第67話-3 肖像画
『水晶』、一周年記念、二部分同時間更新、第二部分目となります。
この一年で、小説全体のPVは2291、同様に、ユニークが1008となりました(現時点で―…)。『水晶』を読んでくださりありがとうございます。
そして、小説全体のユニークが1000を超えました。次の目標は、ユニークに関しては、一万です。頑張っていきたいと思います。
では、前回までのあらすじは、瑠璃がレラグとの試合でダメージと精神的な疲れで意識を失うのであった。そして、その日の夜へと時間が進んでいった。
第七回戦がおこなわれた後の当日の夜。
場所は、リースの城の中の医務室。
すでに、人々のほとんど多くが寝静まっている時間。
青と橙色が空のすべてを示す時間を引いた残りの時間。
一人の少女が目を覚ます。自らの体を上半身を起こす。
「ここは―…。」
と、言葉にする。少女はぼや~としていた。まだ、意識が完全には回復していないのだろう。それでも、思考することはできる。完全というのにはほど遠いものであるが―…。
少女にとって、目を覚ますまでの意識を失っていた時間は、ないものに等しかった。事実、時間の経過を正確には感じられなかった。人の感じる時間など曖昧なものと思わせるほどに―…。
そして、意識の回復が完全に近づいていったのか、少女は、少しずつではあるが、思い出していった。記憶喪失という類のものではなかったが―…。
(そうだ。私―…、レラグと戦って勝って、その後に、礼奈とクローナと一緒に抱きついて、それから、急に視界が暗くなって―…、気絶したんだ。で、ここは医務室―…。ひょっとして、リース城の中かしら。)
と、瑠璃は心の中で状況を整理する。
それを確かめるために瑠璃は、辺りを見回した。医療関係の器具や薬品棚が見えることからそこが医務室であることを理解する。そして、それと同時に瑠璃から見て左側に誰かいるのかがわかった。
(礼奈!!)
と、瑠璃は心の中で驚く。そこには、礼奈がいたのだ。それも、
(眠ってる。)
と、いう状態であった。
理由は、風呂と着替えを終えた礼奈が、夕食の後、医務室に訪れて、瑠璃の様子を見ると告げたのだ。そして、医務室で瑠璃の体を拭き終え、着替えさせたエリシアとニーグは、瑠璃の様子を見ている時であった。それから、ニーグが部屋を出て、エリシアが夕食と入浴のために部屋を一時的にでた。つまり、ほとんどの時間、医務室にいたのは、礼奈とエリシア、そして、意識を失っていた瑠璃である。
「おう、目、覚めたようだな、瑠璃。」
と、エリシアの声がした。
それに気づいた瑠璃は、
「エリシアさん。って、ここは医務室ですか。」
と、確認のためにエリシアに、今、自分がいるところが医務室であるかを尋ねる。
「そうだ。瑠璃、ずっと今日の試合でたいぶ疲労をためてしまったのだろう。だから、試合終了後に緊張感から解放されて一気に疲れがでたようだ。二、三日は修行は禁止だな。体をしっかりと休ませないといけない。ただし、日常生活での行動はむしろ積極的にしていい。」
と、エリシアに無理に向かって、ここがリースの城の中にある医務室であると言う。
そして、瑠璃に、しばらくの間の修行の禁止を宣告する。それは、瑠璃がたとえ疲れを感じなくなったとしても、その疲れというものは完全に取り除かれておらず、疲労感のみが完全になくなっただけにすぎないのだ。そう、疲労感と実際にある疲労というものは別ものであるのだ。ゆえに、本人が疲労を感じなくなったとしても、二、三日ほどは様子を見て判断したほうがいいだろうと考えたのだ。
「はあ~。わかりました。」
と、瑠璃は言うのであった。
瑠璃としては、修行をしてはダメというエリシアの言葉に、少しだけ悲しくなるのであった。それは、レラグ以上の相手が登場するのではないかという不安があったからだ。そう、第八回戦以後の対戦相手がレラグ以上の実力者が登場すると思っているからだ。確信というもの近いほどに―…。
「全然納得していないだろう、瑠璃。」
と、エリシアは、瑠璃の考えていることを見破っているかのように言う。
あまりにも簡単すぎたのだ。瑠璃がショックを受けているような表情しているのだ。さっきまでのセリフから多くの者が一般的に抱くであろうという考え、さらに、今までの瑠璃という人間のエリシアの知っている部分からの推測を含めると、自ずと瑠璃がエリシアの修行禁止宣告に対することに納得していないという結論に達する。
エリシアが医者である以上、医者としての技術だけでなく、最新の科学、人とのコミュニケーション能力といわれる相手との意思疎通と今の言葉からの本当の心理を読むことが必要であった。ゆえに、その能力を兼ね備えようとして、今があるのだ。瑠璃が簡単に嘘ついて言い逃れができるような相手ではないし、目を盗んで、修行禁止の禁を破ることもできない。
だからか、瑠璃は、エリシアがさっきセリフを言った後にすぐに、ギクッ!! という動きをしたのだ。そう、体が若干だが震えたのだ。上下に―…。
「納得しない理由もわからないでもない。次の回戦以後、今まで戦った相手よりも強い相手が出てくる。たしかにそうだろう。そして、その強い相手に自分自身が戦わなければならなくなる時がある。そのために、修行を多くして、少しでも強くなろうと。」
と、エリシアは言い始める。
この時、瑠璃は、ギクッ!! ギクッ!!! 何度も体を震わせてしまうのだった。それほど、エリシアの言っていることが瑠璃にとって図星でしかないのだ。
「だけどな、体が万全の状態でなければ、強くなることはできないし、危険でしかない。焦って、他のことを無視すれば、ツケは必ず自らに返ってくる。だから、絶対に無茶なことは二、三日は絶対にするな。その分、完全回復後には、今よりもたいぶ強く戦えるようになっている。医者として、こういうことを言うのはあまり良くないが、くぐった試練が過酷なものであるほど、回復後により強くなっていること実感しやすいし、実際に、強くなってもいることがある。まあ、二、三日は、今までの自分を振り返るぐらいの時間にしてくれ。」
と、決して、厳しい口調ではなく、諭すようにエリシアは言い続けるのであった。
結局、瑠璃の方が折れたのだった。ここまで、長く話をされるのが辛いのと、言う通りにしないと痛い目に会いそうだと思ったからである。瑠璃の勘でそんな予感がしたのだ。
「わかりました。」
と、瑠璃は言う。
その言葉を聞いてエリシアは、瑠璃が完全には納得していないが、医者の言うことは聞くだろうと判断し、
「そうしてくれると助かる。」
と、言うだけにしたのだ。
「トイレの方は行ってもいいのでしょうか。」
と、瑠璃が尋ねる。
「いや、それぐらいなら、私の許可なく自由に行ってきていいぞ。」
と、エリシアは呆れながら答えるのだった。
リースの城の中の廊下。
時間としては、さらに夜が深まっている頃。
そう、現実世界における日本において丑三つ時という言葉があるように、その言葉が指す時間になっていた。
瑠璃は、リースの城の中にある廊下を歩いていた。
夜風にあたりたかったのだ。
場所としては、李章と礼奈が会っていた場所は、避けたいとも考えていた。瑠璃にとって、李章と礼奈が自分の知らない所で会うの実際に、目ではもう二度と見たくはなかったのだ。瑠璃にとっては、李章と礼奈は付き合っているのだと今だに思っているからだ。実際に、そうではないし、李章の方も瑠璃が好きなのであるが―…。瑠璃はまだ知ることはなかったようだ。
ふと、瑠璃は扉がわずかに開いている部屋を見つけるのであった。
「?」
と、疑問に思いながら―…。
リースの城の中にある医務室。
「う~~~ん。」
と、礼奈が目を覚ます。
そして、あることに気づく。
(ハッ!! いつの間にか寝てしまっていた。瑠璃は!!!)
と、礼奈が心の中で慌てて、瑠璃が寝ているベットの方を見る。
「いない!!」
と、思わず礼奈は声をあげてしまうのだった。
「うるさいなぁ~、礼奈どうした。」
と、エリシアが眠そうに尋ねてきた。
エリシアとしても、やっと瑠璃が目を覚まして、安心できて眠っていたのに、礼奈のはっとさせる声で目が覚めてしまったのだ。そのため、エリシアは最初、礼奈に対してイラっとした。
それでも、すぐに冷静になることができたのか、エリシアは、すぐにあることに気づいて礼奈に言う。
「そうか、さっきまで寝てしまっていたんだよな、礼奈は―…。瑠璃のことなら安心していい。一時間ほど前に、目を覚ましたよ。さらに、元気そうではあった。だけど、まだ、完全に疲労がとれたわけではない。二、三日ほどは瑠璃の修行は、禁止すると言ってある。それでも、その禁止を破って修行をするようなら、礼奈、私に報告しろよ。それが、親友のためだ。わかったな。」
と。その言葉は、親友のためと付け加えることによって、瑠璃が修行禁止を破ることを防止し、かつ、破った場合に確実にエリシア自身に報告がいくようにしたのだ。礼奈の性格や、瑠璃と礼奈の関係をうまく考慮したうえで、である。
「はい、わかりました。」
と、礼奈は素直に頷く。
礼奈にとっては、瑠璃に今、無茶を重ねさせるべきではないことぐらいのことはわかっていた。エリシアという人物が、瑠璃の体調をきずかって言っていることを理解できたからだ。礼奈にとってエリシアは、信頼のできる技術のある医者なのだ。あくまでも、医者としての評価だけではあるが―…。
「うん、素直なのはいい。聞き分けのあることは賢く、人生を生き残るためには必要なことだ。」
と、エリシアは礼奈の素直さに、頷きながら言う。
勘ではあったが、礼奈は本当に心の奥底から素直に聴いてくれていることがわかったからだ。礼奈に対してエリシアは、感心していたのだ。さすがだ我が弟子、ぐらいに―…。
「それで、瑠璃はどこに行ったのですか。」
と、礼奈は瑠璃がどこにいるのかをエリシアに尋ねる。
エリシアとの会話で忘れていなかったが、尋ねるタイミングがなかなか礼奈自身で気づくことができなかったので、今まで尋ねられなかったのだ。ここで、ようやく礼奈自身にとって、尋ねることができるタイミングがきたのだと思ったのだ。
「ああ、瑠璃なら、トイレに行ったぞ。まあ、一時間ほど経つし、どっかに涼みにでも行ったのだろう。まあ、気にするな。」
と、エリシアは言う。
それを聞いた、礼奈は、エリシアという人物が医者として尊敬することはできる。
しかし、
「そこは、お花を摘みに行ったぐらいに表現を変えてもらえませんか。」
と、呆れた視線で礼奈が言う。見た目や細かいことに頓着しない性格なのか、時々、女性としての慎みという面がないと礼奈は思うことがあった。実際は、それ自体も女性像の押し付けでしかないが―…。人の価値観は軸をはっきりさせないと、不安定なものになるのだから―…。
(そ~っと、そ~っと。)
と、心の中で瑠璃は言いながら、覗く。
好奇心に負けたのだ。わずかに開いている扉の中が気になった。
あまりこの行為が良いものではなかった。それは、瑠璃も理解している。
知りたい。あの中がどうなっているのか。気になる。気になる。そんな好奇心が瑠璃の多くの部分を占めていた。ちょっとした冒険気分であった。
(何があるのかなぁ~。)
と、心の中で瑠璃は言う。
瑠璃は、誰かに気づかれないようにして、わずかに開いている部屋の中を覗くと、あることに気づく。
(教会?)
と、瑠璃は心の中で思うのである。
そう、現実世界における教会そのものだったのだ。ただし、決して、異世界と現実世界に同じ宗教が存在しているのではない。違うがたまたま似てしまったのだ、建築構造が―…。
(あれ?)
と、ふと、瑠璃はある人がいることに気づく。
(どうして、ここにいるのだろう。セルティー王女。)
と、瑠璃がそ~っと覗いている部屋の中にセルティーを見る。
決して、セルティーに気づかれないようにという細心の注意を瑠璃は払う。もしも、ここでセルティーにバレてしまい、それが、セルティーが隠したいことであったら、今後の瑠璃とセルティーの関係に重大な溝および気まずいものとなってしまうのだ。そんなことを瑠璃は望みやしない。だから、こっそりと覗くのである。
(ステンドグラスはないんだ。あれ、中央に何かある。)
と、瑠璃はふと入り口を真っすぐ進んだ後の奥に何かあるのを見つけた。
(肖像画…。)
そう、そこには、中年の男性の大きな肖像画が一つあったのだ。その肖像画の大きさは、縦で十メートルを超えており、横は十メートル弱ぐらいであろう。それでも、瑠璃にはその大きさが大きいとわかった。視覚的に―…。さらに、その肖像画に描かれている中年の男性は、どこか威厳を感じさせるように絵師が忖度して書いたのではなかろうかというぐらいに、威厳というものを強く感じさせていた。絵の技法としては油絵に分類できるだろう。絵を色で塗るだけでもかなりの時間を要したのではないだろうかと思えるほどだ。一人の画家でのみなら、軽く一年、いや、もしかすると、十年はかかるのではないだろうか。
そんな、肖像画に見惚れてしまった瑠璃は、思わず、扉に強く触れてしまい、音をたててしまうのだった。
その音に気付いた瑠璃は、
(まずい。)
と、思って逃げようとするも、あることに気づく。
(リースの城の廊下は、直線が長くて、道に迷ってしまう。それを気づいて―…。)
と、心の中で言いかけていると、
「誰です。出てきなさい!!!」
と、セルティーの怒りに似たような声が聞こえた。
その威圧感のために瑠璃は、思わず、
「はい!!」
と、返事をしてしまい、出てくるのであった。
「瑠璃さん?」
と、セルティーは頭の上に疑問マークを浮かべてしまうのである。実際には、浮かんでいないのであるが―…。
第67話-4 肖像画 に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
そろそろ、リースのある事件へ入っていくと思います。厳密には第68話からです。