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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
153/747

番外編 リースの章 序章 クルバト町の虐殺(7)

前回までのあらすじは、クルバト町への遠征が開始されることになった。

 クルバト町への遠征が開始された。

 先頭は、アルデルダ領の兵士である。

 理由は、彼らのほうが、この地域における地理に詳しいからだ。

 アルデルダ領の後ろをリース王国の騎士たちが続いていくことになる。

 ベルグも馬に乗りながら移動する。ベルグもリース王国に来る前に馬に乗る練習はしていた。草原地帯を移動することがあったせいだ。その時に、遊牧民の部族に教えてもらったのだ。

 久々ではあったが、ベルグ自身が納得できるくらいには、乗りこなせていた。

 (忘れていなくてよかった。)

と、ベルグは心の中で思うのだった。


 こうして、クルバト町へと向かっていた遠征軍は、翌日に到着するのであった。

 その間の情報は、大軍であったため、クルバト町にも情報が伝わっていてもおかしくない。

 しかし、その情報は改竄されることになる。それは、ハムゴスらによってその情報の者たちに偽情報を教えたのだ。あれは、視察の部隊であり、もしそのことを町の者に言えば、アルデルダ領の兵士たちにクルバト町の者たち全員が殺されてしまうと。

 ゆえに、その人物も家族にもバラすことができなかったのであるが―…。

 しかし、完全に情報を封じることはできなかった。


 クルバト町。

 遠征軍が来る前日。

 一人の人物が焦りながら走る。走らないといけない。

 それはそうだろう。

 (早く、早く、伝えなければ、どうして、リース王国とアルエルダ領がクルバト町へ来るんだ。)

と、心の中で走っている人物は思う。

 その人物にとっても、言葉にはしなかったが、隣国で大きな戦争を起こしているわけでもない。リース王国の周辺は、今、平穏な状態なのだ。戦争が起きるような気配も動きも感じない。

 走っている一人の人物は、町長の建物の中へ入り、会議へと向かう。

 会議室に到着すると、そのドアを開ける。

 「何だ!!」

と、会議室の中にいたバトガーの支持者の一人であるミングロマーが驚き、言うのだった。

 目的地に到着し、走るのを止めた一人は、息を整える。その時間に数十秒を費やすことになる。その間、会議室の中にいたバトガー支持者たちは、気持ちを落ち着かせることができた。

 そして、走ってきた一人の人物の言葉を待つ。

 息を整えた一人の人物は、

 「大変です!! リース王国の軍隊とアルデルダ領の軍がこちらへと向かって来ています!!!」

と、大きな声ではっきりとここにいる者たち全員に聞こえるように言う。

 その言葉に会議室にいるバトガー支持者らは驚かずにはいられなかった。

 「どうして、リース王国の軍が!!! アルデルダ領と協力したのか!!!! まったくわからない。」

と、ミングロマーは考える。

 (エルゲルダが、増税政策を拒否したからって、この町を攻めてくるのか。いや、そんなことはできないはずだ。だって、クルバト町を失うことは、アルデルダ領の税収の三割ほどを失うことになり、アルデルダ領の経営が傾く。なら、隣国との戦争か。いや、そんなことはない。リース王国周辺は、今、平穏で対立している所であったも、そんなに大きな事態にはなっていないはずだ。じゃあ~…? 何だ。)

と、心の中でどうしてアルデルダ領の兵とリース王国の軍隊がクルバト町へ向かって来るのか、理由がわからないのだ。

 ミングロマーらは、自分達がどのようにすれば、最悪の状態を避けつつも、自らの利益および他者の利益によってより素晴らしい選択肢になるのかを、ある程度は判断することができる。それは、他者に不利益を被らせることは、自らの不利益となってかえってくることを認識しているからだ。

 一方で、エルゲルダは、ミングロマーらみたいな思考はできないし、するという考えすら思い浮かばないことであろう。自ら利益ほど重要なものは、この世に存在するはずがない。より多く自らの利益を得ることは一番重要なのである。誰よりも多く自分が利益を得ることが正しいのだと―…。

 さらに、権力を手に入れたことで、自分が言うことは何でも叶い、実現できるのだと思い始め、短絡的で、短気な性格が出始めていた。我慢と忍耐をなくしてしまったのだ。時に、この二つが必要な時があり、その時を完全に判断することができなくなり、機をみることが不可能となっていた。

 もともとの考え方が違いすぎるので、ミングロマーは、エルゲルダの考えを読み違えてしまったのだ。

 結局、ミングロマーらは、何も対処するための案を思い浮かぶことも、アルデルダ領の兵士とリース王国の騎士が共同でクルバト町に向かっている理由も理解することができず、対処のしようがなかった。いや、できなかったというのが正しいであろう。


 そして、ミグリアドが出発した遠征軍は、クルバト町が目に見える場所に着く。

 時は、出発した日の夕方であった。

 日はすでに山に沈み始めていた。

 クルバト町を見て、

 (あれが、愚かにも我の政策へと反抗している者たちの町か。よく見てみると、我の住む首都ミグリアドに比べたら、あまりにも小さすぎて、栄える町として相応しくないな。相当ケチっているのだろう。ふん、品がない奴らの考えることだ。あの中に富を大量に隠しているのだろう。その富は、我のために使われてなんぼだ。)

と、エルゲルダは心の中で思うのだった。

 エルゲルダの心は、自分中心であり、自分の得が他者の得であると自分勝手に思っているのだ。そして、自分が他者より得を得ていないことを嫌う。

 そんな人物は、クルバト町を卑しい者であると見下す。

 そんななかに、

 「領主様。あの見えている町の者を奪ってもよいのか。」

と、身なりがみすぼらしい、一回見るだけで、乞食ような身なりを感じさせ、野盗のような感じの男が不気味な笑みでエルゲルダに問いかける。

 この人物は、エルゲルダが城の外で従えているミグリアドにおけるアウトロー集団の頭である。彼らは、エルゲルダの後ろ盾をいいことに、ミグリアドやその周辺で盗賊行為を働き、ミグリアドの裏を仕切る集団である。

 エルゲルダにとっては、卑しい者たちであるが、彼らはモノや金を与えさえすれば何でも言うことを聞いてくれる馬鹿な集団だと思っている。エルゲルダは、この集団を使って、自らに反抗する者を襲わせたり、殺させたりしている。そして、こいつらは、貴族や兵に支払う金よりも安くてすむ。少額のもので言うことを聞いてくれるのだから―…。これほど安上がりな奴らはいない。

 だから、

 「そうだな、許可しよう。ただし、我が、町へ入れと言った後だがな。わかったか。」

と、エルゲルダはアウトローの集団に、クルバト町への略奪の許可を出すのであった。

 ただし、侵入する前にされるのは、クルバト町の者たちにこの遠征の意図を気づかれて逃げられかねないので、侵入命令が下された後にするということにした。

 「はい、エルゲルダ様。へへっ。」

と、不気味な声で返事をするのであった。

 アウトローの集団のメンバーたちは、生きていくために、相手のものを奪ってでもしなければ、自らの命を保つことができないほどの極限状態におかれた経験がある。そのため、短期的で自らの利益になる選択をする。そうしないと自らの命は終えてしまっていたのだ。彼らの経験を誰も攻めることはできないだろう。自業自得? そんな言葉で彼らに対して極限状態を経験を責任転嫁することなどできやしない。誰もが一歩間違えばそのような状態になっていただろう。

 そのような原因をつくったのは、結局は領主の経営が良くなったことによる。エルゲルダが領主になる前は、そのアウトローの数は少なかった。そうなった者への職や食や生活を保障しようとできる範囲でしっかりとおこなっていた。それに、クルバト町も協力していた。それでも、どうしようないもの、合わないものはいるので、アウトローいや、明日の生活さえわからない人々が存在しないことはなかった。それでも、まだよかったほうなのだ。エルゲルダが領主になってからを比べると―…。

 エルゲルダが領主になると、貧しい者への職や食や生活の保障に使われる資金が減らされ、エルゲルダによって私的に使われるようになったのだ。そして、エルゲルダの命令を聞くアウトロー集団にのみ、その金が使われるようになった。そのため、貧しい者、はみ出しもの、不良たちは、エルゲルダの命令を聞くアウトロー集団に集まるようになった。

 その結果、首都ミグリアドは次第に、治安が悪化するようになっていっているのである。エルゲルダは、領の繁栄を結局は、気づかないうちに自らで終わらせてしまっているのだ。自らを殺す方法を知ることなく、自らを殺すことができる方法の実験に成功しようとしているのだ。わかる人が見れば、気づくのであろうが、エルゲルダのやり方のせいで誰も周囲の者たちは指摘することすらできなくなっていた。

 この不気味な返事を返して、アウトロー集団の頭は、エルゲルダの治世になって得をした人物で、エルゲルダの治世の被害者たちを受け入れたのである。この頭も、下っ端を安くこき使うが、下っ端が盗んだ物は半分をその下っ端の取り分とし、その成績の良い者に対して集団での地位を与え、忠誠をもたせる。これをうまく、下っ端たちにも伝えさせ、競争を煽っているのである。そうすると、頭の利益は増えることがわかっているからこそ、このアウトロー集団の頭にとって便利な戦略として、つかっているのである。

 そして、このような盗みや略奪をしなければ生きていくことすらできない状態に多く者を陥らせ、さらに、そのことによる罪悪感をなくさせて、それが生きるためにしなければならないという行為にさせてしまったのだ。善悪という区別自体をさせないほどに―…。善悪の区別は、生活に余裕があるからこそできるものなのであるから―…。

 結局、エルゲルダの言葉に返事をすると、アウトロー集団の頭は去っていくのであった。

 エルゲルダは、すぐに手で服を払うのであった。それも、アウトロー集団がいた方向の面を―…。

 (ちっ、唾を吐きおって―…。クルバト町の中で、殺してやりたい。だが、あのアウトロー集団の頭がいないと、集団自体がまとまりそうもない。なら、全部―…、いや、それも無理か。クッ!!! 命拾いしたな。)

と、心の中で苦々しく、エルゲルダは思うのであった。

 エルゲルダとしては、このような身分の低い者がエルゲルダに対して失礼なことするならば、その場もしくは何かを利用して殺そうとする。だけど、その相手がアウトロー集団の頭であり、この頭を殺してしまえば、アウトロー集団集団の統制が利かなくなり、治安を悪化させすぎて、リース王国から何かしらの調査が入りかねない。それだけは避けたかった。たとえ、従兄弟のレグニエドがいるとしても、レグニエドの信頼を失ってしまえば、簡単にエルゲルダは身の破滅を迎えてしまうのであるから―…。ゆえに、アウトロー集団の頭は殺せないのだ。だから、苦々しいのだ。ここに、自分の思い通りにならないことが存在していることに―…。まだあることに―…。

 エルゲルダは、すぐに気を取り直して、これから始まるクルバト町でのことを思いながら、

 「クルバト町へ進め!! 今日中に遠征を終える!!! 夜ならば、被害を最小限にできる!!!!」

と、クルバト町へと兵を進めるのである。


 クルバト町の入口。

 幾人かの人物たちが待っていた。

 しかし、その表情は冴えないものであった。

 それもそうだろう。彼らは町長になることができなかった。

 投票もおこなわれなかった。

 それは、

 (ミングロマーの奴。バトガーが行方不明であることを先回りして伝えやがって―…。それも何者かに連れ去られたという情報をでっち上げて―…。それに俺がばら撒いたバトガーが逃亡した情報は誰も信じやしない。)

と、心の中で悪態をつく。

 この人物は、ハムゴスで、エルゲルダに言われた通りに、バトガーの死体を埋めるための穴を部下たちに掘らせ、アババをそこへ案内することには成功していた。

 しかし、ミングロマーらが、町長が行方不明になっていること、それ以上に町長は何者かに連れ去られえたことを伝えたのだ。それは、ハムゴスがこのことを触れ回る可能性があると踏んでいたからだ。実際に、そのような行動にでていた。

 ただし、その予想の一部は外れているのであるが―…。現実には、バトガーが殺されていることを知っているので、バトガーがクルバト町を捨てて逃亡したという情報を流して、クルバト町の町民のバトガー支持者に対する信用をなくさせ、ハムゴス自らが町長になろうとしていた。

 結局、ミングロマーに外れているとはいえ、先回りされたので、町長になれなかったのである。まだ、クルバト町の町長はバトガーのままであった。

 それでも、そろそろ遠征軍が到着するので、ミグリアドからクルバト町へと行く道でクルバト町に入ると予想される町の入口でハムゴスらは、遠征軍を待っていた。正確には、エルゲルダを待っていたのだ。

 (町長になることには失敗した。だが、町長であることを繕えば、降伏して、エルゲルダ様の次ぐ地位を手に入れることができる。それにこいつらは、俺の支持者として生き残させてもらえば、領の中の一つの派閥となる。)

と、心の中でハムゴスは、自らが領主に次ぐ地位になったときに、どうしようかと考え始めるのである。

 まさに、希望論のようなことを考えていた。実際に、希望論を考えることは重要であるが、それによって現実が見えなくなってしまえば、意味がない。ハムゴスは今がその状況なのであった。

 そして、見えてくる。

 (!!! ようやく来たか!!!!)

と、心の中でハムゴスは言う。期待に満ちた表情で―…。

 そして、遠征軍が姿を現すのである。


次回に続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


では、次回の更新で―…。

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