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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
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第68話-6 なつかしき日々の終わりに

前回までのあらすじは、リーンウルネの過去の話しとか、リースの市場への謝罪とか、の内容であった。そして、レグニエドの誕生日会が始まろうとしていた。運命の時は、刻一刻と迫っていた。

今回で第68話は、完成します。

 リースの城の中。

 宰相メタグニキアの部屋。

 そこには、メタグニキアとさっき城門から戻ってきた人物と護衛がいた。

 そして、城門から戻ってきた人物が、メタグニキアに向かってひそひそと報告する。

 それを聞いたメタグニキアは、

 「そうか、そうか。戻ってきたか。次からは部屋に閉じ込めさせて、二度と外に出られないようにやりたいが―…、あのリーンウルネの手下どもが確実に邪魔してくるからな。本当に、うざったらしい。」

と、喜んだ後に、さらに、怒りを感じているような表情で言う。

 リーンウルネがメタグニキアにとって都合の良い行動をとってくれないことを思い出したからだ。リーンウルネの部下を含めて―…だ。

 メタグニキアは繰り返して思い出す。そのたびに、腹をたて、怒り狂うのである。自らのために生きない人間など価値のない、そして、邪魔な人間であることだ。それも、自分の指示にのみに従ってでないといけない。

 その怒りはしばらくの間、続くことになった。今、部屋の中にいるメタグニキアの衛兵さえも馬鹿だとは思うが、メタグニキアは権力があるので、従っておけば、利益にあずかることはできる。失敗は許されないが―…。メタグニキアの指示通りにした結果、そうなったとしても―…。

 (だが、終わらせてやる。)

と、心の中で言う。

 それでも、メタグニキアにリーンウルネを陥れるための策も、好機もなかった。


 リーンウルネの自室。

 そこには、部屋が戻ってきていた。

 「準備をしてくれないか。」

と、そこにいた、リーンウルネの筆頭メイドであるアルミルカがいた。

 このアルミルカとは、リーンウルネの古くからの親友であった。アルミルカ自体は、農家の家の娘として生まれ、年齢もリーンウルネよりも二、三歳ほど低い。リーンウルネが領内を見回るときに、多くの場合、それに付き従ってきていた。

 リーンウルネが、レグニエドと結婚してからは、リースの城の中へと入り、メイドとして仕事をし、リーンウルネの筆頭メイド(専属)となっている。そして、リーンウルネの右腕として、護衛および給仕などを優秀におこなうことができる。今は、護衛は別の騎士に任せているが、その騎士の裏切りに対して、すぐに対処し、倒すぐらいの実力はもっている。

 アルミルカは、リーンウルネが何を言おうとしているのかすぐに理解した。

 「リーンウルネ様がそうおっしゃるのならば、そういたします。私めは、リーンウルネ様と運命を共にする覚悟はできております。ただ―…、メイドとしてではなく、一人の親友として言わせていただくと、姉御は一人じゃありませんし、一人にはさせません。だから、安心してください。私たちはあなたのそばに一生ついております。」

と、アルミルカは言う。

 それは、リーンウルネの気持ちを(おもんばか)ってのことだ。リーンウルネは思い詰めると自分で勝手に一人で解決しようとすることがある。それは、リースの城にレグニエドと結婚して、来てから多くなった。結婚する前は、よく人を振り回していて、思い詰めるところを見たことがなかった。思い詰めることを知らないのではないかと思っていたぐらいだ。

 だから、リーンウルネが一人で、解決できないものを解決しようとしないで、自分たちにも頼って欲しいとアルミルカは思うのだった。人を平然と振り回しすぎていたあの頃のように―…。

 「わかった。その時は、そうだな。頼ることにしよう。」

と、リーンウルネは言うのだった。


 レグニエドの誕生日会の時間。

 そこは、多くの人物が会場に詰めかけていた。

 場所は、リースの城の中にある謁見の間。そこには、まだ料理などは並べられていない。

 これから始まるは、リースの周辺にある主要人物によるレグニエドの誕生日に対する祝いの言葉を言う時間だ。

 この誕生日会の司会は、宰相メタグニキアの次に地位が高いとされる副宰相筆頭のハルギアであった。この人物はメタグニキアによって脅威にならず、メタグニキアと同様に己に優先的に利益が得られることにしか興味がなかった。まるで、類は友を呼ぶように―…。そして、体系もふくよかなもので、小太りという枠を完全にこえてしまっていた。

 「え~~、これより、リース王であらせられますレグニエド様の誕生日会を開催させていただきたいと思っております。今日、司会を務めさせていただきますは、副宰相筆頭であります私、ハルギアです。今日は遠路はるばるレグニエド様のお誕生した日を祝うために来てくださってありがとうございます。では、定刻になりましたので、これより、レグニエド様の誕生日会を開催させていただきます。」

と、副宰相筆頭ハルギアが誕生日会開始を告げる。

 謁見の間は、静かになっていった。そして、謁見の間に来ている、レグニエドの親族がレグニエドの近く方に、そこから離れるように、重要度が下がっていくように客人を配していた。つまり、親族の近くにいるのは、リース王国にとって丁重に扱わなければならない要人である。そんな彼らにとっても、レグニエドのご機嫌取りと宰相メタグニキアへの賄賂は重要なことであった。レグニエドのご機嫌と宰相で事実上の中枢の権力を握っている宰相メタグニキアの信頼を得ることができ、優先的に関税が下がるという特権と侵略されないということが約束されるのであるから―…。たとえ、愚か者であったと気づいていたとしても、それをたてるだけで自らの領土および国の平和が守れ、利益を得られるのだから―…。

 そんなご機嫌取りのために誕生日会に出席するという一日で一年の平和を守れるのだから安いものだ、と思っていた。

 「では、最初に、レグニエド様より、今日の誕生日会に対する挨拶があります。」

と、ハルギアが言うと、レグニエドが自らが今座っている、玉座からすう~と立つのであった。

 レグニエドは辺りを見回す。

 (ああ~、素晴らしい。なんて、素晴らしいんだ。誰もが私という存在を讃えている。たとえ、それがお世辞の類であったとしても、だ。気分がいい。さあ~、私の言葉を聞かせてやろう。この地域の最有力の国家であるリース王国の王である私の―…。)

と、心の中で自らを偉大な人物であり、その言葉は誰もが聞くべきであると思っていた。

 レグニエドの言葉など、この中にいる誰にも突き刺さるものはなかった。それは、リーンウルネが市場やリースの領内で演説するのであれば、多くの者が心の底から讃えるであろうが、そのための行動もなければ、威厳も、人としての品性も、修羅場を抜けたという経験をも、だ。そんな人間の言葉は、才能があれば心の琴線に触れさせることもできたであろうが、それもない。ただ、招待されてきた人々にとっては、ただの苦痛でしかない。話が長いがゆえに―…。

 そんなことに気づいていたとしても、どうでもよいとレグニエドは思った。

 「今日は、世の誕生日会に来てくださってありがとう。こんなに多くの者が来られたことに、世は大いに満足であり、世のように幸福な者などこの世とて、どこを探したとしてもいないのではないかと思っておる。そして、その世の満足は、皆の幸せに繋がっていくことを祈っておる。これは―…。」

と、レグニエドの話は続いていく。これ以上、レグニエドの話を続けて書いても仕方がない。

 ただ、その横ではなく、レグニエドから見て、左側の近くにいたリーンウルネは呆れかえっていた。

 (なぜ、こんなバカがずっと王でいられるんだ。儂がもしレグニエドを懲らしめることができる立場なら、一発ぶん殴ってやりたい。でも、今は気持ちを抑えない、と。これでも儂の夫だ。愛してはいる。それでも、こんなバカのためにリースに住む人々をこれ以上苦しめるわけにはいかない。でも、準備が今は必要なんだ。クーデターを起こすには―…。)

と、リーンウルネは心の中で一発殴って、更生させたいとレグニエドに対して思っていた。

 しかし、今は準備が完了するのを待たなければならなかった。レグニエドから王位を奪うのには―…。リース王国に住む人々のために、腐敗した政治ではなく、彼らにとって必要な政治をおこなっていくために―…。このクーデターが失敗してしまえば、もう二度と言っていいぐらいに、リース王国の変革を成し遂げることはできなくなってしまうのだから―…。

 セルティーは、母の様子に気づく。

 (お母さま、一体どうしてそんな張り詰めた表情をしているのですか。)

と、心の中で疑問に思うのであった。

 セルティーには、わからない。リーンウルネは話していないのだ。話せるわけがない。わかっているのだ。リーンウルネは、セルティーがレグニエドから王位を奪うことに確実に反対するからだ。セルティーの理由として考えられるのは、家族として、王国の秩序のために、必死になって止めようとすることである。

 ゆえに、リーンウルネは、話さず、見ていてもらうしかなかった。その場を―…。

 さらに、セルティーは心の中で不安に、心配に思うことがあった。それは、ランシュが今護衛をしていないということだ。ランシュは、昨日、急に今日はセルティーの護衛とは違う仕事をする言い出したのだ。用事がある、と。リースの城の中にはいると、言っていたのだ。

 そのせいで、

 (お父様の話は長いから、ランシュがいてくれると―…。)

と、心の中で思うのだった。

 セルティーとしては、レグニエドの話を聞くこと自体はそこまで苦痛ではないし、楽しいとは思っている。それでも、この場における話の長さだけは勘弁してほしいと思っていた。セルティーにもわかるのだ。ここにいる会場の誰もが、レグニエドの話の長さや意味のなさに呆れているのだ。さらに、苦痛に感じているのだ。まだ、会場に誰もが、これが終われば、一年は救われると思っているから、何とか耐えることができている。もしも、何も条件がない、さらに、リース王国に力がなければ、無視することができるのに、というぐらいの気持ちになっている。

 セルティーは表情を少しだけ暗くする。あまりその表情を悟られないようしていたが、注意してセルティーを見れば、どのような表情かはすぐにわかってしまうであろう。

 そこに、ふと、謁見の間へと入る扉が開かれる。

 その扉の開かれる音に、謁見の間にいた者たちの多くが気づく。

 それに気づいたこの誕生日会の司会を務めているハルギアが、

 「一体、何用だ。要件を言え!!」

と、威圧するかのように言う。

 ただし、戦闘に慣れた者や強き者にはその威圧のようなものは一切通じないのであるが―…。

 そして、扉を開けた者が謁見の間へと入ってくる。

 (えっ!! ランシュ!!! どうしてここに!!!!)

と、セルティーは心の中で驚くのだった。

 表情には、すでに現れてしまっていたのだが―…。実際に、セルティーは言葉にすることができなかった。それぐらいに驚いて、心の中で出せている言葉を、口にすることができなくなってしまっていた。

 「ええ、レグニエド王に大事な、大事な要件があります。」

と、ランシュは言う。

 謁見の間にいる者は、ざわざわとしている。

 (一体、何が起こっているのだ。)

 (これは演出?)

 (???)

と、心の中で、言葉にしていくのだった。それは、幾人もの人たちであり、以上にあげたのは例になるものにしかすぎない。

 「何じゃ―…、ランシュ、今は儂の誕生日会だ。要件は、本当はこういう会の時間の時は、近くにいる宰相メタグニキアに従者を使ってから、その度合いを判断し―…ッ!!!」

と、レグニエドの言葉が遮られる。

 ランシュは、レグニエドの目の前にいた。さっきまで、謁見の間の扉付近にいたはずだった。それは、ランシュがレグニエドの目の前までの一直線を一気に高速で一瞬の時間で移動したのだ。謁見の間からレグニエドまでの直線において、誰も人がいなかったのだ。そして、ランシュは長剣を持っていた。実際に、謁見の間では、特別に帯刀が許可される儀式以外は、王様以外は一切武器を帯刀してはいけなかったのだ。ランシュはそれに違反していた。いや、あえて違反したのだ。

 もう、ここまで言えばわかることであろう。

 レグニエドは、ランシュによって長剣で刺されたのだ。レグニエドの心臓付近を―…。

 そう、ランシュは、レグニエドに聞こえるようにだけ、

 「クルバト町。」

と、言うのだった。

 たった、そのことだけでレグニエドはランシュが言っていることがわかったのだ。

 「まさか、ランシュ(お前)は、その生き残りか!!!」

と、消え入りそうな声でレグニエドは言う。

 レグニエドは知っていた。知らないはずはない。昔、ある町を攻めたのだ。リースへと反逆したために―…。それは、その町は跡形もなく鎮圧することができた。生き残りがいないぐらいに―…。

 だから、レグニエドは驚き、動揺する。その生き残りがいて、それが娘であるセルティーの護衛の騎士であったことを―…。

 この光景を見ているセルティーは、

 「お父様…………。」

と、動揺し、言葉を失っていた。

 その状態もすぐに回復して、

「お父様――――――――――――――――――――――――――――――――――――――。」

と、叫ぶのであった。叫ぶことしかできなかった。

 こうして、リースにおけるレグニエド暗殺事件が起こるのだった。


 【第68話 Fin】



次回、騎士団団長よりも強い!!!

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


第69話も分割することになります。第69話も長くなりそうです。

当初の予定ではなかったのですが、ランシュの本気モードも登場します。では―…、次回で―…。

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