第63話-2 十二の騎士との初対戦
前回までのあらすじは、李章がアンバイドに対して怒りを見せるも、アンバイドにあしらわれるのであった。
観客席の中の貴賓室。
そこには、ランシュ、ヒルバス、イルターシャ、ニード、瑠璃に似ている少女がいた。
「これで、今日の試合は次の試合で終わりか。六試合もあると、さすがに疲れるな。」
と、ランシュが言う。試合の間に、長時間の休憩を挟まざるをえなかったこともあり、ランシュも気持ちでくたくたになっていた。あまりにも長いがゆえに―…。
「それでも、最後はレラグの奴か。楽しみだな。」
と、それでもランシュは、最後の第七回戦第六試合に出場するのがレラグであることがわかっているので、楽しそうな顔をする。レラグの実力を知っていて、かつ、強いという面において、ランシュを興奮させるような見せ場があると確実に思っているからだ。
そんなランシュの楽しそうなのを見てヒルバスは、
「ランシュ様が第七回第六試合を楽しみなされています。レラグ様は、十二の騎士の中では、最弱の方ですが、実力は申し分ない。さぞや、瑠璃の方を瞬殺で倒してしまうでしょう。」
と、言う。ヒルバスとしても、レラグと瑠璃には圧倒的な実力差があると思っていた。レラグが十二の騎士の中で最弱であったとしても、ランシュが十二の騎士に選ぶくらいなのだから、実力に関しては申し分ない。ヒルバスも納得できるほどである。人格の面においても文句はない。さらに、今までの戦いから、瑠璃は相当に実力をつけてきてはいるが、十二の騎士を倒せるほどに強くはないであろう。ヒルバスは瑠璃の武器が杖ではあるが、それが全てではないと思っている。今のところ、勘でしかないが―…。
「倒すのではないだろうなぁ~、レラグは―…。あいつは、実際には人格の良い奴で、誰にでも優しい。それでも、任務となれば話は別だ。優しさや温情はあったとしても、確実に任務を達成しにいく。残酷な選択も優しさゆえにしてくるだろう。レラグの対戦する相手は、瑠璃で、討伐対象だからなぁ~。そうなると、殺しにいくだろう。」
と、ランシュは、ヒルバスのさっきの言葉の中の、倒すのではなく、対戦相手である瑠璃を殺しにいくだろうと言う。それは、レラグが任務に対して、確実に遂行するということをランシュが理解しているからだ。さらに、レラグの優しさは、時には残酷な面を見せる。それは、他の者の無残な欲望のために殺されるのであれば、自らの手を殺したほうがいいと考えているからだ。
「へえ~、そうなると、四角いリングが血まみれねぇ~。確か―…、瑠璃、一回戦の時も勝利したけど、四角いリングを血まみれにしていたよね。」
と、イルターシャが言う。イルターシャは、すでに、第一回戦から第五回戦までの情報を、そして、第六回戦と第七回戦は実際に観戦していることによって、瑠璃チームのメンバーのことについて知っているのだ。だから、瑠璃が第一回戦で勝利するも、相手の攻撃によって血まみれになったことを知っていたのだ。そして、レラグが瑠璃を血まみれにさせるのではないかと思ったのだ。
ランシュは、イルターシャのその発言を否定するようなことを言う。
「それはない、イルターシャ。レラグは、女、子どもの血まみれによる殺しは好まない。体を傷つけることをなぁ。だから、レラグは、自らの武器に宿っている天成獣の属性で血まみれにさせないでやるな。」
と。
それを聞いたイルターシャは、ランシュの言おうとしていることがわかったのか、首を縦にふりながら、理解する。
そして、ニードもヒルバスも同様に理解するのであった。
一方で、瑠璃に似ている少女は、表情にはださないが、悔しさを噛みしめていた。
(私の手でやるはずだったのに―…。レラグに―…。)
と、心の中で瑠璃に似ている少女は、忸怩たる思いになるのであった。自らが復讐するべき対象が、目の前で別の人間によって殺されようとしているのだから―…。結局は、後悔でしかない。もう遅いのだから―…。
中央の舞台。
レラグ率いるチームがいる場所。
そこでは、第七回戦第五試合で負けたレッラーが目を覚ましていた。
「……俺は―…。」
と、レッラーはぼうーっとしながら言う。それもそうだろう。レッラーは、礼奈の攻撃で凍らされた時に気絶していたのだ。その気絶の中で、レッラーは夢を見ずに、わずかな時間にも感じられた黒から意識を取り戻したのだ。ゆえに、ここがどこか? なぜここにいるのか? 自分は何をやっていたのか? などのように、自らが意識を取り戻す前のことや自らのがいる場所がどこかを確認するのであった。今までの自らが思い出すことのできる記憶を手繰りながら―…。
そして、レッラーは思い出す。
「俺は―…、そうだ!! 試合はどうなった!!!」
と、いきなり大きな声でレッラーは言う。その声に、レッラーの近くにいたミーグールが驚き起き上がるのである。そう、ミーグールが気絶から意識を取り戻したのだ。
こっちも同様に、気絶する前と今の状況を思い出そうとして、しばらく考えると、思い出すのであった。
それに、気づいたレラグは、二人に向かって行った。
ミーグールとレッラーの近くに辿り着くと、
「お前たち二人は―…、対戦相手に負けた。それが事実だ。」
と、レラグは冷静に言う。心の中では、ミーグールとレッラーの敗北を悔しく思っていた。彼ら二人にもっと、クローナと礼奈の情報を手に入れて伝えておけば、もう少し、二人を強くすることができればと思っていた。そう、レラグが自らがちゃんとしていれば、二人は負けなかったと自ら責任を感じていた。それほど、レラグは他人のせいにはほとんどしないのだ。どこの世界にも自己責任という言葉を自らの責任を回避するためにその言葉を他者に向かって使う人たちがいるが、彼らとは異なり、レラグは、自らの責任は何であったのかを考え、他人の中にその自己責任が存在していたとしても他人に対して言わないのだ。他者を良くすることが結局は、自らのためになり、自らの成長につながることを信じているからだ。
「レラグさん。お願いします。意地見せてください。」
と、レッラーは言う。
「そうです。レラグさん。」
と、ミーグールもレッラーに続けて言うのである。
レッラーとミーグールの双方も、自らの責任で負けたこと、弱かったから負けたことはわかっている。それを、言ってしまっては、レラグはきっとレラグ自身の足りなかったことを攻めてしまうからだ。そんなのはいけない。レラグは、仲間に対して、これまでもずっと、大事にし、人としてどうあるべきかという範を示してきたのだ。レッラーとミーグールは尊敬しているのだ。だから、レラグを不安にさせないように、ただ、応援するように言うのだった。レラグに勝ってほしいがために―…。
そして、レラグは、
「ああ。」
と、声を出して、右手を上に突き上げるのだった。
(チームの敵は俺がとってくるよ。そして―…、ランシュ様の任務も含めて…な。)
と、心の中で思いながら―…。
レラグは四角いリングの上に上がっていく。
中央の舞台へと向かう通路。
歯をきしりとさせる者が一人いた。
悔しかったのだ。アンバイドに言われたこと。
次の第七回戦第六試合の対戦相手であるレラグによって瑠璃がほぼ確定的に瑠璃が殺されること。
瑠璃を守ることができない弱い自分に腹が立った。そして、同時に、アンバイドの最後の言葉である「瑠璃が生き残るということを願うのなら、瑠璃を信じるべきじゃないのか。礼奈がレラグに向かって言った言葉のように―…」というのが脳裏に強くこびりついていた。それは、李章にとってしつこい汚れであるかのように―…。
でも、同時に李章は気づく。
(俺は、瑠璃さんの事を信じていないのか。)
と、いう疑問に―…。
「李章、悩んだって変わりはしないよ。それに、アンバイドの言うことなんて当たりやしないよ。だから、瑠璃は勝つ。勝って明日を生きている。瑠璃を信じよ。」
と、クローナが言う。クローナにとっても、アンバイドの予想は、後になって怒りのものであるが、それでも、確率的にいえばそうなってしまう。それでも、信じる。奇跡が起こることを―…。クローナにとって自らの悲劇ともいうべき体験で、生きることすら絶望した時もあったが、それは魔術師ローによって救われたのだ。だから―…、
(自分にも起きた奇跡を、瑠璃に―…。)
と、心の中で祈るのであった。それしか、今のクローナの中で考えつき、実行できるものはなかった。たとえ、他の要因任せだとしても、仲間の明日に対する可能性があるのであれば、しないよりもましだとクローナは思ったからだ。だから、祈りの中で、瑠璃が生き残ることを、試合に勝利することを強く、強く望む。
「そうですね。」
と、李章は言う。そして、李章は立ち上がり、中央の舞台へと向かって行くのだった。それでも、完全にアンバイドに対する恨みを消すことができずに―…。
礼奈、クローナ、セルティーも、中央の舞台へと向かって行くのであった。
(………瑠璃、勝ってきなさい。)
と、礼奈は心の中で呟くのであった。中央の舞台へ向かいながら―…。
中央の舞台。
一足先にアンバイドは戻ってきていた。
アンバイドの目に見えたのは、レラグが四角いリングへ向かって行く場面であった。
(レラグか。とんでもない奴だな。まあ、俺にはおよばないが、本気を出さないと勝てないな。それに―…、今の瑠璃には無理だろう。レラグの殺す対象に含まれている瑠璃は、成長ための経験にはならない。死んでしまっては経験値にすらならないのだからなぁ。まあ、こんな場面、礼奈、クローナにはきつすぎるだろうし、李章を含めて、第七回戦第六試合が終わるまで戻ってこなければ―…。)
と、アンバイドは心の中で言うのであった。そう、李章に厳しいことを言った別の理由が存在したのだ。李章につらくあたっておけば、瑠璃がレラグによって殺される場面を見ることを李章、礼奈、クローナは避けられるだろう。李章のショックの受けぶりを見れば、それも可能であろうアンバイドは思った。それでも、瑠璃が殺されてしまった姿を見るのだから、酷なものには変わりないが―…。それに関しては、丁重に扱えばいいだけのこと。そう、アンバイドは考えていた。それが結局は、人の死など見慣れていない李章、礼奈、クローナの精神の混乱を最小限にできることだと思って―…。
しかし、アンバイドの気持ちなど理解されるはずもなかった。言っている言葉が一切、以上のようなことの意味を理解できるはずのものではなかったのだ。
だから、李章、礼奈、クローナ、セルティーが戻ってくるのを見て、心の中でアンバイドは驚いてしまうのだった。
(こりゃ~、正面から言ったほうがいいかもな。)
と、アンバイドは心の中で思っていると、
「アンバイドさんが何と言おうと、瑠璃が絶対に勝つから。次の試合は見るよ。」
と、礼奈が言うのだった。
そのような礼奈の言葉に対して、
「そうか。知らんぞ。瑠璃がどんな目にあっても知らないからな。」
と、アンバイドは、呆れながら言う。ここまで強情なことを言うと、アンバイドでもわかる。何を言っても聞きはしない、と。だから、これ以上は何も言おうとアンバイドはしなかった。それでも、アンバイドは感じていた。
(恨まれたなぁ~。仕方ない。)
と、李章に恨まれたのは自身が原因だから仕方ないとアンバイドは思うのであった。
四角いリングの上。
そこには、レラグと瑠璃がいた。
両者は、互いを見ていた。
レラグは瑠璃に気づき、話しかける。
「私の対戦相手は、これは可愛らしいお嬢さんですか。私の名前はレラグと申します。」
と、言うと、瑠璃に向かってレラグは、お辞儀をする。
それを見てつられたのか、瑠璃も
「こちらこそ、お願いいたします。」
と、言い、お辞儀するのであった。
瑠璃とレラグがお辞儀を終え、再度両者を見る。
レラグは、
「ですが―…、残念です。私としてもやりたくはなかった。別に試合をしたくないということではありません。」
と、言う。最初に残念な、悲しい表情をし、その後で、瑠璃がレラグとの試合をしたくないのではないかとレラグの表情から推察しようとするのを感じたレラグは、そうではないと付け加えたのである。意味はしっかり伝えないと誤解を生むと思ったからである。
瑠璃は、レラグの言葉を聞き、最初、レラグが推察したような感情を抱いたが、レラグがそれを否定したので、
(何だろう。悲しい表情した理由は―…?)
と、心の中で疑問が膨らんでいった。
「実は、私―…、いえ、ランシュ様がその上の方から、あなたがたと言ったほうがいいかもしれませんですが、あなたがたの討伐の命令が下っているのですよ。だから―…、ランシュ様の部下である私、レラグが、瑠璃の命を奪い討伐することになったのです。残念な事ですが、第七回戦第六試合で私に殺されてください。」
と、レラグは言うのだった。
その言葉は、瑠璃を驚かせる。いや、驚愕せざるをえない。瑠璃は、今、レラグからの命を狙われていることを告げられたのだ、本人から―…。それでも、ビックリしたのは、ほんの数秒で、すぐに自らがどうするべきかを考える。
(レラグは私よりも強い。そして、私を殺そうとしている。なら―…、第七回戦第六試合で、私に降参させてもらえるはずがない。だから、私は、どんなことをしてもレラグを倒さないといけない!! 確実に―…。)
と、瑠璃は心の中でレラグを倒す決意をするのだった。
その時、観客席にいたファーランスが、
「両者とも試合の準備はよろしいでしょうか?」
と、尋ねてきた。
それを聞いた、瑠璃とレラグは返事をした。
瑠璃は、
「大丈夫です。試合を始めてもらって―…。」
と。
レラグは、
「試合をいつでも開始してもらって構いません。」
と。
瑠璃とレラグの試合を開始してもいいという返事を聞いたファーランスは、右手を上に上げ、
「では、これより!! 第七回戦第六試合―…、開始!!!」
と、言いながら、最後の「開始」の方で上げた右手を下に振り下ろす。
こうして、第七回戦第六試合が開始された。
第63話-3 十二の騎士との初対戦 に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。
次回の更新で、第63話は完成すると思います。第七回戦がかなり長くなってしまいそうです。第66話あたりで決着はつくと思うのですが―…。