第70話-1 第八回戦
前回までのあらすじは、セルティーは瑠璃に、二年前に起こった自らの父がランシュによって暗殺されるという出来事を―…、そして、そのことによるセルティーはランシュへの復讐をしようと決意したことを―…。だけど、瑠璃は、セルティーが本当の意味でランシュへの復讐をしようとしているのか疑問に思う。セルティーの本心を問う。そして、セルティーはわからなくなってしまうのであった。
第70話は、分割することになります。第68話や第69話のようには長くならないと思います。
前回の更新で、70万文字をこえました。(2021年3月4日16時17分に追加)
第八回戦がおこなわれる日。
リースの中にある競技場の中央の舞台。
すでに、四角いリングをはさんで、片方の側には、瑠璃チームのメンバーがいた。
瑠璃に関しても、エリシアの言いつけ通り、二日ほど修行をしないというルールを守り、その後に修行を開始したという―…。
この一週間ですっかり瑠璃は、第八回戦でも十分に戦えるぐらいには回復していた。全快とも言っていい。一回りぐらい実力としても、成長した感じだ。瑠璃はそのように実感することができていた。
しかし、この第八回戦、瑠璃は第七回戦と同様に最後の方になってしまった。それは、第七回戦がおこなわれた翌日の夜に時間を遡る。
アンバイドが、
「第八回戦に関しては、ダメージの大きい瑠璃に関しては、最後の方にまわす。回復に関しては、第八回戦までには完全に回復するだろうが、万が一のこともある。後の順番に関しては適当でいいだろう。」
と、言った。
その意見に対して、瑠璃以外の全員が瑠璃を最後に回すことに賛成した。
その時、瑠璃は、
「私なら大丈夫だよ。今でもこんなに動くことだってできるよ。」
と、言って、部屋の中を走ろうとする。
さらに、シャドーボクシングを始めて、いけますよアピールをする。
「ということで、瑠璃を最後に回すことは、多数の賛成により決定された。で、第一試合に出たい奴―…。」
と、瑠璃を無視して、アンバイドは第八回戦の出場の順番を決めようとする。
その無視を見た瑠璃は、ショックのあまりに部屋の隅でしょげてしまうのだった。体操座りをして、右手の一指し指で床に何かを書き始めるのであった。そう、瑠璃はいじけてしまったのだ。それも実際には長く続くことではなかった。
一方で、瑠璃以外の、李章、礼奈、クローナ、セルティー、アンバイドとしては気持ちは一致していた。第七回戦第六試合でのレラグとの戦いで、瑠璃はかなりダメージを受け、試合には勝ったが、試合後に倒れるほどであり、エリシアからは二日ほど修行を禁止されたのだ。
そんな人間を、第八回戦のはやい試合の方に出場させるのは危険であると判断した。試合で勝つことはできるだろうが、万が一にもダメージが完全に回復していないこともあるかもしれない。そうなってしえば、瑠璃の体に一生治らない傷だって負わせてしまうかもしれない。
そんなことを礼奈や李章が許すとはとても思えないし、許すわけがない。
だから、瑠璃は最後の方にして、相手チームの人数が五人以下であることを祈ることとしたのだ。
まあ、そんなことは、瑠璃にわかるわけがなかった。第三者の立場に瑠璃がいれば、わかったかもしれないが―…。
こうして、第八回戦の出場する順番が決められていったという。
時は戻る。
瑠璃は、第八回戦の出場する順番を決めている時のことを思い出していた。
「今からでもいいから、第一試合に出場したいです。」
と、瑠璃は礼奈に懇願するように言う。
「ダメ。瑠璃は、今日、試合に出場しないぐらいでいいの。第九回戦のためにその気持ちをとっておきなさい。チームの大将みたいなもんなんだから、最後ぐらいでいいじゃない。そっちのほうが、カッコイイよ。」
と、礼奈は少し面倒くさそうに言う。
(瑠璃、戦闘狂になっちゃったの。それは、ダメだよ。)
と、心の中で礼奈は親友である瑠璃に対して思うのである。
礼奈としては、瑠璃が戦闘狂になったとしても、親友であることには変わりない。それでも、瑠璃が戦いを求めまくるのはよくないことだ。親友が変な道へ行くのだけは何としても阻止がしたかった。
一方、瑠璃としては、成長した実感がわかる以上、実際に戦ってみてそれを確かめたかったのだ。実戦のほうが実感しやすいということもあるから―…。決して、瑠璃は戦闘狂になったわけではない。
ここに、瑠璃と礼奈の勘違いがまた一つ発生することになる。途轍もなく小さなことであり、大きな問題にはならない程度の―…。
瑠璃は、ここでガックリとしてしまうのかと思いきや、クローナの方に向かって行く。
それに気づいたクローナは、瑠璃が何を言おうとしているのかがわかり、
「第八回戦の第一試合は、変わってあげないよ。」
と、言う。
そう、クローナが第八回戦第一試合に出場することになっている。それは、第七回戦後の翌日にアンバイドの部屋で、チーム全員で意見をとって決めたことである。
クローナ自身も、自ら率先して第一試合に出ることの意思表示をしていた。理由は簡単だ。このまま試合に出場する順番で迷っていたら、瑠璃がその中に割って入って、無理にでも第一試合に出場する意思表示を激しくする可能があったから、自らが率先することで、瑠璃の試合を第六試合にしか出場できないようにしたのだ。
他の試合でも同様であった。つまり、言ったわけではないが、瑠璃以外のチームのメンバーが、どうするか、無意識のうちに意見が一致しており、かつ、どうするべきかが共通していたのだ。
クローナの言葉を聞いた瑠璃は、
「そんな――――――――。」
と、落ち込むのであった。
瑠璃は、心から涙を流していたのだ。実際に、目から涙が出ていたのであるが―…。
リースの競技場の観客席の中にある貴賓席。
トン、トン、と足音がする。
そう、足音だ。それも、いくつもだ。
その音の重なりとズレが、幾人という数を他者にわからせるのだ。
それは、時には他者にそれを恐れさせるのだ。
そして、足音をさせていた人たちが貴賓席へとたどり着く。
「まだ、始まっていないようだな。」
と、ランシュは言う。
そう、来ていたのは、ランシュ、ヒルバス、それに加えて一人である。
「あの~、すみません。私はすでに負けたのです。ここに来る必要はないと思うんですが、ランシュ様―…。」
と、ぎこちなく言う一人の人物がいた。
「レラグ。いいじゃないか。処分をなしとして、処罰として、第九回戦までは来てもらうぜ。」
と、ランシュはレラグに向かって言う。
(……………。)
と、心の中でもレラグは無言になってしまう。
なぜ、ここにレラグがいるのか。
それは、少しだけ時を遡ることになる。
【第70話 第八回戦】
第七回戦がおこなわれた日の夜。
場所がリースの郊外で、ランシュが居住している屋敷の中。
そこのほとんどの部屋は、夜のため暗くなっていた。電気というものがないのだから仕方ない。
その中でも、薄暗い明かりがある部屋があった。
そこは、ランシュが客人と謁見する場所であった。
その中にいたのは、ランシュは当然のこととして、ヒルバス、そして、レラグがいた。
理由は何であるかは、わかっていた。レラグが瑠璃に負けたことに対する対応だ。
レラグは震えていた。それでも、言わないといけないことがある。
「あ~……、すみません。第七回戦負けてしまいました。」
と、ランシュに向かってレラグは謝罪する。
それは、レラグ率いるチームが、第七回戦で瑠璃チームに一勝もできずに負けたことだ。そのせいで、ランシュから厳しい処分を受けることが確実なのではないかと思い、怯えてしまっていた。
(処分されなければいいのですが―…。)
と、心の中でさえも強く思っていた。
ランシュという人物は、温情的ではあるものの、冷酷性をも兼ね備えてもっているからだ。
「レラグ。」
と、ランシュは少しだけ冷たそうな言葉でレラグに向かって言う。
そのランシュの言い方が、レラグをより恐怖の底へと突き落とすのである。そこには底をこえる深さがあり、さらに落ちることができるのではないかと思わせるほどだ。
そのレラグの怯えが反映されたのだろう。レラグは、
「はい!!!!」
と、声を上ずらせて大きく言う。
レラグの怯えはマックスをむかえようとしていた。
そんなレラグの怯えは、ランシュにもヒルバスにもわかった。分かりやすすぎたのだ。
(怯えすぎていますよ。レラグ。そんな怯えていると、あなたが女性だったら襲っちゃいますよ。まあ、冗談ですけど―…。)
と、ヒルバスは心の中で冗談すら言い始めていた。たちの悪そうな冗談であるが―…。
「第七回戦でのレラグチームについての敗北に関しては―………………………、処分なしだ。」
と、ランシュはわずかばかり、間を開けて、言うのであった。
それは、レラグが怯えているので、少しだけ遊びたくなったのだ。その表情がどこまですごくなるのかを期待して―…。
それでも、あまりにも怯えさせることに対して罪悪感を感じたので、処分がないということを告げた。別に、レラグを処分したいということは一切考えていなかったのだ。考えるわけもない。
レラグは、
「…………………………………………………………………へ…。」
と、惚けてしまう。
レラグの表情は、口をパカァ~と開いて、そのままになるのであった。もう、それは、アホのなのではないかと多くの他者が見ればそう思ってしまうのではないかというものだった。
それが数秒の間、続くことになった。
我に返ったレラグは、
「失敗の処分は―…。」
と、恐る恐るランシュに聞くのであった。
どうして、負けた自分が処分されないのかを―…。
実際、レラグは、ランシュによって処分されたいとは思っていない。それでも、レラグは、討伐対象である瑠璃に負けた以上は何らかの処分が下るのではないかと考えていた。失敗した他の者が処分を受けたかどうかは知らないが―…。
「そんなものは、最初からない。ただし、処分をするというのは、意図的に失敗したと判断した時だけだ。今回のレラグ、お前の試合を見たが意図的に負けようとしたわけではないだろう。」
と、ランシュは言う。
そのランシュの最後の部分を聞いたレラグは、
「そんなつもりはありません。」
と、はっきりと言う。
意図的に試合に負けようとしたわけではないことは、はっきりと自信をもって言うことができる。それは、レラグは試合で相手の実力よりも上で戦うのにどれくらいにするかという判断をするだけであり、手を抜いたり、負けたりしようとはいっさい思ってもいないし、その行動をとろうともしていなかった。
「なら、処分に関してはなしだ。それに、あれは―…、予想外の出来事だろう。」
と、ランシュは言う。
その言葉にレラグは理解する。この場にいる、ランシュ、ヒルバス、レラグが一致したことを思う。
それは、瑠璃が剣を抜いた時に、杖で戦っていた時よりもはるかに強くなっていたこと。強い力をもっていたことだ。
ランシュとしては、それは、予想することのできなかったことだ。剣を抜いただけで天成獣としての力が強くなるわけがない。天成獣から強い力を使わせてもらうには、それなりに天成獣との信頼関係をしっかりと構築しておく必要がある。そして、天成獣との相性もある。たとえ、天成獣が宿っている武器に選ばれたとしても、そのなかで、どれくらい相性をよくするかが強くなるための鍵であり、戦闘の経験が技量に反映する。
だから、あり得ないのだ。瑠璃は、剣を抜いて戦うようにしただけだ。
実際は、ランシュ達は気づかなかったが、瑠璃の持っている武器に宿っている天成獣であるグリエルは、天成獣の個体としての力がものすごく強くて、その武器を選ばれた者でも、体をしっかりと慣らしたり、扱い方をしっかりと理解しないと扱いこなすことができないのだ。
ゆえに、グリエルがどこまで扱えるかを判断したうえで、発揮させる力の量をどれくらいにするかを決めていたのだ。強大な力であるがために―…。
「そうですね。ランシュ様の言う通りです、レラグ。あなたほどの人物が手を抜くとは思えません。それでも処罰を欲しているのならば、こんなのはどうですか、ランシュ様?」
と、ヒルバスは何かを良い案を思いついたように言う。
ランシュは、ヒルバスの言葉に疑問を思い、
「どういうことだ。何かそれは、良い案なのか?」
と、問う。
そのやり取りを見ているレラグは、怯えてしまう。何かランシュの逆鱗にでも触れたのか、と思い。
「ええ、とてもとても良い案だと思っています。レラグには、第九回戦まで、試合のある日は、貴賓席まで確実に来てもらうということにしましょう。そっちのほうが、処罰としては、面白いものか、と。」
と、ヒルバスはレラグの処罰の案を提案する。
ランシュとしては、別に処分、もしくは処罰に関してはどうでもいいと思っているし、レラグに下したいとは思っていない。レラグは、意図的に負けようとしたわけではなかったのだ。
それでも、ランシュは考えた。
(一応、処罰があったほうがいいか。ヒルバスの案を処罰にした方が、レラグにとっても良いだろう。厳格な処罰をさせるよりも―…。)
と。
「なら、ヒルバスの案をレラグの処罰とする。処分することは撤回したうえで―…、だ。」
と、ランシュは言う。
レラグは、
「あっ…、はい。」
と、言う。
レラグは、この時、複雑な気持ちとなっていた。それは、試合の観戦を強制的に決められるという、どういう処罰なのこれ? というように思うのであった。
そして、レラグの頭は、しばらく思考停止状態となってしまった。
時は、第八回戦がおこなわれる日。
貴賓席では、すでに到着していたランシュ、ヒルバス、レラグが中央の舞台の方を見る。
三人は、試合が開始される時間になるのを待っていた。
中央の舞台。
すでに瑠璃チームは、全員来ていた。
一方で、第八回戦の瑠璃チームの対戦相手となるチームまだ来ていなかった。
そして、試合の時刻が迫っていた。
その時、中央の舞台へと向かう足音が聞こえ始めた。
瑠璃チームとは反対側の通路から、対戦相手のチームが登場するのであった。
その数は三人。イルターシャ、ニードと一人を加えたチームである。
第70話-2 第八回戦 に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
次回の更新で第八回戦に入っていきます。今度は、イルターシャやニードが瑠璃チームの対戦相手となります。とある人の成長が描ければいいなと思います。今はまだ、秘密ですが、イルターシャ戦になるとわかると思います。
最後に、次回の更新は、2021年3月6日となります。理由は、ストックがなくなってきているからです。予定としては、第八回戦は3月中のほぼ終わるとは思います。更新を頑張ればですが―…。そんなに長くはならないとは思います。そろそろリースの章は中盤から後半へと差し掛かります。
以上、次回の更新で―…、では―…。