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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
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第64話 水の卵

前回までのあらすじは、レラグに一方的に体術攻撃を受けていた瑠璃であったが、なんとかかわして反撃をしようとしたが、雷の攻撃がレラグに通用しなかった。

 瑠璃は理解する。

 理解することができるだけの経験があったのだ。

 そう、第四回戦第二試合で戦った相手が、不純物の混ざっていない水を展開していて雷を通さなかったことを知っていた。

 その経験があったのか、

 (私よりも強いレラグ(相手)…、なら、これぐらい出来ても当然か。)

と、心の中で瑠璃は理解する。

 そして、瑠璃はもう一つのことを理解する。その証拠である物体を見たがゆえに―…。

 (レラグ(相手)の天成獣の属性は生ではなく、水!! 目の前で水が展開された。なら、確定ってところね。)

と、心の中でレラグの天成獣の属性が水であることを確実にさせていく。

 その間にレラグが目の前に出現する。再度、移動してきたのだ。

 (考えている暇なんてない!!)

と、瑠璃は心の中で言う。それほど、レラグの高速移動は速く、瑠璃が考えている時間さえも与えてもらていないのだ。

 それも、レラグの狙いであった。レラグは、瑠璃に考える時間を与えなければ、レラグに対する強い攻撃をすることができずに、防戦一方にせざるを得なくなるからだ。そう、レラグは、相手に勝つために、相手の力を発揮させないのが一番良いと考えている。なぜなら、相手の力の中に不安定要素があれば、確率はゼロに近くても、いつかどこかで、いや、今この場面において、レラグにとって不利なことが起こるかもしれない。ゼロでない以上は―…。ゆえに、それを少しでも排除するために、瑠璃に攻撃を再度仕掛けるのであった。

 レラグは、同様に、両手をグーによって瑠璃の腹部を突いた。

 「ガァ…!!」

と、瑠璃は声を漏らす。

 (うっ!! 何度目、同じ攻撃が―…、でも、何となくだけど、かわせそうな気がする。)

と、瑠璃は心の中で思うのだった。それは、直感的といったほうがいいかもしれない。レラグの両手をグーにして押すような攻撃を避けることができることを―…。根拠は瑠璃の思考の中ではでてこなかったし、言葉にすることはできなかったが、できそうな気がした。

 (今度は、少し強めにしました―…。が、なかなか倒れてくれませんね。華奢に見えて、意外とタフなほうか。)

と、レラグは心の中で思うのだった。


 【第64話 水の卵】


 四角いリングの上。

 両者はにらみ合う。互いにどうやって相手を倒そうかとして―…。

 一方は、倒れそうで倒れない相手に、やっかいだなと思っていた。

 もう一方は、息を何とか整えることはできるが、攻撃を何回か受けたがために苦しそうであった。

 やっかいだと思っていたのはレラグで、苦しそうにしているの瑠璃だった。

 「なかなかしぶといですね。簡単に殺せると思っていましたが、私に隙を突いて、雷で攻撃してくるとは…驚きました。それでも、私の攻撃が効いたようで、虫の息といった感じですね。」

と、レラグは言う。正直に、瑠璃がなかなか倒れてくれないほどに、しぶといとレラグは思っていた。それでも、レラグの攻撃を受けていて、瑠璃の息はあがっていた。何度もレラグの体術の攻撃を受けて立ち続けることはできないであろうし、長く戦うのはかなり難しい状態であった。

 (はあ…はあ…。くっ!! やっとできた隙を雷で攻撃したのに、水で防がれるなんて―…。不純物のない水を展開できるとなると、もっと慎重にいかな、ッ!!!)

と、瑠璃が心の中で言いかけている最中に、瑠璃のすぐ目の前にレラグが急に現れたのだ。そう、レラグは、瑠璃が何かを考え始めたという感覚がしたので、すぐに、瑠璃に向かって、超高速で移動し、瑠璃との間の距離を詰めるのであった。その様子に、瑠璃は驚かずにはいられなかった。個人のパーソナルスペースに一気に、瑠璃が対処をすることができずに近づかれたのだから―…。

 そして、レラグは、すぐに、両手をグーにして瑠璃の腹部を突くのであった。

 瑠璃はその攻撃を受けてしまう。何度も、何度も、である。そのため、

 「アッ!!」

と、声を漏らしてしまう。それほどに、レラグの体術による攻撃は、一発一発の威力が強いのである。

 (意識が飛び・・・そう…、だけど―…。)

と、瑠璃は心の中で呟くと、右足を四角リングに固定しているのではないかと思わせるにして耐え凌ぐのである。

 すでに、瑠璃の息はあがってしまっていた。

 「はあ…はあ……はあ………はあ。」

と、声を漏らしながら―…。それでも瑠璃は負けられなかった。負けたくないという意志があった。その意志が崩れてしまったら、瑠璃はレラグによって自らの死という結末を確実に迎えてしまうからだ。

 (負けるわけにはいかない。負けたら―…。石化した家族を救えないし、現実世界(セカイ)の人々も―…。自分のルーツも知ることができないから―…。)

と、瑠璃は心の中で言いながら、視線はレラグを睨みつけるかのようにして立った。たとえ、この身がボロボロになろうとも―…、明日以降の時間を生き、異世界へと来た目的を達成して、平穏な日々、そして、自らのルーツを見つけることができれば―…。

 そんな、睨みつけられているのを感じたレラグは、

 (まだ立つのか。もう、気力だけでしか立っていないのか。それでも、なかなか根性があることは認めましょう。しかし、瑠璃(お嬢さん)の命は、今日、この日をもって終わりにしましょう。)

と、レラグは心の中で瑠璃がまだ立っていることに感服した。それでも、瑠璃を殺すことに変更はなかった。

 瑠璃は、必死に考える。レラグが動かない間に―…。

 (とにかくどうにかしないと…。でも、私は勝てるのかな。いや、ダメだ、弱気になっては!! 勝たないと―…、生き残るために死に物狂いで―…。)

と、心の中で弱音もでるが、それでも死という恐れが瑠璃を勝利しようとする精神を何とか保たせるのであった。

 (雷の攻撃は水に触れると効かない。なら、水に触れないように、水を展開させることができないほどの隙と判断で攻撃していく。)

と、瑠璃は心の中で覚悟を決める。決めないと実行すらできなかったであろう。瑠璃は、レラグの攻撃を受けて、大きなダメージを受け、息もあがってしまうほどであった。ゆえに、倒すために、余計な思考することを一時的にではあるが、頭の片隅へと追いやられてしまったのだ。そうして、単純化し、合理化したために、判断の速度も速くできるようになっていた。

 それでも、単純であるがゆえに、相手の惑わす方法に関しては、簡単に引っ掛かりやすくなったのであるが―…。

 レラグは、

 (そろそろ、属性を使っての攻撃に移行しますか。)

と、心の中で言う。

 言い終えると同時に、羽衣を念力かなんかで操られたのようにレラグの右手に移動し、右手を羽衣が覆うのであった。

 そして、羽衣に巻かれた右手の部分に水が展開される。形は、手を動かすと、手の先に装着されたかのように、水が物を切ることができる刃物のようになっていた。

 レラグは、展開し終えるとすぐに、駆ける。瑠璃に向かって―…。

 瑠璃はすぐに、応戦しようとする。レラグが瑠璃に向かっているのがわかって―…。

 レラグは、瑠璃に攻撃をあてることができる範囲に数秒で到達すると、すぐに、羽衣を覆っている右手を前に突きをするかのように伸ばす。

 瑠璃は、レラグの攻撃が無意識のうちにわかっていたのか、ふらっと左側に避ける。

 「!!」

と、レラグは驚く。

 (あれ、攻撃を避けた。確かに、超高速では移動しなかったが、それでも移動スピードはかなり速い部類だ。まだ、避ける体力はあるのか? 見た目ほどダメージを受けていないのか?)

と、レラグは心の中で、瑠璃が今のレラグの攻撃を避けたのにビックリしていた。ゆえに、レラグは考えてしまう。不思議に思って―…。

 一方で、瑠璃は、

 (頭がほとんど真っ白だ。でも、避けられた。今は、感覚に任せていかないと―…。その間に体力を回復させて、そこから形勢逆転を狙う!!)

と、心の中で考える。そう、瑠璃が狙っているのは、体力の回復であり、その後において、形勢逆転を狙うための攻めへと移行しようとしていたのだ。レラグに勝つために―…。

 その時、瑠璃は、気づく。

 ボワッ、という音がした。レラグの方を見る。レラグの周囲に一つの水球が見えた。そう、レラグが水球を展開したのである。

 そして、レラグは、自らの周囲に水球をいくつか形成していくのであった。数にして五つほど―…。

 (水の球体!!?)

と、瑠璃は心の中で言う。

 そのように、瑠璃が心の中で言っている間に、レラグは、

 「いけ。」

と、感情のない声で、冷静に言う。

 そうすると、レラグの周囲にあった五つほどの水球が瑠璃に向かって行く。

 その様子を見た瑠璃は、

 「()け。」

と、言うと、自らの武器である杖の水晶の部分をレラグに向け、そこから雷の攻撃を放つ。レラグと同じ五つほどの稲妻を―…。五つほどの稲妻は、それぞれ、レラグが瑠璃に向けて放った水球に向かって行った。

 ゆえに、水球と稲妻は衝突した。

 「無駄です。さっきも見せましたよね。水球に、雷は通用しません。」

と、レラグは言う。この言葉には、根拠があった。この水球のすべて、純水であり、水球の中には一切の不純物が含まれていなかったのだ。

 結果としては、瑠璃の放った五つの稲妻が消えるかに見えたが、消えたのは、五つの水球のほうだった。

 (どうしてだ!! いや、あれは―…、黒い丸?)

と、レラグは驚きながら心の中で呟く。レラグの目は、より広く見開かれていたようにレラグ自身が感じることができるものであった。そう、驚きの余り、目を見開いてしまったのだ。今の水球が消えたことに対して、その原因が何であるかを理解できずに―…。

 (私も形振り構っていられない。たとえ、相手に手の内が知られるなら、今できることを最大限するしかない。たとえ、水晶の正体がバレたとしても―…。)

と、瑠璃は覚悟のようなものを強めて、心の中ではっきりと言う。

 瑠璃は、水晶の事がバレたとしても、今は命が大事であると感じたのだ。ゆえに、赤の水晶をこっそり使うのではなく、堂々と使うことにしたのだ。

 そして、黒い円のものは、すぐに、レラグの後ろに形成された。消えた水球の数と同じ数だけ―…。

 レラグは、感じた。嫌な予感というものを―…。

 (何だ。この嫌な感覚は!! まさか、瑠璃(あのお嬢)さんは、こんな隠し手をもっていたなんて!!!)

と、レラグは心の中で悪態をつく。レラグという人物は、そんな悪態をつくということはない。それでも、悪態をつくほど、瑠璃の隠し手であると思っている赤の水晶の能力に動揺していた。実際、瑠璃は、わからないように使うようにしていたのを、ただ堂々と使っただけにすぎないのだが―…。

 そして、レラグは後ろを向き、確認する。

 (何だあの黒い丸。ッ!!!)

と、心の中で言う間にレラグはすぐに超高速で避ける。避けないとまずいと思ったのだ。

 レラグがさっきまでいた位置には五つの水球が、五つとも全部がぶつかったのだ。そして、水は弾かれ、四角いリングの表面をすべて、水浸しにするほどだった。

 ゆえに、瑠璃は自らの雷の攻撃を中止する。水浸しになった場所に、接して、それが自身にも攻撃が及ぶからだ。そう、瑠璃は一瞬にして、足首の部分までが、水球の五つの衝突によって、ほんの数秒で、四角いリングの表面をすべて覆って、その水位に達したのだ。

 (どんだけの量の水があの水の球体にあったの!!)

と、今度は瑠璃が心の中で驚いた。表情に現れるぐらいに―…。

 その瑠璃の表情の変化をレラグが、逃すはずはなかった。そして、レラグは、瑠璃の雷の攻撃が消えたのも確認している。

 (予定とは違ったが―…、狙い通りだ。)

と、レラグは心の中で言う。

 「水の卵(エッグオブウォーター)

と。

 すぐに、瑠璃の周囲にあった水は瑠璃を覆い始める。

 「!!!」

と、瑠璃は驚く。

 だけど、驚く時間などなかった。必死に逃れようとしても無駄だと判断した瑠璃は、素早く息を吸えるだけ吸った。

 そして、ほんの数秒で、瑠璃の周囲には、瑠璃を覆う卵型の水の球体が出来上がったのである。

 (これで、水の中に閉じ込めることができました。どんな人間も、水の中で潜っていられるのそう長くはない。後は、この中で、溺れ死ぬのを待つとしましょうか。たとえ、勝負の決着がつこうとも―…。)

と、心の中でレラグは言う。すでに、勝利は自らの手に渡ったものだと確信して―…。

 人は、水の中で息をせずにいられる時間は短く、呼吸ができなければ、死んでしまう生き物である。ゆえに、レラグは最初から自らの武器に宿っている天成獣の属性を使う場面となったら、水の卵に閉じ込めて、溺れさせて溺死させようと考えていたのだ。レラグにとって、女性や子どもが血を出して、殺すのは忍びないと思ってしまう。体の表面に傷をつけしまうからである。それでは、とても悲しいと思うので、あえて、体の損傷がわかりにくい方法で殺そうとした。そして、レラグはそれが可能であった。自らの武器に宿っている天成獣の属性が水であるために―…。


 ここは水の卵の中。

 一人の人がここにいる。

 わずかに少しずつ息を吐きながら、少しでも長く溺れないようにしていた。

 そして、そんななかで、考える。どうやって、対戦相手であるレラグを倒すのかを―…。

 そんななか、声が聞こえてきたのだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()―…。


 【第64話 Fin】


次回、もふもふさん、再登場!!?

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。


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