第62話 氷の世界
前回までのあらすじは、第七回戦第五試合が開始された。礼奈VSレッラーの試合である。
(―…、これで倒されないとは―…。)
と、レッラーは心の中で言う。感心しながら―…。興味をもつぐらいには―…。
(面白い、と言いたいところだが、これはよろしくない、チームとしては―…。このレッラー=デルガが倒さねばな。)
と、レッラーは続けて心の中で言う。レッラーは、礼奈が自らの覆った光の攻撃でダメージを受けなかったのだ。それを見て、レッラー自身としても興奮しないわけがなかった。久々に自らの実力を最大限にして戦うことができるのだから―…。
ここは、四角いリングの上。
今は、ランシュが企画したゲームの第七回戦第五試合がおこなわれている。
【第62話 氷の世界】
四角いリングの上。
第七回戦第五試合が行われている現在。
レッラーは、
(たぶん、礼奈が氷壁によって私の攻撃を防いだのであろう。氷壁が消えていたところから考えると、互角だな。こういう時は、とにかく攻めですな。というか、攻めだ!!! 攻撃は最大の防御ということです!!!!)
と、心の中で礼奈の氷の防御壁によって自らの光の覆う攻撃が防がれたことを理解する。それが、礼奈の展開した氷の防御壁と相殺されるかたちであったことを―…。
レッラーはすぐに攻撃に移行する。
レッラーは、自らの持っている武器であるレイピアを後ろに下げ構える。この時、レイピアの剣先を前にしたままであった。
レイピアの剣先から球状の光が展開し、徐々に大きくなっていく。その色が、レイピアに覆っている元は光の球状のようなものと同じ色であったがために、礼奈はすぐに判断することができなかった。
ゆえに、展開する前に礼奈が剣先にある球状の光の展開に気づくの遅れてしまった。それでも、礼奈は、レッラーのレイピアの動きを見て、何か仕掛けてくるということを理解していたために、ある程度のレッラーがしようとしていることは読めていた。
(剣を前に突き出して、放出系の攻撃をするか。ダッシュして、直接攻撃してくるか。たぶん、前者の可能性が高い。)
と、心の中で礼奈は、レッラーの攻撃方法を二つに絞り、放出系の攻撃の可能性が高いと予測する。
レッラーは、
「喰らいなさい!!!」
と、叫ぶように言い、レイピアを前へと突き出す。
そして、突き出すと同時に、剣先に展開していた球状の光をビームのようにして礼奈に向かって放つ。
「!!」
と、礼奈は驚きながらも、
(放出系、それもビーム!!)
と、心の中で、自らの予測が正しかったことを理解する。
ゆえに、対策はできていた。目の前に数秒で迫ってくるであろう、球状の光によるビーム攻撃を避けることはしなかった。ただ、礼奈は自らの武器である槍を一振りするのであった。それも、ビーム攻撃を武器にあてることができるその瞬間に、タイミングを合せて―…。
その礼奈の一振りが成功し、槍先にあたったビームは、弾かれ、空中で、ビームの光が消えていった。
その様子を見たレッラーは、
「くっ!!」
と、驚く。
そう、レッラーは感じていたのだ。礼奈がレッラーの攻撃を読んだうえで、対処されているのではないか、と。実際にはそうなのである。
礼奈は、別に未来予知や李章のように危機察知ができるわけではない。ただ、相手がどうするのかをある程度予測して、対処しているだけに過ぎず、そのための分析力が優れているのだ。そのため、レッラーの攻撃にうまく対処ができたのだ。天成獣の力を使えるということが前提条件ではあるが―…。
礼奈は、レッラーのビームの光が消えた後、すぐに、
(攻める。)
と、心の中で呟き、今度は礼奈の方が攻撃に転じるのである。
礼奈の周囲には、多数の氷の球体が展開し、形成される。数にして十は超えているだろう。
展開された氷の球体を見た礼奈は、
「いけえ――――。」
と、言う。
そうすると、展開された氷の球体が、いっせいにレッラーに向かって行くのである。
(すぐに、展開して、攻撃してくるか。こっちが次の攻撃をどうしようかと考えているわずかの時間に!! くっ!!!)
と、レッラーは心の中で顔を滲ませるような気持ちで言う。
それでも、レッラーは、自らに向かって来る氷の球体に対して、すぐに対処しようとする。
レッラーが持っているレイピアを覆っている光が、さらに強く光り、光っているいる剣の部分から、いくつもの平たい光がいくつも出てきて、それが礼奈の展開し、攻撃している氷の球体へと向かって行く。
そして、この平たい球体が氷の球体に接する、もしくは通りに抜けていき、その後、氷の球体は、その光によって消えていったのである。
(これが、私の無効にする光だ。次の攻撃は、私の番だ。)
と、レッラーは心の中で言う。
そう、レッラーは、さっきの攻撃は礼奈によってなされたことから、今度は自らが攻撃する番であるレッラーは、思ったのだ。それが実現される可能性をレッラー自身は、確実なものであると感じながら―…。
しかし、それがすぐに訪れることはなかった。
レッラーは気づく。それは、足にある何かの感覚であったのだ。右足を動かそうとした時に、動かず、何か冷たい感覚があったのだ。そして、右足の感覚が弱まっていくのをレッラーは感じた。
レッラーは見る。見ないといけない。そうしないと原因がわからないからだ。
レッラーは、
(俺の右足が凍っているだと!!!)
と、驚きながら、気づくのだ。レッラーの右足が凍っていることに―…。
そして、礼奈は、ニヤリとしながら、
「レッラーは、私の仕掛けた氷の球を破壊したのよねぇ~。それ、本当にすべてを破壊したのかなぁ~。」
と、レッラーに質問するかのように言う。その内容は、さっき礼奈が氷の球体で攻撃して、レッラーが平たい光で消した氷の球体の数についてである。そう、礼奈は、レッラーが平たい光ですべての氷の球体を本当に破壊できたのをあえて、わざとらしく聞いているのである。礼奈は、そのことについては知っていたとしても、レッラーが本当の事実を知らないからである。
それは、礼奈にとって、レッラーに対する心理的な面において優勢に立つためのものだ。そして、レッラーの動揺を誘うことにこそ、その目的であるのだ。
礼奈の狙いが当たったのか、レッラーは動揺する。
「どういうことだ!!」
と、つい、レッラーは声に出してしまう。本来ならば、心の中で言うことであった。
その言葉と表情を見た礼奈は、
(狙い通りね。それでも油断せずに警戒だけはしておかないと。)
と、心の中で自らに対して注意するのであった。そう、戦いにおいて何が起こるかわからない。ゆえに、警戒しすぎてしすぎることはない。礼奈は、自らを戒めることで、確実に相手を狙い通りに倒そうとしているのだ。
レッラーは、動揺しながらも考える。
(俺は―……………、確かに礼奈の氷の球体をすべて消滅させたはずだ。詳しい数がわからないけど―…………………、ッ!!! まさか!!!!)
と、考えるうちにレッラーは、ある事に気づく。
その様子をレッラーの表情を見て理解したのか、
「気がついたみたいね。しかし、もう遅いよ。」
と、礼奈は言う。
礼奈が言うとおり、本当に遅かったのだ。レッラーはすでに、自らの体の腹部まで凍らされ始めていたのだ。そして、同様にレイピアを持っている手もすでに凍らされてしまっていたのだ。
それでも、レッラーには可能性があると思っていた。思うしかなかった。自らの勝利する可能性に希望を抱くしかなかった。そうしなければ、心まで負けてしまい、わずかにでも存在する勝つ可能性を見逃してしまうからだ。
そんなことをレッラーが思うことによって、時間を消費していくために、勝利への可能性はなくなっていく。
そんななかで、レッラーは、
(レイピアに覆っている光を使って、この俺の体を凍らそうとして氷をすべて消してやる!!!)
と、心の中で呟き、レイピアに覆ってある光を使おうとした。これでレッラーがこの第七回戦第五試合における逆転勝利に繋がるのを信じて―…。
そして、レッラーは、レイピアに覆って光を使おうする。
しかし、それは使えなかった。
「完全に凍らせておいてよかったぁ~。そのレイピアに覆っている光が、戦いの中で一番邪魔だったの。私の氷を確実に消すからね。最初に、集中して凍らせたの。レッラーが右足の凍ったことに気づき、動揺する間にね。もう声は聞こえないだろう。」
と、礼奈は言う。その内容は、どのようにしてレッラーの持っている武器であるレイピアを覆っている光の攻撃を向こうにしたかについてであった。この光を完全に凍らせるために、あえて、礼奈はレッラーを動揺させるようなこと、心理的に優位に立って、凍らせるための時間を少しでも多く稼ぐことにしたのだ。結果は、大当たりであった。
そして、レッラーは、
(くっ!! もう、首まで凍って―…、口…鼻……、もう勝てない。)
と、心の中で言いながら、頭部まで凍らされていき、礼奈に勝てないと悟るのであった。
そして、レッラーは凍らされたのである。
(まさに、四角いリングは、敗者を凍らせた氷の世界になった、ってところが今の表現にはいいのかな。)
と、礼奈は心の中で言うのであった。礼奈は、氷の球体で攻撃する時から、四角いリングの表面に突き刺していた槍に手を置くのであった。
(今回は、氷の球を展開した時、その真後ろに同様のものを重ねて、レッラーに向かって放つ。たぶん、レッラーは、氷を消すという方法で光を使ってくるから、あえてレッラーにそれをさせて、光の前にある氷の球が衝突した瞬間に後ろの氷の球を光がある範囲内で四角いリングに落下させる。その時、槍を四角いリングの突き刺して、そこから、青の水晶を使って、突き刺さっている部分から氷を拡大させる、猛スピードで―…。後は、レッラーを動揺させて、視野を狭くして、氷が拡大しているのを悟らせないようにする。その時、氷に凍らされていることには気づかせてもいいが、拡大していることは絶対に気づかないようにする。そして、氷の拡大に気づいた時にはもう手遅れの状態にする。見事にうまくいったわ。これで、ファーランスは試合の終了を宣言するでしょう。)
と、礼奈が心の中で、自らがレッラーを凍らせるためにおこなったことを言う。
その礼奈の心の中で言った、最後の方でファーランスは、
「勝者!! 山梨礼奈!!!」
と、第七回戦第五試合の勝者を宣言するのであった。
ファーランスの勝者宣言に、観客を盛り上がり、歓声をあげるのであった。
第七回戦第五試合終了後、礼奈は、氷を融かす。
四角いリングの表面を凍らせ、レッラーを凍らせた氷を、である。
それは、数十秒の時間で終わった。
氷を融かされたレッラーは、気絶して、倒れそうになるが、それを、駆けつけたレラグによって抱きとめられるのである。
(レッラー。)
と、レラグは心の中で言いながら、レッラーの表情を見る。
(大丈夫か、気絶しているだけのようだな。)
と、レラグは続けて心の中で言う。レッラーに酷い損傷がなかったことに安心する。
そして、レラグは礼奈の方を見る。
そのレラグの視線に礼奈は気づき、レラグの方に視線を合わせる。
(レラグ、強い!! 今の私じゃ勝てない!!!)
と、礼奈は心の中で思う。それは、レラグの実力が礼奈の実力よりも数段階上であり、かつ、礼奈はレラグの実力を感じることができたからである。ゆえに、礼奈はレラグに対して警戒するような視線をおくるし、実際に警戒している。そう、ここで、もしレラグが本気を出せば、確実に礼奈は負けるとわかっていたし、理解せざるをえなかった。生物としての生存本能が礼奈にこのように告げている。警戒しているために礼奈は、今自分がいる場所から動くことができない。
「ふう、大丈夫だ。私は、今日は試合でしか相手を倒さないし、殺しもしない。だから、安心して、警戒を解いてくれても構わない。私の言ったことを信じなくてもいい。これら実際に起きることだからだ。第七回戦第六試合は、私が出場することになろう。そして、そこで、あなたの仲間は確実に私によって殺されよう。では―…。」
と、一方告げてレラグは四角いリングの上から下りていく。
その間に礼奈は、レラグに向かって、
「レラグは負ける。瑠璃に―…、絶対!!」
と、はっきりとレラグ、および、自らのチーム、対戦相手のチームのメンバーに聞えるように言う。
礼奈の言葉をはっきりと、聞いたレラグは言葉にはださなかったが、
(それは無理なことだ。俺は負けないよ。負けるわけにはいかない。仲間のために、十二の騎士の一人であるプライドのために、俺自身のために―…。)
と、心の中で意思をはっきりさせて言うのであった。たぶん、言葉にだせば、さっきの礼奈の言葉と変わらない威力を発揮したであろう。
【第62話 Fin】
次回、李章が怒る、掴みかかる!!
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。