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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
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第68話-1 なつかしき日々の終わりに

前回までのあらすじは、セルティーが瑠璃にリースのある事件の過去について話すのであった。ただし、いろんなことを入れないといけないので、第三者視点のままで―…。つまり、瑠璃がセルティーから聞いていない部分も存在します。

第68話は、分割することになりました。当初のものよりも、かなりの内容の追加が発生して、より深く書いている結果です。

 【第68話 なつかしき日々の終わりに】


 時は戻る。

 二年ぐらい前であろう。

 あの二年前の事件よりも前のことだ。

 そこから始めなければわからないだろう。セルティーがどうして、ランシュを殺そうとしているのか、を―…。

 日常というものが、あまりにも不安定で綱渡りによって成り立っていることを知るだろう。

 不幸など、人の認識にすぎず、出来事が自分と他からなるさまざまな選択と行動の積み重ねでしかないことを―…。そこに自らの善意や悪意などの主観など成り立たないことを―…。

 さあ、語るとしよう。あの日へと続く出来事を―…。


 リースの城の中。

 セルティーの自室だ。

 「ふう~、きつい~。剣術以外のことをしたいよぉ~。買い物とか、買い物とか。」

と、セルティーはぐで~っとしながら言う。もちろん、椅子に座って、そこにある机に向かって―…。

 「それは許されません。セルティー様、あなたが外で買い物をするだけで多くの護衛を必要とします。それに、セルティー様はレグニエド様の愛娘でありますがうえ、他の王位候補者の刺客によってお命が狙われるかもしれません。私たちにとって、セルティー様は無事に女王の位に即位してもらわないと困ります。外への買い物などは、引退されてからで十分にできます。」

と、丁寧な口調で一人の騎士が言う。

 その騎士にとって、セルティーは守らなければならない人物であった。その騎士の命にかえても、必ずである。それは、忠誠を公の場で仮に誓ったとしても、仕事で報酬を得るためにすぎない。本当に命を守ろうとする者もいるが、そんな人間は少数でしかなく、指を数えれば数え切れてしまうだろう。二週目以降なんてあることがないように―…。

 「はい、はい、うるさいねぇ~。ランシュは、私の母上か。それにね、(いえ)の中にずっといるのは、退屈なのよ。わかる、刺激が欲しくなるのを―…。ランシュ、あなたにはわからないだろうね。」

と、セルティーは溜息をつきながら言う。

 会話している騎士とは、ランシュのことだ。ランシュとセルティーの年齢は近く、騎士としても腕が立つということで、セルティーの筆頭護衛騎士になっていた。ランシュにとっては、セルティーの筆頭護衛騎士となってから、すでに三年という月日が経っていた。

 さて、簡単なランシュの来歴の紹介はここまでにして、話を戻そう。

 セルティーは、退屈していた。剣術の稽古はきついけど、自分にとって必要なものであることを認識していた。自らの立場というものははっきりと自覚していた。それは、セルティー自身なりにはという表現が最もしっくりとくるものであろう。

 それでも、セルティーは変わらない、変化をしつつあるとしても、自らが変化を感じることのできない日常に退屈していた。その退屈を終わらせるために、城の外に出て買い物をしようと思っていたのだ。よく、メイドたちが話している話を偶然聞いてしまったからである。

 聞いた内容は、どこどこの商品がいいとか、有名店の食べ物だとかという内容であった。そんな話は外に出ることができない状態のセルティーにとっては、未知の世界へと冒険に憧れている少年のような気持ちにさせた。いつか城の外に出た時ように、メモ帳を作るぐらいには本気である。熱意しかない。

 しかし、ランシュなどの騎士や城の者が城の外へと出してくれないのであった。セルティーの不満も貯まるものである。お金などの価値があるものではなく、ごみのように面倒くさいものであるので、さっさとどうにかしてしまいたいのだ。セルティーは、自らの買い物へ行くという望みにおいて―…。

 城の外へ出してくれない、自分の望みを聞いてくれないランシュに、セルティーはイラつきをぶつけるのである。そこにいるからであり、ランシュが田舎の村の出身であり、自然の環境の中にいて、かつ、護衛騎士としての休日には外に出ていることを知っているのでなおさらである。だから、セルティーは、ランシュが今のセルティーの気持ちが本当に理解しているとは思えないと思ったのだ。

 「王族であろう人が溜息とは―…、呆れます。しかし、セルティー様の気持ちもわからないわけではございません。辛い気持ちはわかります。それでも、あなた様が王族で王様の愛娘である以上、あなた様の安全が第一です。これだけは、何としても譲れません。」

と、ランシュははっきりとした口調で言う。

 セルティーは、悲しい顔した。自らの立場を理解していたとしても、呪った。王族はたぶん、他の人々からしたら恵まれていると思う。豪華な生活を送ることもできる可能性がかなり高い。城の外では、生活するために必死に稼がないといけないことを理解している。あくまでも、聞いた話や、本の知識、頭の上では―…。

 それでも、望んでしまうのだ。この王族という楔から解放されることを―…。叶わない夢だとしても―…。

 セルティーは、王族というものがたとえ、人が羨む生活を送ろうとも心の奥底が満たされることのないものであることを―…。簡単にいえば、囚人だ。檻に閉じ込められた見世物だ。生まれた時から、そこから離れることができずに、その人生を終えるだけの―…。有力者に利用されつくして、見世物として搾取されて―…。

 何となくだけどセルティーにもわかっていた。パーティーの中で、招待された者たちの抱く、人を利用して、己だけがより多く得をしようとする醜い心を―…。他者の得られる利益を奪いつくしてもなそうとしていることを―…。

 そして、セルティーは、自身もいつかはそのような心で満たされてしまうことを―…。絶望するしかない未来を抱くのであった。

 「わかったよ。ランシュの言う通りに(いえ)の外には出ないから―…。」

と、ぶっきらぼうにセルティーは言う。

 実際に、セルティーにとっては納得できるものではなかったが、無理矢理にそうさせるしかなかった。ここまで言い争いしても意味がないと思ったからだ。

 ランシュの方も気まずい雰囲気にするのは、よくないと思い、

 「セルティー様。」

と、セルティーに向かって言おうとする。

 「何!! 機嫌悪いんだけど―…、ランシュのせいで―…。」

と、不機嫌そうにセルティーは言う。

 その表情から、セルティーが不機嫌なのは十分にわかる。そして、そのセルティーの表面の状態しかランシュは読み取ることしかできなかった。セルティーの本当の気持ちも分からずに―…。

 「ありがとうございました。天成獣のことが書かれた本を貸していただき―…。」

と、ランシュはセルティーに感謝の言葉を述べると、セルティーに深々と一礼したのだ。話を逸らすために―…。

 セルティーが数日前に天成獣に関して書かれた本をランシュに貸したのだ。ランシュも天成獣が宿っている武器に適正があって、その戦い方について学んでいた。リースの城の中におかれるリースの天成獣の戦い方を教えてくれる者から教えてもらっていた。

 その教えは、実践的なものが多く、非常に役立つものであった。

 しかし、役立つからといっても、理論を抜きにして語ってくるので、ランシュにとっては、実感はできるが、どうしてそうなっているのかが理解できなかったのだ。ランシュという人物は、理由をしっかりと理解したうえでどのように使えるかを考えて、実践に臨みたいと思っているからである。

 そのことを、なぜか、セルティーに見破られてしまい、仕方なくそのセルティーの過去に使っていた天成獣に関する基礎的なものが書かれた本を借りたのだ。

 その本を読み始めると、少しランシュが難しく理解しにくい言葉で書かれていたが、そこは、必死に食らいついて、そして、実践的なことの中の知識から何とか導き出すことによって理解することができた。セルティーの機嫌を損ねないために、そして、無理矢理に近くではあったけど、ランシュ自身にとって役だったのでお礼をしたのだ。

 その言葉を聞いたセルティーは、

 「そうか、よかった。役に立ったか。」

と、満面の笑みになってランシュに返事を返すのであった。

 セルティーにとって、ランシュとは、唯一、格式張ったり、無駄な威厳を示さずに話すことのできる唯一の異性であった。セルティーは、王族であるため、パーティーで、他の王族、有力者、貴族の子ども、孫との話しをすることもあるが、その場で打ち解けるようなことはない。パーティーとは、相手との人脈をつくるだけでなく、互いの実力を推し測る場であり、欲望の渦巻く場でしかなかった。それは、国を守るためには時に、必要とされるものであろう。過剰で自己利益のみのものは、絶対にダメなのであるが―…。その場の欲望というものは、セルティーにとってはあまりにも気疲れしてしまうものであり、自分という自己をかなり限度で殺さないといけないからだ。野望というものを持たない者にとっては―…。

 その点、ランシュは、部下なのであるが、ランシュの性格、雰囲気のせいか話しやすいのだ。たぶん、ランシュは田舎育ちであり、かつ、周りとのコミュニケーション能力に優れ、相手との距離の測り方がうまいのだ。そして、天性の才能なのかもしれないが、弄りやすいと思えてしまうことがより話しやすさに拍車をかけているのだろう。

 さらに、セルティーのように、少しだけ自分を強くみせようとして、失敗してしまうという共通点も持っていたのだ。それが、セルティーにとってランシュに親しみやすいと思わせているのだろう。

 そして、セルティーは、ランシュとの会話が楽しいがために、ランシュに対する好感度を高くしていたのだ。パーティーで顔を会わせる男たちと違って―…。

 「はい。」

と、ランシュは簡単に短い返事をする。

 その時に、ランシュは、笑顔にするのだった。半分偽りのものであったとしても―…。

 ランシュとしては、セルティーは復讐対象の娘であるが、彼女自体を殺したいとは思っていなかった。利用しようとは思っていた。わずかな()()()()を感じてはいたが―…。それでも、ランシュという人間が、歩んできたこれまでの人生という道において、リースへの復讐が自らの生きるための唯一の道だったのだ。そう、ランシュは思ってもいたし、他の選択肢はそれよりも低いものと無理矢理にでも思うことにしていた。

 「そうか、そうか。よかった。もしも、この(いえ)から自由に外に出られるようになったら、その時は―…、誰かとデートでもしたいなぁ~。」

と、セルティーは意図的にランシュの方を見ながら言う。

 その意味は、ここで文章にしなくてもわかるだろう。

 でも、直接言葉にしないと伝わらないのではないかとセルティーに思わせている人物がいる。

 「誰かとは言いませんが、その時には、すでに、年を召されているか、亡くなっているかどちらかですね。」

と、ランシュは言う。真顔で―…。

 そのランシュの言葉は、再度セルティーの怒りを刺激することとなってしまったのだ。さっきのとは、違い、さらに大きなものであった。

 「ランシュ、よく言うなぁ~、その口は―…。」

と、セルティーは頭に怒りマークを浮かべさせて言う。

 セルティーとしては、自らの気持ちをランシュに察してほしいのだ。セルティーもわかっていた。ランシュがセルティーの気持ちの表面上しか見ていないことを―…。意図的に本当の意味を見ようとしていないことも―…。

 だから、余計に腹が立つのだ。

 「ランシュの分からずや!!」

と、怒鳴るように言うのであった。

 それを聞いたのかどうかはわからないが、一人の人物がノックをしてくる。

 「あの~、セルティー様。お部屋にお入りしてもよろしいでしょうか。」

と、ノックをした一人の人物が言う。

 「ああ、入ってかまわない。」

と、セルティーが言う。

 そうすると、セルティーの部屋と廊下をつなぐドアが開き、セルティーに幼い頃から長く使えているメイドの一人であるニーグが入ってくる。ニーグは入ってくると、すぐにドアを閉める。

 「セルティー様。そろそろお夕食の準備が完了します。食堂部屋へと―…。さらに、今日はレグニエド様も同席される予定となっております。」

と、ニーグはセルティーに要件を伝える。

 その要件は、夕食の準備ができそうなので、食堂部屋へとお越しになるようということと、今日の夕食にはセルティーの父親であるレグニエドが同席するということであった。

 レグニエドは、あまり、セルティーと一緒に食事をとることはない。ここ数年は特にそうだ。レグニエドは公務で忙しく、家族としての時間をほとんどつくることができていなかった。さらに、後継ぎの男子がなかなか正妻であるセルティーの母親との間に生れなかったので、幾人かの妾との間で子を成すようにしなければならなかったのだ。

 別に、リースという王国が女性王族の王位を認めていなかったわけではない。女性王族が王位に就いた例は、二、三例ほどあるが存在するのだ。ただし、理由は、あくまで、男性の世継ぎが幼かったことによる中継ぎでしかなかったのだ。それでも、女性王族の時代には、リースは良く繁栄を迎えていたので、リースの王国民にとっては、女性王族の王位は良いものとされていた。

 しかし、貴族や王族、他国の有力者にとっては別のものの見方をされてしまうのだ。あまり良いという方の見方がされないのだ。総体ではなく、個別で見ると、女性の王位に理解を示す人もいるが、そうでないのが多いのだ。それは、男のエゴでしかない。自らよりも優れた女性を恐れているからにすぎない。自らが劣った存在であることを知られるのを極度に恐れているのだ。自覚していようがいまいが、そう思っているのだから、無意識的にも、意識的にも―…。

 「そうか、わかった。では、参ろうか。」

と、セルティーは言う。少しだけ、悲しそうに―…。それは、ニーグぐらいに幼い頃から話し相手として、メイドとして、セルティーに仕えている者になるとすぐにわかってしまうのだ。

 だから、

 「さっさと、ランシュに告白して、駆け落ちもしくは、レグニエド様に結婚の許可でももらってください、セルティー様。」

と、ニーグは半分冗談で言う。

 「ニーグ、何を言っているのだ。そんなことはありえないのだ。ありえるわけがないだろう。私は王族だ、王族が騎士と…、け…結婚とかありえない!! 身分が違いすぎる!!! 互いに不幸になるだけだ!!!!」

と、セルティーは慌てながら言う。

 セルティーにとっては、意表でも付かれたかのように狼狽させる。ゆえに、ランシュとの結婚などという身分の違いがあるものはありえないということを、常識で知っているし、わかっている。だから、強く否定するのだった。

 「そうですね。」

と、ニーグは心の中で笑いそうなぐらいの気持ちを抱きながらも、落ち着いて言う。

 「う―――。」

と、セルティーは短く唸るのであった。

 ランシュとしては、どうでもいい会話ではなかったのだ。それでも、騎士である以上、平常心を保つのは当たり前のことだと思っていたし、自らの目的のためには、ニーグの会話などは必要のないことだと思った。そこに、ランシュとしての冷静さはなかったと他者の視点から覗くことができればわかるのであろう。だが、ランシュは、平常心になることに集中するのに必死だった。

 そして、

 「食堂に行くぞ。」

と、セルティーは言って、自室を出ていったのだ。

 それに、ランシュとニーグがついていくのであった。食堂部屋へと向かって―…。


第68話-2 なつかしき日々の終わりに に続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。

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