第73話 最大とフルバースト
前回までのあらすじは、炎竜の火炎放射の威力が最大になるのであった。クローナはこの攻撃をしのげるのか。
それは、炎だった。
その炎は、クローナに向かっていた。
クローナは、白の水晶を展開し、凌ごうとする。
そして、白の水晶を使って、展開された防御テントが、向かってくる炎を防ぐ。
だけど、その威力は、ある時点によって増すことになる。
そう、ニードが炎竜から放たれる火炎放射の威力を最大にしたのだから―…。
(ッ!!! なら、こっちは!!!!)
と、心の中で言いながら、何重にも防御テントをクローナは、展開するのであった。
【第73話 最大とフルバースト】
火炎放射の攻撃は続く。
火炎放射の威力は、生身で受けてしまえば、簡単に燃え尽きてしまうほどの威力になっていた。
だけど、ニードは手応えを感じていなかった。
そう、倒しているという手応えが―…。
ゆえに、ニードは、
(最大限の攻撃をこえないとな。)
と、心の中で言う。
それは、今の状態が、炎竜にとって、今までの経験の中で最大というほどの攻撃であった。
しかし、それではクローナを倒した感覚がしないのだ。クローナが倒れたという気配を感じないのだ。
だから、ニードは超えるしかないと思ったのだ。最大限だと思っていた攻撃を―…。
ゆえに、
「炎竜!!! フルバースト!!!!」
と、最大限に叫びながらニードは言う。
そうすると、炎竜は、発射させている炎の威力をさらにあげていく。
今の炎竜の火炎放射は、四角いリングの上の半分ほどを焦がすほどの範囲に拡がっていた。
そのため、中央の舞台にいる者たちは全員入り口近くまで避難していた。あまりに、熱すぎるために―…。
中央の舞台の入り口。
イルターシャ、ニーゲルデンがいる場所。
そこでは、
「何やってくれているのよ、ニード。これだから、筋肉馬鹿は!!!」
と、イルターシャは、ニードに対して腹を立てていた。
それは、ニードが炎竜によって出させている火炎放射のせいで、中央の舞台の気温が上昇し、汗が大量に出てしまっていることである。イルターシャが汗によって化粧を落としてしまうことを嫌がっているからだ。美も女性にとって重要なことであり、かつ、それを維持するのにはかなりの時間と金銭を消費しているのだから―…。さらに、中央の舞台から避難しないといけないほどにしていることも腹を立てることに貢献している。そう、結局は、ニードが味方にまで、被害を及ぼそうとしているからだ。
ニードとしては、それぐらいで、倒されるようなことはないと、イルターシャやニーゲルデンに対して思っているのであるが―…。
そんなことを思っているニードの気持ちに関して、イルターシャやニーゲルデンがわかるわけもないであろう。知ったとしても、別の方法をとれよっと思うだけであろう。
(筋肉馬鹿だけど―…。たぶん、クローナ、なぜか、攻撃でダメージを受けないのよね。最初の方は受けていたみたいだけど、打撃とか―…。でも、今は一切、攻撃を防いでいるみたいだし―…。その正体さえわかればいいけど、私が戦わない以上は意味のないことだけど―…。)
と、イルターシャは心の中で思うのであった。
イルターシャとしては、第八回戦で戦うことのないことが確定しているクローナの戦い方やその弱点を探ったとしても意味がない。イルターシャが戦う相手は、すでに、クローナ以外と決まっているのだから―…。
クローナのことは、第八回戦で自らが勝利、チームが負けた時に考えればいい。そう、今は、クローナ以外の人物について考えておく必要があるのだ。アンバイドとは対戦したくないと思いながら―…。
中央の舞台のイルターシャたちがいたとのは違う入り口。
瑠璃チームのメンバーがいる場所。クローナ以外の―…。
「つーか、何なんだぁ~。この暑さは―…。どんだけ力押しで攻めてんだ、ニードは!!!」
と、アンバイドは言う。
その表情は、怒りの形相といっても差し支えないものだった。それは、ニードの攻撃のせいで、中央の舞台が人のいることのできない気温になってしまっていたからだ。
対戦相手以外の人物まで巻き込むような戦いをしていることに腹が立っていたのだ。さらに、試合の様子をしっかりと見ることができないことにさらに怒りを増幅させるのであった。
「アンバイドさん。そんな怒ったようなことを言っても意味ないですよ。ニードだって必死なんだから―…。クローナも大丈夫だと思います。」
と、瑠璃はアンバイドを宥めるように言う。
瑠璃としては、ここで怒っても仕方ない。ニードという人物も、試合で相手を倒すことに必死なのだ。さらに、中央の舞台を人がいることのできないほどの気温にしているも、クローナにダメージを与えることができてないからと推測していたからだ。これは、礼奈から指摘を受けていたからだ。
そして、クローナも持っている白の水晶をもっていることからそうなっていることを、礼奈とともに瑠璃は話し合って結論付けたのだ。怒り形相に見える表情のアンバイドを宥めて、落ち着いてもらおうとしたのだ。アンバイドの顔が何か暴れたそうな感覚がして―…。
「まあ、大丈夫だろうな。そこは気にしていない。つ~か、ニードは、筋肉馬鹿の部類だな。」
と、アンバイドは言う。
怒りの表情は、まだなおってはいなかった。
そんな表情に対して、瑠璃は心の中では怯えていた。それでも、怒りの表情をやめてもらう必要がある。何か暴れたそうなものと同時に、
「筋肉馬鹿かどうか別として、今のアンバイドさんの表情は、さすがにやめてくれるとありがたいです。セルティー王女が滅茶苦茶怖がっています。プルプル小鹿のように震えて―…。」
と、瑠璃は言う。そして、心の中では、
(筋肉馬鹿って、長所じゃないでしょうか。筋肉のこと追求している―…。相手を馬鹿にして言う言葉じゃないと思う。)
と、アンバイドの今の筋肉馬鹿という言葉の使い方に、違和感を感じていた。
瑠璃に言われたアンバイドは、セルティーの方向に視線を向けると、本当にプルプルと小鹿のように震えているセルティーがいた。その状態を見たアンバイドは、すぐにやめることにしたのだ。
(……うん、そんなに怖いのか、俺の表情―…。)
と、アンバイドは心の中で思うのだった。疑問を抱きながら―…。
十分ほどの時間が経過した。
ニードが炎竜に命じて、火炎放射をフルバーストにしてから―…。
そして、ニードの方も、
「炎竜!! 攻撃は中止だ!!!」
と、言って、炎竜に火炎放射の攻撃をやめさせる。
そして、火炎放射をした部分は、炎があがり、かつ、燃え続けていた。同時に、上空には煙がのぼっているのだ。たぶんだが、四角いリングで火炎放射に触れたところは、黒く焦げてしまっているだろう。それぐらいの威力だった。
四角いリングだったのかとわからないぐらいになっているのかもしれない。それは、実際に見てからということになるだろう。
(こうなってしまうと、生きていた場合は、風じゃない何かが関係しているかもな。そうしないと、俺の炎の攻撃で、炎を周囲で囲まれた奴が生き残れるわけがない。さすがに、フルバーストにしてしまったため、生きているとは思えないが―…。申し訳ないことしてしまったが―…。でも、手応えがない。)
と、ニードは心の中で言うのであった。疑問に感じるのである。
ニードとしては、炎竜の火炎放射が最大の威力を超えた以上で放ったので、クローナが生きていること自体ありえないことだ。なぜなら、生身では最大を受けるだけで、受けた相手が燃やし尽くされて生を終えてしまうほどの威力だ。
なのに、ニードは、クローナにダメージを与えたという手応えを感じることができなかった。それは、気配を読むことができるがゆえに気づくことができたのだ。
だから、これ以上、火炎放射で攻撃を続けても無駄だと判断した。そして、同時に、炎の中に閉じ込めておいたほうが、クローナがもう天成獣の力を使うことができずに、倒せる持久戦へと変えることができると思ったのだ。
だが、ニードの目の前の炎が一瞬にして消えたのだ。
「!!」
(炎が消えた…、いや―…。)
と、ニードは驚き、心の中で、ニードの目の前の炎がなくなった。
そして、ニードは何かが、自らの真上を通った気配を感じた。
ゆえに、ニードは上を見る。
そうすると、
(炎竜が消えた!!!!)
と、驚くのであった。
言葉は心の中であったが、表情は顔に完全に出てしまっていた。
ニードは、どうやって消えたのかには気づいた。それは、自らの上空を通っていった気配、いや、何かの攻撃であろう。
そして、方向と、ニードの目の前ある炎が消えたことからわかるように、それをなしたのは、クローナであった。
「ふう~、最大にして放つのには、時間がかかるなぁ~。どんだけだよ~。」
と、クローナは独り言を呟くのであった。声にしながら―…。
ニードは驚くしかなかった。ニードの攻撃がクローナに一切効いていないのである。ダメージも受けていない。火傷の箇所もない。
(ありえない…、どうなっているんだ。)
と、心の中で動揺に近いものを感じていた。
その間、クローナは、自らの武器に風を纏わせていた。
リースより離れて、どこかの場所。
いや、リース王国がある同じ大陸。
そのとある半島のある場所。
そこは、森に覆われていた。
そして、森の中に一本の道がある。
そこを歩いている二人の人物がいた。それは、魔術師ローとギーランであった。
「きついのう~。まだ、かい。ギーランの家はのう~。」
と、ローはくたくたになりながら言う。
「まだ、町から出たばかりですよ。それに、ここからだと、家までは七日ほど時間を要します。それに、ローさんの空間移動の魔術は、必要以上に使わないと言ったじゃないですか。たまには、歩いたほうがいいですよ。」
と、ギーランは言う。
ギーランとしても、ローが空間移動を使うことがあるが、必要以上に使われると、いざという時に使えなくなって困るのだ。特に、ここ最近、というか数カ月、すでに、四回ほどは使っていることがわかっている。制限はないのであるが、空間移動を使うのには、ロー自身の力を多く消費するので、必要以上に使わないようにしている。ここのところ、ローは戦闘能力は高いが、長時間戦い続けることが難しくなっている。それを可能にさせるために、力の容量を確保しないといけない。容量はいくらでも貯めても底もなければ、満杯になることもないのだ。ゆえに、戦うのは必要最小限にさせて、戦うのは専らギーランがすることにしており、ローがいざという時に力を最大限行使できるようにしているのだ。
「長距離を歩かせるほうが、よっぽど年寄りに対しての酷使じゃないのか。いじめじゃないのかぁ~。」
と、ローはギーランに向かって言う。
ローは、歩くのがきつくて、さっさと空間移動の魔法を使いたかったのだ。ギーランの家の場所は知っているので、そうしたほうがはやくてすむ。そう、ローは、訴えようとした。
しかし、
「だから、たくさん休んでいるじゃないですか、ローさん。」
と、ギーランは呆れながら言う。
ギーランとしても、ローを長時間歩かせる気はない。少しでも多く休みを入れながら進もうと考えていた。ローの体力を考えて―…。ロー自体は、年を召すことによる体の衰えは存在しない。存在することがなくなってしまったらしい。ギーランもそれがどうしてかはわからないし、教えてもくれない。
「う~。」
と、ローは唸っていた。
そして、ローとギーランは、ギーランの住んでいる家へと向かって行く。ギーランは、妻と娘に会うために―…。
リースの競技場。
第八回戦第一試合、クローナ対ニードの試合へと戻る。
ニードは、金属の部分が赤色をしている剣に炎を纏わせたまま構える。
ニードは、ここで試合を決めようとしていた。クローナによって、炎竜を消滅させられた以上―…。
ニードは、一振りでそれをなそうとした。自らが鍛えたあげた筋肉の一撃は、一振りを最大に生かすためだ。速く、強く、無駄のない洗練された動きを実現するために―…。
ニードは、剣を振り上げる。
その動作を見ながら、クローナは何もしなかった。できるはずがなかった。
(倒すためには、まだ、風を蓄えないと。)
と、心の中で言う。
そう、クローナは、ニードを倒するための一撃を放つためには少しだけ時間が足りない。それでも、クローナには策があった。方法があったのだ。だから、焦らずに、冷静でいられた。
「ふん、何もしないか。だが―…、これを防げるはずはない。」
と、ニードは言って、振り下ろす。
それは、一閃、一斬り、斬撃。
どの言葉もまるで当てはまってしまう。そう、ニードは上から下へと振り下ろし、剣が振り下ろされた軌道上に、炎が発生し、弧を描くような形となり、クローナへと向かって放たれた。
「いけええええええええええええええええええええええええええええええええ。」
と、ニードは叫ぶ。
これが、自らにとって、第八回戦第一試合最後の攻撃で、さっきよりも強い威力をもつ攻撃だ。
クローナへと向かって来ているが、クローナは何もしない。いや、待っているのだ。今クローナができる最大の一撃を放つために―…。
だけど、それを放つ前に炎撃は到達するであろう。そのことはクローナにとっては関係ない。
わかっている。守ってくれるもの、そう、白の水晶があるのを―…。
「白の水晶。」
と、クローナは言う。
そうすると、クローナの周囲に防御テントが展開される。
防御テントとニードが放った炎の攻撃が衝突した。
その前に、ニードは、見ていた。防御テントを―…。
(なんだ、あれは―…。)
と、心の中で驚くのだった。
その間に、炎の攻撃のほうが、その強い威力を使い終わったのか、消えていくのであった。
そして、再度、ニードはその目で見ることになる。防御テントを―…。
(あれで、俺の攻撃を防いでいたのか。)
と、ニードは心の中で動揺する。
それと同時に、すべての力を使い切ってしまった。そして、もうこれ以上は、戦えないと理解する。だけど、それでも、降参するという選択肢はなかった。どんなに無様でも、限界を超えてこそ己の力の強さであるという考えのために―…。
だけど、考え始めようとした時点で、
「これで、私の勝ち。」
と、クローナの声が聞こえた。
そう、考え始めようとした時点で、クローナは、自らが今できる最大の一撃の準備ができていたのだ。
ニードは、驚くしかなかった。すでに、自らの負けが確定したのだと―…。
クローナは、両手に持っている武器を横に振り、風の攻撃を二つ繰りだすのだった。その攻撃を描いていた。
そして、弧を描いている斬撃は、ニードに向かって進み、ニードに直撃するのであった。
【第73話 Fin】
次回、勝利してその座を手に入れることを言う人は、弱いのだろうか!!?
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
では、次回の更新で―…。