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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
120/747

第67話-1 肖像画

前回までのあらすじは、第七回戦第六試合、瑠璃VSレラグの試合は瑠璃が勝利した。アンバイドの当初の予想を裏切って―…。

第67話に関しては、分割することになります。内容の追加が多かったためです。

 これは衝撃だった。

 衝撃でしかなかった。

 特に、天成獣での戦いを経験している者ほどそう思った。

 思わないわけがない。その経験をほぼ全否定されたようなものだ。

 実力が弱い者が強い者を倒すことはある。そのことは言われなくても理解できる。

 それでも、それでも、ありえないのだ。圧倒的な差から逆転など―…。

 強者であるレラグが、弱者である瑠璃に敗れるということが―…。

 (あの圧倒的さを逆転しただと…。一体、瑠璃(あいつ)は何者だ。)

と、心の中でランシュは言う。それも、さっきまで、レラグが倒されるというありえない光景を見て、茫然としてしまっていたのだ。ランシュもレラグの実力を知っているがゆえに―…。だから、ランシュは思うのだ。瑠璃という人間が、一体何者であるのかを―…。

 それは、この貴賓室にいる者も一人を除いて全員がそう思っている。ヒルバス、イルターシャ、ニードは、さっきのランシュと同様に茫然としていた。それがランシュよりも長く続いてしまっていたのだ。言葉にすらできないほどに―…。

 一方で、瑠璃に似ている少女は、驚きはすれども、瑠璃が何者であるかの正体を知っているので、冷静に見ることができた。恨みという炎を心の中で余計に燃え滾らせてはいたが―…。ただし、瑠璃の天成獣に関しては何もわかってはいない。むしろ、試合の中で、雷、光を扱い、杖と剣を武器にしていること、水晶を使っていることぐらいだ。

 瑠璃に似ている少女が知っている瑠璃の何者かについては、瑠璃自身が今も知らないことである。だから、冷静にもなれるし、水晶を使っていることの理由に検討もつく。その検討が的外れであったも―…。

 それでも、冷静になりながらも、恨みを燃え滾らせながらも、喜びの感情というのもあった。瑠璃がレラグに敗れてしまえば、復讐することができなくなるからだ。

 (まあ、私が瑠璃(あいつ)を倒して、復讐をしてやるよ。)

と、瑠璃に似ている少女は心の中で言う。

 「帰るぞ。」

と、急にランシュが言う。

 それを聞いたヒルバスは、

 「あっ、はい。ランシュ様!!」

と、驚きながら返事する。ヒルバスが驚くのも無理がないだろう。ランシュが急に「帰る」と、言ったのだから―…。

 ゆえに、ヒルバスは、さらに続けて、

 「急に、何か用事でもできたのですか?」

と、言う。

 「用事はない。だか、今回のことを、どう他の第八回戦、第九回戦、第十回戦のチームにまとめて告げるかを考えないといけなくなったからな。特に、レラグを倒した瑠璃(小娘)は、アンバイド以上の要警戒対象になったのだからなぁ~。」

と、ランシュは言う。

 (俺の計画に嫌な予感がする。まるで、ベルグの予想が当たりそうな感じの―…。そして、俺の方がやばい感じの―…。とにかく、いったん冷静になる必要があるな。)

と、心の中でランシュは呟くのであった。

 ランシュは、自らの家へと帰っていった。それに、ヒルバスがついていきながら―…。


 中央の舞台。

 レラグ率いるチームがいる側。

 「ありえない。レラグ殿が倒されるなんて―…。」

と、マーグレンが言う。あまりにありえない出来事に動揺してしまう。当たり前のことであろう。マーグレンにとってレラグは自らよりもはるか高みにいるような実力者であった。そのレラグが、最初は有利であった戦いが、瑠璃が剣を抜いた途端に形成が変わってしまったのだ。マーグレンにとってありえないと言ってしまうほどであった。

 レラグ率いるチームの誰もが茫然としていた。マーグレンと同様のことにおいて―…。ただし、程度の差はあるが―…。

 (瑠璃(あの少女)は一体、それよりもレラグの方を―…。)

と、レナは心の中で言う。そう、今は茫然としている場合ではないのだ。とにかく、レラグの状態を確認しないといけない。そのために、レナはすぐに四角いリングへと向けて駆ける。

 その時、レナはあることに気づく。

 「!!」

と、驚きながら―…。


 四角いリングの上。

 瑠璃は安堵するのだった。

 レラグに何とか勝利して、明日を生きれる可能性を高めることに成功したのだから―…。

 だけど、行動の選択を間違えると、誰もが生の終わりを迎えるように、瑠璃もまた、まだ、明日を生きられる可能性を確実に手に入れたわけではない。それは、明日という時間を迎える時に、生きていることがその証明となるのだから―…。

 瑠璃は、レラグの方を見る。安堵したとはいっても、自らを殺してくるようなことを言うのだから、試合後に何をしてくるのかはわからない。ゆえに、警戒という念を込めて、レラグに視線を合わせるのだった。

 瑠璃は気づく。

 「!!」

と、警戒を強める。

 そう、レラグが目を覚まし、起き上がってきたのだ。

 レラグは辺りを見回す。そして、

 「審判、試合はどうなったんだ。」

と、ファーランスに聞こえるように尋ねた。レラグは、自らが倒れたということに起き上がってすぐに気づいたので、その間に、試合の結果がどうなったのかをファーランスに向かって質問する。この結果によって、どう戦うべきなのかを考えないといけないからだ。ただし、試合に負けていた場合は、この場において瑠璃を殺すことはない。なぜなら、

 (ここで、私が負けていたのならば、これ以上、戦うのは心象を悪くしてしまう。ランシュ様の―…。それに、私は、今日はもう戦うことはできない。使い切ってしまった、力のすべてを―…。)

と、心の中で言う。そう、レラグはすでに今日は戦うことができない状態なのだ。ゆえに、瑠璃に再度、試合外で戦闘することは不可能なのだ。さらに、そのようなことをすれば、ランシュの心象を悪くしてしまう。リースを仮に支配することになった場合、武力はあるとしても、住民の抵抗を受けてしまい、かえってリースを支配するのを難しくしてしまう。それは、ランシュも望まないことであり、レラグ自身も望まないことだ。ランシュを暴君にさせたいわけではないからだ。

 レラグの言葉を聞いたファーランスは、

 「松長瑠璃の勝利です。レラグ様、あなたの負けです。」

と、レラグに聞こえるように決着がついたことを教える。レラグの疑問に答えて―…。

 「そうか。ありがとうございます。」

と、レラグはファーランスに向かって一礼をするのだった。

 それをファーランスは、礼儀が正しい人なのだという印象をレラグに対して抱いたのだった。たとえ、残酷なことを試合中にしようとも…、である。

 一礼を終えるとレラグは瑠璃の方を向く。

 瑠璃は、さらに、警戒するのだった。

 その瑠璃の警戒を理解してか、

 「警戒しなくても大丈夫です。っと、言っても意味はないか。さっきまで、試合の中で、瑠璃(お嬢さん)を殺そうとしていたのだから、ね。」

と、レラグは言い始める。

 レラグの言葉に対して、警戒を緩めずに瑠璃はレラグの話を聴く。

 「それでも、信じてもらうしかないが、第七回戦第六(この)試合で私に勝った以上、瑠璃(お嬢さん)に対して、殺そうとはもうしないよ。それにできない。もう、今日は力のすべてを最後の波の攻撃で使ってしまったからね。後ろに水を仕掛けていたけど―…、さ。」

 レラグは、ここで少しだけ間をあけ、空を見上げて、すぐに再度瑠璃に、視線を向ける。

 「一つだけ聞かせてもらってもいいですか。」

と、今度はレラグは、瑠璃に尋ねるのだった。

 「何。」

と、瑠璃は警戒を緩めずにレラグの質問を許可する。

 「ありがとう。最後の時、どうして、俺の後ろを突こうとしなかった。」

と、レラグは疑問を瑠璃に言う。そう、レラグは、気になっていたのだ。瑠璃が空間移動を使って、レラグの背後に回ろうとしなかったのか。もし、背後に回ってしまった場合、波以外の仕掛けを発動させて、瑠璃の動きと攻撃を封じて、水で一突きしようとしていた。実際には、瑠璃がレラグの真後ろへと空間移動をせず、真正面から波を打ち消して、雷で攻撃してきたのだ。レラグにとっては予想にもしていなかったことであった。レラグの真後ろにこなかったということにおいて―…。

 瑠璃は、レラグの質問を聞いて、考える。どのように答えようかと悩んで―…。そして、そのために、数秒の時間を費した。

 結論がまとまったのだろう。瑠璃は、話し始める。

 「あの時、波を出された時、考えたんだ。迎撃する方法を―…。そして、今までのレラグ(あなた)に対して、何度も同じ攻撃は通じなかったし、予測されて先回りされていたし―…。だから、あの時、レラグ(あなた)の後ろに何か仕掛けられていないかなぁ~、と思ったんだ。半分は勘なのだけど―…。だから決められたのかな。正面から波を打ち破って後ろの状況を確かめた方がいい、と。」

と。

 瑠璃にとっては、予測でもあり、勘でしかなかった。このような賭けの要素を含んだうえでの行動だった。それは、結果として、瑠璃の予想や勘が正解であったことを示した。ゆえに、瑠璃は勝利することができたのだ。もしも、少しでも違っていれば、負けていて、レラグに殺されるという運命が瑠璃には待っていた。

 「そうか。ありがとう。」

と、レラグは言うと、続けて、

 「じゃあ、もう二度と会うことはないだろう。だが、いい戦いができたことに感謝します。」

と、言い、瑠璃に向かって一礼をしたのだ。

 瑠璃にとっては、驚きでしかなかった。警戒解くということはしなかったが―…。理由は簡単だ。レラグが殺す対象として定めたいた瑠璃に対して一礼をしたからだ。殺す対象に定めていた相手に対して、試合後に一礼するはずがない。それは、殺そうとしたことに対する後ろめたさや、できなかったことに対する気持ちがあるからだ。

 それでも、レラグという人物は、普通に殺そうとした相手に対して、一礼ができるのだ。相手に対する敬意は常にもつことが自然とできるからである。殺そうとした相手に対しても、だ。そんなレラグの行動は、悪意はないものであり、純粋に良い試合ができた感謝の気持ちでもあった。

 (あ~あ、負けました、か。悔しさはあるが、気持ちはすっきりなんだよな。こりゃ、殺しにいかくなってよくなったことかもしれないな。そう思うと、頭によぎってきます。ランシュ様の処罰を受けないといけないのかなぁ~。)

と、四角いリングから下りようとして、端へ向かっていく途中で心の中でレラグは思うのだった。瑠璃との試合が良いものとなったこと、もう殺しにいかなくてもよいと思ったために、気持ち的にすっきりとなっていたのだ。レラグはあまり人を殺すことを心の奥底からは望んでいない。それでも、命令に関しては、忠実に守るようにしている。そのため、人を殺すとなるあまり良い気持ちがしない。どうしても、暗い気持ちになってしまう。

 すっきりと気持ちになってしまうと、レラグは、ある事がよぎってきたのだ。試合に負けてしまったために、処分を受けてしまうのではないか、と。別にランシュがこのようなことを自発的に言ったわけではないし、おこなったわけではない。それでも、レラグにとっては、ランシュが負けたことに対して、処分を下してくるのではないかと考えてしまうのだ。レラグのランシュのイメージは、勝手なものでしかないが、負けた者に対して、厳格な処罰を下して、味方の恐怖を与え、無理矢理に勝たせようとするというものである。一方で、勝利すると、恩典を与えるというイメージをともなってであるが―…。

 そして、レラグはこの時、少しだけ溜息を吐くのであった。

 一連のレラグの行動を見て、瑠璃が思ったことは、

 (わからない。)

と、心の中に思う、ただ一言でしかなかった。あまり、瑠璃にとって、矛盾しているように感じる数々の行動に何が本当なのか結局、わからずじまいだったのだ。自らが勝利をしたことを一時的に忘れるくらいには―…。

 そして、レラグ率いるチームが中央の舞台から、レラグとともに、通路へと向かって引き上げていった。それを瑠璃は、見えなくなるまでずっと見続けるのであった。レラグから油断した隙に殺されないようにするために、警戒してのことだった。

 完全に、レラグ率いるチームの姿が完全に見えなくなって、しばらくすると、瑠璃は、四角いリングを下りていくのであった。

 この時、瑠璃は、

 (何とか勝ったぁ~。)

と、安堵するのだった。それは、言葉が心の中であっても、表情にでていた。その雰囲気は、一気に緊張感が解けるようなものだった。そう、瑠璃は、第七回戦第六試合が開始してから、レラグ率いるチームが引き上げる間、ずっと、緊張感を持ち続けていたのだ。他にさける余裕を時間、時間によっては、少しでもあったのだが、それでも半分ほどの時間はずっと他にさける余裕など存在しなかったのだ。特に、試合終了後は、緊張した状態にあり続けていたのだから―…。

 そして、安堵した瑠璃は、ヘトヘトな状態となっていた。それでも、何とか、勝利したという気持ちで、明るく振る舞っていた。少し無理してでも、である。


 【第67話 肖像画】


第67話-2 肖像画 に続く。

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


第67話では、リースのある出来事の事件の内容には入らないが、その内容へと向かっていく話しになります。そして、第68話からその内容に入っていきます。

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