第10話 奇襲
前回までのあらすじは、アンバイドが瑠璃、李章、礼奈の旅に同行することが決定した。そして、ランシュの新たな刺客が瑠璃、李章、礼奈を狙っていた。
ルーゼル=ロッヘ へと移動している瑠璃、李章、礼奈、アンバイド。
決して、速いスピードで歩いているのではなく、成人大人の平均の歩くスピードより少し遅めであった。
この瑠璃、李章、礼奈、アンバイドに気づかれないようにしている人物が物陰からじっと見ていた。
その男はファンシという男であった。ファンシは中肉中背と思われる体形をしていた。そして、衣装は森の木や草に同化できる色の服を着ていた。また、目のところには、双眼鏡みたいな物があり、瑠璃、李章、礼奈、アンバイドの同行をつぶさに監視していたのである。
ファンシ自らが顔につけているマイクでルーゼル=ロッヘの近郊にいるナンゼルに瑠璃、李章、礼奈、アンバイドの動向を伝える。
「う~ん。ナンゼルさん。あのランシュさんの映像で見た三人に加えて、一人誰かいます」
と、ファンシはナンゼルに報告する。
「そうか。そいつは一体何者だ」
と、ナンゼルがファンシに質問する。
「見た目は完全におっさんだな。それに見た目の雰囲気は強そうとは感じない。だが、油断するのは禁物だ。ああいうの限ってでものすごい実力であったりする」
と、ファンシはアンバイドの特徴を簡単に伝え、強い雰囲気を感じないながらも油断大敵であることをナンゼルに芯のある言葉で忠告した。
それは、強者が自らを強者であるということをださないタイプがいるからである。特に、そのようなタイプは、見た目から判断すると危険になる。ゆえに、最初からそうであるということを考えたうえで行動することのほうがもしも時に備えたとき、ミスを起こしにくくするということを経験則からファンシは理解していたので、全体で共有する意図を込めてナンゼルに言ったのである。
「そうか、くれぐれの見失わないようにしてくれ。ファンシ」
と、ナンゼルが言うと、通信は途絶えた。
そして、ファンシは、
(わかっている。あいつらを見失わないようにしないとな)
と、心の中で自分に言い聞かせ、瑠璃、李章、礼奈、アンバイドを見失わないように監視を続けるのであった。
【第10話 奇襲】
少し大きな村もしくは町を出て、その日の夜。月は完全な円となっていた。
瑠璃、李章、礼奈、アンバイドは野営し、テントの中で寝ていた。テントに関しては、二つあり、一つは瑠璃、礼奈、もう一つは李章、アンバイドのであった。テントは、ローから瑠璃、李章、礼奈が修行している時にもらった物であり、いくつかローから貰って、瑠璃の赤の水晶によって展開できる別の空間に置かれていたりする。
瑠璃、礼奈が寝ているテントでは、二人が寝袋みたいなものに包まっていた。
「瑠璃は好きな人いる?」
と、礼奈が尋ねてきた。
やっと、この異世界にも少し慣れたため、気持ちに余裕ができたのか礼奈は瑠璃に質問してみる。
「……い…いないよ、そんな人」
と、礼奈の目に合わせないように、礼奈のいる向きとは反対側に顔を向けて、瑠璃は言う。
瑠璃の表情はというと、動揺しまくっているのが誰がみてもそうだと言えるぐらいのものであった。
「ふ~ん。そうなんだ。私も今のところできそうにないかなあ~。今までどの男の子をみても、ビビッてこなかったし」
と、礼奈は今のところ異性に対して、恋かなと思えるようなものを抱いていなかった。
本当にそうであっために正直に瑠璃に言った。
そして、瑠璃の受け答えが明らかにおかしいと感じていた。瑠璃が恋をしているのかについて何となく礼奈は察することができた。
だから、少し間をおいて、
「瑠璃」
と、礼奈は言う。
「はい」
と、瑠璃は声を上ずるように言い、動揺していることを事実上伝えてしまっていた。
「瑠璃は、好きな人いるよね~。例えば、李章君とか?」
と、礼奈は悪戯好きな子どものように、または好きな男の前でその人が好きであることを隠そうとする女性のような雰囲気で言う。
「いや、……私には……」
と、濁しながら瑠璃は言う。
だが、それは礼奈にとって、瑠璃が李章が好きだということを言葉ではなく雰囲気で伝えているみたいなものだった。礼奈は瑠璃に正直な気持ちを言わせようとして、瑠璃を無理矢理自身の顔のある方向へ瑠璃の顔を向けさせる。
そして、礼奈はじぃ~と瑠璃を見つめた。言葉を一言を発することなく。瑠璃の正直な気持ちを自ら言わせるために―…。
そんな礼奈の視線に対して、瑠璃は感じた。好きな人を言いなさいという礼奈の無言の圧力を―…。思考を巡らせたとしてもこれから逃れる手段を、自らでは見出せないと瑠璃が思ってしまうほどであった。
観念したのか瑠璃は、
「はい、話します」
と、言う。
礼奈は顔を満面の笑みになっていた。そう、瑠璃の恋バナを聞けるという礼奈自身にとって面白いことであり、恋とはどんなものか知りたいという礼奈の欲求に叶うものであった。
「礼奈、このことは他の人―……特に李章君には言わないで、お願い!!」
と、瑠璃は言う。
そのとき、両手を合わせて本気のお願いを礼奈にしていた。
「わかった。だから、教えて、…瑠璃の好きな人」
と、礼奈は言った。
そして、瑠璃は礼奈に対して、瑠璃自身が李章のことを好きだということの理由を含めて話したという。
◆◆◆
夜の闇を突き進む人たち。影は六つ。
瑠璃、李章、礼奈、アンバイドが就寝しているテントを監視している者の影一つ。
合わせて影七つ。彼らは合流する。
瑠璃、李章、礼奈、アンバイドが寝ているテントの近くで―…。
そして、瑠璃、李章、礼奈、アンバイドたちに聞こえないと思われる程度の声で、
「やっと、来たのか、ナンゼル」
と、ファンシは言う。
「遅れてすまない、ファンシ」
と、ナンゼルは少し到着するのに遅れたことをファンシに謝る。
「もう、他の奴らも来ているのか」
と、ファンシがナンゼルに対して、自らの仲間が来たのかと尋ねる。
「ああ、俺の後ろにしっかりとついてきている」
と、ナンゼルが言う。
そうすると、ナンゼルの後ろに影が五つ現れる。
それでようやく、仲間が全員来たことに納得したのか、ファンシは説明する。瑠璃、李章、礼奈、アンバイドが寝静まっていると思われるテントの方向に顔を向けて―…。仲間たちも同様にその方向へと視線を向けた。
「ナンゼル、俺らの狙いは二つのテントの中にいる」
と、ファンシが言う。
「そうか、だったら狙うぜ。お前たち」
と、ナンゼルが言う。
そうすると、仲間である五つの影は、それぞれに言う。
「俺なら最大の力でいけるぜ」
と、フォースは言う。
フォースは仲間の中では少しだけ体格の良い二十代後半と思われる男である。
「一網打尽にしてやるぜ」
と、ゴンドが言う。
ゴンドは打ち出の小槌を大きくしたハンマーを後ろに携帯していた。そして、背は決して高くはないほうであり、顔は若干シワができるような表情していた。心はまだ若い者のようであった。
「あいつらは俺らの手で―…」
と、イドラとナンシの二人が声を合わせて言う。
この二人は双子であり、背はこの中では一番低く、見た目は十代前半としか思えないぐらいの幼さを感じさせた。
「冷静に、慎重に対処することを忘れるでないぞ、お前ら」
と、アルシングは言う。
この人物は男は如何にも強そうとは思えないひ弱な見た目をしていた。
ファンシも、
「ここで俺らが達成するだけだ」
と、簡単に言う。
フォース、ゴンド、イドラ、ナンシ、アルシング、ファンシがそれぞれ言い終えると、ナンゼルは言う。
「フン!! 野郎ども、あのテントにいる瑠璃、李章、礼奈を討伐する。さらに、アンバイドも殺してしまっても構わない。いくぞ!!!」
と。
ランシュの命を受けたナンゼルら七人の集団は、瑠璃、李章、礼奈、アンバイドのいるテントに向かって一直線で近づいていった。ものすごい速いスピードで―…。
六つの影が足を止めた。そして、一つの影が六つの影より少し前に出て、右足を地面につけた。攻撃の構えをとり、自らが持っている武器であるハンマーを両手で握って上へ構える。攻撃の体勢をとったのはゴンドである。
「ぶっ潰すぜ!!」
と、ゴンドが言う。
そうすると、ハンマーを両手で上から下へと振るった。
そのハンマーによる振るいは空をきった。
そして、空をきったところから、闇が出現し、放たれた。
それは、瑠璃、李章、礼奈、アンバイドがいるテントへと向かっていった。
結果、ゴンドの攻撃は、二つのテントに見事に直撃したのである。
大きな音と衝撃となり、ナンゼルら七人の集団にとって、この瑠璃、李章、礼奈の討伐は成功したと思った。
しばらくの間、瑠璃、李章、礼奈、アンバイドが就寝中と思われるテントは煙で覆われていた。
瑠璃、李章、礼奈の討伐が成功したか確認するために、煙が晴れるのをナンゼルを含む七人が待っていた。
◆◆◆
煙が晴れていく。
ナンゼルを含む七人が、瑠璃、李章、礼奈の討伐に成功したと思いにいたってしばらくの間であった。
そして、声が聞こえる。
「よくも、俺の寝ているところを攻撃しようとしたなあ~。お前ら。何かつけられていると思って見過ごしていたら、やることはこれかよ。で、誰が狙いなんだ、お前ら七人にとっては!!!」
と、煙が晴れていき、姿が現れた。
さっきの言葉を言っていたのはアンバイドであった。
アンバイドの周りには、三つの物体があった。それは、どれもクリスタルのように見える透明なものであった。中央に玉のようなもの、その周りに五つの先端が三角錐で、中央の玉のような方面へ向かうところが円柱のようになっていて、それを合わせたものである。
「もしも、お前らが、瑠璃、李章、礼奈を狙っているのであれば、僥倖だ。ベルグの居場所を吐かせてもらうぜ」
と、アンバイドは言う。
自らの復讐を果たす人間の所へ連れていってもらえると踏んだからだ。
「そうですか。あなたは一人しかいません。この数を相手にはできないのでは?」
と、ナンゼルはアンバイドに聞こえるような大きさの声で言う。
現に、アンバイドは一人で、ナンゼルの集団は、ナンゼルを含めて七人いる。七対一ではどうみても七のほうが有利であるとナンゼルは思っていた。他の六人も同様であった。
「かかってこいよ。七対一でも関係ない。瑠璃、李章、礼奈の同行者であるならば、そいつを殺して、引きずりだしてやるだけだ」
と、ナンゼルが七対一であったことから、強気に言った。
そして、
「お前ら、あいつをぶっ殺せ!!!」
と、明らかに声を最大の大きさにしてナンゼルは言う。
「おう!!!!」
と、ナンゼル以外の六人が言った。
ナンゼルを含めた七人の集団は、アンバイドを倒すためそれぞれ戦闘の移行する体勢をとった。
【第10話 Fin】
次回、アンバイドの武器の力は如何ほどのものか?
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
アンバイドの武器の説明はかなり難しいです。絵にすると簡単なのですがー…。文章にする難しさを改めて感じました。
2022年11月12日 以下を加筆およぎ修正する。
①「瑠璃、李章、礼奈、アンバイドは野営し、テントの中で寝ていた。テントに関しては、二つあり、一つは瑠璃、礼奈、もう一つは李章、アンバイドのであった」の後に、「テントは、ローから瑠璃、李章、礼奈が修行している時にもらった物であり、いくつかローから貰って、瑠璃の赤の水晶によって展開できる別の空間に置かれていたりする」を加筆。テントがどこからなのかという記述をすることを忘れていました。すみませんでした。
②「礼奈が尋ねていた」を「礼奈が尋ねてきた」に修正。
③「瑠璃が恋をしているのかついて何となく礼奈は察することができた」を「瑠璃が恋をしているのかについて何となく礼奈は察することができた」に修正。
④「思考を巡らせたとしてもこれから逃れる手段を自らでは見出せないと瑠璃と思ってしまうほどであった」を「思考を巡らせたとしてもこれから逃れる手段を、自らでは見出せないと瑠璃が思ってしまうほどであった」に修正。
⑤「瑠璃の恋バナを聞けるという礼奈自身にとって面白いを判断できるのだから―」を「瑠璃の恋バナを聞けるという礼奈自身にとって面白いことであり、恋とはどんなものか知りたいという礼奈の欲求に叶うものであった」に修正。
⑥「攻撃の体勢をとったのゴンドである」を「攻撃の体勢をとったのはゴンドである」に修正。
⑦「自らの復讐を果たす人間の所へ連れていってもらえるとふんだからだ」を「自らの復讐を果たす人間の所へ連れていってもらえると踏んだからだ」に修正。
以上です。