表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
126/748

第68話-3 なつかしき日々の終わりに

前回までのあらすじは、レグニエドとセルティーとリーンウルネが一緒に久々に夕食をとりました。

 それから、しばらく時が経つ。

 事件が起こる二日前。

 時刻は夜で、深夜といってもいい時間だ。

 リースにおける民のほとんどが寝静まっている時間。

 リースの城の中の中庭で、二つの影があった。その影二つは、中庭の中でも、人の視界が入りにくい場所にあった。

 影の一つは、

 「お前か。」

と、言う。

 それは、その影が、もう一方の影とは顔なじみであり、知り合いであるからだ。いや、自らの上司と言ったほうがいいかもしれない。協力者という名の―…。

 「ランシュ、久しぶりだ。リースの城の中にはもう慣れたかな。特に、姫様の護衛は―…。」

と、もう一方の影が、影の一つであるランシュにどうかと尋ねる。

 「十分、ここには慣れているつもりだ。つ~か、何年もここにいれば、嫌でも慣れるわ。それに―…、ベルグー…、お前の方がこっちの城に俺よりも長くいたんだから堂々と入ってきてもよかったのではないか。」

と、ランシュはもう一方の影であるベルグに向かって言う。

 ランシュとしては、リース王国の中で重要な地位を占め、ほぼ実力で権力を掌握していたことのあるベルグなら、堂々とリース王国の城の中に簡単に顔パスで入れるだろうと思っていた。それに―…、ベルグのその権力の放棄は、自らが言い出したことであり、誰も反対しなかったし、後腐れのあるものではなかった。こんなことは実際に、存在することなんてないと言ったほうが正しいだろうが、ベルグに関しては事実であったのだ。

 「まあ、あまりここに表から堂々と入りたいとは思っていなんだ。それに―…、俺はもう、ただの一般人と変わらないし、リースとは縁をランシュとの繋がり以外は完全に切っているのだよ。今は、ゆっくりと研究中さ。十数年前に俺のライバルみたいなのが異世界へ行き来させることができる方法を確立していたみたいなんだよ。それをさ―…、数日前に知ってさ驚いたんだ。」

と、ベルグが言いかけると、

 「そんなことは今は、どうでもいいんだよ。で、用件は何だ。ただ、俺と喋りたいがためにここに来たわけじゃないよなぁ?」

と、ランシュはベルグの話を遮って、本題に入るように迫った。

 「そろそろ、いいんじゃないかな。レグニエドを殺しても―…。彼にはよくさせてもらったよ。いろんな意味でね。だけど、ランシュの復讐(もくひょう)の方が俺的には興味があるんだよ。そのために協力するのなら、かつての主君など取るに足らない存在さ。時代が変わるように、同じものは一切ない。過去に飲み込まれた男などのこの世から消えることがリースのためになるさ。そして、それは、僕にとっても動きやすい。もう、二、三年したら()()()ようになるんだよ。僕の予定では―…。異世界渡行(とこう)ができるようになるんだよ。まあ、最初は、一人や一物質ぐらいしかできないだろうけど―…。そうすれば、ローに少しだけ差を縮められるからねぇ~。」

と、ベルグは高揚しながらランシュに向かって言う。

 その様子を見れば、リースの城の中にいる兵士に気づかれるのではないかと思うほどだ。だけど、ベルグという人間は馬鹿ではない。賢すぎるほうに分類できるだろう。異常という面でも突き抜けているぐらいに―…。そんなベルグであるからこそ、ここからの声がランシュ以外には聞こえないように、対策をしていた。結界をはるということによって―…。

 「ベルグ、お前の研究自慢はほどほどにしてくれ。で、もう殺していいのか。俺のレグニエド(復讐対象)を―…。」

と、ランシュはベルグに確認をとる。

 ベルグの言っていたことでランシュが重要であったのが、レグニエドを殺してもいいことということだ。これまでは、ベルグによって、レグニエドを殺すことを禁じられていた。ベルグは、ランシュに対して、「リースへと仕えて、レグニエドに対する評価を得るべきだろうね。ただの暗殺じゃ意味がないよ。そんなの。レグニエドの評価を得れれば、重要な役職を任されるようになるし、暗殺しやすくなるよ。そして、ここからが重要だよ。それは、レグニエドを殺して、ランシュ、君自らがリースの民の誰もからお前を王と思わせるようにしないとね。そうすれば、きっと君に起こった悲劇で死んだ家族も報われるだろう。」と、過去に言っていたのだ。そのため、ランシュはすぐにでもレグニエドを殺そうとしていたが、それを我慢したのだ。いや、我慢できたのだ。レグニエドと会話するたびに、心の中で吐き気や嫌悪感を感じていたとしても―…。

 やっと、ベルグから許可がでた。だから、ランシュは心の中で遂に来たかと思い、喜んだのだ。だけど、確認をとっておく必要はある。なぜ、ベルグがレグニエドを殺す許可を与えたのか。さっき言っていたような言葉が、レグニエドを殺すことを許可する理由ではないということはわかっていた。むしろ、その言葉の中の別のところに真の意味があるのだろう。

 「ランシュは、鋭いねぇ~。そうだよ。本当の理由は、二、三年後に異世界渡行がある程度完成したら、実験をしようと思うんだ。世界を支配するためのね。それには―…、リース近郊にコツコツと造っているものがあってね。それを稼働させると、リースとその周辺の国に気づかれてしまうんだよ。それでもいいんだけど。その間、ローの足止めとかしないといけないんだ。この周辺で大きな国であるリース王国に対処されるような状態では困るんだ。だから、レグニエドを殺し、しばらくの間、リース王国の王位を空白にしておく必要がある。そうすると、王位を狙って、内側は混乱するだろうし。ローも迂闊に動くことはできないしね。だから、だよ、ランシュ。」

と、ベルグは真の理由を言うのであった。

 それは、ベルグが実験を完成させている間、リースに王位継承での争いを発生させるために、ランシュに現リース王であるレグニエドを殺させようとしたのだ。

 「わかった。たとえ、ベルグに利用されようとも、俺は、俺の復讐(ふくしゅう)を達成する。俺が生きるために―…。」

と、ランシュは言うのだった。

 「では、今日はこれで行くよ。僕も実験で忙しいからね。後、フェーナの方では、サンバリアの民主革命を成功させたみたいだよ。」

と、ベルグは別れ際にフェーナの動向を伝えるのであった。

 それは、ランシュにとっては、完全に興味はなかった。どうでもよかった。ランシュ自身の復讐に関係しないことであるから―…。

 そして、ベルグは消えていったのだ。

 (ようやく、できる。この我慢の日々から解放される。レグニエド(あの野郎)に褒められるなんてなぁ~。吐き気以外に何も感じなかったよ。何、自らの娘と俺との冗談としていわれた結婚の話に対して、嫉妬かよ。するかよ~、馬鹿が―…。俺にはいらないものだ。たとえ、心の奥底で、望んでいたとしてもなぁ。俺はあの日から決めたんだ。リース(この国)に復讐するために生きるんだと。)

と、心の中で憎悪を滾らせながら言う。リースという国に対する恨みを晴らすために―…。


 セルティーの自室。

 「う~ん、眠れない。」

と、セルティーがベットで寝込みながら言う。

 (寝よう。とにかく、寝よう。)

と、心の中で言いながら、無理矢理に寝ようとするのであった。


 そして、しばらくの時間が経過した。

 (やっぱり、眠れん。どういうことだ。)

と、心の中でセルティーは叫ぶ。

 (これは本格的に寝られなくなっている。このままでは、明日の鍛錬に響いてしまう。外に出て、夜風でも浴びにいきますか。)

と、心の中でやることを決めると、ベットから起き上がった。

 セルティーのベットは、クイーンサイズおよびキングサイズぐらいのものであり、起き上がったとしても、ベットから床までにはそれなり距離があるのだ。その移動は大変である。ここ数年以上は毎日、このベットで寝ているので、移動するのには慣れてしまった。だから、苦には感じていない。

 セルティーの右足が床に着地するかのように、そこにあった靴の中に入って、靴を履いた。そして、毛布を自らの体からはがし、ベットから立ち上がり、自らの部屋のドアへと向かっていき、リースの城の廊下に出ていくのであった。


 リースの城の中にある廊下。

 セルティーは歩く。中庭の方へと向かって―…。夜風を浴びるために―…。

 その廊下の所で、

 「眠れないのですか、セルティー様。」

と、一人の男の声がする。

 その声を聞いて、セルティーはよく日ごろから聞く声であったことを理解する。だから、

 「ランシュか。」

と、その人物の名前を呼ぶ。

 「はい、ランシュです。どこかへと行かれるのであれば、護衛しましょう。」

と、ランシュは言う。

 ランシュは、理解していた。セルティーが眠れなくて、夜風にあたろうとしているのが―…。そのことが分かればランシュがするべきことは簡単だった。護衛対象であるセルティーを守るために一緒に向かうことであった。

 「一人で行きたかったのだが―…。」

と、少し不満そうにセルティーは言う。

 セルティーとしても、ランシュと一緒に行くことじたい反対したいわけではない。それでも一人になりたいことはある。今はそんな気持ちなのだ。一人でじっくりと考えたいこともある。寝れないのはたぶん、セルティー自身には今はわかっていない原因とつながっているのではないか。そして、一人で夜風を浴び、空を見上げることで少しでもすっきりとするのではないかと思い―…。

 「一人で行かせられるわけがありません。もしものことがあれば、護衛の者たちに責任が降りかかってきます。たとえ、セルティー様が良いと思っていても、あなた様の行動は多くの者に影響を与えるのです。そこのところをご理解ください。」

と、ランシュは、セルティーの行動の一つで周りの者に迷惑をかけてしまうので、勝手な行動をしないで欲しいと言うのである。

 ランシュにとっても、護衛が仕事である以上、今、セルティーに危険な目に遭わせるわけにはいかない。それぐらいの責任感というものはある。たとえ、それが復讐対象の娘であってもだ。

 「わかった。なら、しっかりと護衛をしなさい。そして、話の相手になってもらうよ。」

と、セルティーは言う。

 そこまで言ってくるのであれば、とにかく、護衛と同時に、話し相手をさせるぐらいのわがままを聞いてもらいたかった。

 セルティーの言葉を聞いたランシュは、

 「わかりました。お供いたします。」

と、言う。

 そして、セルティーとランシュは、中庭へと向かうのであった。


 そこは黒が支配する空。

 それでも、幾千もの小さな光たちが、それぞれの強さによって光っていた。

 暗いからこそこの光は目立つのだ。理不尽が存在し、思い通りにならない世界だからこそ、一人の人の頑張りや目指すための行動が目立つな気持ちを抱かせる光であった。

 そんな世界でも誰かのその頑張りは見ているだと思わせるぐらいに―…。

 こういう表現をしてもいい星空を眺めながら、セルティーとランシュはその綺麗さに少しだけ見とれてしまっていた。

 「きれいだ。」

と、セルティーは言う。

 セルティーは、純粋に星空が綺麗だと思っていた。そして、この景色はセルティーにとっての悩みなど小さいものであると思わせるぐらいに―…。それでも、気休めにしかならないが―…。

 一方で、ランシュは、

 (……いつぐらいだろう。こんなにもしっかりと星空を眺めたのは―…、たぶん、まだ―…、いや、よそう。今ここには、セルティー様がいる。弱みは見せるわけにはいかないし、感傷に浸っているわけにはいかない。)

と、ランシュは心の中で言い、自らの気を引き締めるのであった。

 それは、今の星空がランシュの過去における幸せと感じていた日のことを思い出させるのだ。


 「星が綺麗だな。」

 「うん、兄さんとこんな星を見られるなんて―…。」

 「そうか、一緒にこれてよかった。見せたかったからな。」

 「うん、兄さん。」

 これは、ランシュにとって懐かしいある過去の一場面だ。

 そこでは、ランシュと一人だけ少女がいたのだ。その少女は、ランシュの血のつながった妹のヒーナであった。ランシュとヒーナは、夜、家を抜け出して、星空を眺めていたのだ。決して、家出をしたかったわけではない。原因は、

 「夜の星空を見てみたい。」

と、いうヒーナのお願いがあったからだ。それを、ランシュが、

 「しょうがないなぁ~。母さんには秘密だぞ。」

と、一緒にランシュもついていくことにすることで許可したのだ。

 「うん。」

と、その時、ヒーナは満面の笑みで頷くのであった。

 その表情は、ランシュにとっても喜ばしいものであった。妹の笑顔が何よりも大好きなものの一つであり、家族としてヒーナを愛していたからだ。恋人としての好きという気持ちではなく―…。

 「こんなきれいなお星さまがみられるなら、また、今度来たいなぁ~。」

と、ヒーナは再度、この星空を見たいと思うのであった。それは、星空の美しさ、その壮大さに感動して、心が動かされ、また、見たいと思うほどに素晴らしい体験をしたのであった。

 「そうか、わかった。今度は母さんの許可を取って一緒に来るか。」

と、ランシュが言うと、

 「うん。」

と、ヒーナは満面の笑み、それも、気を落としてしまい何もやる気がわかなくなった人を一瞬で、その気持ちを吹き飛ばし、再度頑張ろうとさせるほどのものであった。


 ランシュは、思い出してしまった。そして、過去に浸ってしまった。

 ゆえに、目から涙が自然と零れてしまっていた。もう手に入ることのない日常だったものを―…。そう、なつかしき日々の終わりのように―…。

 ランシュはそのことに気づかなかった。ふいに、気づかずに浸ってしまったせいであろう。涙を流していることにも、気づいていなかった。

 セルティーは、ランシュが泣いていることに気づく。

 その時、セルティーは、わかったのだ。その悲しみに、ランシュの心の本当の気持ちがあることを―…。

 だから、たぶん、この時に理解してしまったのだろう。自らの恋心を―…。だけど、それは封印すべきことなのだと理性と常識というもので無理矢理に理解させた。

 「ランシュ、なぜに泣いているのだ。」

と、気づいていないようだったので、セルティーはランシュに指摘した。

 「えっ、いや、泣いていません。目にゴミが入っただけでしょう。もういい加減いいでしょう。さっさとお戻りしましょう、セルティー様。」

と、ランシュは少し慌てながら言う。

 「そうね。」

と、ニヤつきながらセルティーは言う。

 始めてランシュに対して、勝ったような気がしたのだ。何かということに関しては、セルティーにはわかっていなかったのだが―…。たぶん、それは、ランシュの心の底に人としての感情、セルティーや他の者たちには見せたくなかったランシュの感情を見ることができたことであろう。

 こうして、リースで起こるある事件の二日前は終わっていく。


第68話-4 なつかしき日々の終わりに に続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


第68話のほとんどが、当初のものよりも大幅に増えているような気がします。さらに、話す予定のなかった人物の会話など加わっているような―…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ