番外編 リースの章 序章 クルバト町の虐殺(1)
今回から、番外編に入っていきます。
番外編の内容は、リースの章の序章で、クルバト町で起こった悲劇が内容となります。今まだ、書いている途中ですが、内容が多くなってしまい、かなり量で、多く分割することになってしまいました。
この内容が、リースの章におけるランシュの復讐への行動につながっていきます。後々、本編でも登場するかもしれないキャラクターの多数かはわかりませんが、登場していきます。
では、開幕です。
【番外編 リースの章 序章 クルバト町の虐殺】
―この世の中は平等だ―
ゴオオオオオ、と炎は燃え上がる。
それは、町一体を覆いつくす。
何もかもそこにあってはならないものであり、燃えて消えることが定めであり、運命であるかのように―…。
ゴオオオオオオオ。
炎は空へと向かう。
燃え尽きる魂たちを天へ導くように、命の輝きはしだいに白く、灰色の煙となり、空へ消えていく。
時間は、この時を未来に向かって忘れさせていくように―…。
気持ちを奪っていくように―…。
罪とは何か。
罰とは何か。
復讐とは何か。
そんなことは、死にゆく者にとっては意味のないことだ。
それを、多くの場で燃え、殺されていく者に与えるように―…。
ここにあるのは、善であり、悪である。
そう、人によって決められた主観的なものの結果でしかない。
ああ、燃える。
でも、灰は生きる。
復讐という名の灰は―…。
生き残った者に与えるだろう。
生きるために復讐という力を―…。
―それは嘘。そんなものなんてない―
一人の少年は、見る。
見てしまう。頭の片隅に描くことのない光景を―…。
少年の幸せと思われるものを―…。
少年の目の前で奪われ終わった後を―…。
「あ…母さん。」
と、消え入りそうな声で言う。
少年の心は、ショックを受けていた。
いや、こんな言葉すら少年の感情からしたら陳腐で、使うのに相応しくない言葉でしかない。
感情などを言葉で表すことなどできないと言わしめるように―…。
そして、少年は、
「ヒーナ。」
と、自らの妹の方を見る。
ああ、なんて悲しき結末であろう。
少年の母と妹は、この日、生を終えた。
終えたのだ。
これから、語られる話でわかるだろう。
人は優しく、善人であり、助け合うこともでき、その反対にもなれる生き物であることを―…。
―俺は、この時―
さあ、始めようか。
復讐者が誕生する物語を―…。
―そう思った―
ランシュという人間の復讐のきっかけの物語を―…。
―そう思わざるをえなかった―
幕は、今、開かれる。
我々は、欲望のための囚人であり、囚人であることに気づくことが良く生きるための最初の一歩であることを知ろう。
さあ、己の経験からではなく、他者の経験を自らの経験にしようではないか。
己の本当の良き人生のために―…。
これは、ランシュが企画したゲームから十五年ほど前のことであった。
この時、リースでは、リーンウルネが娘であるセルティーがまだ幼く、付きっ切りでなかなか公務に復帰することができなかった時期。
リーンウルネに入る情報が多くの面で、遮断されていた。
そのせいもあって、王宮は、ベルグを中心に、専制をおこないやすかった時である。
リース王国のリース。その城の中。
ベルグはゆっくりとそこを歩く。
この当時、ベルグは、誰にもその姿を見せないためにフードを被っていた。リース王国の中では、宰相という地位に就いていた。
「ベルグ様、サンバリアからの交易品に関してですが、どういたしましょか。」
と、媚びを売りそうな男がベルグに向かって尋ねる。
「サンバリアか。あそこの王は、為政者と聞く。そことの貿易は、不正にやるのはよくない。互いに利があるのがいいね。そうしてくれるかな、メタグニキア副宰相。」
と、ベルグは、媚びを売りそうな男であるメタグニキアに言う。
当時、メタグニキアは、副宰相の地位にあり、ベルグに次ぐ地位であった。
ベルグがメタグニキアをこの地位に就けたわけではない。先代の宰相が、彼のことを気に入っており、ベルグの次の宰相とするように、ベルグが宰相の地位を引き継ぐ時に言っていたのだ。
その先代の宰相は、ベルグのことは、メタグニキアが宰相の地位に相応しい年齢になるまでの中継ぎみたいなものだと思っていた。
しかし、その先代の宰相もまた、ベルグに宰相の地位に引き継いだすぐ後に、事故によってこの世から去ったといわれる。答えを言ってしまえば、ベルグが自らの側近に命じて、事故に見せかけて殺したのだ。裏の存在であり、ベルグが信頼するナンバー二によって―…。
フードを被っているのも、彼を真似て自らの姿を他人に晒さないようにしているためである。
「はい、そのようにさせていただきます。」
と、メタグニキアはベルグの命を聞き、頷いて去っていくのであった。
(メタグニキアは、私の言うことを聞かずに、やるのかね。サンバリアと―…。まあ、俺としては関係のないことだ。リース王国も、私にとっては、ただ通過点にしかすぎないさ。自らの好奇心を追求することしか興味がないのに―…。)
と、心の中で思うのであった。
ベルグは、去って行くメタグニキアが、何かサンバリアとの交易交渉で、リース王国に有利な条件を強引に吹っ掛けて、サンバリア側の心象を悪くするのではないかと思っていた。そのことに関しては、ベルグにとっては興味のないことでしかない。
実際に、それでサンバリアと問題になってしまうのであれば、メタグニキアに責任をとらせればいい。ベルグ自身は、サンバリアという国が自らの知り合いであり部下である人物が昔に住んでおり、かつ、追放された王国である。ベルグ自身もとある実験に少しだけ関わっているのであるが―…。
そのような国でもベルグにとっても、悪い印象はないのだ。今、サンバリアは他国への侵略がとまっており、支配された側の人々を穏健的に支配しているそうだ。文化や慣習を認めたうえで―…。
そういう国とは、公正な貿易をおこなっていくほうが、後々リース王国にとっても得のあることだし、他から恨まれる可能性を減らすことができ、余計な国力を減らさずにすむのだから―…。
まあ、そんなことなどメタグニキアにはわからないだろう。彼は、自分の出世しか興味がなく、他者がどう思うかなど考えやしないのだから―…。ベルグだってそうかもしれないが、生きていく以上は他者がどう思うか考える必要があるために、そうしているのである。
ベルグは、目的の場所へと到着した。
(今日も仕事をしますか。この部屋にこもって―…。)
と、心の中で言いながら、自らが入ろうとしている部屋を見る。
その部屋は、宰相室である。
そして、ベルグは、ため息を一つ吐いて、部屋の中に入っていくのであった。
実験のできない毎日に、悲しみを覚えながら―…。
一方で、ベルグから去って行くメタグニキアは、走りながら思うのだった。
(ベルグも馬鹿だよなぁ~。お前の命令は聞いていやる。だけど、このサンバリア王国との交易による利益は全部俺のものだ。全~部、俺のものだ。ガハハハハハハハハ。)
と。
そして、同時にメタグニキアの表情にはっきりと出ていた。喜びの顔が―…。自らの利益が拡大するという金の亡者がしそうなものであった。
通りかかった者たちは、メタグニキアがリース王国の宰相に次ぐ地位であることを知っているために、挨拶をするのであるが、その誰もが、メタグニキアを心の奥底で気持ち悪がったのだ。本当に、彼ら、彼女らにとって気持ち悪いものでしかなかった。表情にださないようにしながら―…。
そんなことには、メタグニキアは気づかなったのであり、さらに、彼ら、彼女らの挨拶が聞こえなかったのか、無視するような感じ行くのであった。
それを見た通りかかった者たちは、話しかけられずによかったと思うのであった。話しかけられると、何かいちゃもんをつけられるか、どうでもいい自慢を長時間話されて、彼ら、彼女ら自身の仕事に費やさなければならない時間を奪われて、残業をしないといけなくなるからだ。仕事量も多く、昼食時間も短くしないと夕方までに終わらない量なのである。どのように、仕事の仕方を工夫してやっと夕方に終わる量なのだ。
リース王国の城の中。
王執務室。
レグニエドは、ある情報を聞いていた。
「レグニエド王、お耳に入れてほしいことがあります。」
と、王執務室に入ってきた、伝達係の一人が言う。
この人物は、王や宰相などの重役に対して、情報を伝達する役割を担う職に就いている。彼は、使命、いや、この仕事で生活していくために、勤務を実直にこなしている。
ゆえに、ベルグにしても、レグニエドにしても、この人物への信頼は高いものである。ただし、それは右から左へと情報をそのまま伝えるというだけのことである。だから、間違った情報もまた、そのまま伝わっていくのであるが―…。
「何じゃ、申してくれ。」
と、レグニエドが情報を伝えるように言う。
それを聞いた、伝達係の一人は、
「はい。お伝えさせていただきます、レグニエド王。アルデルダの領主より救援の要請です。」
と、伝達係の一人は言う。
そのことを聞いて、レグニエドは驚く。
アルデルダは、レグニエドの母親の実家のアルデルダ一族が支配する場所である。現在、アルデルダの領主は、レグニエドの従兄にあたるエルゲルダである。
エルゲルダとの関係は、従兄であるが、レグニエドはエルゲルダを慕っているのだ。そして、エルゲルダは、レグニエドの言うことに理解を示してくれて、賛成してくれるのだ。そして、歴代の宰相は優秀であり、彼らの言うことを聞くのが、王国の繁栄につながるのである、と。
実際に、レグニエドから見た王国は、そのように見えているのだ。しかし、それは王国の重臣たちによってうまいように切り取られたものでしかなく、真の意味でリース王国の実態というものをレグニエドは見えていなかったのだ。見えるはずもない。見せられていないのだから―…。そういう意味で、不遇の王の一人であろう。
「で、救援の理由は?」
と、レグニエドは、伝達係の一人に問う。
(エルゲルダ兄さんのことだ。何かよっぽどの理由があるに違いない。彼は武勇にも、治世にも優れている方だ。)
と、心の中でレグニエドは言う。
レグニエドに写るエルゲルダという人物は、武勇や、領地を治めるのに優れた人物なのである。実際は、エルゲルダがそう見せているだけなのだが―…。レグニエドはそれに気づくことは一生としてなかった。
「アルデルダ領にあるクルバト町の住民の全員が、リース王国およびアルデルダ領に対する謀反を仕掛けようとしているとのことです。すでに、クルバト町では、そのための武装の準備が完了したとのことです。」
と、伝達係の一人が言う。
レグニエドは、伝達係の一人のさっきの言葉に関して、さらに、驚くのであった。
「クルバト町は、我が国における内陸商業の重要地ではないか。なぜに、反乱なんて愚かな真似をしているのだ。税金もしっかりと納めているのに―…。なぜじゃ。」
と、レグニエドはさらに、問うのである。
レグニエドは、クルバト町がリース王国における内陸商業における重要地であり、山を越えた向こう側の領域における物産で繁栄していることを知っている。さらに、町の周囲には、この地域しか取れない富裕層向けの鉱物の産出および加工でも有名である。そのアクセサリーのデザインの能力は、かなり評価されている。デザインや組み立ては、女性の主要な就職場所であり、富裕層の女性が着けやすいように工夫されていることから、その受けがよく、よく売れている。
レグニエドとしては、クルバト町がなぜ反乱を起こすのか理解できなかった。産業もあり、商業で栄え、リース王国やアルデルダ領への税金をしっかりと納めている優等生と言っていいぐらいの場所である。さらに、リース王国へもかなり良い宝石品を贈ってくれるのである。リーンウルネも好むぐらいの―…。ただし、リーンウルネは、あくまでも、普段は目立たないが、パーティーの時にある程度目立ち、パーティーに参加することが少なく、あまり宝石類を買うことのできない下級貴族婦人や商家夫人などにプレゼントしているだけなのであるが―…。ちなみ、デザインは好んでいるし、宝石を作っている人々の収入を確保させるために買っている側面もあるが―…。
「実は、クルバト町の町長のバトガーが自分勝手なエルゲルダ様を逆恨みしており、それが本当の理由であります。クルバト町の全員が、バトガーによって、洗脳されてしまった模様です。町長が町民を洗脳するための装置を設置したことが原因であります。その装置を破壊しても意味がないと―…。」
と、伝達係の一人は言う。
伝えるように言われたことをそのままであるが―…。
「で、装置を破壊しても意味がないとは?」
と、さらにレグニエドは問う。
「はい。リース王国が派遣した技術者によると、装置を破壊した場合、洗脳された人々は、死んでしまうそうです。ならば、クルバト町の人々を生かしておいたら、リース王国が大変なことになり、他国から攻められてしまいます。そのために、残念ですが、町の住民ともども殺すしかありません。その許可をベルグ様からレグニエド様へと―…。」
と、伝達係の一人は言う。
そこには、感情というものはこもっていなかった。感情を込めないようにした。
それは、伝達係である以上、感情を込めてしまえば、レグニエドの良き判断に良くない影響を与えてしまいかねないからだ。そのようにならないようにするために、考えないようにしている。言われたことを伝えるだけにしている。ゆえに、信頼が高いのであるが―…。
レグニエドは、少しだけ考えるが、答えははっきりとわかっている。レグニエドに疑うということはない。だって、宰相は優秀なのだから、彼らの言葉を聞いていさえすれば、リース王国は繁栄するのだから―…。
「リース王国の騎士軍をクルバト町へ遠征させよ!!! 住民は洗脳されていて、その装置とやらを破壊した場合でも殺されてしまう以上、仕方ない。クルバト町の中にいる住民は、すべて殺してかまわない。ただし、他所から商売来た者たちを素早く町の外へ避難させること!!! それを宰相に伝えるのだ!!!!」
と、レグニエドは、王執務室に伝達に来ていた伝達係にベルグへとさっきの言葉を伝えるように命じる。
それを聞いた伝達係の一人は、
「ハッ!! かしこまりました!!!」
と、言って、王執務室を出ていき、ベルグのいる宰相の部屋へと向かって行くのであった。
そう、愚かな王であるレグニエドは、この命令を下すために自身にあげられた情報の真偽を確かめずに、鵜呑みにして―…。
次回も番外編です。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
次回の更新は、すぐかどうかはわかりませんが、見直しや修正が済み次第、更新していくことにします。
少しだけ予定より遅れてしまったことは、申し訳ございません。なるべく次の部分を更新できるように準備します。ストックに関しては、そこそこあるので更新していきます。
では、また近いうちに―…。