第69話-3 行く末を見守る者の始まり
更新が遅くなってしまいました。誠に申し訳ございません。一応、不定期で更新していくことになります。今年の2月中旬からのほぼ毎日の更新は、執筆するペースが速くできたことによります。今は、少し疲れがあるのだと思います。これからは、ゆっくりとですが、頑張って更新していくと思います。
では、前回までのあらすじは、リース王国騎士団との対決となり、ランシュは彼らに対して圧倒的な力を示すのであった。
「ガ…ハッ!!」
と、フォルクスは謁見の間の入り口の大きな扉から飛ばされ、その奥にある壁にぶつかるのだった。
ランシュの一撃と、壁への衝突のために意識を失い、気絶するのだった。
(あんなもの…、リース王国にいる騎士、誰一人としても勝てるわけがない。何なんだ、ランシュは…。)
と、心の中で絶望するのだった。
そう、フォルクスの今までの人生の中で最大の絶望であった。これから一生、心の傷として残るぐらいの強いものであった。まるで歯が立たなかった。一撃すら与えることがフォルクスのこれからの人生という死にいたるまでの時間をいくら使ったとしても無理なのではないかと思わせるほどに―…。
一方のランシュは―…。
「騎士たちよ。フォルクス騎士団団長は俺が倒した。もうこうなっては、数を利用しても俺にあっという間に倒されてしまうぜ。ここは、さっさと俺に降伏したほうがいい。俺は、何度も言うが、騎士を殺したいわけではない。お前たちのような、ただただ職務に忠実で、利権をほぼ貪ろうとせず生きているものを殺すのはこっちとしても忍びない。」
と、言う。
ランシュは本心から今のことを言う。実際に、そうなのだ。復讐対象以外は、必要以上に殺したいとも思わない。さらに、今、騎士を殺すことは良い選択肢だとは思えない。この後のことを考えると―…。だから、さっさと騎士たちは降伏してくれるとありがたいし、そうしてほしい。
それでも、ランシュの降伏勧告を無視させるようなことを言おうとする者がまだここにはいた。
時を少し戻す。
ランシュがフォルクスと一対一の勝負になりそうな時。
宰相であるメタグニキアは、ヒルバスに命令した後、
(ランシュがこの反乱を起こすということは、それなりに対処できると踏んで来ているに違いない。なら、念には念を入れて、ヒルバスにあいつをやってもらおう。すでに、リーンウルネは動けなくしているし、セルティーにいたっては、泣き崩れて周囲が見えていない。さらに、招待客はただ騒然として動く気配はない。後は―…、フォルクスがランシュをやるのを待つだけだ。)
と、心の中で言い、ただ、ランシュがフォルクスによって殺されるのを待っていた。
待っているだけでランシュを殺すということは、達成されるだろうと思っていた。
それは、
(ランシュは、フォルクスとの戦いで勝ったことは一度もない、たとえ、飛行できたぐらいで、強い奴に勝てるわけがない。血迷ったな。いくら対処法があったとしても意味がない。)
と、心の中で余裕をも感じていた。
その余裕は、メタグニキアの勘違いでしかなかった。相手の実力をしっかりとはかることができれば、見逃すことのできないようなものであった。それも、実力者で、かなり腕のたつ者であればわかったことであろうが、生憎メタグニキアは、戦闘に関しては素人のそれでしかなく、戦闘という野蛮なものは他人に任せておけばいいと思っている。
ゆえに、戦闘に関しての知識や心構えなどもないし、ランシュの隠していた力がどれくらいなどと見破るのは不可能であった。そういうのを読むことに長けたものであったならば、騎士に命令して、ランシュを殺そうなんてせず、すぐに、ランシュに降伏するという選択肢をとっていただろう。それでも、レグニエドに真の意味での忠誠を誓っていたのであれば、ランシュに降伏するという選択肢を拒否して、戦ったであろうが―…。
レグニエドに対する真の意味での忠誠心、戦闘での知識と経験の双方が欠け、かつ、自らの私欲のみにしか興味がなく、他者など自分が不利になれば、簡単に見捨てるような人物であるメタグニキアは、己の権力と地位と名誉のため、ランシュに命令し、騎士団団長フォルクスをランシュによって倒されるという事態に遭遇するのである。
ドン、と、謁見の間に入る扉から音がした。
その音には、誰もがそこへと視線を向けたのである。
泣いていたセルティーさえも―…。
(……、ランシュ…。)
と、心の中でセルティーはランシュの名を言う。
セルティーは、今までの時間ずっと今まで、泣き続けていたのだ。音がわからないぐらいに―…。深く深く心を沈めていたのだ。自らの父であるレグニエドが自らの護衛であるランシュに刺されるのを見て―…。
今の音が沈めていた心を再び、今現在起こっている事態へと無理矢理に向かわせるのだった。
そして、セルティーは立ち上がって、音のある方向を向く。
その時、リーンウルネは、好機と見て、脱出を考えてわずかばかり動こうとするが、
「無駄ですよ。リーンウルネ様。セルティー様が動けば、あれもセルティー様の方に向かって移動しますから―…。」
と、耳打ちするようにミドールは言う。
そのため、リーンウルネは、再び動くことをやめた。とにかく、対処する方法を考えて、どうやって別の人間に伝えるか思案しないといけないのだ。ゆえに、リーンウルネは自らの不甲斐なさに憤りを感じるのだった。
セルティーは、ランシュのいる方向を見る。見続ける。
セルティーは、多くの騎士が倒れていることに、さらに、ランシュが立っていることに気づく。
(リースの騎士たちが!! …ッ!!! ランシュ…なのか…あれは!!?)
と、倒れている多くの騎士がいることに驚き、ランシュの姿が変わっていて、だけど、何となくランシュだとセルティーはわかったのである。
ただし、疑問形になってしまうの仕方がない。ランシュは全身を土色で覆われているのだから―…。セルティーもランシュがランシュ自身の天成獣を扱っての戦いを見たことはある。悪魔のような羽で空中から相手を優位に攻撃するのがランシュの戦い方であることを知っている。だから、全身に覆っている土色のものに対して、驚かずにはいられない。声で発するほどができないほどに―…。
そして、ランシュは、先ほどのことを言う。
「騎士たちよ。フォルクス騎士団団長は俺が倒した。もうこうなっては、数を利用しても俺にあっという間に倒されてしまうぜ。ここは、さっさと俺に降伏したほうがいい。俺は、何度も言うが、騎士を殺したいわけではない。お前たちのような、ただただ職務に忠実で、利権をほぼ貪ろうとせず生きているものを殺すのはこっちとしても忍びない。」
と。
セルティーは現状を見て、すぐに理解することができた。フォルクスがこの場に立っていないのだ。姿もないのだ。ゆえに、ランシュに対して降伏することしかできない。降伏するしか生き残る方法はないと悟ったのだ。
一方で、メタグニキアは、動揺していた。
(なぜだ。どうなっている。おかしいだろ!! ランシュは、フォルクスに勝てたところなんて一回も見たことはない。どうして、どうして!! あの姿を見ると―…。)
と、心の中で言った後、メタグニキアは考え始める。
そう、ランシュがどうして、メタグニキアを圧倒的な力で倒すことができたのかを―…。
しかし、メタグニキアの頭脳で、それがわかるはずもない。視野が狭すぎるのだ。物事を見るための―…。ゆえに、いくら頭の中にある経験を振り絞ったとしても、良い答えがでるはずもなかった。出てくる答えは、
(そうだ。ランシュは、何かフォルクスの弱みを握ったに違いない。レグニエドを殺すのに、あのような不意打ちをしたのだ。そうに違いない。)
と、心の中で言って、導き出したのだ。
自らの思考でしか考えていないうえでの答えでしかないだろう。もし、戦闘に関して、相手の実力を読むことができるほどのことがわかれば、少しだけましな解答を導きだすことができたであろう。
そして、メタグニキアはさらに、考えを深めようとする。そう、ランシュはどのような弱みを握ったのか。ただし、ここでは、短時間で解答を導き出さないといけない。自らの立場をはやく決めるにこしたことはない。
だから、短絡的で単純な解答となる。メタグニキアがいたりそうなありきたりな解答を―…。
「リース王国最強騎士がこんな圧倒的に倒されることはない!!! きっとランシュがフォルクスの弱みを握ったに違いない!!!! 騎士たちよ囲めば、簡単に倒せるはずだ!!!!! ヒルバス、隙を突いてやってしまえ!!!!!!」
と、メタグニキアは命令する。
その中に、ランシュがフォルクスをどのような方法で弱みを握ったのかというものはない。閃くはずもなかった。自分以外のことなど見えてはいないのだ。だけど、言い方を変えれば、自分のことははっきりと見えているのだ。
だが、ここで求められたのは、他者を知ったうえでどうするかということであるがゆえに、最悪の手をメタグニキアは打ってしまったのだ。
「はい、メタグニキア様。」
と、ヒルバスは命令を受ける。その解釈をヒルバス自身で勝手に変えて―…。
「少しだけ時間をください。大丈夫です。」
と、ヒルバスは追加して言う。
その言葉を聞いたメタグニキアは、焦ったのか、自分の思い通りに動いてくれなさそうなヒルバスに対して、
「時間などかけるでない!! さっさと倒してしまわねば、逃げられてしまう!!!」
と、メタグニキアは言うが、ヒルバスは無視する。
その間に、騎士たちはランシュへ移動しようとするが、ランシュのさっきの騎士たちへの攻撃および、騎士団長であるフォルクスを簡単に倒してしまったせいか、動くことすらできなくなっていた。これでは、メタグニキアの命令など聞こうとするものはいなかった。いるはずもない。誰しも多くの者は、自分の命が大事である。自分の命を守れなければ、他人の命など大切な人々の命など守れるわけがない。そんなことは、多くの者が理解しているし、ランシュの強さや威圧が、騎士たちの体を勝手に動かさないようにしているのだ。そう、少しでも動けば、どうなるかわかっているよな、と雰囲気で感じさせてしまっているのだ。
メタグニキアはそれすら、わからなかった。ただし、自分の命が大事ということではない。メタグニキアほどに、自分の命を大切にしているものはいないだろう。自分のためにしか生きていないのだ。ゆえに、自然と自分が一番に生き残る方法と一番に利益を得る方法についてしか考えていないのだ。メタグニキアの根幹をなしていたのだ。
しかし、それは、メタグニキアから見た現時点での最大の方法だと認識しているものであり、メタグニキアにとって現時点での最大の方法とは限らないのだ。まさに、今はその状態だ。
メタグニキアは騎士たちに対して、
「何をしている!!! さっさとレグニエド王殺しのランシュを始末せんか!!!! この能無しどもが―――!!!!!!」
と、最後には怒声になるように言う。
メタグニキアは、行動に移ろうとしない立っている騎士たちに苛立ちを募らせていたのだ。怒声になるような声をあげるほどに―…。メタグニキアはここまでくると、リース王国の騎士は、たった一人の人物も殺すことのできないほどに弱いのかと思ってしまったのだ。ランシュの実力を理解することができていないがゆえであろう。
ここまでくると、場の空気というものをメタグニキアは読めないのだということを暗に、他国や他領の招待客に対して、認めたようなものだ。
ランシュは、いちいち五月蠅い、メタグニキアに気づく。
(ああ~、今までは、リース王国の中で信頼を得る必要があったから、見逃していたが―…。ここまで、今の状態が見えていないとなると、よっぽどの馬鹿だな。ハルギアの方は、俺がフォルクスを倒した後に、さっさと逃げていきやがった。まあ、いい。たぶん、他国への亡命だろう。そんなことは後でどうにでもできる。折角、生き残るチャンスがあったのに、それを自分の愚かさで無にしてしまうとは―…。ここまで、自分のことしか考えることができなくなるとは―…、。俺もメタグニキアのことは言えんが―…。)
と、心の中で覚悟を決める。
ランシュは、メタグニキアの声は五月蠅く、さらに、まだ、ランシュを倒そうとして騎士を動かそうとしているのだ。今の状況を完全に理解することができていないのだろう。レグニエドが死んだ後、自分が現時点でトップで誰をも動かすことのできる指揮権を得ていると思って、舞い上がっているのか。自分の思い通りにできると思って、見えなくなったな、とランシュは感じていた。
そして、ハルギアが謁見の間からしれっと抜け出していたことにも気づいていた。そこはどうにでもできる方法があるとランシュは考えたので、見逃すことにした。
結局、ランシュは、今の状況でしないといけないことは、何も今の状況を理解できていないメタグニキアの対処であった。
ゆえに、
「ヒルバス。もういいぞ。その何もわかっていないメタグニキアを殺してしまって―…。後、リーンウルネ王妃を人質にしているのもついでにやっておいて―…。セルティー王女の上にあるものも処理したうえで―…。」
と、ランシュはヒルバスに命令したのだ。
「はい。ランシュ様。」
と、ヒルバスは返事をするのだった。
今のランシュとヒルバスのやり取りをメタグニキアは理解することができなかった。
「えっ…ど…。」
と、メタグニキアは言いかけるが、それがメタグニキアの最後の言葉となった。
そう、メタグニキアは、ヒルバスによって、斬られたのだ。首を境に体を真っ二つにされて―…。
その光景に、幾人かは、
「キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア。」
と、悲鳴をあげるのだった。
第69話―4 行く末を見守る者の始まり に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
リーンウルネがなんか、重要な位置になぜかいるのようなか感じがしました。当初はそんな予定ではなかったのですが―…。書いていくうちにそうなっていきました。話を書くってこういうのが起こるので、奥が深いのかなっと思います。
リース王国のとある事件は、もうそろそろで終わると思うのですが、自分はかえって長く感じています。内容を増やしてしまったせいなのかなと思います。そろそろ、第八回戦へと内容がはいってように頑張っていきたいです。では―…、次回の更新で―…。明日に更新するかどうかはわかりませんが―…。