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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
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番外編 リースの章 序章 クルバト町の虐殺(6)

前回までのあらすじは、リース王国の騎士とベルグらは、アルデルダ領の首都ミグリアドに到着するのであった。


 それからもしばらくの間、エルゲルダの話しは続いた。

 ほとんど意味のない言葉であった。ほとんど自らの自慢でしかなかった。

 ニナエルマは、表情には出さなかったが、心の奥底では呆れかえっていた。

 (さっさと、陣地に戻りたい。)

と、心の中で思いながら―…。


 それから数時間の時間が経過した。

 すでに日が暮れて、夜になっていた。

 アルデルダ領の首都ミグリアドの城門の外側近辺の一部では、たくさんのテントが存在した。

 なぜ、そんなものがあるか。それは、リース王国の騎士たちが遠征で、その援軍要請をしたアルデルダ領の首都に来ているからだ。

 遠征の場所は、ここではない。クルバト町だ。それでも、援軍を要請したエルゲルダにどのような理由で援軍を要請したか、彼の口から直接聞いておく必要があるし、エルゲルダが嘘であるかどうかも確認しておかないといけない。

 そのテントの一つに大きなテントがあった。そこは、ベルグなどの遠征に出陣した主要な軍のメンバーが会議をするためであった。

 その中では、ニナエルマが報告をしていた。

 「――以上となります。何か気になる点などはないでしょうか?」

と、ニナエルマは言う。

 ニナエルマは緊張していたが、それを表情に出すことなく、他人にとっては淡々として勇ましいように見えるようにしていた。

 リース王国の騎士の一人である以上、ここでは弱さを出すべきはない。リース王国の騎士は、強くある必要があるからだ。それは、騎士として国を守るため、武術の腕を磨き、己の精神を強くさせないといけない。そのような教えをしっかりとニナエルマは理解したうえで、それをなそうと日頃から気をつけているおかげだ。

 「なるほど。わかりました。ニナエルマ、君はエルゲルダの言っていたことに関してどう思っていますか? 正直におっしゃっていただけるかい。別にここで、領主エルゲルダのことを侮辱しても問題はありません。あなたのそのことに対する罪に関しては私が促したことなので、罪に問われるのならば私が守りましょう。」

と、ベルグが言う。

 ベルグは、直接、エルゲルダの話しを聞いたニナエルマの感想がほしかったのだ。そう、ニナエルマが見て、聞いた、エルゲルダという人物の心象を―…。ベルグにもある程度、アルデルダ領の領主エルゲルダの人物像というものはあったが、改めてニナエルマという他者を通して、確認しておく必要がある。一つのミスが致命とりになる可能性が存在するために―…。

 「はあ、わかりました。」

と、ニナエルマはベルグに返事をしながら、

 (どうして、宰相様はこんな一介程度の騎士の言葉を聞こうとするのだ? よくわからない。)

と、心の中でどうしてベルグが自身に尋ねてくるのか疑問に思っていたのだ。

 ベルグほどの地位であれば、下っ端同然のような権限のない人の意見なんか聞かなくても、周りの優秀な部下から聞けば、ニナエルマよりもいい情報が得られるはずなのに―…。

 「私の感想としましては、アルデルダ領の領主エルゲルダは、信用してはいけないと思います。彼の言葉は、あまりにも空虚で、嘘っぽく感じました。エルゲルダの言葉はまるで、芝居や弁論、言葉を巧みに操っているようでした。しかし、なぜか理由まではわかりませんが、この人物を信用すれば、痛い目に会う、そんなことを私の勘ではそう告げるのです。私は、彼の言葉よりも私自身の勘に従ったほうがいいと結論付けました。戦闘では、ちょっとした直感みたいなものが自らの危機を救うことはよくありますから―…。私としては、以上です、ベルグ様。」

と、ニナエルマは言う。

 そこには、感情というものを感じさせないようにしていたが、それでも、言葉には感情というものが感じられるほどであった。

 それを聞いたベルグは、

 「なるほど、ニナエルマ君。君の一言は、信用に足るものであることがわかる。だけど、エルゲルダという人物は、残念ながらリース王国の王であらせられるレグニエド様が完全に信頼しきってしまっているのだ。従兄弟という関係であることも加えて、ニナエルマ君も言っていた弁論能力で、ね。そのためには、嫌だろうけど遠征をなさないといけないんだ。私としても心苦しいですが―…。そして、君とここにいる私の信頼できる者に言わないといけない。」

と、ベルグの表情が悲しくなるのであった。悲しくなるのは演技であるが―…、言っていることは正直なものである。

 これから、紡がれる言葉においてであっても―…。

 「私は、たぶん、クルバト町の遠征が宰相として最後の仕事になるだろう。」

と、ベルグは言う。

 ベルグがそう言うと、このテントにいた全員が驚愕の表情をするのであった。彼らは、ベルグという人物を不気味とは思っていても、今のところ害をなすわけでもないし、リース王国の宰相としてリース王国の繁栄に貢献しようとしていた。実質的にそのような考えを提示していることはわかっていた。

 しかし、それを気に食わないと思う人物がいた。それは、前代の宰相から可愛がられていたメタグニキアを筆頭とするリース王国の利権で、自分だけが得をすればいいと思っている中枢の権力者たちである。ベルグの政策を採用すると、彼ら自身は損益を被ってしまうと思っているのだ。実際に、被ることはあるが、それは一時的なことにすぎず、かえって、長期的には多くの利益が得ることが可能なのだ。

 それに、彼ら、リース王国の中枢の権力者たちは、一切気づいていないなのだ。目の前の利益ばかりに目を奪われてしまっているのだ。どうしようもない人間なのである。

 ベルグは、続けて、言っていくのである。

 「君たちも知っているようにリース王国の中には、王国内で得られる利益を自分達だけで独占して、住民にその利益を還元しようとしないような偉い方々が存在する。彼らは、リース王国の王国が持っている武力と権力で住民を黙らせ、従わせ、彼らの協力、いや、彼らの行動によって得られた利益を自分のものだと勘違いし、それは全部、住民ではなく、自分達であると思っている。本当に悲しきことだ。誰もが彼らのようなことを考えれば個人としては利益を最大にすることを一時的にはできる。しかし、誰もがわかっている。人は人同士に協力しなければ、簡単に自分も、他者をも簡単に危機に陥ってしまう。だけど、そのような人物に対抗することは私にはできそうにないし、することはできない。私は、望んでこのような宰相の地位になったわけではないし、宰相でいたいとは思っていない。だけど、宰相の地位にある間は、最大限リース王国のために尽くすよ。本当に、申し訳ない。」

と、ベルグは謝罪して、騎士たちに頭を下げるのであった。

 ベルグとしては、演技はあるが、言っていることに嘘はない。嘘をここで付いても意味がない。

 ベルグにとっては、リース王国のことはどうでもいいし、滅んでも問題はない。ただし、リース王国の宰相の地位である以上、リース王国に貢献はする。地位という名の立場である以上、その職務を果たすことが自分にとっても、他者にとっても利益になるのだから―…。

 そして、ベルグは、

 「今日はここまでだ。明日は、クルバト町へ出発だ。君たちにとっては、心苦しいものになるだろう。だけど―…、これだけは覚えてほしい。人生で苦しまない、悩まない人間はさぞかし幸せだろう。だけど、その幸せに何の価値もない。人は悩んでこそ真の意味での人としての自分というもの感じることができるんだ。苦しみのない人生は、ただ、ただ、生かされているだけであり、生きているとはいわない。だから、大いに悩み、大いに苦しみなさい。それが、良き答えの近道だから―…。」

と、言って、テントから離れ、自らの寝るためのテントへと戻っていくのであった。

 こうして、テント内における報告は終わることになり、それぞれ、自らの就寝するためのテントに戻っていった。明日にそなえて―…。


 翌日。

 アルデルダ領の首都ミグリアドの城門。

 その近辺の一部では、リース王国から派遣された騎士たちが一晩野宿をしていた。

 そのあとか、いくつかというにはかなり多く数のたき火のように火を燃やした黒い円に近い形をした跡が残っていた。

 食事をするにも、火を必要とするためだ。リース王国およびこの異世界における多くの地域では、野外遠征などで野宿する場合は、火を起こすことがある。まだ、この地域には、缶詰や真空パックのような概念が存在しないのだ。食物を塩漬けするという風習が異世界の全ての地域で、この時代には完全に普及している。さらに、食べ物を固くしているものもある。

 それゆえに、遠征中の食事というものが決して豪華になることはなく、質素で、あまり食べ物がおいしいと感じられないものになる。兵士の気分は、マイナスになってしまう。

 しかし、今回の遠征は近場であり、そこそこの食糧を運ぶことも可能で、長持ちするものを多く持っていく必要がなかった。ゆえに、今回の遠征での食事は、暖かいスープなどが食べられるのだ。兵の士気は完全ではないが、そこそこ高いものになっていた。

 そして、城門がアルデルダ領の兵士達が城門から現れる。

 そのなかには、領主であるエルゲルダの存在があった。エルゲルダは、他の兵士とは一回り大きい馬に乗っていた。その馬は、いかにも丈夫で立派である。スピードに関しては、速いのかということには疑問の余地を抱かせるが―…。

 アルデルダ領の兵士の目の前には、リース王国から派遣された軍隊のトップとなるベルグがそこにいた。

 「これは、これは、ベルグ様。」

と、エルゲルダはベルグに気づいて、さっと馬を降りるのであった。

 エルゲルダは、一応、太りぎみの体形であるが、体がかたいというほどではなく、動くことも可能だ。だけど、年々それが億劫になり始めている。それは、若いうちはいろんな意味で鍛えさせられていたり、悪い奴とつるんでいるときは城の外へ抜け出すために必要であったからだ。それでも、領主に即位後は体を動かすことが減り、そのため、動きが少しずつ鈍るようになったのだ。

 エルゲルダは、ベルグのもとへと向かい終えると、跪き、

 「昨日は、このようなみすぼらしい所に泊めてしまい申し訳ありませんでした。ベルグ様がいるのであれば、私は、すぐにそちらへと向かい、アルデルダ領の中の最高級の宿を手配いたしましたのに―…。」

と、言う。

 エルゲルダとしては、ベルグのことはあまり好きではなかった。もし、エルゲルダが発言権を強くしていくと、必ずベルグの存在が邪魔になってしまうのだ。

 それもそうであろう。ベルグはエルゲルダにとって都合の良い政策に賛成することがないのと、勘ではあるがエルゲルダには、わかってしまうのだ。ゆえに、ベルグの排除は後のことになるだろうと思っていたが、このクルバト町の遠征に直接参加していることから、好機がめぐってきたのだとエルゲルダは思ったのだ。だが、ベルグを妨害するのではなく、遠征自体をうまくいかせ、それが嘘の情報によってなされたこと、そして、そのすべての責任を宰相であるベルグに押し付けさえすれば、中枢の権力者たちがそのように方向で無理矢理進めていくだろうと、エルゲルダは予測するのであった。

 それでも、このような考えをベルグに悟られないように、表情を隠す。

 そんなことは、ベルグにとってお見通しであった。少し考えればわかることだ。相手の真が何かであることに気づいていれば―…。

 「いえ、一軍の将とはいえないが、同行するのであれば、兵士ととも寝食するのは当たり前のことでございます、エルゲルダ様。そうしなければ、兵士からの信頼を得ることはできません。エルゲルダ様のようにただそこにいるだけで人徳を発揮させることは、私のような者ではできません。ゆえに、遠征では兵士に寄り添えるようにしなければならないのです。」

と、ベルグは言う。

 ベルグは、エルゲルダに人徳があるなどと、心の底の隅においてでさえも思ってはいない。思うわけがない。エルゲルダの表情は、良い人そうに見えるが、どこか不自然に感じる。むしろ、自分の本心を相手に悟らせないようにしているほうがしっくりとくるのだ。さらに、この領主の政策には、リース王国の利益も、アルデルダ領の利益など考えられていなかった。自分さえ得をすればいいというものでしかなかった。さらにニナエルマの報告からもそのことがうかがえる。このクルバト町の遠征は、決して、善意でおこなわれたものでなく、エルゲルダの短絡的な思考でおこなわれようとしているものだ。

 しかし、これぐらいのことがわかっているのになぜにクルバト町への遠征を止められないのか。

 それは、リース王国の王であるレグニエドが了承してしまったのだ。それに、ベルグの権力では事実上どうすることもできなかったのだ。穏やかな方法では―…。目立ちたくないが、この遠征で矢面に立って姿をしばらくの間消そうと考えたのだ。そろそろ、実験が進めたくなってきているからだ。最近、自らのライバルにあたる人物が何か大きなことに成功しようとしているから、ベルグは焦っているのだ。そのようなわけで、止められないのだ。どのようにしても、この遠征はおこなわれてしまうのだから―…。

 「そうか、そうか。私もまだまだ努力が足りないようだ。これからの遠征では、兵士とともに寝食をともにしようかのう~。できれば―…、であるが―…。それよりもクルバト町へと向かうとしましょう。ベルグ様。」

と、エルゲルダは早く遠征を開始しようとする。

 それは、エルゲルダが望んでいることだ。さっさとエルゲルダの言うことを聞かない町長バトガーがいたクルバト町へと遠征し、領主であるエルゲルダに反抗することはどういうことなのかを教えないといけない。まさに、エルゲルダは神であり、その神の言うことを聞かない王であるクルバト町へと天罰を下すように―…。

 実際に、生きて罰されるのは、エルゲルダであるのだが―…。

 そう、引き金をこれから引きにいくのだ。エルゲルダは―…。自らが罰せられるという未来に向けて―…。遠征は成功し、エルゲルダは破滅へと向かう引き金を気づかずに、引くために―…。


次回に続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


一応、番外編について書きあがったのですが、最後の方が最初に提示したものを追加できていないので、最後の方の更新がどうなるかはわかりません。それでも、最後の一部分もしくはさらに数部分になるかもしれません。もしくは、今の完成したものをそのまま更新するかもしれません。う~ん。

さて、次回の更新に関しては、2021年3月30日もしくは同年3月31日のどちらかになると思います。では~。

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