第67話-2 肖像画
今日この時間に、初めて『水晶』を投稿したので、一周年です。そして、今日からは『水晶』は2年目ということになります。
しかし、素直には喜ぶことはできません。昨日、東北地方のほうで大きな地震がありました。お悔やみ申し上げます。2011年の東日本大震災のことが頭によぎります。別に被害にあったというわけではないのですが、その時の津波の映像をテレビで生で見たことがあるので、大丈夫か心配になります。津波の方はないということですが、被害がどれくらいになるのかは心配です。この昨日の地震で被害にあわれた人々の生活が再興もしくは復興されることが一日も早く実現されることを祈ることしかできませんが、お祈りさせていただきます。
前回までのあらすじは、レラグは瑠璃に対して、最後に真後ろへと空間移動をせずに、正面から波を打ち破って倒そうとしたのかを聞いてきて、瑠璃は答えるのであった。その答えを聞いた後、レラグは相手に良い試合ができたことに感謝し、自らのチームのメンバーとともに競技場をあとにするのだった。
今日は、同時間にもう一部分更新しています。昨日告知する予定でしたが、忘れてしまい申し訳ございません。反省しています。
トン、トン、と音がなる。
これは、足音だ。四角いリングを下りようとしている人物の―…。
そう、瑠璃の履いている靴が、四角いリングを下りることができる階段に触れることによってなる音である。
でも、瑠璃は、この音を聞くことはできない。別に耳が聞こえないのではない。疲れてしまっているのだ。第七回戦第六試合で強い相手であるレラグと戦ったためである。
そして、瑠璃は、中央の舞台にいたる。そう、自らのチームのメンバーの元へと向かったのだ。
瑠璃が戻ってくるのを見ながら、中央の舞台に瑠璃がいたると、礼奈が、
「瑠璃――――――――――――――――――――。」
と、大きな声で言う。礼奈にとっての瑠璃の勝利は嬉しいことでしかなかった。それは、レラグという瑠璃よりも強かった相手によって瑠璃が第七回戦第六試合で殺されるということを聞かされたためだ。それでも、礼奈は、瑠璃が勝利すると反論し、実際にそれが実現したのだ。
そして、その嬉しさのためか、声が大きくなり、瑠璃へと向かって行き、瑠璃に抱きつくのである。嬉しさのあまりに―…。ぎゅ~~~っと。
瑠璃が生きていたことに安心したのか礼奈は、泣きだすのであろう。大きな声になるということではなかった。それでも、声とは反比例するかのように、心の中で、心配したんだという気持ちが溢れんばかりとなっていた。
「心配したんだから。」
と、礼奈は言うのであった。
「大丈夫だよ、礼奈。勝ったから。」
と、瑠璃は礼奈の言葉に答えるのだった。
今の瑠璃と礼奈の二人にとっては、必要以上に言葉を言う必要はなかった。互いにある程度理解している。心配かけてすまなかったという瑠璃の気持ちと、安心したのだよという礼奈の気持ちの双方が―…。
そして、しばらくして、二人の今の空気に疎外されているのが気に食わなかったのか、
「ああ――――、ずる――――――――い。私も輪の中に混ぜてよ!!」
と、一人の声がする。その声に瑠璃と礼奈は気づく。
「「クローナ?」」
と、瑠璃と礼奈は不思議そうに返事をする。この時、瑠璃と礼奈の二人は、クローナのいる方向に視線を向ける。
「混ぜてよぉ~。」
と、クローナは、空気なんて関係ないと思わせるほどに瑠璃と礼奈に飛びついてきたのだ。
ぎゅ~、と。
クローナが抱きついてきたのを、瑠璃と礼奈は受け止め、結局、三人でぎゅ~とするのであった。
そんな様子を見ていたセルティーは、
(よかったです。瑠璃さん。)
と、心の中で言うと、ランシュがいたと思われる貴賓席の方へと視線をおくる。
(第六回戦と第七回戦、ランシュが試合を見に来ていた。それも、ここからでもわかるぐらいの強者を引き連れて―…。一体、何が目的なんですか、ランシュは?)
と、続けて心の中で考えるのであった。ランシュの目的が何であるのかを―…。
セルティーとしては、ランシュが何を考えて、前のリースの王を殺したのか。そして、今、どうしてリースを乗っ取ろうとしているのか。ただ、権力が欲しい、地位が欲しいという名誉に対する欲であれば、今の行動にも簡単に納得がセルティーでもいくだろう。権力を欲する者は、武力を用いて直接的に国を滅ぼして支配するか、もしくは、武力を対外で示したり、政策などによって現状の国を救いつつ、今の王以上の存在となり、内から国を奪うのかという大まかに二つの方法を採用する。ランシュも例には漏れないだろうが、セルティーにとっては疑問にしか感じなかった。
(ランシュの行動は、ただの私欲だけの行動だったとしても、権力を欲する者の理由で動いているとは思えない。どうしてもそのように感じてしまう。わからない。)
と、首を傾げるしか今のセルティーにはできなかった。
セルティーは、知らないのだ。ランシュという人間の人生、そう、ランシュがリースに仕えるようになるまでの経緯を―…。知ることとなれば、きっと、恨みという気持ちだけではなくなってしまっていただろう。複雑な感情というもの抱くということになったのであろう。そんなことを語っても今は、意味をもたない。
アンバイドは、瑠璃、礼奈、クローナの抱きつき行動を見て、
「ふう~。」
と、息を吐き、心の中で、
(結果として、俺の予測を外してくれた。いい意味で―…。それでも、第八回戦以後は、レラグのような実力者、いや、それ以上の実力の持ち主が出場してくるかもしれない。瑠璃や、礼奈は確実に大丈夫だろう。クローナやセルティーもまあ~、何とかするだろう。問題は、ここでも李章か。天成獣の力は十分に発揮できるようになったが、それでも武器である刀を抜かなければ、本来の戦い方はできない。天成獣の宿っている武器は、武器の部分が天成獣の力を発揮させるためだけのものではない。武器それ自体が、天成獣の得意とする戦い方を武器を持っているものにさせることができるようにしている。だから、いい加減、李章は刀を用いて戦わないと、最悪の結末になってしまう。レラグが瑠璃を試合の中で殺すと言っていたように、そんなことをしてくる相手が第八回戦以降、登場しないとも限らない。レラグのように親切にそう言ってくれるとは決まっていない。)
と。
アンバイドにとって、ここから、レラグクラスとそれ以上の実力者が第八回戦以降は確実に近いほどの確率で登場してくることだ。そうなってくると、天成獣での戦い方の成長度合いから判断して、李章以外は何とかなるだろう。瑠璃も剣を用いて戦うことができたので、大丈夫だろうと判断した。
しかし、李章を含めることは、しっかりとした判断をしようとしているアンバイドにとってはできるものではなかった。するわけにはいかなかったのだ。そのような判断をしてしまえば、レラグが試合の中で瑠璃を殺そうとしたように、試合の中でアンバイドの属するチームのメンバーの命が奪われることになるからだ。戦力は一人でも多くいたほうが何かと都合がいい。ゆえに、最終戦までにメンバーが命を奪われないことを考えて、第八回戦以後を考えてみる。
そうなってくると、李章が一番危険になってしまうのだ。李章は未だに、自らの天成獣が宿っている武器である刀を抜いて戦っていないのだ。アンバイドがそこで懸念するのは、天成獣の宿っている武器がその天成獣の能力を発揮させ、かつ、最大限効率よく戦うことができるようになっているのだ。
しかし、李章は、天成獣との会話以後も、自らの武器を用いずに蹴りで戦っていたのだ。自らのプライドを守り、約束を守るがために―…。
そんな戦い方をし続けても、いつかどうしようない状態になるとアンバイドは考えていた。李章の武器に宿っている天成獣であるフィルネの考えとも近かった。そう、李章は、自らの天成獣の宿っている武器である刀を用いて戦わないと相手に勝てない状況が確実に迫っていたのだ。瑠璃のように、グリエルの言うことを聞いて剣術をセルティーから学んでいたの違い、李章が刀の扱うことを一切していないのだ。刀を抜けばそれなりに戦うことができるだろう。だけど、扱っているという経験があるのとないのとでは違いが生じる。ぶっつけ本番のような戦い方は、よっぽどうまくいかないと勝利を手に入れることが難しいのだ。ゆえに、李章がその状態になる以前に、一度だけでも刀を扱わせたいと思った。
そして、同様に、アンバイドの中にある答えがでる。
(刀を抜けといっても、刀を扱ってみようかといっても、李章は断るだろうな。)
と。そう、李章は確実にアンバイドの意図を読んで、頑固に刀に触れようとしないからだ。
ゆえに、アンバイドは諦めモードになるしかなかった。アンバイドの心の中でガックリとしてしまうのだった。
一方で、李章は、
(瑠璃さんが勝ってよかったです。)
と、瑠璃がレラグに勝利したことをただ、純粋に喜んでいた。
瑠璃、礼奈、クローナはぎゅ~とし終えると、互いに密着させていた体を離す。
その時、瑠璃がふらっとする。
「あれ。」
と、力のない声で瑠璃は言う。
(力が入らない。)
と、言葉にして言うことができず、心の中で言うしかなった。
そして、ふらっとした後、瑠璃の意識は、目の前に移っていた礼奈とクローナの姿がぼやけ、そして、黒となっていき、その時、音がしたのを最後に、意識がとんでしまう。瑠璃は、一瞬のことで、理解することができなかった。音がなって以降のことを―…。
瑠璃が倒れたことに気づいたけど、急なことであったので対応が遅れた礼奈とクローナ。ゆえに、瑠璃が倒れてすぐに、
「「瑠璃!!!」」
と、礼奈とクローナは言って、すぐに瑠璃の元へと向かう。
礼奈はすぐに瑠璃の頭部を膝枕するように、礼奈の太ももにのせて、
「青の水晶」
と言って、青の水晶を使用するのであった。瑠璃が倒れる時にうけた傷を治すために―…。
「礼奈、瑠璃はどうなの!!」
と、クローナは礼奈に瑠璃の状態を尋ねる。
「うん、気を失っているみたい。でも、あのような戦いをしたから、体に相当なダメージを負っていたのかもしれない。何とか、殺されないようにして、戦っていたから、心も相当な緊張していただろうし。安心してきって、一気に疲れがでて、倒れたみたいだね。だから、傷だけは治して、後は、城まで運んで、お医者さんに診てもらわないとね。」
と、礼奈は答えるのであった。
礼奈の見立てでは、瑠璃はレラグとの戦いで、相当な体のダメージと精神的な緊張を強いられた。ゆえに、気持ちも体もかなりの無理をして戦っていたのだ。それは、レラグに自らを殺されないようにするという気持ちが無理をさせることを容易にしていた。だから、勝利をして、味方のいるところに戻って、味方を安心させると、緊張の糸が切れたのか、今まで受けてきたダメージが一気に体にきていたことに気づいて、倒れたのだ。
そのため、礼奈は、しばらく間、瑠璃を寝かせ、倒れる時に負ったであろう傷を青の水晶で治すことにしているのだ。
それから、三十分ほど、瑠璃が負った身体にある傷を治した。傷を治し終えると、アンバイドに背負わせて、リースの城へと戻っていったのだ。その時、李章が背負いたそうにしていたが、いくら李章が背負う力があったとしても、アンバイドにはかなわないので、結局、アンバイドが背負うことに無理矢理に李章は納得させるのだった。折り合いを心の奥底でつけられることができずに―…。
ここは、リースの城の城門。
そこには、李章、礼奈、クローナ、セルティー、アンバイドがいた。
そして、瑠璃はアンバイドにおんぶされていた。もちろん、瑠璃はそんなことを知らない。
そう、瑠璃はさっき競技場の中の中央の舞台で、レラグとの試合で受けた体のダメージと緊張感から解放されたことによって、意識を失っているのである。つまり、安堵のために、疲れが一気にでてきたのである。
リースの城の城門が開けられる。それは、この城の主の一人であるセルティーがいたからだ。それに気づいた城門を守る衛兵によって、なされている。
そして、数秒の時間で、リースの城の城門が開く。それは、大きな門ではなく、そこに付属されている小さな門である。
門が開けられると、そこには、セルティーに仕えているメイドである二人、ニーグとロメがいた。
「お帰りなさいませ。セルティー王女。」
と、ニーグの方が事務的に言うかのように言う。決して、ニーグが事務的で、セルティーに対して冷たいというのではなく、公的に仕えている以上、節度というものが必要とされるからだ。特に、外と接する場合においては、特にそうである。セルティーとの主従関係をはっきりさせておく必要があるからだ。なれなれしそうにするのは、セルティーの王女としての威厳をそこなう結果を招き、セルティーから権力を奪おうとするものに対して、決定的な機会を与えてしまいかねない。
「うむ、帰った。それと―…、医者はおるか。」
と、セルティーはメイドの二人に向かって言う。
それは、瑠璃を診てもらうために、リースの城の医務室にいるであろう医者がいるかを尋ねたのだ。医務室に行ってから、医者がいないのに気づくのは余計なことになってしまわないからだ。診てもらう以上、早いにこしたことはない。
「ええ、たぶん、いらっしゃと思います。では、医務室へと向かうのでよろしいでしょうか。」
と、ニーグが代表して答える。
そして、ニーグはセルティーが何をしようとしているのかに気づく。アンバイドにおんぶされてぐったりしている瑠璃を見て、医者に診てもらおうとしているのだ。だから、セルティーのしたいことの確認をとるのであった。間違いであれば、セルティーがそれを指摘するだろうと思って―…。
「ああ、そうだ。では、連れて行ってくれ。」
と、セルティーは言う。
そうすると、ニーグとロメを加えて、リースの城の中にある医務室へと向かって行った。瑠璃を診てもらうために―…。
リースの城の中にある医務室。
医者を含め、李章、礼奈、クローナ、セルティー、アンバイドとメイドの二人がいる。
「う~ん、ただ単に意識を失っているだけみたいね。体の傷は完全に治癒されているみたいね。服の中はまだ見ていないけど―…。話を聞く限り、よっぽど緊張感のある長い試合で、打撃を何度か受けたり、水の中に何度も閉じ込められたってことね。」
と、医者は言う。この医者は、若くはない女性であるが、その年齢には見えないぐらいに見た目は若いのだ。それに綺麗にすれば、色気というものを確実におびていたであろう。
しかし、この医者にとって、色気よりも医者としての使命が一番であり、見た目なんぞにはこだわりがなかったのだ。ゆえに、技術もしっかりとしてもっており、実力もある。これ以上、この医者について触れても今は無駄なことであろう。
「ええ、それに―…、レラグから殺されかねような状態での戦いでしたから―…。今日最後の試合でもあったから、なおさら、他の人が出場することができずに―…。」
と、礼奈は言う。この時、表情が少し暗くなってしまう。それは、瑠璃の代わりに戦えばよかったのではないかと礼奈が思ってしまったからだ。それでも、瑠璃がレラグとの試合に勝ったから、少しだけで済んだ。
「まあ、こればかりしょうがないとしか言いようがないね。いくら私が怒ったとしても、結果的に生き残った以上、言うことはない。後、私から言えることは、今はゆっくりと寝かせてあげることだね。そして、誰かがここにいるか、瑠璃の部屋に運んだ後、一緒にいる必要があるね。医務室にいるのならば、私もなるべくしっかりと見ておくことにしよう。どうする?」
と、医者は聞いてくる。
「はい、医務室で寝かせておきましょう、エリシアさん。」
と、礼奈は答えるのだった。
リースの城の中にある医務室に常務という状態に近い医者であるエリシアは、礼奈の言葉に対して、
「そうだな。それと―…、お前ら―…。」
と、医務室に李章、礼奈、クローナ、セルティー、アンバイドが来た時から思ったことがあったのだ。
「何ですか、エリシアさん。」
と、礼奈が恐る恐る聞くのであった。何か嫌な予感がして―…。
「土塗れで、医務室に入ってくるな。ここは医務室だ。清潔に保っておく必要があるんだよ。さっさと、風呂入って、着替えてこい!! あ~あ、ここの掃除と、瑠璃の体は拭いておく。ニーグかロメ、どっちかは瑠璃の部屋から服や下着をこっちに来るときにとってこい。後、男は全員、重病でない限り、私が入っていいと言うまで、入室禁止だ。」
と、エリシアは言う。瑠璃の女子としての面目をエリシアは、保たせようとしたのだ。意識のない中で、自らの体の隅々まで見られるのが嫌なことぐらい想像が簡単にできてしまうからだ。ゆえに、その可能性を排除しようとした。
そして、エリシアは、李章、礼奈、クローナ、セルティー、アンバイドを追い出すのだった。ロメが瑠璃の部屋へと向かい、ニーグとエリシアで瑠璃の体を拭くのであった。
第67話-3 肖像画 に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。