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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
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第75話-2 幻の世界へようこそ

前回までのあらすじは、第八回戦第三試合が開始された。

今回で、第75話は完成します。

 四角いリングは、黒いドーム状のものに覆われた。

 それを見た観客は、一体何が起こっているのか。わからない。暗闇の中は見えないのだから―…。

 ただ、固唾を飲んで見守るしかないだろう。

 どんな展開になるのかを―…。


 中央の舞台。

 瑠璃チームのいる場所。

 アンバイドは、

 「ありゃ~、腕力ではない方法で勝ってきたのだろう。そういう奴は、トリッキーなタイプの可能性がある。時間を操作しているわけじゃないから、時じゃないな。そうなると、幻か。なら、厄介だぞ。李章にとって―…。」

と、言う。

 「えっ、李章君の天成獣の属性は生で直接的な攻撃だから―…、イルターシャ(対戦相手の人)が幻だとすると―…、幻をかけられて、攻撃が通じないということ!!」

と、瑠璃は最後に驚く。

 そう、瑠璃は、李章の武器に宿っている天成獣の生で、李章はこれまでの戦いで、直接攻撃で相手に対して戦っているのである。そうなってくると、対戦相手であるイルターシャによって幻をかけられた場合、李章の攻撃は無意味になり、かえって、持久戦に持ち込まれて、疲弊して負けることになる。可能性としてであるが―…。さらに、別の観点でいえば、隙を突かれて負けるということもあるのだ。

 結局、李章は、イルターシャに幻をかけられた時点で勝機はなくなるということである。

 「こればかりは、李章が刀を抜かない限り、勝機はゼロだろうな。」

と、アンバイドは冷静に言う。

 アンバイドは、李章が刀を抜いて勝つ可能性はかなり低いとみている。アンバイド自身、自らの武器に宿っている天成獣の属性が生であるからだ。それでも、幻には対処することができる。それができる技をもっているからだ。以前の試合で出した「照幻滅鏡(しょうげんめっきょう)」という技がそれにあたる。その技によって、幻をなくさせることで、天成獣の属性が幻の天成獣が宿っている武器を扱っている者の幻による優位性を崩壊させることで、直接攻撃にもっていって勝つことができたのだ。

 しかし、李章にその可能性は今のところないようにアンバイドは感じていた。天成獣の属性が生といっても、全部が幻を打ち消すことができるわけではない。むしろ、それは少ないほうであろう。ゆえに、李章が少ないほうに該当しなければ、イルターシャの勝利は確実になるということである。

 「……そうですね。感情的には李章君に勝ってほしい。だけど―…。」

と、瑠璃は口ごもってしまう。

 瑠璃は、李章が自分の守るべきことを意地でも守ろうとする。二つのことが存在したとして、一つを守らねばもう一つが守れないとした場合に、無理にでも二つを守ろうとして自滅していくような感じがした。

 それは、瑠璃にとって、現実になってほしくないことである。だから、瑠璃は思う。プライドを曲げてでも、生きてほしい。たとえ、李章にとって、生き恥のように感じることであったとしても―…。

 「そうか。まあ、後は李章しだいだ。」

と、アンバイドは、瑠璃の考えていることのすべてがわかるわけではないが、心配していることだけは理解することができた。

 ゆえに、李章に任せるしかないという意図をさっきの自らの言葉に込めるのであった。


 暗闇の中。

 辺りは黒一色となっている。

 このままでは、歩くことも、攻撃することも、守ることもできないし、相手がどこにいるのかもわからない。

 李章も、

 (前…後ろ……上…横……、全部が真っ暗に、ここは―…、いったい相手はどこですか。)

と、心の中で言いながら、辺りが見えないことに気づく。

 李章は、心の中で動揺する。

 そう、自らの攻撃を封じられたようなものなのだ。見えているからこそ、攻撃ができるのであり、守ることができるのである。

 この暗闇のように、相手が見えないという状態になってしまえば、どうすることもできなくなってしまい、対処のしようがなくなってしまうのだ。実際に、そうなってしまっている。

 李章は、気配を感じようとしたが、それさえも今はできないようだ。それがわかっているから、さらに動揺の度合いが強くなるのである。

 「ようこそ、()の世界へ、李章。」

と、イルターシャはトン、と足音をさせた後に、言う。

 李章はさらに、動揺する。なぜか、それは、李章の名前を知っているからだ。名前を教えたことのない人が李章の名を知っていたのだから―…。

 心の中でも、

 (どうして…!!! 私の名前を知っているのですか。)

と。

 李章が動揺している理由を簡単に推測することができたのか、イルターシャは、

 「なぜ、李章の名前を知っているかって。そんなの簡単だよ。あなたが、討伐対象だからだよ。」

と、イルターシャはゆっくりと李章の名前の所と最後の方をあえて言うのであった。

 イルターシャは、そうすることによって、李章の動揺と隙をつくりだそうとしているのだ。あまりにも李章という人物が、頑固であり、不測の事態には対処するのが得意でないということがわかっているからだ。特に、不測の事態で、かつ、知らない人が李章のことについて知っているのであれば、恐怖を抱くとも計算していたからだ。

 イルターシャは、李章について、事前にある程度調べており、誰が李章という人物かはわかっていた。イルターシャ自身も、第七回戦で李章が出場した試合を見ているのだから―…。間違えようがなかった。

 ゆえに、それを知らない李章は、動揺し、恐怖を抱き始めるのであった。

 イルターシャは、李章を落ち着かせるように、

 「そんなに驚かなくてもいいじゃないのかい。李章。」

と、冷静な誘惑的な言い方で言う。

 その言葉に李章は、イルターシャがどうしようとしているのかを何となくだけど、気づく。

 だから、

 (ッ!!! これ以上、イルターシャ(この人)の話を聞いてはいけない。イルターシャ(相手)のペースに巻き込まれてしまいます。)

と、李章は心の中で、イルターシャが李章を自らのペースへと飲み込もうとしているということを、言葉にして、飲み込まれないようにしようとする。

 李章は、続けて、

 (ここは落ち着いて、冷静にならないといけません。)

と、心の中で言うと、深呼吸をするのである。

 す~、は~、と、何度も、何度も―…。

 ある程度落ち着いてきたのか、

 (よし!!!)

と、気合を入れなおすのである。

 李章は、落ち着いて、今度は、イルターシャの言葉を聞かずに、うまくどうやってこの戦いで勝とうかを考え始める。暗闇であるかもしれないが、何か対処する方法があるのではないかと思いながら―…。

 それでも、李章はその考えを止められるし、イルターシャの言葉を聞かざるをえなくなる。

 「ねぇ~、李章、お願いがあるの。だから、私のお願いを聞いてくれないかなぁ~。」

と、イルターシャは、李章にお願い事をする。

 イルターシャはわかる。李章が聞こうとしていないことを―…。

 (たぶん、私の言葉を聞くと、私のペースにのせられてしまうと思ったようだね。でも、李章、あなたが話を聞かざるを得ない方法なんていくらでも思い浮かぶのよ。)

と、イルターシャは心の中で言う。

 それは、イルターシャにとって、李章に話を聞かせる方法なんて簡単なことでしかなく、単純な攻撃しかできず、頑固な性格で、今の状況を勘案しさえすれば、あることをキーワードにすれば可能なのだ。

 「李章は、仲間のため、みんなのために戦っているのよね。」

と、イルターシャはあえて、心の奥底で本当に思っていることと外すことを言う。

 李章の油断を誘うために―…。

 それを聞いた李章は、あまりにも馬鹿らしいことに、

 (確かにそうだけど、それで心が揺らぐことはありません。)

と、心の中で、すぐにイルターシャの言葉を消すのであった。なかったことにしたのだ。

 「違ったかぁ~。残念、私の言うことが当たらないなんて、まだまだ、だなぁ~。ショック~。」

と、最後の方は予想が外れて、それに拗ねたような言い方をイルターシャはする。

 だけど、わざと外しているので、心の奥底では全然ショックを受けていなかったのは、当然のことであろう。

 ゆえに、李章の心への芯をつこうとする。それは、今、李章が、イルターシャの言葉に対して、わずかだけど油断が生じており、隙が存在しているのだ。

 「もし、李章が仲間を私に売ってくれたなら、瑠璃っていう子と李章だけは、殺さないように()()()してあげるよ。たぶん、私の()()()だから言うこと聞いてくれるかもしれないよ。」

と、イルターシャは言う。

 イルターシャは、もしも嘘になってしまったとしても、嘘ではないということができるようにするために確定させるようなことは言わないようにした。さらに、現実、ランシュにそのようなお願いをする気はなかった。ランシュが授かった任務である以上、それを達成させることの方が重要である。

 イルターシャのお願いだけで命令が覆ることなどありはしない。ベルグには、イルターシャのお願いなど通じやしない。それは、イルターシャ自身もわかっていることだ。

 イルターシャとしては、李章が仲間を売るという可能性はないということはわかっている。仲間思いではなく、守るべきものの選択ができない。自分一人ですべてを守ることができると思っているのだから―…。そんなことはある程度の範囲を超えてしまえば、できるはずもないのに―…。

 そんなできないことをできると本当の本当に思っているのが李章である。

 イルターシャは、

 「いい、条件でしょ。」

と、畳みかけるかのように言う。

 さっき言った条件は、実現するはずもないのに―…。そして、李章が拒否することをも考えて―…。

 しかし、イルターシャは、想定外のことが起こるのだ。

 それは、李章が考え始めるのであった。

 (この条件を飲むべきか―…。いや、飲んだとしても実現されるとは限りません。それに、討伐対象? 一体、何、それ? そんなものになっているのなら、命令を変えることはできないはずです。ならば、答えは決まっています。)

と、心の中で李章は決心する。

 「その条件―…、私はお断りさせていただきます。」

と、イルターシャが予想した答えになるのであった。

 イルターシャは笑う。言葉にすることなく―…。表情だけで―…。それは、李章には暗闇のために、見えないのであるが―…。

 (私の予想通りの答えをしたね。考え始めたから予想外のことになるのかもしれないと思ったけど、まだまだ子どもね。さあ~て、今の演技を続けたままで、いきますか。討伐を!!!)

と、イルターシャは心の中で言う。

 そう、イルターシャは、李章に今、李章がさっき言ったことはイルターシャの予測の範疇であったことを気づかせないようにしようとしている。それぐらいの演技は、簡単なことであった。

 「よくも―…、よくも―…、私の条件を飲まないなんて―…。本当に、馬鹿ね、李章――――――――――――――――――――――。」

と、叫ぶようにイルターシャは言う。

 それは、多くの者が演技であることに気づかないほどのリアリティがあった。李章が気づくことが到底不可能なぐらいに―…。

 「剣に刺されて死になさい!!!」

と、イルターシャが叫ぶ出すように言う。

 李章は、その言葉を聞いた後に、もの凄い痛みに襲われるのである。何かに突き刺されたような―…。

 李章は視線を下に向ける。

 (……刺されている、どういうこと……だ……。)

と、自らが刺されていることに李章は、気づく。

 李章としては、どうやって刺されたのかわからない。刺された感覚はなかった。あったのは、刺さったことによる痛みであった。物凄く痛いのである。それが続くのである。死にそうな感じを李章は感じていた。

 「ガァ…ァ…。」

と、李章は声にならないようにものを漏らし―…。

 (なぜ、私は…刺されているのですか…。)

と、李章は心の中で痛みのせいもあったが、わずかばかりに疑問に感じることができた。

 それでも、痛みが勝り、考えることができなくなっていっていた。刺された場所が、心臓部の近くであったことが余計に李章をそう感じさせたのである。

 「私の攻撃で―…、楽にいけなかったとはねぇ~。この攻撃も甘かったかしら―…。やっぱり、腕力は鍛えておくべきだったわ。」

と、イルターシャは、一撃で倒せなかったことを後悔するように言う。

 イルターシャには、余裕が存在した。演技の中では、こういう言葉を今李章に、現実で本当にかける。

 「楽にいけなかったのは、李章の運、不運、そんなの関係ないか。その剣は、刺された者に苦痛だけを只管(ひたすら)に与え続けるの。死ぬまでね。」

と、イルターシャは演技とは思えないような言い方をする。

 李章に、イルターシャの演技を判断することは、完全に不可能なほどであった。

 李章は、

 「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。」

と、叫ぶことしかできなくなっていた。

 イルターシャは、薄っすらと歯を浮かべながら―…。


 【第75話 Fin】


次回、李章の裏の人格が!!?

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


第75話・第76話はかなり難しかったです。うまく書くことが未だにできないということを実感しています。頭のイメージの中では浮かぶのですが、文章にするとなると、急に出てこなくなったり、これは違うのじゃないかなということを感じてしまいました。小説は難しいです。

最後に、第77話が終わると、番外編をしばらく進めていくことにします。では、次回の更新で―…。

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