第63話-1 十二の騎士との初対戦
前回までのあらすじは、第七回戦第五試合に礼奈が勝利するのであった。そして、レラグの言葉に対して、礼奈は瑠璃がレラグに勝つと強く言う。
第63話は、内容の追加により、分割することにしました。
【第63話 十二の騎士との初対戦】
中央の舞台。
レラグ率いるチームのメンバーがいる場所。
レラグが四角いリングで倒されたレッラーを抱え戻ってくる。
その様子を見ていたマーグレンは、
「なぜ言い返さないのですか!! レラグ殿!!!」
と、さっきの礼奈の言葉に対して、言い返さなかったレラグをせめる。
そう、マーグレンがレラグをせめるきっかけとなった礼奈のさっきの言葉とは、瑠璃がレラグに負けないということである。マーグレンもわかっている。レラグの方が圧倒的に瑠璃よりも強いということを―…。ゆえに、礼奈に言われたことに対して言い返さなかったことにもどかしいものを感じた。礼奈に対して、レラグの何を知っているという思いをぶつけてやりたいぐらいだった。
「マーグレン。いちいち相手の愚かな言葉にムキになるな。俺が告げたことに対して、礼奈の方がムキになっただけだ。」
と、レラグは言う。そう、レラグは自らが、あえて次の試合である第七回戦第六試合に出場する瑠璃チームのメンバーに対して、自らがどうするかを告げただけなのだ。それに対して、礼奈がただ、瑠璃がレラグに勝つということを強く宣言しただけにすぎないのだ。そこで、こちらが感情的になったとしても意味がない。
(ただ、結果で示せばいい。)
と、心の中で付け加えるようにレラグは言うのであった。
マーグレンは、納得できなかった。レラグの言葉は、自らにとって信じることができるものであった。それでも、礼奈に、瑠璃にレラグが負けるといわれ、レラグが反論しなかったことに対して、どうして反論しないのですかというレラグに対する悔しい気持ち、
(レラグ殿―…、どうして、反論しないのですか。悔しいですよ!!!)
と、心の中で強くなっているがゆえに、呟く程度に、気持ちとして大きく強いものとなった。
それでも、マーグレンは、自らを納得させないといけない。
(レラグ殿は、何かをきっとしてくれる。)
と、いうことを心の中で無理矢理にでも思いながら―…。
一方でレナは、
(マーグレン、悔しい気持ちは、私も同じだ。それでも、レラグを信じなさい。レラグはきっとやってくれるわ。ランシュ様が決める騎士という地位にあるのだから―…。)
と、心の中でマーグレンに対して呟くのであった。視線をマーグレンに向けて―…。レナは、レラグが十二の騎士の一人であり、ランシュにも実力が認められている。ゆえに、マーグレンのような礼奈の言葉に対する悔しさはあっても、必ず結果で示してくれることを信じている。だから、マーグレンもレラグの事を心の底から疑いもなく、信じてほしいと思っていたし、それに自ら気づいてほしかった。
中央の舞台。
瑠璃チームのメンバーがいる場所。
「礼奈。」
と、瑠璃が真顔で言う。
礼奈は、瑠璃の方を見る。
瑠璃と礼奈は、両者を互いに見つめるようなかたちで―…。
その時間が数秒あった。礼奈と瑠璃の体感的な時間感覚でいえば、数分もしく数十分が経過したように感じられた。
その状態をやぶったのは、瑠璃だった。
瑠璃は、礼奈に向かって抱きつくのであった。
「ちょっ…、瑠璃!!」
と、礼奈は瑠璃の行動に驚く。礼奈にとっても、今の瑠璃の行動は予想外なものであった。ゆえに、純粋に驚いてしまうのだった。
「礼奈~~~~~ぁ。レラグは強いよ―――――――――――――、私よりも。それでも―…、それでも………私……………。」
と、瑠璃は言った後、しばらく間をあけて、
「レラグに勝ってくるよ。礼奈のためにも―…。」
と、はっきりと言うのであった。
「うん、期待してる。」
と、瑠璃の言葉に対して、礼奈はこう返事するのであった。礼奈としても、レラグが瑠璃よりことはわかっている。それでも、瑠璃に勝ってほしい。いや、ほしいなのではない。勝って、生き残ってほしい。そういう思いである。だから、
(レラグになんて負けないで、瑠璃!!)
と、心の中で、自らの友達に対して言う。もし、神という存在がいて、願いを叶えてくれるのであれば、今のこの時における瑠璃の試合での勝利を叶えてほしいと願うであろう。現実には実現しないことの可能性の方が確実なのであり、叶わないことの方がほばなのであるが―…。
「行ってくる。」
と、瑠璃は礼奈に抱きつくのをやめ、そこから少し離れてから言い、四角いリングの上に向かって行くのであった。
そして、アンバイドが瑠璃以外のチームのメンバーに、
「瑠璃以外はこちら方に集まってくれ!!」
と、言う。アンバイドは今、中央の舞台とその入り口の近くにいた。そこに、瑠璃以外の、李章、礼奈、クローナ、セルティーを集合するように呼ぶのであった。
そのアンバイドの言葉を聞いた、李章、礼奈、クローナ、セルティーは、疑問に思いながらもアンバイドのもとへと向かって行く。
(アンバイドさんは、どうして、通路の方に俺たちを呼ぶんだ。それも瑠璃さんをのけて―…。)
(……、まさか、アンバイドさんの第七回戦第二試合後に、レラグとの会話の内容って―…!!!)
(はやく終わってくれるとありがたいなぁ~。アンバイドの話し。結構長いし。)
(瑠璃さん以外のメンバーを呼んで、集めようとするなんて―…。)
と、李章、礼奈、クローナ、セルティーの順で心の中でそれぞれこう思うのであった。
一方で、李章、礼奈、クローナ、セルティーが、中央の舞台から通路の入り口へ向かっているのを見て、
(えっ!!)
と、瑠璃は心の中で思うのであった。そう、アンバイドの方に集まっていっており、自身が除け者にされているのではないかと感じた。さらに、何か嫌な相手と私は戦うのではないかというような予感をさせながら―…。
通路の入り口。
そこから、李章、礼奈、クローナ、セルティー、アンバイドは、通路の中へと入っていく。
しばらく進むと、
「お前たちに言っておかないといけないことがある。」
と、アンバイドは声のトーンを下げつつ、真剣に言う。
それを聞いたクローナは、
「アンバイドが真剣だ。何かあったの?」
と、アンバイドが真剣に言おうとしているのを理解したため、真面目に質問をする。
「俺のことではない。瑠璃のことだ。」
と、アンバイドはクローナの言った後に言う。アンバイドとしては、クローナがアンバイドが自身のことについて言うのではないかと推測して、あえて、アンバイド自身のことではなく瑠璃に関することであると言う。
「瑠璃のこと?」
と、さらに、クローナはクエッションマークを頭の上に浮かべているのかもしれないという感覚でアンバイドに尋ねる。
(瑠璃のこと? ってまさか!!)
と、礼奈はアンバイドの言おうとしていることに勘づく。それは、礼奈が第七回戦第五試合に勝利した後に、レラグが言っていた言葉から推測できたのだ。
「次の試合の相手―…って、アンバイドさんに試合終了後に話しかけていた人。レラグと瑠璃の試合に関すること!!!」
と、礼奈ははっきりと言う。
その礼奈の言葉に対して、レラグと会話していない李章、クローナ、セルティーは驚くのであった。
(何を言っているのですか、礼奈さんは!! 確かに、第七回戦第六試合は、レラグと瑠璃さんとの対決になりますよ。それがどうしたのでしょうか。見た感じ、人として最低な人のように見えないですが―…。)
と、セルティーは心の中で言う。
(?????)
と、クローナはさらにクエッションマークを頭の上に浮かべる。
(どういうことですか!!)
と、李章は心の中で思うしかなかったのだ。瑠璃とレラグが対決する第七回戦第六試合に何かがあるのかと。
「これから以後の回戦では、瑠璃のことは戦力として含めない。いや、死んだものとみなす。」
と、アンバイドは静かに告げる。
その言葉は、クローナ、セルティーに対して動揺をはしらせる結果となった。クローナは、えっ、という言葉にすらできないほどの衝撃であった。一方でセルティーは、少しだけ冷静になれていた。
(やっぱり、レラグは、瑠璃さんよりも強いということですね。それに―…、アンバイドさんとレラグの会話の内容は、レラグと戦い相手は、殺されるまでおこなうということですか。印象がだいぶ変わってしまいますね。)
と、セルティーは心の中で言う。それは、レラグとアンバイドの話していた会話の内容が、レラグと対戦する者は、レラグより弱ければ、レラグによって殺されるまで戦わされるということであった。そして、瑠璃は、セルティーから見てもレラグよりも弱い。そうなってしまうと、レラグによって瑠璃が殺されてしまうからだ。セルティーにとっては、悔しい思いがそこにあった。同じチームとして、戦っている時に、何もできない自分に―…。そして、レラグという人物が、相手に対して容赦がないということに対する一面を思い知らされたのである。
それでも、セルティーは、願ってしまっていた。神という存在に―…。
(神よ。瑠璃を、過酷な運命から救い給え。)
と、セルティーは心の中で言いながら、瑠璃がレラグに勝って、生き残って、明日以降の時を歩めるように―…。
礼奈は、
(やっぱりそういう予想をしますね、アンバイドさんは―…。天成獣の宿った武器での戦いは、私たちよりも年数が長く、実力もかなりある。そういう人の判断は、経験や勘に基づかれる。だから、瑠璃がレラグに負けると予想できるし、本当にそう思っている。事実その通り。瑠璃は、レラグよりも弱い。それでも、瑠璃ならなんとかしてくれる。経験者の勘ではなく、女の勘で―…。)
と、心の中でさっきのアンバイドの言葉を考える。礼奈はレラグと会話されたがために、アンバイドの言おうとしていることは理解できる。瑠璃が、第七回戦第六試合においてほぼ100%に近い確率で、レラグに殺される未来であることを―…。それでも、何かの偶然によって、瑠璃がレラグに勝利するかもしれない。礼奈はこの時、経験者のアンバイドの言葉よりも、自身のレラグに向かって言った言葉の方が、真実になるのではないかという勘を抱き始めた。そんな予感がしたのだ。それは、礼奈にとって根拠のないものであったが、信用はできそうであった。
李章は、
(瑠璃さんが負ける。そして、死んだものとみなす。)
と、大きくショックを受けていた。そう、李章が李章であるための自身の存在意義においてで―…。松長李章という人間は、現在においての生きる意味の中で重要な位置を占めているのが、瑠璃を守ることである。それは、好きだからであり、好きゆえに、瑠璃の死というものが有り得てはならないし、瑠璃が幸せに生きていける人生を守る必要があるからである。李章は瑠璃に救われたことがあるから―…。
ゆえに、李章は、アンバイドの言葉を許せなかった。許せるはずがない。
李章は、アンバイドに向かって行く。
その時、礼奈、クローナ、セルティーが、
(((あっ!! そうだった。李章(李章さん)は!!!)))
と、心の中でほぼ同時に呟く。礼奈、クローナ、セルティーは、理解していた。李章が瑠璃のことが好きで、好きな人がこれからの戦いで死ぬことを言われて、納得できるはずがなく、それに怒ってしまうことを―…。実際に、礼奈、クローナ、セルティーは、李章がそのような理由で怒る場面を見たわけではない。想像できるのだ。特にクローナは、李章が第一回戦で瑠璃が対戦相手によって重傷した時に、瑠璃の部屋の扉近くで塞ぎこんでいたのを思い出し、そのことから、李章がアンバイドに対して怒りをぶつけるのではないかと思ったのだ。さらに、礼奈もクローナからのそのことについての話しを聞いていたがために、理解できていたのだ。別の出来事によってもわかっていた。セルティーは、何となく、李章が今怒っている表情を見て理解したのだろう。李章が瑠璃を見る視線から考えて―…。
李章は、アンバイドの胸ぐらを掴みかかる。この行為は、普段の李章であれば、することのないことであった。いや、むしろ考えられない行為であり、野蛮な行為だと李章自身は思っていた。
それでも、アンバイドの胸ぐらを掴みかからざるをえなかった。
「アンバイドさん!! 言っていい事と悪い事がある!!! 瑠璃さんが出場する試合で死ぬ!!!! 現実にもなっていないことを言うな!!!!!」
と、怒気をはらみ、アンバイドを今にも殺してしまいかないように雰囲気で言う。声は、もう、大きく、威圧させるものであった。さらに、李章の言葉が丁寧なものではなくなっていっていた。それは、李章の冷静に考えることが、アンバイドの瑠璃が第七回戦第六試合でレラグによって殺される発言によってなくなってしまっていた。それほどに、李章は瑠璃に対する思いが強かったのである。
アンバイドは、李章に胸ぐらを掴まれながらも冷静だった。怒りに身を任せることなどのなかった。ベルグに対する復讐を実行する時ぐらいであろう、怒りというものが最大現になって、冷静さを失うのは―…。
アンバイドは、李章を払い落す。
李章は、それに抵抗しようとしたが失敗し、尻もちをつく。尻もちをついた時に、心の中で痛みを少しだけ感じるのであった。
アンバイドは、李章を見る。双方を第三者がこの時から見れば、アンバイドが李章を見下しているように見えるであろう。実際に、アンバイドは、今の状態の李章を心の中で見下していた。
「少しのことで冷静さを失う。李章、お前は弱いな。実力も心も―…。信じることすらできない。」
と、アンバイドは平坦で、感情がないように思わせるような感じで言う。
アンバイドは続けて、
「確かに、俺は自らの経験から瑠璃は次の試合でレラグに負けて、殺されると言った。それほどに、瑠璃とレラグとには明らかに実力差がありすぎる。だけど、李章、お前が考えるような、瑠璃が生き残るという可能性はほとんどない。0パーセントと言ったほうが納得のいくものだ。それでも、瑠璃が生き残るということを願うのなら、瑠璃を信じるべきじゃないのか。礼奈がレラグに向かって言った言葉のように―…。じゃあ、俺は試合の方を見に行くぜ。」
と、アンバイドは言うと、中央の舞台へ向かって行ったのである。
あとに残ったのは、アンバイドを睨みつけるような李章、李章の事を心配する礼奈、クローナ、セルティーであった。
第63話-2 十二の騎士との初対戦 に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。