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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
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第68話-2 なつかしき日々の終わりに

前回までのあらすじは、セルティーは父親であるレグニエドと一緒にとることとなった。

 リースの城の中にある食堂。

 城の中では、仕えている者が使う食堂部屋と、王族やその客が食事する場所の食堂とは別である。

 そこには、リースの現代の王であるレグニエド、その娘のセルティー、セルティーの護衛騎士であるランシュ、同様にメイドであるニーグ、そして、ロメがいた。

 「セルティー、久々だ。調子のほうはどうだ?」

と、レグニエドは尋ねる。

 レグニエドの口調は、穏やかだが、自らの娘を心配してのことだった。心の底から心配している。血の通った自らの娘は、それ以外の者よりも大切なものだと思っていた。父親として、リースの王位の現時点での最有力後継者として―…。

 「ええ~。剣術、天成獣での戦闘に関する訓練は、順調です。」

と、セルティーはレグニエドの尋ねに対して、答える。

 セルティーにとっては、嫌いではないが、どうしても距離感というものを自らの父であるレグニエドに関しては感じてしまうのだ。それは、なかなか父親に会って、会話することができなかったことや、会うにしても、会話するにしても私的なものがここ数年といっていいほどなく、公的なものであるために、互いに他者に配慮したものとなってしまっているからだ。その数年という時間が、セルティーとレグニエドの距離感を強めてしまった。

 「そうか。」

と、素っ気ない返事をレグニエドはしてしまう。

 ここでも公的な場としての雰囲気を感じてしまうのであった。レグニエドにとっても、親子として二人きりでセルティーとは話したいと思っていた。それほどに、自らの娘であるセルティーがカワイイのである。いろいろ聞きたいのだ。最近、どうなのか、詳しく―…。

 そして、懸念事項であるセルティーの好きな男性がいるのかどうか。あわよくば、セルティーの好きな男を排除しようとも思っていた。娘はやらんという独占欲がレグニエドに存在しているからだ。たとえ、自らの娘であるセルティーに距離感を感じていたとしても、だ。

 素っ気なく答えてしまったレグニエドは、

 (このままではまずい。娘との距離感がさらに広がってしまう。)

と、心の中で思う。

 ゆえに、

 「セルティー、………………気兼ねなく話せる人は…おるのか?」

と、レグニエドは少しだけ緊張しながら言う。

 レグニエドにとっては、この言葉を発する時に、何を尋ねればいいのかわからなくなっていたので、どうしようかと少しだけ考えて、今のような言葉になった。それは、王族の地位にある者は、どうしても気兼ねなく話せる相手という者がほとんどいないのだ。セルティーの方がどうなっているのか、咄嗟に聞いてみたのだ。本当、パッと浮かんだのがこれであった。そこにはレグニエドの焦りがあった。緊張した雰囲気をどうにかしようとしての―…。

 「ええ、いますよ。お父様と話せないのは悲しいですが、護衛のランシュがいますので、平気です。」

と、セルティーは冷静な口調で言う。

 セルティーは、自らの父親であるレグニエドと話せないことは悲しいことであった。しかし、護衛騎士で自らの護衛をおこなっているランシュとの会話が素直に楽しいので、そんなに悲しいほどということではなかった。

 そんなセルティーの言葉を聴いて、かなりのショックをレグニエドは受けてしまう。ただし、表情にはださなかったが―…。

 (ランシュがいるから平気だと!! まさか、貴様―…、私の娘に手をだしたということはないだろうなぁー、あぁ~。)

と、レグニエドは心の中で思うのであった。

 それは、セルティーの言ったさっきの言葉で、自らと話せないことに対して、そうか、悲しい思いさせてしまってすまないと思ったが、ランシュがいるから平気だと言われて、最初に思った気持ちがショックへと変わり、嫉妬になってしまったのだ。

 そう、ランシュに対する嫉妬に―…。そんな嫉妬を今、この場で表立ってだすことはできなかった。自らが王である以上、私的の場などないに等しいのだから―…。それでも、今の気持ちがランシュに向けられたものであること、それが嫉妬に近いものであることは、セルティーとランシュを除いて全員が理解できることであった。

 レグニエドは、

 「そうか、そうか。ハハハハハハハ、でもそれだと私も少し辛いが、ランシュが―…、セルティーの話し相手になってくれて、とても感謝している。ありがとうのう~、ランシュ。」

と、レグニエドは自らの感情を隠しているつもりで言う。隠くしきれていないことに気づかずに―…。

 それに、セルティーやランシュ以外に、この食堂にいる者たちは気づいていたとしても言葉にすることはなかった。場の空気を読むことに関しては、造作もない。折角の親子との会話だ。邪魔をするのは、無粋なことであろう。ゆえに、静かに見守っているのである。

 ランシュは、レグニエドの言葉を聞いて、

 「はっ、お褒めにあずかり、ありがたき幸せです!!」

と、言い終えると、同時に、レグニエドの今の座っている状態での、背よりも低くなり、礼をするのであった。主君よりも高く礼をすることがランシュにはできなかったからだ。仕えている以上、上の者をたてるのは当たり前のことだと思っていたのだ。恨みを晴らすその日まで―…。

 「ランシュ!! そなたがそんな恭しく礼をするほどの男ではない。頭を上げろ。むしろ、ランシュとセルティーの仲に嫉妬しているだけじゃ。本当、心を広く振る舞おうとも、その人の心は狭いものじゃのう。」

と、一人の椅子に座って、テーブルについている女性が言う。

 その女性はセルティーに似ているところが、多く存在した。そう、セルティーの実の母親であり、レグニエドの正妻リーンウルネであった。

 リーンウルネにとっては、レグニエドがランシュに今、抱いている気持ちなどすぐにわかってしまった。感謝とはまったく反対の嫉妬であるということを―…。どうしようもない馬鹿親の類の―…。これから先、セルティーが嫁ぐとなってしまった場合に、怒りでその婿をリースでの権力を用いて殺しかねない。

 そんな馬鹿なことはさせるわけにはいかない。レグニエドには、ちゃんと乗り越えてもらわないといけない。リースが国として生き残っていくためには、セルティーに立派な婿とその人との間に生まれた子どもが必要なのだ。それは、セルティーに無理矢理にさせようとする気はないものであるが―…。セルティーが嫌がってすべてを不自由にするのは、セルティーの性格形成に悪影響がでて、国を傾きさせかねない。

 「そういうことは、一ミリ足りとも思っていないぞ。」

と、慌ててレグニエドは否定するのだった。

 その声が上擦っていたことから、レグニエドの真意ではなかった。レグニエドはリーンウルネを愛してはいたが、その―…怒らせると怖いので、リーンウルネの言っているレグニエドの真意を否定せざるをおえなかったという。たとえ、自分の信念をこの場で一時的に否定したとしても、真意が消えるはずがない。レグニエドはそう思っている。ある意味では、学習することが、このことに関してはできていないといえる。

 レグニエドが真意を本当の意味で、言葉に言っている通りに否定しないということは、リーンウルネにとってはあまりにも簡単に理解できてしまった。声が上擦りすぎて、バレバレであり、話す速さもわずかばかり速くなっていた。さらに、目がレグニエドから見て、左側を向いていたからだ。これは、リーンウルネとって、レグニエドが嘘を付く時によくやることだ。

 「はいはい。アホなのはわかったから―…。今は、反省として黙っていなさい。五月蠅いから―…。」

と、リーンウルネは言う。

 リーンウルネとしては、セルティーとレグニエドの親子の会話をさせてやりたいとは思ったが、これ以上させるとレグニエドが暴走しかねないと判断し、黙らせるのであった。馬鹿な行為ほど、リースを傾けさせ、衰退に追いやることになってしまうのだから―…。

 「セルティー、お前には政略結婚などはさせはしないが、好きな者がいれば、さっさと結婚するのも一つの手ではあるぞ。特に、王族というのは、立派な男に出会う確率は、かなり低いのじゃから。例えば、ランシュとか―…。」

と、妖艶にリーンウルネは言う。

 あえて、セルティーにかまをかけるように―…。

 それを聞いたセルティーは、

 「いやいやいや、それは―…。王族と騎士では身分の差が―…。」

と、否定するように言うのであった。

 セルティーとしては、今だに気づいていないことであった。それも純粋に―…。表情では、まんざらでもなかったのであるが―…。

 「そうか、身分の差は貴族や王族の世界では大きなことだが、むしろ、大きなことを変えるぐらいのことをやると思っていたのだがなぁ~、セルティーは―…。」

と、リーンウルネは言う。わざと残念そうな表情をして―…。

 その間、リーンウルネの一言で、レグニエドが怒りの言葉を言おうとしていたが、セルティーや他の従者に聞こえない声で、

 「五月蠅い、黙ってろ。」

と、レグニエドを凍らせてしまいそうなほどの声で言う。

 実際、レグニエドが凍らされたのではなく、凍らされた者のように固まってしまったのだ。

 そのレグニエドの様子を見た、食堂にいる従者たちは、背筋が冷えるものを感じた。リースの城の中でリーンウルネに逆らえる者は、空気の読めないエリシアだけであろう。

 その間に、セルティーが何かを言いたそうに感じていたリーンウルネは、

 「すまんのう。このアホを黙らせようとしたので、聞いていなかった。もう一度とは、いわん。だけど―…、これだけは言っておくぞ。ランシュも含めてなぁ~。」

と、リーンウルネは言い終えると、より真剣な表情となる。

 それに釣られて、食堂にいる者のレグニエドを除く全員が背筋を伸ばしてしまうほどの緊張感を感じる。

 「お主の未来は、お主が決めるものだ。他者の意思は、他者の意思でしかない。そうしないで、他者の意見に流されて生きることは、簡単じゃし、考えなくて楽に生きられる。と、同時に、他者に自らの未来を預けるのと同義じゃ。それは、この国で、王族として王位に就こうとするものであるのなら、その考えを捨てることじゃな。お主が決めたことの方が、責任も取りやすい。まあ、責任を取ろうとしない本当の弱き者もいるじゃろうがな。それでも、責任を取るには、自分で考え、判断する必要がある。悪しき結果になるとしてもな。」

と、リーンウルネは、ここで、一息を入れ、

 「そして、心から信頼する人間の話しは、聞きなさい。そのためには、いろんな人に出会いなさい。人との出会い、会話し、経験することでしか、本当の意味で信頼できるかどうかという能力は身に付かない。人の話しを聞いてからは、その話が真実かどうか考えなさい。繰り返しようになってしまったのじゃがな―…。考える時に苦しいこともあるし、悩むこともあるじゃろう。それは、人として生きる以上は避けられることではない。悩めることは幸せなことじゃ。だから、大いに悩みなさい。悩んで下した判断には、堂々としない。そうすれば、きっと、自らが幸福だと思える人生が送れるじゃろう。それを成すための必要なことじゃ。」

と、長々しく言う。

 リーンウルネは、いろいろと言葉を言うことに考えすぎるので、長々となってしまい、要点をまとめられていないようであった。要約すれば、自らの事は自らで決めなさい。それは、他人の言われるままで決めるのではなく、他人の意見を聞いたうえで、自分自身で考え、悩んで、決断を下すことが重要である、ということだ。

 リーンウルネとっても、セルティーの今、城の外に出られない現状に対して、反対しているのだ。今のリーンウルネの言葉にはその意味も含まれている。さらに、ランシュという人間の深部に対しても、これでいいのかという問い、セルティーにとっては、常識ばかりに囚われずに、もっと視野を広げたり、少しぐらいは他人を振り回すぐらいのことをしないという助言も含まれていた。

 ただし、リーンウルネの言葉が長すぎて、セルティーとランシュにはほとんど届かなかったようである。セルティーは、長い言葉をいちいちどんな内容であったかを右耳から入れて左耳でそのまま流すように、内容を理解しても忘れてしまっていた。一方のランシュは、そんなこと関係ないと思っていたし、言われたくもないと心の中で思っていた。

 (ランシュは、耳を傾けろ。セルティー、お主は、要点だけを聴け。すべてを聴こうとするな。)

と、二人の心情を心の中であっさりとリーンウルネは読んでしまい、心の中で言うのであった。

 その時、食堂の扉をノックする音が聞こえる。

 「お食事をお持ちいたしました。」

と、食事を持ってきた人物が言う。

 「入れ。」

と、レグニエドの付きの執事長が言う。

 こうして、食事が運び込まれ、リーンウルネ、レグニエド、セルティーの夕食の品がそれぞれのテーブルの上に並べられ、食事が開始されることとなった。

 その日の食事のメニューは、パエリアと野菜のスープ、副菜が三品ほどであった。この食事をレグニエドは少しだけ不満であったが、リーンウルネとセルティーは美味しそうに食べていたという。


第68話-3 なつかしき日々の終わりに に続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。

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