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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
143/747

第75話-1 幻の世界へようこそ

前回までのあらすじは、第八回戦第二試合、セルティーvsニーゲルデンの試合はセルティーの圧勝であった。

第75話は分割します。

 ニードは四角いリングへと上がる。

 別に試合をするためにあがるのではない。

 そう、気絶したニーゲルデンを四角いリングから下ろすためである。

 気絶している以上、誰かが運ばないといけないからだ。

 セルティーは、ニードが四角いリングに向かってくるのを見て、警戒する。

 (私をここで倒しに―…。)

と、心の中で言いながら―…。

 セルティーとしては、ニーゲルデンをあっさりと倒することに成功したので、連戦をすることは可能である。

 しかし、ニードは、

 「ガハハハハハハハハハハハハハハハ。そんなに構えんな。俺は、倒れているニーゲルデン(そいつ)四角いリング(フィールド)から下ろすために来ただけだ。油断したとしても攻めやしない。それに、次の試合が始めるのが遅れると、ファーランス(審判)に迷惑だろ。セルティー王女。」

と、警戒する必要はないということと、ニーゲルデンを四角いリングから中央の舞台へと運ぶために来たということを告げる。

 セルティーは、警戒を解きたかったが、もう一人、四角いリングに上がってきたのだ。そう、イルターシャが―…。

 「私のせいかしら、警戒を解かないのは―…。」

と、イルターシャは魅惑的に、挑発的に言う。

 イルターシャとしては、セルティーの確信をついて少しだけ動揺させることであった。そうすることで、自らの優位にもっていき、自らにとって有利になるような結果にしようとしたのだ。

 それは、イルターシャの頭の中での計算であり、癖であった。

 「大丈夫よ。今、セルティー王女と私は対戦しないのだから―…。」

と、イルターシャは今のところ確定的事実を告げる。

 そのことに対してセルティーは、ただ黙っている。言葉にすれば、あげあしをとられかねないと直感で思ったのだ。それだけ、セルティーにとって、イルターシャは、弁のたつ人物であるという印象を受けた。

 そして、これ以上、変な挑発にのるべきではないと判断し、黙って四角いリングを下りていくのだった。これを見た感じでは、セルティーという人物は人の話を無視するような最低な人間に思えるかもしれないが、イルターシャと会話するだけで危険と判断すればこれが正しい判断であろう。たとえ、周りの評価を下げたとしても、自分を守らなければ、他者をも守れないのだから―…。場合によりけりであるが―…。

 「ふ~ん、まあ、いいけど。」

と、イルターシャは、セルティーの態度を見て、会話すれば自らのことを探られると感じてあのような無視する態度をとったのだと理解する。

 イルターシャは、会話だけでなく、頭の回転がはやいことと、相手への観察力が優れているので、簡単に相手の意図を読むことができる。そのことによって、自らの優位をうまく確立してきたのだから―…。

 (会話をしなければ、手の内が読めないと思ったのね。でも、戦う前からある程度は調べさせてもらったよ。人はねぇ~、行動しないと生きていけない生き物。行動は同時に、その人の性格をあらわすの。行動することで人はつくられ、人は行動によって制約を受け、ルートを絞られる。セルティー王女、いや、瑠璃チームのみなさん、あなたがたがそれに気づいていたとしてもアンバイド以外は私に勝てない。)

と、イルターシャは心の中で哲学っぽいことを言う。

 イルターシャは、考えることも多く、駆け引きの多い人生であったことから、何かを悟ることもあったのだろう。イルターシャもまた、行動によって形づくられたのだと、自分自身で思っているのだ。

 そして、イルターシャは、

 「ニード。ニーゲルデンをよろしく。」

と、ニードに向かって、気絶しているニーゲルデンを安全なところに運んでという意味を込めて言う。

 「そうかい。でも、イルターシャ、お前の戦い方は、相手以外には被害の出にくいものじゃないのか。」

と、ニードは言う。

 ニードは、イルターシャの戦い方は何度も見てきたことから知っている。そのために、安全のところに運ぶにしてもそんなに離れる必要はないのではないかという確認をとる。

 「四角いリング(フィールド)の下で十分安全だから―…。」

と、イルターシャはニードに向かって、言う。

 それは、イルターシャの攻撃の範囲が四角いリングの中の範囲ですむということを意味していた。

 それを聞いて安心したのはニードであり、

 「あいよ。じゃ、俺は行く。負けるなよ。負けた俺が言うのもなんだけど―…。」

と、ニードがニーゲルデンを背負い、申し訳そうに言う。

 「そうね。ニードよりは戦えるからね。」

と、イルターシャは言う。

 そして、ニードは、四角いリングを下りて、中央の舞台にニーゲルデンを運び、寝かせるのであった。

 (あれは、本気だな、イルターシャ。)

と、心の中でニードは言う。

 イルターシャが本気であることを―…。

 ゆえに、ニードは、イルターシャの勝利を信じることができる。たぶん、ニードは勘でアンバイドがこの第八回戦第三試合に出場しないと思っていた。アンバイドが、戦闘態勢にまだなっていなかったからだ。

 実際、アンバイドは、自分が戦う場合に、自らの下げている武器に手をあてるくせがある。今は、アンバイドの武器(もう一つの武器)がどんなものであるかは言わないでおこう。武器に手をあてることで、いつでも戦うことが可能であることを自らに思わせるのだった。


 一方で、中央の舞台。

 瑠璃チームがいる場所。

 第八回戦第三試合に出場するチームのメンバーが一人、四角いリングへと向かって行く。

 それを、瑠璃は、

 「頑張って、李章君。」

と、出場する李章に向かって瑠璃は、心配しながら言う。

 瑠璃もわかっていた。イルターシャという人が、天成獣が宿っている武器での戦い方で実力があるのではないかというのは、雰囲気で感じることができていた。

 「ええ、大丈夫です。私なら、勝つことができます。女性を倒さないといけないのは、あまり好きな事ではありませんが、互いに試合で戦うことがわかっていることです。だから―…、申し訳なく思いますが、イルターシャ(相手)を手加減せずに倒してきます。」

と、李章はそう言うと、四角いリングに上り、イルターシャと対峙するのである。四角いリングの中央に向かって行きながら―…。

 イルターシャとの距離が二メートル前後のところで李章は、足をとめる。

 「へぇ~、私の対戦相手は、李章(ボウヤ)か。見るからに弱そうね。天成獣を使わないで戦えば、私は簡単に負けてしまうけど―…。あ~あ、それと、刀を抜いて戦ったほうがいいわよ。それでも、無理だとは思うけどね。」

と、イルターシャは挑発するように言う。

 イルターシャとしては、この今の自分の言っている言葉によって、李章は刀を抜いて戦うことをより躊躇うのではないかと思ったからだ。イルターシャからみれば、李章という人間は、頑固であり、自分の考えに硬直されやすい。いや、信じた人間の言葉に、どんなことがあっても従ってしまうような性格をしているのだろう。信じる者を間違えると、最悪の結末を向けるような―…。そこから柔軟性を付ければ、人として良い人生を送れるのだろう。

 だけど、イルターシャは、李章に対してそんなことは望まない。李章自身の破滅を望んでいる。それは、対戦相手で、戦う以上は―…。

 話が逸れたので戻せば、あえて剣を抜くというキーワードを出すことで、刀を抜くことが自身のポリシーに反することをより強調させることができる。それは、結局、刀を抜いて戦ってはいけないということをピンチの時にも頭の中に残るようになる。刀を抜くという選択肢を選んではならないことが、李章の戦いの中での足かせになるようにしたのだ。

 これは、イルターシャの計算であり、計算通りにいかないこともあるだろうが、これを一つうっておくことが、後の勝利のための決定打になることがある。

 後は、試合の中でうっていけばいい。そう、イルターシャは考えていた。

 「ええ、イルターシャ(あなた)を蹴りだけで倒したいですが、ピンチになれば刀を抜くこともあります。しかし、ほとんど刀を抜く機会もなく、倒します。そうならないことを私は祈っています。」

と、李章は言う。

 李章としては、イルターシャの実力が弱いとは思っていなかった。理由は、何か不気味なものを感じたからだ。李章にとってイルターシャは、不気味で、何をしてくるかわからないのだ。

 ゆえに、李章は、刀を抜かないということを完全に宣言するのが危険であると判断した。その判断には、緑の水晶の警告があったからである。緑の水晶の危機察知は、危機に対する選択肢および行動、訪れることに対して、持っている者の頭の中に直接伝えることがある。持っている者の意思に関係なく。持っている者が、緑の水晶に向かって、想定したことを念波のような方法で伝え、緑の水晶がその答えによる危機になるのかを伝えることができる。

 李章は、緑の水晶がかなり使えることは、自身の経験からわかっていた。ゆえに、信頼したのだ。嘘を付く人よりも信頼は可能であろう。ただし、自らが信頼している人は別であるが―…。

 「ふ~ん、そうね。その方がいいよ。私、強いから。」

と、イルターシャは、目で相手を射殺すことができるほどの獣のような雰囲気で言う。

 ただし、怖い表情ではなく、獲物を狙うような感じである。李章という獲物を―…。

 そこで、ファーランスが、

 「両者とも試合を開始してもよろしいでしょうか。」

と、言う。

 それを聞いた、李章とイルターシャは、

 「試合を開始しても構いません。」

 「開始してちょうだい。私の方はすでに準備完了しているから―…。」

と、李章、イルターシャの順に言うのであった。

 試合を開始してもいいという李章とイルターシャの返事をもらったファーランスは、右手を上にあげ、

 「これより、第八回戦第三試合―…、開始!!!」

と、開始宣言の時に、上にあげた右手を下に振り下ろす。

 こうして、第八回戦第三試合が始まるのであった。


 【第75話 幻の世界へようこそ】


 試合開始後。

 イルターシャは、挑発する。

 「かかっていらっしゃい。李章(ボウヤ)。」

と。

 その表情は、煽情的なものを感じさせた。その表情を見れば、多くの男性がその虜になるであろう。

 しかし、李章には何も効かなかった。聞くはずがなかった。頑固なところが勝ったのだろう。李章は瑠璃のことが好きで、他の女性の誘いに一ミリも興味がないのだ。本当の本当に―…。

 その煽情的なものが効かなかったことに、イルターシャは、

 (まだ、女のことを知らないのかしら―…。人生損してそう。)

と、可哀想な人目線を李章におくるのであった。

 実際は、イルターシャの思っていることは、外れているのであるが―…。イルターシャが、ここまで、あまりにも一人の女の子(女性)を好きになり続けることができる人に出会ったことがない。ゆえに、李章の感情を完全に読めていないのだ。

 完全でないということから、読めている面も存在するのであるということだ。

 「イルターシャ(あなた)の話しにのって、こちらから攻めます。」

と、李章が言うと、すぐにイルターシャに向かって移動を開始する。

 李章としても、挑発してくるのだから、イルターシャに対して、舐められないように、あえて、攻撃することを告げたのだ。そうすることで、イルターシャが悔しそうにすることをわずかばかり思って―…。

 でも、実際は違ったようだ。

 (ふ~ん。これで私が悔しそうに思うとでも思ったの。馬鹿ね。油断もする気はないよ。李章(あなた)のことは調べさせてもらったよ。)

と、心の中でイルターシャは李章の戦い方を思い出すのであった。

 ゆえに、初撃が後ろからではなく、前からであるということがわかる。

 少しだけ、李章が攻撃できる範囲にきたら、数歩ほど下がる。

 李章は、単純に蹴りの攻撃をする。

 そして、タイミングをうまくはかったので、イルターシャは李章の攻撃を完全にうまく避けるのだった。

 「避けられた!!」

と、李章は驚くのであった。

 (こんなに簡単に避けるなんて、一体どんな力をもっているのですか。今はとにかく攻撃を続けることです。)

と、李章は、心の中で、イルターシャがどういう方法で戦ってくるのか、天成獣の属性が何かわからない以上、とにかくそれをさせないために攻め続けることを選択した。

 それでも、イルターシャは、

 (まだ避けられるわね。単純だからなのかな、攻撃が―…。)

と、心の中で李章の攻撃を冷静に分析する。

 イルターシャも天成獣の宿っている武器に選ばれたのだから、普通の人よりも身体能力ははるかに高いほうである。

 ゆえに、李章の単純な動きによる攻撃は、読みやすかったし、見えやすかった。だから、簡単に李章の蹴りを避けているのである。もし、李章がフェイントを入れていれば、何発かは受けてしまっていただろう。

 何度も、何度も、李章の攻撃が単純であったために、完全に避けることに成功した。李章の方が、体力だけでなく、精神力のイラつきが付け加わったことにより疲れ、息があがり始めていた。

 余裕で避けることができたイルターシャの方は、平然としていた。

 むしろ、天成獣の属性の一般的なイメージからいうと、幻と生であれば、生の方がパワー系というイメージがあり、幻の方はトリッキーであるから、李章の方が平然としていて、イルターシャの方が疲れているように感じる。だけど、実際は、その逆であることから、どれだけイルターシャが戦いに対しての準備、適応させることがうまいかがわかる。

 そんななか、イルターシャは、

 「李章(あなた)は、弱いわ。だから、これで終わらせてあげるよ。」

と、李章に向かって言う。

 (何かをする気ですか。すぐにでも攻撃をしないといけません。)

と、李章は攻撃へと移ろうするが、遅かった。

 「幻の(イル―ジョン)世界(ワールド)。」

と、イルターシャが言うと、四角いリングが黒い、闇に覆われるのであった。

 李章が驚いているほんのわずかの間に―…。


第75話-2 幻の世界へようこそ へ続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


では、次回の更新で―…。

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