死んだとしても、エルゲルダを満足させるものはないということだ。それは、アルデルダ領の兵士においてもそうだ。そのことを示すのである。

 兵士に向かって、

 「このような醜き死体は燃やしてしまえ。そして、ハグルンデ!!!」

と、エルゲルダは命じ、ある人物を呼ぶ。

 その呼ばれたハグルンデという人物がエルゲルダの右横に現れる。

 その人物は、エルゲルダがクルバト町が目に見える場所で話したアウトロー集団の頭である。

 「へい、何の御用でしょうか、エルゲルダ様。」

と、ハグルンデは言う。

 その表情は、待ってましたというものであった。

 「お前らの部下に命じよ。クルバト町の中での略奪および町にいる者の殺害を許可する。町の中では、自由にやれ!!」

と、ハグルンデに命じる。

 そのエルゲルダの言葉を聞いたハグルンデは、

 「はい!! 畏まりました。」

と、言って、エルゲルダから離れて行った。

 部下に今の命令を伝えるために―…。

 (ハグルンデだけは生かしておこう。別に何も言わなくても、ああいうのは生き残りやすい。頭の回転も速いからな。勘も鋭いだろう。)

と、心の中でエルゲルダは思うのだった。

 そして、エルゲルダは、ハグルンデが率いるアウトロー集団のメンバーたちが町の中へと入っていったのを見計ってエルゲルダ領の兵士たちに命じる。

 「クルバト町を燃やせ。」

と。

 そうして、アルデルダ領の兵士たちは、町を燃やすために、クルバト町の端から端を囲うように火を燃やすための準備をしていく。それは、エルゲルダが最初から考えていた作戦であった。

 (アウトローどもの多くは死んでも構わない。あいつらによって、アルデルダ領の評価が落ちてしまってはいけない。今回の遠征は、その間引きにちょうどいい。ただし、そいつらの全員が死ぬのはよくない。ある程度は生き残ってもらわないといけない。特に、ハグルンデはなぁ~。)

と、エルゲルダは心の中で言う。

 ハグルンデに関しては、前にも語ったが、アルデルダ領のアウトローの治安を安定させるのに必要なので何が何でも生かしておく必要がある。それ以外の者たちは、全員ではないが、多くがこの火の中で死んでも構わないと思っている。アウトロー集団が多くなっては、領の治安の悪化がリース王国のバレてしまうのである。それを防ぐための献金をリース王国の中枢の権力者たちに贈ったとしても、誰の目にもわかりきってしまえば、誤魔化すことができなくなり、権力者たちから見捨てられるかもしれない。ゆえに、クルバト町への遠征は、エルゲルダにとって、メリットしかないと本人は思っているのだ。都合の良いようにも思っている。

 エルゲルダは、燃え始めるクルバト町を見る。

 それは、とても綺麗だった。

 (ああ、なんて美しい。浄化されていっているようだ。我の近くにいる不純物を取り除いてくれるように―…。)

と、心の中でエルゲルダは言葉にする。

 本当に、そこに綺麗なものはなかった。

 いや、綺麗だと思えるものに、悲劇が混じっているのだ。それが混じらないと綺麗になれないのだ。悲しいことだ。

 これを綺麗だと思える者は、そこにある悲劇など見えやしないのだろう。

 ああ、悲しきや。煙とともに空へ―…。


 クルバト町の中。

 今、ハグルンデが連れてきた野盗たちが町の中を襲っていた。

 町の人を見かけ次第、男や子どもを殺していく。

 赤が飛び散る。命をつなぐ赤が―…。

 悲鳴は燃え上がり、消えていく。今日というこの日を表すかのように―…。

 そして、アウトローたちは、金品を見つければ、それを持ち去るのである。金品や金目(かねめ)のものは、売り払えば、生活することができる。抜け出すことができる。こんな、悲惨な暮らしから―…。

 だけど、このアウトローのような略奪を生業として長きに渡って生きている者たちは、これをギャンブルなどの金銭欲などの人間が持っている三大欲求のために使って、再度文無しになるだろう。ずっと、そのような結果に過去なっていることから、流れ的にそうなるだろう。

 「ひゃはぁ~、これは俺のもんだ。」

と、一人はいくつもの宝石を手に入れる。いや、奪ったのが正しい。

 そのような光景は、今現在のクルバト町の中では、当たり前に見られるものでしかなかった。エルゲルダに攻められるまでは、そのような光景はほぼなかったといってもいいぐらいだったのに―…。


 クルバト町の会議室。

 バタッ!! と会議室の扉が勢いよく開かれる。

 「何だ!!!」

と、ミングロマーは、扉の音をさせてものへと注意する。

 「大変です。ミングロマー様、野盗どもクルバト町(まち)を襲っています!!!」

と、会議室に入ってきた者は叫ぶように言う。

 その声の仕方から、緊急事態であることがわかる。

 「何だと!!!!」

と、ミングロマーが言うと、

 「とにかく、武器を持って対処だ。もしも、町民を殺しているのなら、そこで野盗を始末しても構わない。町民を守れ!!!!」

と、続けて命じる。

 それは、クルバト町の町民を守り、アウトローたちへ対処することだ。最悪の場合、アウトローたちを殺しても構わないということにした。事態が事態だけに―…。

 そして、ミングロマーら、会議室にいた者たちは、それぞれ、町の政務をおこなう館から出て、倉庫に向かう。武器を持って応戦するために―…。


 クルバト町の近郊。

 小高い丘。

 そこには、クルバト町が見える。

 ランシュは、今日は自分たちで食べる分の山菜を確保して、帰ろうとした時、目にする。

 「えっ……、クルバト町(まち)が燃えている。」

と、ランシュは言う。

 そう、クルバト町は燃え上がり始めていたのだ。


次回に続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


この番外編は、かなりの文量になったと思います。ネームで書いたときもセリフが多かったです。そのネームとはほとんど違ったセリフや動きになったような気がします。これからの伏線の回収が大変になりそうな感じがします。番外編のではなく、リースの章において―…。たぶん、番外編の最後の方で、二人ほど重要な新キャラが登場すると思います。何となく、これまでのところで触れてはいると思いますが、実際の登場はまだだったので―…。

では、次回の更新で―…。


2021年12月28日 「クルバト町の均衡」を「クルバト町の近郊」に修正。誤字です。申し訳ございません。対策としては、気づける範囲で見直していくことと、投稿時に確認をしていくことにしています。それでも誤字が完全になくなる可能性は低いと思いますので、気づきしだい修正していくと思います。

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