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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
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第68話-4 なつかしき日々の終わりに

前回までのあらすじは、セルティーは己の恋を自覚した。一方で、ランシュは、ベルグによってレグニエドの暗殺を許可されるのだった。

 事件当日。

 リースの市内の市場。

 そこには、幾重におよぶ商店が軒を連ねている。

 露店のような感じだ。

 そこでは、今日も喧騒につつまれていた。その声は、商品を売る者、それを買い求める者、世間話をする者、そのすべてがこの賑わいを演出し、活気を満たしているのである。

 そんな中で、

 「今日は、やけに貴族や各国の要人が多いなぁ~。」

 「今日、王様の誕生日で、それで、お偉方がここリースに集まっておる。」

と、とある商店での会話が聞こえる。

 そこでは、二人の人物が話し合っていた。その二人の人物は、商店で商品を売る者とその品を卸す者である。最初に、商品を売る者が言い、その後に、この商店に品物を卸す者が答えたのだ。

 「そうか、その時期だったか。そりゃ~、人が集まるわけだ。あの王様、やけに目立とうとするから―…。そのせいで、税金がこの時期に限って重くなってしまう。俺も、別の場所で商売できる所はないだろうか。」

と、商品を売る者は、冗談に近いものであったが、それでも思ってしまうのだ。

 リースは、レグニエドの誕生日が近づくと、税が少しだけ重くなるのだ。その理由は、王様の誕生日に、贅を凝らし、派手におこなうためである。さらに、各国の要人、自国の貴族などを多く招待するので、その貴族のための食事や返礼品などによって多くのリース王国の財政を圧迫させてしまっているのだ。

 それでも、レグニエドはそのことに関して、お構いなしでおこなおうとする。それは、レグニエドが幼少の頃からリースの城からほとんど外に出ることがなく、青年時代に城の外に出ようとしたが、腕っぷしの強い騎士と天成獣の宿っている武器を扱うことができる実力者と、その中で遠距離攻撃や探知に長けた者たちによって、一度もリースの城から自分と賛成してくれた部下との協力だけでは成功することはなかった。そのため、性格形成に悪影響をおよぼしてしまったのだ。自らの欲求を別のもので達成しようとしたのだ。そう、自らが称賛されることによって―…。

 結果としていえば、満たされることは心の奥底では一度たりともなかった。あるはずがないであろう。人は、たとえ、欲求を満たしたとしても、それに満足し続けることがないようにしないと、生物として生き残ることができなかったのだから―…。レグニエドは、満たされないものを無理矢理別のもので満たそうとすることで逃げ続けなければならなくなり、自身に余裕がなくなったのだ。ゆえに、他者や自らの周囲を見ることができなくなった。対人関係において欠陥を抱えてしまったのだ。

 つまり、リースに暮らし、日々の生活を送っている者たちの考えていることがわからなくなってしまったのだ。

 なぜ、レグニエドをリースの城の中へと閉じ込めておいたのかは、理由を考えれば簡単だ。リースの城の中で権力を持った中枢の者たちが、彼らのことがリースのすべてであると思わせようとしたためである。そのために、自分たちの意見以外を知られることを恐れて、レグニエドをリースの城の外に出さないようにしたのだ。外に出す時でも、神輿の中に入れ、城の外を見させないようにした。そのおかげか、レグニエドは城の外のことを知らず、中枢で権力を握っている者たちの意見をすべてだと思うことになっていたのだ。

 中枢で権力を握っていた者たちにとっては、やりたい放題の政治ができるのだと大喜びをした。その時に、リースの最も中心となっていたベルグという人物がその地位を捨て、リースの城から出て行ったのである。その後も、中枢で権力を握っていた者たちは、そのまま瓦解することなく地位を握り続けていた。ただし、別の派閥に配慮をしなければならないほどに、力は落ちてしまっていたのだが―…。

 そして、話を戻し、ある商店の商品を売る者のリース以外の販売に関しての冗談交じりの相談に対して、

 「そりゃ~。他の交易で栄えている港はあるよ。だけどよぉ~、リース以外にでっかいところは他にはないからな。我慢してでもここでやっていくしかない。」

と、この商店に商品を卸す者に言う。

 この人物は、この内海の諸都市のいくつかをまわって商品をそこで卸している以上、他の港の規模を知っているのだ。その中で一番いいのは、リースであることに間違いないと、経験から導きだすことができる。ここ以上に栄えている都市など知らないからだ。

 たとえ、税金が高かろうとも、その税金を引いても、リースの方が他の港よりも稼げるのだ。ゆえに、リースを離れるべきではないと商品を卸している今目の前にいる相手に向かって言う。

 「そうなのか。っと、そろそろ、あの方が来る。特に、今日は王様の誕生日だから―…。」

と、この商店で商品を売っている者が言う。

 「なんだい。あの方って―…。」

と、商品を卸している者が疑問に思い、商品を売っている者に言う。

 「そうか、お前さんは知らなかったな。リースの王様の誕生日は知っていても、その日に毎年起こることを―…。」

と、この商店で商品を売っている者が、わかっているといわんばかりに言う。

 だけど、その言葉だけでは、商品を卸している者には一切、わからないことであるし、何を意味しているのか理解できないことであった。

 「まあ、見てろ。わかる。」

と、商品を卸している者が言う。

 それは、実際の光景を見た方が、口で説明するよりもわかるのだ。

 そのことを聞いても、商品を卸す者として疑問にしか思わないし、なぜ、としか思いようもなかった。

 やがて、その答えはやってくる。


 リースの城の中。

 宰相の部屋。

 ここには、リースの現宰相であるメタグニキアがいる。

 彼は、執務におわれていた。そう、レグニエド王の誕生日のパーティーの準備に―…。

 この人物が、取り仕切る必要があったのだ。宰相は、王に次ぐに二番目に偉い地位、王を補佐し、政務をおこなう役職である以上―…。

 そこに、急に宰相の部屋に出入りするためのトビラに、バタッという音がなる。それも、大きな音で―…。

 「何事だ!!」

と、威厳のある低い声が部屋の中で響き渡る。

 その声を聞いた、宰相の部屋に入ってきたものは、ゼェ、ゼェ、と息を吐くのを無理矢理やめて、宰相メタグニキアの方へと背筋を伸ばすのである。

 宰相の表情は、イライラしたものである。メタグニキアは、自らの計画に対して、一秒たりとも邪魔をされることを好まないのだ。たぶん、今入ってきた者は、翌日にはクビにされ、職を失っていることであろう。

 それでも、宰相の部屋に入ってきたのは、しっかりとした理由があった。ゆえに、堂々と言う。

 「リーンウルネ様がまた、城の外に出られました!!!」

と。

 その言葉を聞いた宰相メタグニキアは唖然とする。そして、ストレスをまた一つ増やすことになったのだ。リーンウルネの行動によって―…。

 「なんだと!! ガルケスはどうした!!! 奴に、リーンウルネを見張らせていただろう!!!! 何をやっているのだ奴は!!!!!」

と、怒気を火山の大爆発させるかのようにメタグニキアは大声で、辺りの物を散らかしながら言う。

 メタグニキアは、

 (ふざけるな!!! あの女狐が―…!!!! ただの、掃いて捨てるほどの権力しかない弱小領主の娘がぁ~~~~。テメーを王の妻にしてやったのは誰のおかげだ。この俺だろ!!!! 感謝を込めて俺の言うとおりに動けや女のくせに!!!!!)

と、心の中で怒りの言葉を言う。

 この宰相に、他者を尊重する、敬意を払うといった概念など存在しない。特に、強い者には媚びを売って自らの出世のための便宜をはかり、弱い者には、徹底的にパワハラや個人の存在否定をし、自らの優越感に浸ろうとする。ゆえに、反抗するものなど許せるはずもない。その反抗する最たる存在がリーンウルネなのだ。

 そして、メタグニキアには、差別的な観念があった。区別を悪用して―…。弱い者と自らが勝手に決めて、差別するのである。女性や子どもなどに対して見下しているのが最たる例だ。ゆえに、リーンウルネに対しては、宰相である自分が強いのだということをとにかく見せつけようとする。

 それは、リーンウルネにとって最も嫌う者であった。自らだけが得をすればそれでいいと思っている奴は特に―…。

 メタグニキアは言う。

 「さっさと、とっ捕まえてこい!!!」

と、怒声を放ち、命令する。

 それを聞いた宰相の部屋に入ってきてリーンウルネが城の外に出たことを告げた者は、

 「はい!!!!!」

と、言って、すぐに宰相の部屋から出て行ったのだ。

 そして、宰相の部屋の中は、メタグニキアとその護衛を兼ねる騎士のみとなった。

 「ミドール、告げてきた者は、リーンウルネが戻ってきたら、クビを言い渡せ。」

と、護衛の騎士に告げる。

 「はい、わかりました。」

と、メタグニキアの護衛をつとめる騎士が言う。

 そうすると、すぐに、宰相の部屋の出入り口の扉が開かれ、一人の男が入ってくる。そして、護衛の騎士は、メタグニキアが告げた話をその者に伝える。そうすると、すぐに、一人の男は宰相の部屋から出て、どこかへと向かって行った。

 そして、ニヤリとする。だけど、全部失敗してしまったことを学習していないようだ。

 (リーンウルネ。弱い領主だったからレグニエドという馬鹿な王の妻にしてやれたのだ。なのに、なのに~。だが、お前の娘であるセルティーは、ちゃんと言うことを聞く。反抗しようとしても強くは出れない。後は、そろそろセルティーの方が成人する。その時に、レグニエドに王位を譲位させ、セルティーを操って、リーンウルネにはでっち上げの罪をなすりつけて追放してやる。)

と、心の中で考える。

 メタグニキアは、とにかく反抗するリーンウルネの権力を排除しよう、と。それは、メタグニキアがリース王国において、実質の権力を掌握し、自らの思うままに政治をおこなうとしているのだ。己が権力の強さを示し、誰よりも自分が上だとすべての人に知らしめるために―…。他者などは、そのための道具であり、自らのための引き立て役でしかないということを思っていた。

 そして、メタグニキアは、能力のない者、以上で述べた失敗から学習しない者に該当した。メタグニキアは、失敗に対して、自分のどこがいけなかったのか、その時に何をして、これから何をすればいいのかを考えないのだ。考えて次に生かそうとはしないのだ。できないのだ。自分は完璧で、何をやっても自分の思い通りになり、思い通りにならないのは、他者が余計な邪魔をしたからだという結論にしか至らないからである。

 「なぜ、俺の思い通りにならない!! あの馬鹿は!!!」

と、最後にリーンウルネのことを罵るのであった。

 他者のせいにすることしかできないことに疑問を抱かずに―…。自分の責任を他者に押し付け、自己責任という言葉を使い、相手が相手自身が悪いことをしているから責任を追えというどうしようもできないことを言って責任逃れをする者と同じように―…。


 リースの城の中。

 セルティーの自室。

 そこでは、護衛騎士のランシュとニーグ、ロメ、王女であるセルティーがいる。

 「部屋に行ったのですが、お母様がいませんでした。」

と、セルティーは言う。

 セルティーは、話そうと思っていたのだ。雑談程度のことではあるが、日頃からの会話をしておきたいと思ったのだ。

 「たぶん、あの日でしょうから、城にはしばらくいないかもしれませんね。」

と、ロメが言う。

 「?????」

と、セルティーが頭にハテナマークを浮かべるのであった。

 セルティーは、わかっていないのだ。リーンウルネがリースの城の外に出ていることを―…。その理由さえも―…。それは、ランシュや、ニーグ、ロメが話さないからだ。

 「あの日とは?」

と、セルティーは疑問をぶつけるのだった。

 「残念ながら、そのことに関しては、セルティー様には話すことができません。リーンウルネ様より堅く口を閉ざすように命じられています。」

と、ランシュは言う。

 ランシュとしては、言ってもいいとは思っている。

 しかし、このランシュの言っていることには嘘が含まれていた。そう、リーンウルネが命じたということである。実際は、メタグニキアが命じて、王族にリーンウルネがなぜ外に出るのかという理由を言わせないように戒厳令が出ているのだ。それも、レグニエドの直属の命令というふうに偽造して―…。レグニエド自身も知らないことである。

 「なぜ、お母様は教えてくれないのですか?」

と、セルティーはランシュに聞く。

 「わかりません。」

と、ランシュとしても答えるしかなかった。

 命令の意図を直接に宰相であるメタグニキアが説明しないのだ。レグニエドに言わせないようにしている。そのことに関する質問をだせば、役職をクビにするという命令を付け加えてだしているからだ。メタグニキアはリースの城内における命令は、うまくコントロールすることがリーンウルネの派閥に属する者以外には完全といっていいほどにできていた。

 ランシュ、ニーグ、ロメと、リーンウルネの派閥ではなく、王の命令に従うために、セルティーに言うことはしなかった。自分の職を守るためでもあるし、ニーグとロメに関しては、セルティーを孤独させるわけにはいかなった。セルティーを孤独にさせてしまえば、必ず、リース王国の中心で権力を握っている者たちにいいように利用されるだけである。

 「そう。」

と、最後にセルティーは、自分だけが疎外されているのを感じ、悲しそうに言うのだった。


第68話-5 なつかしき日々の終わりに に続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


理不尽な事を言う人物が、『水晶』に登場してきました。宰相メタグニキアは、来世の物語があるのならば、反省して、まともな人物になるのだろうか、と思ってしまいます。さらに、メタグニキアのような人物にはなりなくないと思ってしまいます。

とにかく、この事件の内容が終われば、第八回戦だ。かなりに分割していると思います。1話分の内容がかなり多くになっています。そうなると―…リースの章以後のあるところの過去に関しては、どれくらいの量が追加されるんだ、と思ってしまいます。今は、詳しい内容は言えませんが―…。では、次の更新で―…。

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