第65話-3 もう一つの方法と自らの積み重ねを
前回までのあらすじは、水の卵が瑠璃によって斬られました。そう、瑠璃がついに、剣を用いて戦うことにしたのです。
「斬られた!!」
と、レラグは驚き、そして、呆然とした。自らの口が動くのを止めてしまうほどに―…。レラグは時が止まってしまっているかのように、ただ、ただ、見るのである。自らが形成した水の卵が瑠璃に斬られて、消滅したところを―…。
(………………そういうことですか。)
と、レラグは少し落ち着きを取り戻し、心の中で語る。
(空間移動を俺の真後ろではなく、水の卵の上空にしていたのか。今まで、真後ろに出ていたというから、経験上、真後ろだと俺が勝手に予測し、そっちの方を振り向く。そこで消費される時間を使って、水の卵を破壊したというわけですか。あの―…光……、瑠璃の天成獣の属性は光…ということですか。)
と。
そして、瑠璃は、レラグの方へと視線を合わせる。
一方、ここは海上。
どこかって? 思うかもしれない。
場所は、リースのある大陸と、ローが数日前までいた大陸の間にある内海だ。
大きさは、現実世界における地中海とほぼ同じである。気候も似ているところが多い。
そして、その内海を一隻の大型船が移動していた。
その中には、ローとギーランが乗っていた。
「リース行き以外を探すのには、苦労するなぁ~。ローさん。」
と、ギーランは言う。
「リースが、一番の港町だからのう~。船の行く数も多い。それに―…、ギーラン、お主の家に寄ってから、リースへと向かうのじゃから、こうもなるだろう。」
と、ローは当たり前じゃろうという雰囲気で言う。
現在、異世界のこの内海における船便の多数は、リースとの便が多い。多いとは言っても割合としては、全体の3分の1ぐらいであろう。それでも、リースのある大陸は、リースが内海において最も栄えている都市であり、内海に面しているリースのある大陸の部分は、リース以上の都市は存在しないので、自然とそこに多くの船の航路が結ばれていったのである。
そして、ローとギーランは、リースからルーゼル=ロッヘに向かうのとは反対側にあるニースドスという海港へと船で向かっていたのである。
この船は、ニースドスからリースへと向かう予定となっている。
「ローさん。船が少ないというけれども、数週間も砂漠の入り口のサンドインターでニースドス経由、リース行きを待つなんて―…。それも、ローさんが、リース行きのをすべて航路を直行便と勘違いするからぁ~。」
と、ギーランは呆れながらに言う。そうなのだ。ローは、サンドインターからリース行きの船をすべて、数週間の間、リースへの直航だと勘違いしていたのだ。そのため、数週間サンドインターに滞在することになってしまったのだ。結局、ギーランが、ローの言っていることにおかしいところがあるのではないかと気づき、港で確認したところ、二週間に一度の割合、ニースドス経由のリース行きがあることを知ったのだ。そして、すぐに、チケットを買って、そのニースドス経由のリース行きの船が就航する一番早い日に乗ったのだ。この時、すでに瑠璃たちが第七回戦を戦う日の前日であったという。
「まあ~、よかろう、そんな小さなことはのう~。乗れたのじゃから~…。」
と、ローは呑気にのんびりと言う。それは、ギーランが痛いところをついてきているので、その話題を逸らそうとしたからだ。
「話題を逸らそうとしてもダメですよぉ~、ローさん。」
と、ギーランは優しい普通の口調で言う。ギーランは普段、あまり暴言や言葉の言い方が汚いタイプの人間ではないが、戦闘になると、荒いという一面があるため、文章にすると、汚いものになるのかもしれない。さらに、ギーランは、ローに対して、じと~と目を見つめ、目で威圧するのであった。
ローという人物は、ギーランほどの実力者であったも簡単に倒すことができるが、それでも、今、自らが誤魔化そうとしたことがバレたために、気まずくなって、視線を逸らそうとする。ローは、年を召しているが、心も体も健康そのもので、病の一つも抱えていない。平均的な年を召されている方々よりも動くことができるし、思考することもできる。それは、ローという人物のこれまでの過去における出来事のためであり、特に病気にかかることはできないのである。
ギーランは、それでもじと~っと、見つめてくる。さっさと降参しろという雰囲気をだしながら―…。
そのため、ローは根負けしてしまい、
「すいませんでした。ボケは、必ず治します。」
と、ギーランに向かって頭を下げながら言う。
「治すという言葉を使わないでください。ローさんの、今の意味の治すは、誰かの不幸でしかないのですから―…。」
と、ギーランは優しく注意するように言う。
頭を上げたローは、
「そうじゃの。すまなかった。儂のあれは―…、発動条件が―…、な。」
と、言う。
ここで勘違いしてほしくないのは、ローの言った「治す」という意味は、誰かを怪我などのような外的傷や精神的なショックを治すということではない。ここでいう「治す」とは、言葉にもあったようにローが、ボケを治す方法を手に入れるということである。そのための手に入れる条件が、ローにとってもいい気持ちのするものではないのだ。
「まあ、これ以上、暗い話をしても意味がないですね。これから、ニースドスに着くまで、ローさんがどんな行動をとっていたのか話してもらいましょうか。」
と、ギーランは言う。ギーランとしても船を探すことで手いっぱいで、さらに、そのことでローによって振り回されてしまったので、あまり瑠璃、李章、礼奈がどうなったかを聞くことがほとんどできなかったぐらいだ。
ギーランが知っていることでいえば、瑠璃、李章、礼奈がローと合流し、その後、リースへと向かって行ったことぐらいだ。その間の修行がどうだったかは聞くことができなかったので、わかっていないのだ。修行したのではないかという推測は可能であるが、実際におこなわれたのかは知るはずもなかった。
ゆえに、その意図を含めて、ギーランは、ローと分かれてからの、ローの行動について聞くのであった。
その意図を生きた時代の長さにおいて、人というものをある程度知り得たローは、ギーランの意図にすぐに気づくことができた。偶に、気づかないこともあるが―…。
「まあ、ギーランと分かれた後は、湖で待っていたぞ。ずっとな。翌日じゃたが―…、瑠璃、李章、礼奈がここへ世界移動をしてきたの~う。それで、敵の刺客と戦って、撃退し、後は一週間ほどを修行をつけて、分かれたのじゃ。」
と、ローは途中まで説明する。そう、ギーランによって、現実世界からローたちのいる異世界へと渡った瑠璃、李章、礼奈に出会ったことを言う。そして、その時現れた刺客を撃退して、その後、天成獣の宿っている武器を選択させて、修行を一週間ほどおこなった。
ローの言葉を聞いたギーランは、
「そうですか。すでに、現実世界を石化させた者の刺客が来ていたのですか。修行はしたのでしょうが、一週間ではこの先、大丈夫でしょうか。やられてなどはいないだろうか。」
と、ギーランは、瑠璃、李章、礼奈のことを心配する。ギーランとしては、折角、現実世界での石化を免れた三人が、敵の刺客や何か事故に巻き込まれて、命を落としていないかと考えると、あまり良い気持ちのするものではなかった。むしろ、心の中でではあったが、
(ローさん、しっかりと面倒見てくださいよぉ~。)
と、瑠璃、李章、礼奈を放任しているローに対して、何をしているのですか、という気持ちになっていた。
「大丈夫じゃろう。修行を見た感じでは、そこそこの実力はあるじゃろうし、刺客に対しても、それなり対処は可能じゃろう。ルーゼル=ロッヘでも少し顔は見たが、李章以外は確実に大丈夫じゃろう。」
と、ローは言う。ローにとっても、過保護に瑠璃、李章、礼奈を守っていてもしょうがない。天成獣の宿っている武器での戦いで強くなるためには、修行だけでは意味がなく、実戦も必要である。それも、敵がいつ現れるかわからない状態での戦いが―…。そうしなければ、瑠璃、李章、礼奈がこれから、自分達に振りかかるであろう敵の刺客の実力を把握することができずに、強敵とあたれば、自らの命を落としかねないのだ。
それでも、放任しているだけでは、無責任であるとローも考えていた。それに―…、異世界のことを知らない瑠璃、李章、礼奈のために、その旅の補助ができるようにクローナを同行させたのである。この時、ローは順序を間違えて、瑠璃、李章、礼奈と分かれた時に気づき、先にクローナのいる所へと向かい、それから、瑠璃、李章、礼奈がこれから向かう可能性の高い所へと空間移動して向かったのである。
「李章以外って―…。李章という奴はそんなダメなのですか。」
と、ギーランはローに質問する。
「天成獣での戦いではなく、純粋に人の力での戦いでは、瑠璃、礼奈よりも圧倒的に強い。戦闘に関する訓練でもしていたのだろう。」
と、ローは言う。それは、ローが修行の中で李章は、動きがよく、武器を使わない状態で天成獣の力を半分しか発揮できない状態で、最適化に近いほど、合理的な戦い方をしていたからだ。
ギーランはローの言葉に対して、疑問をさらに感じてしまい、
「強いのなら―…、なんで、李章が大丈夫じゃないになるのか。」
と、尋ねる。
ローは、少しだけ顔を上げ、目を閉じ、記憶をたどりながら、
「李章は、武器を扱うことを拒み、蹴りだけ戦おうとしたのじゃ。」
と、李章が武器を使わずに戦おうとしていることをギーランに告げた。
「そうですか。なら、納得できます。ローさんも一様は説得されたのでしょうか。それでも、ダメだった、と。」
と、ギーランは言う。ギーランにとっては、その現場を見ていないからわからないが、天成獣の宿っている武器を使わず(携行はしている)戦うことが天成獣の力を十分に発揮することができないとローならすぐに告げていると推測した。それは、ローがあまりにも重要な危険性を告げないということはないからである。告げなければならないと確実に告げるべき相手が最悪の状態になってしまう場合は、しっかりとローはこれまでの人生において告げてきたのだ。ギーランが見たなかでも、忘れたということはないほどに―…。
「そうじゃな。儂ではダメじゃった。あの目は、それしかないと思っている奴の目だ。何かの縛りでもあるのじゃろう。だけど―…、李章は必ず刀を抜く。確実に、李章の奥にいる奴は必ずな!!」
と、ローは首を横に振りながら前半の言葉を、後半の言葉は何かを李章の奥について知っているかのように言う。事実、そうなのかもしれない。
(………、これ以上は俺も知っていないことか。)
と、ギーランは心の中で呟く。ギーランは何となくだけどわかった。ローがこれ以上聞くなということを―…。李章に関しては―…。
だから、
「李章のことはこれ以上は聞きません。ローさんにも何か考えがあるのでしょう。」
と、ギーランは心の中で呟いた後に、ローに向かって言う。
「そうしてくれると助かる。李章の奥にいる奴は、たぶん、ギーランじゃ止められない。儂が失くしてしまっていたものが、李章の中にあったのだからの~う。」
と、ローは言う。理由を付け加えたことにより、ギーランとしても少し深く聞きたくはなったのであるが、これ以上は何を言っても無駄であろう。李章に何かがあれば、ギーランの実力では止められないということは、それ以上ものであることを理解して、変に関わるべきではなく、ローが何か解決する方法を持ち合わせているのではないかと考え、これ以上の追求も李章の奥にいる奴に関する思考も止めたのである。
話題を変えるために、ギーランは、
「では、他の二人はどうだったのですか? え~と、瑠璃と礼奈に関しては―…?」
と、瑠璃と礼奈のことについて尋ねてみる。
「最初に、礼奈は、天成獣での戦いは天才的じゃな。天成獣の属性の水の扱い方もうまかったが、それでも相手を凍らせることを主として戦う、戦闘スタイルにしたようじゃ。儂でも、凍らされそうになったからのう~。」
と、ローは、少し楽しそうに話す。実際、礼奈の戦い方は、とてもうまく、相手をいかにして凍らせるかということを冷静に考えながら、かつ、相手の考えを分析して、どう攻めてくるのかを瞬時に判断して、戦っていたのだ。それは、戦いをおこなっていくうえでの天性のセンスを持ち合わせていたのだ。ゆえに、ローもすぐに礼奈がすぐに成長していくであろうと思ったし、放任してある程度は、敵の刺客から三人の身を守れるであろうと判断することができたのだ。
さらに、ローも、礼奈が戦いの主体的な役割を演じるであろうと思ったのだ。凍らせるということは、相手にとってもどういうことかはっきりと理解させることができるためである。
「そうですか。礼奈という人は、戦闘での主力となるのですか。で、瑠璃といわれる人の方は―…。」
と、ギーランは、ローの話しから礼奈についてはすぐに納得し、瑠璃について答えていないので、再度質問する。
「瑠璃に関しては、不思議じゃの~う。天成獣の属性が雷じゃった。実際はそうじゃないであろう。儂にもわからん。どうやってもの~う。だけど―…、あれはまだ力を完全には解放していない状態のものでしかない。」
と、ローは言う。瑠璃との修行を思い出しながら―…。ローは、瑠璃が雷を出した時に、他の属性をだすように言おうとも考えたが、瑠璃の持っている武器に宿っている天成獣の何か異様な強さを感じたためか、それを言うのを止めた。今、まだ、その時ではないという感覚がしたのだ。もしくは、勘であった。それ以降、一切、ローは、瑠璃の天成獣の属性に関しては、言わないようにしていた。
「解放できたのですか。」
と、ギーランは不思議そうに言う。
「いや、儂が見た間は、まだ解放することができていなかった。しかし、少しじゃが―…、攻撃の威力が増大しておった。儂の予測でしかないが―…、天成獣の側が意図的に徐々に自らの力を解放しようとしているみたいじゃ。」
と、ローは言う。ローにとっても、瑠璃の事に関しては不思議でしかない。天成獣がどうして、徐々に解放しようとしているのか意図をつかめなかったのだ。
ギーランも、同様のことに気づいて、
「なぜ、瑠璃の天成獣は徐々に自らの力を解放しようとしているですか。」
と、ローに尋ねるように、疑問に思うように言う。
「わからぬ。だけど―…、あの武器からは、悪いものは感じなかった。じゃから―…、必要以上にこっちが気にしても意味がないことじゃ。しだいに、わかってくることなのかもしれない。それに―…、瑠璃は、仕込杖の中にある剣を扱えるようになったかの~う。」
と、ローは言うのであった。
「仕込み杖ですか。珍しい武器ですね。でも、中の剣を扱えないのですか―…、瑠璃は?」
と、ギーランは尋ねる。
ローは、瑠璃との修行を思い出しながら、
「うむ、そうじゃ。瑠璃はどお~も、剣を握ったことがなくての~う。剣術すらやったことがないらしい。ゆえに、剣の扱い方も知らないし、儂も剣術は理解できないからの~う。ギーランがいてくれれば、可能であったと思うが―…。」
と、言う。実際、ローは、剣を扱った経験が一切ない。刃物類は何度もある。それは、家事などで包丁やナイフを扱うことが多かったからである。
そのなかでも剣は、実際に、見たことはあるが、それを用いて戦ったことはない。ローの武器は、杖であり、仕込みのものなど一切ないのである。ゆえに、剣術を瑠璃に教えることなど到底できない。その時は、ギーランがいてくれれば、瑠璃に剣術を教えさせることができたのだが、と思っていた。それは、ギーランがローに与えられた任務によって現実世界に行って帰ってきていなかったために、無理であった。
「そうですか。それで―…、杖は仕えているのですか。仕込み杖だけに―…。」
と、ギーランは言う。剣がダメでも、杖の方が扱えなければ、ローは言葉の中で「李章以外は確実に大丈夫」などという言葉は使わないであろう。
「うん、そっちの方は大丈夫じゃった。」
と、ローは答える。さらに、
「瑠璃は、杖での戦いは、サポートや支援が中心になるの~う。雷の攻撃は特に、遠距離攻撃ができるのじゃから―…。」
と、言う。
「そうですか。わかりました。では、一回、ここで話しを終わらせましょう。」
と、ギーランそう言って、これ以上の話題を一回切ろうとする。それは、ギーランの頭の中で整理するのがやっとの量の情報をこのローとの会話の中で得てしまったのだ。ゆえに、一回整理して、考えてみようと思った。
「そうじゃの。そろそろ食事の時間かの~う。」
と、ローは言う。
「いや、まだ、夕飯の時間には早すぎますよ。呆けましたか、ローさん。」
と、ギーランは言うのであった。
第65話-4 もう一つの方法と自らの積み重ねを に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
次回あたりで、第65話は完成すると思います。第七回戦予想よりも長くなってしまっています。しかし、もうそうそうで第七回戦第六試合の決着はつくと思います。
あと、この回、意外と重要なことの一部を書いているなぁ~と思いました。当初の予定では、なかったものを追加したり、あったものを削除したりしました。結果的にそのせいで、頭をかなり使ったような気がします。