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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
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第69話-1 行く末を見守る者の始まり

前回までのあらすじは、レグニエドがランシュによって長剣で刺されるという暗殺事件が発生する。

第69話も第68話と同様に分割します。内容の追加が多かったためです。

 【第69話 行く末を見守る者の始まり】


 悲しき叫び声が響き渡る。

 謁見の間は、それに独占された。

 声という面では、それに占められてしまったと言ったほうが正しいだろう。

 謁見の間にいる人々の内面を支配したのは、動揺、唖然、何が起きた、というものだった。

 何が起きたのか。それは、ランシュが、自らの主人であるリース王国の王レグニエドを長剣で刺したのだ。

 これは、招待された人々にとって、騒然させる出来事であり、何かが変わるのかもしれない()()であった。

 それは、自らの国や領土が、リースに媚びを売らなくてもいいということになるかもしれないからだ。

 だが、そんな未来を確定付けさせるものではなく、あくまでも希望でしかないのだ。希望は絶え、絶望という瞬間もまだ存在している。それでも、期待したいのだ。希望が叶う日を待ち望んで―…。

 そして、話は、当事者の二人に戻る。

 「ああ、その生き残りだ。家族を失ったな―…。」

と、冷静に淡々と言う。

 感情はそれとは逆に燃え上がっていた。やっと、レグニエドを刺すことができたのだ。復讐できているのだ。

 「き…貴様…。」

と、レグニエドは声を出すが、意識が朦朧とし始めていた。

 そう、レグニエドは、ランシュによって刺された部分からそれなりの血が流れていたのだ。

 「さようなら。」

と、ランシュが言うと、レグニエドに刺していた長剣を引き抜くのであった。

 ランシュが長剣を引き抜く頃に、ランシュへと幾人かの騎士がすでにランシュの方へと向かって行った。

 そのうちの一人の騎士が声をあげる。

 「ランシュ(あいつ)は、天成獣の宿っている武器に選ばれている。気をつけろ!!」

と、叫ぶように―…。

 結局、言い終えたところで、

 「遅いんだよ。」

と、ランシュが言うと、一斉に幾人かの騎士はランシュの攻撃を受けて、その場に倒れるのだった。長剣を離したうえで、体術で、全員を一発ずつの攻撃だけで気絶させたのだ。

 その行動は、謁見の間にいるものをさらに騒然とさせる。それは、ランシュが圧倒的な強さを示していたからだ。

 ただし、騒然とすることができないものがいた。そう、それは、ランシュによって刺され、剣を引き抜かれ、そこから血を出したレグニエドであった。引き抜かれた後、レグニエドの体は倒れていく、その中で、レグニエドは、

 (ランシュ(あいつ)…が……生き残り…………、我の人生もここで終わりなのか。我が何の罪を犯した犯というのか。あれは、あれは、リース王国に反乱を―…。)

と、もう言葉にして他者に伝えることなどできないほどになっており、ただ、ただ、心の中で言うしかないのだ。

 ランシュという人物が、何者であるのかを―…。ランシュが生まれ育った村を滅ぼしたことにレグニエド自身の罪がない理由を唱えながら―…。愚か者は理解していなかった。行動することは、功罪を関係なく、他に与え、時には自らに恩恵を、同時に災厄を降り注ぐということに―…。そこには、主観的な認識によって、はじめて善悪という概念を持ち込まれていることを―…。

 ああ、レグニエドの人生は終わる。愚かという者であるという他者からの評価とともに―…。そんなことは生を終えたレグニエドに分からぬことかもしれないが―…。

 幾人かの騎士を倒すことに成功したランシュは、

 「………」

と、辺りを見渡し、

 「復讐対象は、死んだ。後は、お前ら、リースの王族、来賓に問おう。俺は、別に他領や他国への征服には消極的であり、このような誕生日会のようなものはいらない。それに、リース王国には、しばらくの間、王位をおかない。そして、他領と他国は、リース王国に攻め込みさえしなければ、俺から直接、お前らの領土に対して攻め込みもしないし、滅ぼしもしない。領土の保障をしよう。しかし、一度でもリース王国に攻め込めば、お前らの領土は二度と安全であることも、その領土があることをないと思え。」

と、けたたましくランシュは叫ぶように言う。

 その言葉に、他国や他領の要人は驚きかつ安堵の表情を浮かべる。中には、かえってリース王国を攻めて、自らがこの周辺地域における覇者になろうと考える者もいたが―…。

 「後、これは忘れてはいけないことだったな。交易に関しては、今まで通りの慣習を適用する。」

と、ランシュは付け加えるのである。

 この言葉で、さらに安堵を浮かべるのは謁見の間に招待されてきていた、他領と他国からの要人であった。

 その様子を見ていた、メタグニキアやハルギアの権力の中枢の者たちは、歯ぎしりをさせるのだった。

 (ランシュ(あの野郎)~~~~~!! 何てことを言ってやがるんだぁ~。このままだと、俺たちの利権が奪われてしまう。これ以上、ランシュ(若造)の好き勝手やらせるわけにもいかん。ここは―…。)

と、心の中でメタグニキアは憤る。

 ランシュがレグニエドを暗殺し、宰相メタグニキアは、困ってしまうのだった。ランシュがこのままリースの事実上の支配者と認められてしまえば、メタグニキアは権力を失墜してしまうかもしれない。ランシュに媚びるという方法を考えれば、メタグニキアは生き残れる可能性があっただろうが―…。それでも、自らの下である騎士のランシュが、上である宰相のメタグニキアの関係が逆転して、メタグニキアはランシュに媚びを売らないといけなくなるのを嫌がったのだ。なぜ、下の者である者に様子を伺いながら権力の掌握をしないといけないのか、と―…。

 (まだ、最強の騎士を投入していない。今日は―…。)

と、メタグニキアが心の中で言いかけたところで、扉が一つあき、複数の騎士が侵入してくる。

 その騎士の一番前にいる人物をメタグニキアが見て、喜ぶ。まさに、呼ぼうとしていた最強の騎士であったからだ。

 「フォルクス!!!」

と、メタグニキアが叫ぶ。

 「ランシュ(あいつ)が、王を暗殺した犯人だ。今すぐ、ランシュ(あいつ)を殺せ!!!!」

と、メタグニキアは続けて叫ぶように命令する。ランシュを指差しながら―…。

 さらに、こそこそした声で、

 「ヒルバス!!」

と、メタグニキアが呼ぶ。

 呼ばれると、メタグニキアの近くにその人物が現れる。黒い衣装に身を包まている一人の人物が―…。

 「何か御用でしょうか? メタグニキア様!!!」

と、黒い衣装に身を包んだ一人の人物であるヒルバスが答える。

 ヒルバスは、二年前のこの事件までは、メタグニキアの影となって働いていた。それもその事件から遡ること一年前からのことであった。メタグニキアの影は優秀でなければ、すぐに闇に葬り去られてしまう。その期間は最も長かった者で半年であった。だが、ヒルバスはそれよりも長く、務めることができている。それは、ヒルバスが確実にしくじることがないほどに優秀すぎたのだ。ゆえに、メタグニキアからの信頼も厚かった。

 メタグニキアは、ヒルバスに対して、安心しきっていた。ランシュを殺せるだというぐらいに―…。

 「ヒルバス!! ランシュが王を殺した。ランシュを生かしておくわけにはいかない。あいつを、騎士の視線で夢中になっている間に殺せ。」

と、メタグニキアはヒルバスに命令する。

 「はい―…。」

と、ヒルバスは―…、この言葉を言った後に時間をおく。沈黙を与えながら―…。

 一方で、ランシュとフォルクス率いる騎士の間では―…。

 「ランシュ!!! なぜ、お前はレグニエド王を殺した!!!! 理由を話せ!!!!!」

と、フォルクスは威圧するように言う。

 それは、ランシュが王を殺すという重罪を犯したからだ。これから、ランシュは騎士たちによって殺されるだろう。多くのこの謁見の間にいるものはそう思っているだろう。なんせ、騎士は複数なのに対してランシュは単数、一人なのである。誰が見ても圧倒的な差でしかなかった。

 ただし、ランシュはそれをも翻すことができたのだ。本当にランシュ一人ならばできなかったであろうが―…。

 「理由ですか。今のところは言うわけにはいきませんか。まあ、あそこで俺に刺されたレグニエドには教えたがな―…。まあ、お前たちが知ることではないだろう。お前たちは、俺の下で働くことになるのだからなぁ~、これから―…。」

と、ランシュは言う。

 ランシュは話すべきではないと思ったのだ。純粋にあの出来事について知らない者たちが多いことであろう。その出来事に対する事実を―…。ランシュが知っている事実は数量として表した場合、多いものであるが、すべてではなかった。重要なもう一つの一面において、ランシュは事実を知らなかった。

 「ふん、話さないのか。これ以上、ランシュ、お前の好き勝手にさせることはできない。リース王国のために―…、死んでもらう。」

と、フォルクスは言う。

 そう、ランシュとは、すでに話すことはできないと判断し、これからは騎士として武力を用いることにした。

 「ランシュを囲え!!!!」

と、フォルクスははっきりと騎士たちに命令するのだ。

 騎士たちもわかっている。ランシュを囲って逃げ場をなくし、そこから、詰め寄って剣で刺し殺そうとしているのだ。

 (ふーん、囲ってくるのか。まあ、最強の騎士が知っている俺の情報は、天成獣の力を使うということと、実力は騎士団長より弱いということだ。だけど、それは―…。)

と、心の中でランシュはフォルクス率いる騎士たちの動きの理由に気づき、どうするべきかを考える。

 その中で、ランシュは、騎士たちには自らの実力のすべてを報告していなかったのだ。伝えていたことは、天成獣の力が宿っている武器を使うことができるということだ。

 ただし、伝えていなかったことと嘘も伝えていたのだ。それは、天成獣の力が宿っている武器は今持っている長剣ではないことと、実力が騎士団長に比べると弱いということではないのだ。そして、ランシュの天成獣は、特殊な方に分類される。

 「さて、この数だ。少しだけ本気でいかせてもらう。」

と、ランシュは言う。

 囲い始めた騎士たちは、

 (本気、最強の騎士でリースの騎士団団長であるフォルクス様に勝てるほどの実力もないのに、俺らを少し本気だけで十分だというのか。舐めやがって―…。)

 (ランシュ(お前)など、リースの騎士が複数でかかれば、簡単にやられるんだ。終わりなんだよ。さっさ、抵抗をやめて殺されろ。)

 (何をしてくるかはわからないが、実力はすでに知っている。油断さえしなければ―…。)

と、騎士たちが心の中でランシュは倒せる相手だと思っている。程度の差はあるが―…。

 ランシュは、

 「長剣(けん)は邪魔だな。」

と、言って、剣をその場に床に突き刺したのだ。

 そのランシュの行為には、騎士たちも目を丸くしてしまうのだった。

 (ハッ!!? 何をしているんだ。ランシュ、あいつは―…。長剣(けん)を床に突き刺して―…、そんなことをしたら、不利であるのを、さらに不利にしてしまうだろ。馬鹿か、ランシュ、あいつは―…。)

 (フッ、勝てないと思って馬鹿な行動にでたか、ランシュ。お前もここまでの人間っていうことだ。リース王国のためにさっさと死んで、リース王国に貢献しようとしているのか。ありがたい。死人は少ないに限るからな。)

 (王を殺すような人間だ。頭がイカレてしまっているのか。まあいい、それならやりやすい。)

と、心の中でランシュが剣を床に突き刺した行動を常識的に考えて、ありえない、馬鹿な行動だと思った。

 さらに、ランシュの行動に関しては、意味不明だし、長剣を持っているから少しだけ劣勢を弱めさせているのに、なんで、そのわずかな優位性までも放棄してしまうのか。おかしいとしか思えなかった。

 だが、この行動はランシュにとって、あまりにも理にかなった行動だった。

 長剣を床に突き刺したランシュは、自らの武器に宿っている天成獣の力を使おうとした。

 その武器については、見えなかったが、ランシュの姿に変化があったのは確認できた。

 (えっ、何だ。ランシュは何を…、って、何だランシュあいつの体から羽?)

と、心の中で驚く騎士たち。

 そう、ランシュの体から羽みたいなのが生えてきたのだ。それも、黒い、悪魔のような羽が―…。

 それと同時に、ランシュの右腕が土色のもので覆われていった。それは、右手の手のひらまで覆うものであった。

 そして、それを終えるとランシュは、

 「さあ、始めるか。耐えてくれよ。これからのリースに必要な、騎士たち。」

と、言うと、すぐにそこから消えたのだ。

 いや、正確には、超高速で移動したのだ。

 ゆえに、騎士たちはランシュが消えたことには気づいたが、考える前に、謁見の間の入り口の方向にいた騎士の目の前に姿を現した。

 「!!」

と、目の前にいた騎士は驚く。ランシュの出現に対して―…。

 「考える暇はない。」

と、ランシュは言い終える前に攻撃を終えるのだった。

 土色の何かで覆った右腕で一撃のパンチを繰り出すのだった。それは、右腕の先から衝撃波が発生し、目の前にいた騎士とその周辺にいた騎士たちをぶっ飛ばすのであった。

 その威力は途轍もなく強いものであり、謁見の間の扉から外に出されるものもいた。

 それは、騎士たちや謁見の間にいる者の多くを動揺させた。騎士たちは、ランシュを殺すことができるのかという疑問を、誕生日会に招待された者たちは、恐怖を感じずにはいられなかった。

第69話-2 行く末を見守る者の始まり に続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。

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