第72話 風VS火
前回までのあらすじは、ニードによって展開された炎竜による火炎放射の攻撃をクローナは受けようとしていた。それを防ぐために、クローナは白の水晶を展開しようとするのであった。
炎竜が放った火炎放射は、クローナへと向かって行く。
それは、クローナを焼き尽くし、消滅させようとしているかのようである。
いや、実際にそうなのかもしれない。
本当にわかるのは、そうしているのかと感じさせるぐらいのものだった。
(ヤバい!!! このままじゃ…ダメ!!!! 仕方ない、使うしかない!!!!!)
と、心の中でクローナは覚悟を決める。
「白の水晶」
と、クローナは言う。
クローナの今、武器に纏わせている風の量では、今のニードの火炎放射の攻撃を防ぐことはできない。ゆえに、白の水晶の防御を使うしかない。今、自らが生きのびないと次のことをすることも、訪れるかもしれない機会すらも起こることはないからだ。
そして、ニードが展開した炎竜によって放たれた火炎放射がクローナのいる位置を覆ったのだ。その中にあるものを燃やしつくすのであった。
【第72話 風VS火】
それから時間は、十分から十五分ほど経過した。
四角いリングの辺りは、その間、炎の影響から当たりは燃え盛り、煙が吹き上がっていた。上へ上へと―…。
炎は円状になって、燃え上がっている。ボオ、ボオ、と。
(囲まれた!!)
と、クローナは心の中でそう言う。
クローナは、ニードが展開した炎竜の火炎放射の攻撃によって、周囲をすべて炎に囲まれてしまったのだ。
ただし、火炎放射のダメージは一切うけていなかった。この場合、火炎放射の攻撃をもろに受けて、生きていることさえなかったかもしれない。ニードはそこまでする予定はなく、あくまでも戦闘不能までのダメージを与えるまでのところで済ませるつもりであった。だから、炎の攻撃を喰らっても、クローナが死ぬことはない。戦闘不能になるが―…。
なぜ、クローナが火炎放射の攻撃によるダメージを受けていないのか。それは、とても簡単なことだ。クローナは、白の水晶を攻撃うける直前に展開することに成功したのだ。そのバリアによって、クローナの周辺は炎で囲まれることになったが、ダメージを受けることはなかったのだ。
(こうなってくると、ニードが罠を仕掛けていたとしても、この囲まれた炎から抜け出さないことには意味ないしね。このままなかにいても…ね。)
と、クローナは心の中でこれからどうするかを考える。
結論としては、ありきたりの炎の中を脱出することであった。そうしないことには、対戦相手であるニードを倒すことはできない。
そして、クローナは囲まれた炎から脱出方法を考えるのであった。
一方で、ニードの方では―…。
ニードの目の前で炎が燃え上がり、煙がもくもく上空へと、どんどん上がっていた。
(避ける動作をしても無駄だと判断して、まともに受けてしまったか。だけど、まだ、気配がする。クローナは生きているようだ。瀕死というわけでもない。動けるみたいだな。そうなってくると、炎はしばらく解除するべきではないし、再度、攻撃する必要があるな。炎竜も攻撃したがっているみたいだし。)
と、心の中でニードは、これからどうするのかを考える。
ニードとしては、自らの気配を感じるという能力でクローナがどうなっているのかを探る。この能力によって、相手を必要以上に殺すことなく倒すことができるのだ。そう、ニードの気配を感じることができるという能力は生来からのもので、その能力が今も役立っているというわけだ。
試合では、討伐対象以外は殺す必要はないと考えているからだ。火の属性の天成獣が宿っている武器を扱っている以上、その攻撃の威力の加減というものが後々の恨み大きくするか、小さくするかの分かれ目になるのであるから―…。
「さて、炎竜、次の攻撃の準備を頼む。」
と、ニードは炎竜に聞こえるかのように大きな声で言う。
その声が聞こえたかのように炎竜は、口のようなところを開き、今度は、球状の火の玉を形成する。
それは、とてつもなく大きな火の玉である。直径にすると、二~三メートルぐらいの―…。
(さあ、今度の攻撃は、さっきの火炎放射で逃げ場がないなか、どうする。いや、どうすることもできずに倒される。そうでもない。倒されろ!!!!!)
と、ニードは心の中で言う。
炎竜の攻撃の準備が整うのを待つのであった。
炎の中。
クローナは、まだ考えていた。
どうやって、囲まれた炎から抜け出すことを―…。
(とにかく、ありたっけの風を武器に纏わせているけど、まるで、まだこれじゃあ、足りない。)
と、クローナは心の中でとにかく風を多く纏わせようとしていた。
クローナは、とにかく、想定以上に風が必要なのはわかっていた。それは、ニードの炎の量が多く、量以上に蜜であるのだ。そうなってしまうと、クローナが消費する風の量は計り知れないものになるのだ。
絶望の色が見えてもくる。
(炎を消滅させることに失敗したら―…、私―……負けて終わるのかなぁ~。……………………。)
と、心の中でクローナは弱気になる。
とにかく、ニードの炎の強さがクローナを弱気にさせる。風を使う量が普段より多いのは確実であり、クローナを囲んでいる炎を消すだけでも、いままで、一戦の中で対戦相手に使用した量と同等ぐらいなのだ。つまり、クローナはかなり風を消費してしまっていたのだ。
だけど、弱気になっていたクローナは、無理矢理に弱気になるのを止めようとする。
(ッ!!! ダメ、ダメ、弱気になっては!!!! こんな暗い考えをしていたら、勝てるものも勝てなくなる。だって、私は、限界まで、風を使ったことはないし―…、そういう場として割り切ろう。そして、この場は私によって試合を優位にするための何かがあるかもしれないと思わないと―…。)
と、心の中で、プラス方向へと思考をもっていこうとする。
クローナは、弱気になってしまったら、勝つことが機会というものを逃しそうだと思ったのだ。そのために、暗くなるよりも、希望を抱いていた方が得であると判断したのだ。
だから、今すべきことである、自らの武器に風を纏わせていたのだ。最大限に―…。出来ることをやるために―…。
リースの競技場。
観客席にいる者たちは驚く。
炎竜が現れた時点でもそうであった。
驚かない方が無理であろう。それは、竜の姿を炎だけで形にしていること、その攻撃が強く、見応えのあるものであること。
そのような状態に、さらに、火の玉を口のような部分から形成しているのだ。
観客は唾を飲み込みながら見入っているのだ。
一方で、ニードは、
(そろそろ準備ができたかな。)
と、心の中で言う。
そして、ニードを視線を炎竜へと向けるために、上を向く。
そうすると、炎竜の口のようなところの部分から見える、火の玉がニードにとって想像していたのと同じくらいになっていた。
だから、
「いけ、炎竜!!!」
と、ニードは炎竜に命じる。
炎竜は、形成していた火の玉を、クローナに向けて発射する。
その動作は、一秒という時間をもこえることなく―…。
クローナは、気づく。
上の方から何か来ると!!!
ゆえに、クローナは上を見る。
「!!!」
と、クローナは驚く。
そこにあったのが、火の玉であり、その大きさがかなり大きく、炎竜から放たれたことを理解する。そう、クローナ自身に向かってくること、それを防ぐには、白の水晶の能力で、防御テントをもう一個、展開する必要があると判断する。
逃げることはできない。クローナの周囲は、炎竜が放った火炎放射でできた炎で囲まれているからだ。
そして、重力に流されて、放たれた火の玉はクローナの頭上に向かって落下していく。そこに放った炎竜の息によって、落下にスピードを加えて―…。
クローナは、
「白の水晶」
と、言って、さらにもう一枚の防御テントを展開する。
そして、火の玉がクローナが白の水晶を使って展開した防御テントに衝突するのであった。
ドッ、ゴオオオオオオオオン。
物凄い音が広がる。
それは、人の耳の中に鼓膜を、耳を塞がずに聞いてしまったのならば、破ってしまうほどのものであった。
ゆえに、本能的に察知した観客席の全員と中央の舞台、四角いリングの上にいる全員が耳を手で塞ぐのであった。
そして、同時に、衝突によって発生したであろう、衝撃が衝突した地点を中心として円状に拡がっていく。立っているのをやっとなほどのレベルの衝撃風になって―…。
そんなことが五分ほどの時間続いた。
その間の時間は長くも感じたし、短くも感じられた。
それぐらいに、時間の感覚がわからなくなっていたのだ。
時間感覚を忘れるほどに、その衝撃風は強かったのである。
クローナの方は、白の水晶を使って展開した防御テントによって火の玉を防ぐことに成功していた。
防御テントによって、火の玉の攻撃を受けなかった。
クローナは辺りを見回す。
(囲っている炎の威力が弱まっている。)
と、心の中でクローナは言う。
クローナは気づいたのだ。火の玉で攻撃される前よりも、クローナの周囲を覆っていた炎が弱くなっていたのだ。
それはなぜか。簡単なことだ。火の玉が防御テントに衝突した時に、発生した衝撃風が、クローナの周囲を覆っていた炎をある程度消してしまったのだ。
結果として、火の玉の攻撃を防ぐことで、クローナは、自らの今の状況を打破するのに必要な力の使用を減らして、達成することができるようになったのだ。
このチャンスを逃すという選択肢は、クローナにはなかった。
(チャンス、もらい。)
と、心の中で言いながら、自らの武器に纏わせていた風を斬る動作で放つのである。
その風の攻撃は、クローナを覆っていた炎をすべて消していった。
その様子に気づいたニードは、
(何!!! 炎が!!!!)
と、心の中で驚くのだった。表情にも出ていたが―…。
それでもニードはすぐに冷静になることはできた。戦いに慣れていることがこのようにさせることを可能にした。
(斬られたか…、なら、威力も増しでいかないとな。)
と、心の中で次の方針をニードは決める。
中央の舞台。
瑠璃チームがいる場所。
衝撃風によって、しばらくの間、四角いリングでの、クローナとニードの試合の様子を見ることができなかった。
なので、衝撃風が終わった後、四角いリングの方を見る。
そのすぐ後に、クローナを覆っていて炎の壁が消えるのが見えた。
(よかったぁ~。覆っている炎を消すことに成功したのですね。)
と、セルティーは心の中で安堵する。
それは、クローナがニードの展開した炎竜によって放たれた火炎放射によって、炎の中へと閉じ込められたからである。
それでも、セルティーは安堵はするが、これからの試合はどうなるかわからない。ニードという人物が、何か仕掛けてくることによって、クローナが倒されるかもしれない。ゆえに、完全に安心することはできないのであるが―…。クローナがニードに勝つまでは―…。
礼奈は、
(あの火の玉によって、覆っていた炎の威力が弱くなったことが幸いしたってことね。白の水晶の能力を使って防いだことがこの状況を生み出した。それでも―…、ニードは油断することはできない。レラグよりも強いのは事実だと思うから―…。)
と、心の中でクローナとニードの試合がどうなっているのかを分析し、ニードがまだまだ油断することのできない対戦相手であり、レラグよりも強い人物であることをニードの雰囲気から察した。
そして、
(クローナなら勝てる、この不利な状況はまだ完全には改善していないが、チャンスはきっと存在する。)
と、礼奈は心の中で言葉にする。
アンバイドは、
(……。)
と、ただクローナとニードを見つめるだけであった。
それは、今の流れでは、どっちにとっても自らの勝利を決定づけるものが何もないからである。つまり、クローナとニードの試合の今の状況は、拮抗しているといったとアンバイドは思っている。
ゆえに、今は見ることしかできない。形勢が動く時まで―…。
四角いリングの上。
ニードは、
(威力が強いのは、決まっている。最大限の攻撃だ。)
と、心の中で言うと、実行に移す。
「炎竜!!」
と、ニードは炎竜に命じる。
炎竜は、口のようなものをあけ、そこに炎を展開する。それは、みるみる多くなっていく。
クローナはそれに気づく。
クローナは危ないと判断して、駆けだそうとする。
しかし、そんなことをニードがさせるわけがなかった。
「残念だが、すでに準備は完了している。」
と、ニードは言う。
そう、完了しているのだ。炎竜の攻撃は―…。
「!!!」
と、クローナは動揺する。
クローナにとっては、想定外でしかなかった。炎を展開して、大きくするのだって、時間がかかるはずだ。前の火の玉の攻撃は、明らかに攻撃までにラグが発生していたからだ。
だけど、クローナも動揺しているわけにはいかなかった。
「白の水晶」
と、言って、防御テントを展開する。
展開しようとする間に、ニードは、
「いけ――――――――――――――――――、炎竜――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。」
と、叫び、炎竜に命じる。
そして、
「火炎放射!!!」
と、言う。
そうすると、炎竜は、クローナに向かって、火炎放射を発射させるのだった。
放たれた火炎放射は、クローナを覆った。あの中にいては、燃やし尽くされてしまうのではないかと外から見ているものに思わせるほどに―…。
(これぐらいじゃ、ダメージを受けないのだろう。なんて、体をしているんだ。だけど、これならどうだ。)
と、心の中でニードは言う。
それは、前に火炎放射をクローナに対して放った時に、クローナが一切のダメージも火傷したあともなかったからである。
ゆえに、
「最大!!!!!」
と、ニードが言う。
炎竜は、今放っている火炎放射を最大限の威力にするのだった。
【第72話 Fin】
次回、最大の次はフルバーストで!!
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
ニードとの戦いは、次回も続くと思います。クローナVSニードの戦いはちゃんと決着がつきます。次回の更新あたりでその傾向は見えると思います。
では、次回の更新で―…。