第69話-4 行く末を見守る者の始まり
前回までのあらすじは、メタグニキアはヒルバスによって裏切られ、殺されるのであった。ランシュとヒルバスの関係は?
ランシュは、悲しくなかった。
ただ、一人の五月蠅い人間が生の終わりを迎えた。
自らのことにしか興味なく、他者を陥れても自らの利益をだすことにしか興味のない人間が―…。
ランシュ自身も言えたことではないが、復讐対象以外についてはなるべく殺したいとは思わなかった。それぐらいには、他者のことを考えることはできる。これは、自らの我が儘でしかないことだが―…。
他者に対して、ある程度の配慮をはかることは、自らが生き残っていくうえで必要なことだ。メタグニキアには、それが欠けていた。ゆえに、選択を間違え、自らの生の終わりを経験することとなる。その後の世界があるかどうかなど、経験した本人しか知らないのかもしれない。わからないことだ。
残酷な光景は、謁見の間にいる人々に衝撃を与える。わずかであるが、メタグニキアの殺される場面にショックを受けて、倒れる者がいた。心の負荷が大きすぎたのだろう。その人は弱かったのではない。自らを守ろうと無意識になってしまったことだ。
「ヒルバス、今日からは俺の専属の守護者にする。」
と、ランシュはメタグニキアの生を終わらせたヒルバスに向かって言う。
「はい、その言葉に感謝いたします。これから、ランシュ様の盾となり、剣となり、リース王国のために仕事をさせていただきます。」
と、ヒルバスは跪き、ランシュに向かって頭を下げるのであった。
まるで、それは、忠誠の誓いをするのかように―…。
いや、誓いをしていたのだ。今のヒルバスの行為は、それを対外に対して示すためのものにしかすぎない。
そう、ヒルバスは元々、騎士であり、ランシュとは同僚や仲間のような関係であった。それは、ランシュが騎士の見習いとして、リース王国の騎士団に入団したときからの知り合いであった。お互いに年齢が近く、ヒルバスの方は騎士団の試験を受けて、採用され、騎士として入団しており、よく話し合うことのできる関係になっていた。その後、ヒルバスは、気配を消したり、相手の裏を突くこと、相手の心理を読むことに長けていたことから、裏の仕事をするようになった。それは、ランシュも知っていたし、ヒルバスがリース王国の裏の仕事をする部隊に推薦されたからだ。そのまま、ヒルバスにその仕事をするように勧めた。なぜなら、ヒルバスは、ランシュが復讐していることを知ってしまったためだ。その時、ベルグと一緒にいるところを見られてしまい、ベルグの勧めとかあって、ランシュのリース王国の王レグニエドへの復讐に協力するようになったのだ。以後、ランシュは数年前にセルティーの護衛騎士に、ヒルバスは一年前にメタグニキア専属の裏の役職につくことになった。
結論から言おう、ランシュとヒルバスは、繋がっており、双方とも、離れていた期間も互いに連絡をとりあいながら、レグニエド暗殺のための方法とリース王国への復讐の計画を準備していたのだ。誰かに気づかれることもなく―…。
それは、可能だった。ランシュはベルグと騎士になる前から繋がっており、ベルグから結界をはる装置をもらっていたからだ。そのため、リース王国の騎士も気づかなかったし、さらに、ランシュを要注意人物であるとも認識していなかった。ランシュがリース王国の騎士団に入隊する時に、ベルグによって書類の出身地に関する欄を偽造していたからだ。それで、気づくことができなかった。
以上の理由で、ランシュに対して、警戒するべきであるということに対する認識できなくなっていたのだ。
一方で、セルティーは、
(メタグニキアの裏でやっている人物が、ランシュに跪いている。最初から、あの人物は繋がっていたのかランシュと―…。)
と、心の中でヒルバスがランシュと繋がっていることを理解するのであった。
(でも、今はとにかく―…!!!)
と、セルティーは心の中で言う途中で何かに気づく。
そう、上に何かがあると―…。ゆえに、セルティーは上を向く。
「!!!」
と、セルティーは驚く。
リーンウルネが動けなくなった理由がそこにあることを理解した。そう、セルティーの真上に、大きな物体があったのだ。透明であるが、そこに何かがあるのがわかった。
(あれは―…、一体誰が…。狙われているのか私は―…。一体誰に―…。)
と、セルティーは考え始める。
そして、勝手な結論に気づく。それは―…、
(ランシュ!!)
と、いう結論に―…。
実際には、ミドールがメタグニキアの命令でリーンウルネに言葉を発せさせないように仕掛けたものであった。それをセルティーが気づくはずもなかった。その時は、レグニエドがランシュによって刺されたことに対して悲しんで周りなど見えていなかったのだから―…。セルティーを責めることはできない。誰しも、親しい者が自らの肉親を刺したのが、そのことで考えられなるし、悲しくなるのは、多くの場合でそうであろうし、セルティーはその例に該当したのだ。
そして、セルティーは、ミドールによって動けなくされているリーンウルネに気づかなかったのだ。自らの父親を刺したランシュがどうなったかにしか今の頭の中で考えることができていなかったのだから―…。それほど、ショックを受ける出来事であったからだ。
ゆえに、ランシュは、父親であるレグニエドだけでなく、自らも殺そうとしているのではないかと疑ったのだ。同時に、そうであってほしくないと思った。もし、自らも殺そうとしているのなら、怒りしか感じられず、今度は、ランシュに対する恨みが形成されていくのだ。愛は時に、失望という負の感情を掛けることによって、憎しみという概念を増幅させる。
セルティーは、ランシュの元へと駆けていく。父親であるレグニエドを殺したという恨みを抱いて―…。自らの失望もそれに重ねて―…。愛は恨みへ、憎しみへと変わり、ランシュと同じ復讐者へと変わっていく。復讐の連鎖を形成していく。
「ランシュ―――――――――――――――――――――――――――――――。」
と、セルティーは叫ぶ。
セルティーは、ランシュの近くにあった、いや、ランシュが持っていた長剣、そう、レグニエドを刺した長剣を引き抜いて構え、ランシュに斬りかかろうとした。
それを見たランシュは、
「知らないほうが幸せか。復讐心は生きる力となるから。今のままの認識させておくか。」
と、小さい声で確信したように言う。
ランシュには、わかったのだ。復讐心を抱く気持ちを―…。だって、ランシュは、復讐するためにここにいたのだから―…。すでに、復讐の一部はすでに果たされたのだから―…。
セルティーは、ランシュを斬ることができる距離までくると、すぐに上へ剣を振り上げる。
しかし、
「ガッ。」
と、声を漏らし、倒れるのだった。
それは、ランシュにとってなされたことだ。ランシュはセルティーが剣を振り上げる同時にセルティーのかなり近くまでに向かい、気絶させるのだった。手とうで―…。手加減したうえで―…。
倒れるセルティーをランシュは支えるのだった。
支えることに成功する。
そして、セルティーには悪いとは思ったが、今、この場でランシュは、戦い止めることはできなかった。そう、セルティーの頭上に透明な大きなものがあったのだ。それが落下してしまえば、天成獣の力を扱っていない者にとっては、瀕死もしくは生の終わりをもたらす。
だけど、ランシュにとっては、フォルクスと戦うよりも楽なものにしか見えなかった。
その大きな透明なものをセルティーの真上にしているミドールは、
(フフフフフフ、セルティー様、ありがとうございます。これで、私がリースの実質的な権力者だ!!! 潰されろ、ランシュ!!!!!)
と、心の中で言うと、ミドールは大きな透明なものを落下させる。
そう、ランシュとセルティーに向かって―…。
そうしようとしていることに気づいたリーンウルネは、
「やめろ!!」
と、抵抗する。
その時には、すでに遅く、大きな透明なものは落下を開始していた。そして、ミドールから脱出することにリーンウルネは成功する。
リーンウルネは、走りだす。ランシュのいる方向に向かって―…。それは、ランシュに対する復讐ではなく、セルティーの命を純粋に守りたかったからだ。自らの娘を死なせないために―…。
それでも、間に合うはずはなかった。距離がありすぎたのだ。
そう、リーンウルネは絶望するしかないであろう。
しかし、絶望はなかった。あるはずもない。セルティーは意識を失っている。さらに、ランシュがセルティーを支えている。
ランシュは、支えている手とは違う、反対の手で大きな透明なものを持つような形にする。
「この程度で、殺せると思ったのか。ミドール。お前は浅はかだ。消えろ。」
と、ランシュは言う。そうすると、反対の手で触れていた大きな透明なものが消滅していくのだ。これは、重力によって押しつぶされるような感じであった。
その様子を見たミドールは、
「なぜ、なぜ効かない…。」
と、動揺するしかなかった。
ミドールとしては、この一撃でランシュを倒すことができると本当に思っていた。ランシュは右腕でセルティーを支えており、左腕は土色のものが覆われているが、それでミドールが展開した透明な大きなものが防げるとは思っていなかったのだ。
そのような勘違いが今のミドールの動揺を生み出していたのだ。
ミドールの表情を見て、ランシュは呆れかえっていた。
「それでよく、リース王国の騎士という役職ができるなぁ~。確か、ミドールだったか。ミドール、お前のような欲に目がいき、騎士としての誇りを捨てたのなら、もうその騎士である職を辞めたほうがいい。これ以上、俺を怒らせるのなら、次はない。」
と、ランシュはミドールに対して、リース王国の騎士であることを辞めるように勧める。
それは、ミドールがすでにメタグニキアの騎士を務めている間に、欲塗れになってしまい、リース王国の騎士として相応しくないと判断したからだ。ランシュとしても、自らがリース王国の騎士として相応しいかというと、相応しいとは思っていない。それは、騎士団に入るその時からずっと思っていたことだ。リース王国の王に復讐することが重要な目的であったのだから―…。
そして、ランシュは自らのさっきの言葉の後半で、威圧するかのようにして強制させようとした。それは、欲塗れの人間がこれ以上自らだけの欲を満たすためだけにこれ以上他者に対して不利益を強いるのなら、この場での命はないという意味を込めていたからだ。
「ふん、貴様など、この俺が倒せしてやる。今すぐにな!!!」
と、ミドールは言うと、攻撃を繰りだそうとする。
「時間がかかりすぎだ。ヒルバス。」
と、ランシュは呆れながら言う。
ランシュとしては、これ以上、ミドールのアホな攻撃を見たいとは思わない。これ以上、他の者に危害を加えることは、ランシュにとって望ましいものではないと思った。それは、危害などを必要以上に加えてしまえば、恨みを必要以上にかってしまうからだ。いくらランシュといえども、多くの恨みに対処できるわけではない。対処できるのにも限度というものが存在する。
そして、ランシュの言葉を聞いたヒルバスは、
「はい、かしこまりました。ランシュ様。」
と、言うと、すぐに、ミドールへと向かって高速で移動した。
ヒルバスはメタグニキアを殺すのに使ったブレイドを持って―…。
リーンウルネはすでにミドールからかなりの距離を離れていたために、ミドールへの危機に対処することができない。心の奥底では対処しようとは思えなかったのだ。ミドールの言葉がそうさせてしまったのだ。
だから、
(実力差をしっかりと理解しろ、愚か者。)
と、ランシュは心の中で言うのであった。
そして、ミドールは、
「ヒルバス、一緒に仕事をしていて、メタグニキア様を裏切るとは―…。」
と、言いながら、ヒルバスが向かってくるほうに視線を向け構える。
だが、この時すでに、ミドールの向いて視線に、ヒルバスはいなかった。
そして、ミドールは恐怖を感じた。これで人生が終わると思わせるほどの―…。
「ミドールごときの動きなど簡単に読めます。」
と、ヒルバスは言う。
その時、ヒルバスはすでに、ミドールの真後ろで、すぐそのそばにいたのだ。ブレイドをすでに構え終えていた。攻撃をすることがいつでもできるように―…。
そして、ヒルバスはブレイドを振るう。ミドールの首に目掛けて―…。
ミドールは、生を終え、視界を永遠の黒へと飲み込まれていったのだ。
第69話―5 行く末を見守る者の始まり に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
次回に関しては、早ければ明日の2月28日に更新すると思います。場合によっては、3月1日になると思います。つまり、2月28日か3月1日のどちらかで次回の更新をおこなうことになります。
あと、もう少しで瑠璃とセルティーの場面へと戻れると思います。次回ではありませんが―…。本当にあともうちょっとです。
では、次回の更新で―…。
2022年1月21日 「それは、ランシュが騎士の見習いとして、リース王国の騎士団に入団したときからの知り合いであった。お互いに年齢が近いということや、他に見習いがいなかったということもあり、よく話し合うことのできる関係になっていた。その後、ヒルバスは、気配を消したり、相手の裏を突くこと、相手の心理を読むことに長けていたことから、裏の仕事をするようになった。それは、ランシュも知っていた。そのまま、ヒルバスにその仕事をするように勧めた。なぜなら、ヒルバスにランシュは、自らがどうしてリース王国の騎士になろうとしているのかという理由を話してしまったからだ。それを聞いたヒルバスが、「おもしろいですね。私はランシュのことを信頼できますよ。」と、よくわからないことを言って、リース王国への復讐に賛成したのだ。」の部分を「それは、ランシュが騎士の見習いとして、リース王国の騎士団に入団したときからの知り合いであった。お互いに年齢が近く、ヒルバスの方は騎士団の試験を受けて、採用され、騎士として入団しており、よく話し合うことのできる関係になっていた。その後、ヒルバスは、気配を消したり、相手の裏を突くこと、相手の心理を読むことに長けていたことから、裏の仕事をするようになった。それは、ランシュも知っていたし、ヒルバスがリース王国の裏の仕事をする部隊に推薦されたからだ。そのまま、ヒルバスにその仕事をするように勧めた。なぜなら、ヒルバスは、ランシュが復讐していることを知ってしまったためだ。その時、ベルグと一緒にいるところを見られてしまい、ベルグの勧めとかあって、ランシュのリース王国の王レグニエドへの復讐に協力するようになったのだ。」に修正。
後の部分のランシュの視点からの過去を描いた時に、この部分の当初の記述を忘れてしまったのが原因です。そして、考えた結果、後の部分の方が自分なりにストーリーとして良いと判断し、このように修正することにしました。申し訳ございません。
これからもこのような設定ミスは発生すると思いますが、気づける範囲で修正していくと思います。なるべく気を付けるようにします。ミスの発生をゼロにするのはかなり難しいので―…。