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水晶  作者: 秋月良羽
現実世界石化、異世界冒険編
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第60話 鉄を切る風

前回までのあらすじは、ミーグールの武器に宿っている天成獣の属性は鉄だった。これは、クローナの風にとって圧倒的に不利なことでしかなかった。

【第60話 鉄を切る風】


 クローナは考える。

 (ミーグールの天成獣の属性は鉄。圧倒的に不利すぎる。)

と。

 それでもクローナは、考え続ける。考え続けようとする。

 (どうすれば、あの針のような鉄を切ることができるのだろう。鉄を切りさえできれば、ミーグール(対戦相手)に勝てそう。)

と。

 クローナは、ミーグールの展開した針のようなものを自らの風で切ることによって、ミーグールに精神的なダメージを与えて自らの優位を確立し、ミーグールを倒そうとしているのだ。

 実際に、鉄を風で切るとなると簡単なことではない。天成獣の属性の鉄は固さが強く、風ではそれほどのダメージを与えることができない。与えることができるとすれば、人の生涯よりもはるかに長い時間をかけて鉄に攻撃し続けなければならないであろう。

 そんなことは、風の属性の天成獣の宿っている武器を扱う者にとって誰であっても不可能なことであろう。ずっと風の攻撃をして、人の人生のはるか長い時間において、鉄をすり減らすことによって切ることは―…。

 そう、クローナが仮に、鉄を切る方法は一撃でそれをなさないといけないのである。それは、ほぼ不可能に近い、いや、成功する確率は、一パーセントよりはるかにはるかに低いのである。

 (相手は風で、俺の鉄は今のところ切れる感じはない。なら、攻めていい!!)

と、ミーグールは心の中で思うと、すぐにクローナに向かって、鉄の針の先のようなものを何本も突きだした。そう、クローナを突き刺して、倒すために―…。

 その突きだされた針の先のような形をした鉄の本数すべてを、クローナはかわす。クローナは、

 (なんとか、かわすことができた。それにしても、どこから出てくるのかを事前に予想しづらい。直前になって、灰色になる部分を見つけないとわからない。)

と、心の中で焦りながら呟く。

 ミーグールの攻撃は、四角いリングの表面の色が白で、若干であるが灰色に近いために、灰色である鉄が針先のような形で突き上げる瞬間のギリギリまでわからないのだ。ゆえに、クローナは焦らざるをえなかった。そう、針先のような形をしたものによって自らの体が貫かれた場合、生死に関わるような事態に陥ってしまうからだ。そのようになる瞬間には、クローナの自身のプライドをも曲げて、白の水晶を使わざるをなくなるのだ。透明の防御テント状になったバリアを展開するということである。

 一方で、突き上がるように出た針のような形をした鉄は、一本だけクローナのいる方向に向かって曲がるのである。まるで、自らが鉄であることを忘れ、クローナという人物に向かうことが絶対的な決まり事であるかのように―…。

 そのことに対して、クローナも気づく。

 「!!」

と、驚きながら―…。

 そして、突き上げた針先の形をしている鉄の一本で、曲ったのは、クローナに向かって、伸びてきたのだ。クローナを貫くために、もの凄い速さで―…。

 クローナは感じた。数秒で自らの体が今向かっている針先の形をした鉄によって貫かれることを―…。

 それでも、クローナは抵抗することを選ぶ。針先の形をした鉄によって貫かれることによる死の結末を回避するために―…。

 クローナは、自らの武器を、針先の形をした鉄の中の、自らに向かってきて、それを防げる位置へと振り動かす。それは、クローナにとって直感のようなものであった。考える時間なんてあるはずもなかった。考えようとした時点で、貫かれるということの確定的未来となってしまうからである。

 そして、針先のような形をした鉄で、クローナに向かった一本の動きは止まった。いや、止められたと言ったほうがいいであろう。

 体から血が流れる。それは、貫かれたのではなく、触れた、少し刺さった方の人である。その人は、自らの武器である鎌先の刃の部分を何とか、針先のような形をした鉄に当てることに成功し、自らに向かって来るのを止めることに成功した。いや、成功というのは表現として良くない。止めることができたが、針先のような形を鉄の先端のほんの一~二センチもしくは二~三センチ前後は自らの腹部に刺さってしまったのだ。ゆえに、そこから血が流れる。攻撃を受けた者にとっては、長く戦うのを難しくしてしまったのである。

 それでも、今の状態が、血を流している者にとって、白の水晶を使わずにできる最大に良いものに近い選択であった。

 だからこそ、クローナは、

 (大丈夫、大丈夫だから。)

と、心の中で自らを落ち着かせようとし、焦ることによって生じる視野の狭小に陥らないようにした。そのための自らへの暗示である。

 突き抜けられなかったと感じたクローナの対戦相手は、

 (!!! 突き抜けて…いない…!!? いったいどういうことだ。いや、自らの武器で、俺の鉄の向かう速度を触れることで落したんだ。それでも、血が流れている…、…っていうことは―…完全には攻撃を受けなかったというわけじゃない。)

と、心の中で今の自らの攻撃について分析した。

 そして、

 (なら、怪我をした分遅くなるから、いける!!!)

と、ミーグールは確信するのであった。

 血を流しているクローナは、

 (大丈夫だよ!! 今は―…、ダメージを受けて血を流していることよりも、ミーグールを倒すことに集中!!! 視野を広く、血は流れていないと考える、今やるべきことは一つに―…。)

と、心の中で呟くのであった。

 クローナは、ミーグールに向かって最短距離で移動を始める。走りながら―…、自らが血を流しているのを感じさせないと思わせるほどだ。それはまるで、消費される続ける命の灯を自らがさらに使用しているかのようである。

 つまり、クローナは、早期の決着も考えて攻めていることになる。

 クローナが攻めているの気づいたミーグールは、

 (!!! 血が流れているのを理解して、早期決着としてきたか。なら、大人げないがチームの勝利が一番!!!! だから、時間を稼がせてもらうぜ!!!!!)

と、心の中で言う。それは、ミーグール個人としてはクローナの早期決着という考えに付き合うつもりでいた。クローナの攻撃に対して、ミーグールは、自らの最大の攻撃で応戦しようとするであろう。ミーグール自身、武勇というものは好んでいたし、自身もそういう行動をとるべきであると思っている。それでも、ミーグールが負ければ、レラグ率いるチームの勝利はなくなってしまう。そうなっていいとはミーグール自身思っていない。レラグのため、そして、チームの勝利のために選ぶ選択は一つであった。確実に起こる可能性がある方をとるべきだと判断したのだ。それだけのことだ。たとえ、それがあまりにも卑怯な方法であったとしても―…。

 数秒の時間で、クローナは、ミーグールに攻撃をあてることができる範囲にまで到達した。

 そして、クローナは、自らの左手で持っている武器を横の軌道になるように振る。そう、ミーグールを切り裂くために―…。

 「!! やるねぇ~。」

と、ミーグールは声にする。

 (だけど―…、待っていたぜ、この時を―…。)

と、さらに心の中でミーグールは言う。そう、ミーグールは待っていたのだ。ただ、距離をとるだけでは時間を稼ぐことはできない。なら、相手の攻撃を只管(ひたすら)防御すればいい。鉄をミーグールの目の前で形成して、展開すればそれは可能なのだから―…。

 そして、ミーグールは目の前に最初に出した針のようなものより大きな同様のものを展開した。それは、クローナの横に振ると同時に展開を終えたのである。

 つまり、クローナの左手に持っている武器とミーグールが展開した大きな針のようなものが衝突したのである。

 キーンと、金属音をさせながら―…。その音は、この試合の今までの時間の経過の中で最大のものであり、最長の音の長さで、鳴り止むのに数分の時間を要した。この時、観客席にいる人々は、この金属が衝突する音が大きすぎるために、手もしくは指で自らの耳を塞がなければならなかった。

 (なんだよ、この音―――――――――――――――。)

 (耳が壊れる―――――――――――――――――――――――。)

などの心の中で叫ぶのであった。実際に、あまりにも近くで聞いたのなら、天成獣の宿っている武器を持たない者は鼓膜が破れてしまうほどのものであろう。一生、耳が聞こえない生活を送るものが出てきてしまってもおかしくないだろう。

 審判をしているファーランスも、

 (ぐっ!! うっ!!! 耳が―………。)

と、心の中で苦しそうに言う始末であった。

 目の前で攻撃をしたクローナは、血が流れ続けているせいか、ほとんど金属音が聞こえていなかった。集中していたのか、もしくは、血が流れ続けているせいで他の事に気をまわすことができなかったからかもしれない。

 クローナは、音が鳴り止む頃に、再度、走るという方法での移動を開始し、ミーグールの右横にまわる。そこで、今度は自らの右手に持っている武器を横の軌道になるように振る。もちろん、クローナは、ミーグールの攻撃をあてることがほどの距離であった。

 クローナが右横にまわって攻撃してくることに、ミーグールはすぐに気づいた。

 (!! さらに、横から攻撃しようってわけか。)

と、ミーグールが心の中で呟くと、

 「まだ、守るだけの鉄の量は残っている!!!」

と、今度は言葉にするのであった。

 そして、すぐにミーグールは、針先のような形をした鉄を突きだすように、展開した。それは、クローナがちょうど右手に持っている武器で攻撃を開始したところであった。

 結果として、前の攻撃と同様のことが起こった。そう、クローナの右手に持っている武器とミーグールの展開した大きな針のような形をしたものが衝突したのである。物凄い金属音を前と同じようにして―…。

 再度、数分の時間は、金属音が鳴り響くのであった。今度は、前回の攻撃で理解したのか、一部の観客席にいる観客はすぐに手および指で自らの耳を塞ぐ。それに気づかなかった観客も、金属音がするとすぐに耳を塞ぐのであった。

 (またかよ―――――――――――――――――。)

と、心の中の気持ちとともに―…。


 音が鳴り止む。

 この金属音は、数分もの間、時を止めたかのようであった。

 それは、耳を塞ぐ者の四角いリングへの目線を離させないほどだった。

 四角いリングでは、

 (まだ、鉄を展開することができたのか。あの薙刀の刃の部分の大きさから考えて、不可能なはず。なぜ?)

と、クローナは心の中で疑問に感じるであった。疑問に感じても当然であろう。ミーグールが持っている武器である薙刀の刃の部分の体積から考えて、さっきのような大きな針の先のような形をした鉄を展開することはできないだろう。たとえ、密度を凝縮させていたとしても、不可能なことかもしれないだろう。ただし、その針のようなものの中に中心部分に何もないとすれば、別になるが―…。

 「俺の天成獣の属性と、クローナ(お前)天成獣の属性(それ)とは相性がいいからなッ。俺は鉄、クローナ(お前)は風、風では鉄を切ることも倒すこともできやしない。はやく降参することをおススメするぜ。」

と、ミーグールは言う。そう、ミーグールはクローナに降参するように促すのだ。そのために、一般論的に風は鉄の属性の者と戦うのに不利であることを言葉の最初に加える。そうやって、クローナが降伏するほうがいいという状態へともっていこうとしているのだ。

 その時、クローナは、

 (でも、あんなに大きなものを展開でき(だせ)るはずはない。ということは、固い防御を実現するために、どこかに重点的に凝縮させているはず。なら、どこかに脆い所があるはず。なら、そこを―…、狙っていけばいい。それに―…、賭けになる。この攻撃を失敗してしまえば、私の負けは確実。だから―…、背に腹は代えられない。白の水晶(すいしょう)を使おう。ローさんのようにテント状の形にする必要はないものね。ならば―…。)

と、心の中で呟くように言いながら、閃くのであった。使えるアイデアがあったことを―…。

 「なら、簡単!!! 倒せる!!!!」

と、クローナは声を大きくして言う。

 「ッ!! どういうことだ。俺を倒せるというのか!!!」

と、ミーグールは、さっきのクローナの言葉に反応するのである。自らを倒すことができる方法を思いついたのではないかと思ったからだ。さらに、ミーグール自身の考える中で、クローナが勝てる方法など存在するわけがないと感じていた。ミーグールが知っているクローナに関する情報を集めたとしても―…。

 「鉄を、風を用いて切ればいい。」

と、クローナははっきりと言う。それも確信をもってである。

 そのクローナの言葉を聞いたミーグールは、目が点になっていた。何を言っているのこいつ、というふうに―…。

 ゆえに、ミーグールは笑う。高らかに―…。

 「ククククク、ハハハハハハハハハハハハハハ―――――――――。笑わせてくれる!! 鉄で風を切るだぁ~、フッハハハハハハハハハハハハハハ、ありえない、ありえない、不可能だ。鉄は風によって切れるわけがない。」

と、あまりにも馬鹿馬鹿しいことを言うクローナに対して、さも当然のことを言う。

 「別に風で直接、鉄を切るわけじゃないよ。」

と、クローナは冷静に言うと、ミーグールから距離を取る。

 ミーグールは、クローナの馬鹿すぎる発言に今だに笑っていた。

 それでも、気づいてしまったのだ。嫌な予感に―…。

 (なんだこれ。何か途轍もなく嫌な予感がする。こんなに優位なはずなのに―…。どうしてだ。)

と、心の中でミーグールは言う。嫌な予感に疑問を感じながら―…。

 一方、距離を取ったクローナは、自らの目の前に円状の形をしていて、円状の先にはギザギザがいくつもあり、円盤状の形をした電動ノコギリの切るために使う鉄のようなものを展開した。ただし、鉄ではなく、白の水晶の防御で使うときに展開されるものであった。さらに、円盤は、中が空洞になっていたのだ。

 そして、そのクローナが展開したものをミーグールは見る。何をしてくるのかということを考えながら―…。

 クローナは、自らの持っている右手の武器に風を強く纏わせ、今自らが展開した円盤状のギザギザのあるものに向かって風を放つ。

 (攻撃ではやったことないけど、攻撃時に二つの風を操るしかない。同時に―…。)

と、心の中でクローナは言う。これはクローナにとっても賭けなのだ。今、クローナがしようしていることは、自らの持っている武器で放った風を、さっき展開した円盤状にしたギザギザの形をしている白の水晶で展開する防御壁にあてて、その防御壁を中で展開している風を用いて回転させ、自らの放った風で、ミーグールが展開した針先のような形をした鉄の二つを同時に切るための軌道を描くようにしてそこに向かわせることだ。そして、針先のような形をした鉄に回転する円盤状の電動ノコギリのように回転させながらあてて、鉄を切ろうとしているのだ。

 それを見たミーグールは、言葉を発することができなかった。ミーグールが見たことのないものであった。異世界において、電動ノコギリを知っているものは人口比にすればほとんどいないであろう。それでも、ある大陸では、それ以上の性能を扱うことができる社会が存在するが―…。そのなかで、ミーグールは、電動ノコギリを知らない方に分類される。それも全く一度も見たことがないし、知らないという方に―…。

 ゆえに、心の中で発せられたのは、

 (…あれは……何だ!!!)

と、いうぐらいであった。

 そして、クローナが展開した円盤状の白の水晶の展開物は、ミーグールの展開した針先のような形をした鉄に衝突し、回転しながら徐々に鉄を真っ二つにするのであった。ギギギギギ、という回転音をならしながら―…。

 自らの展開した二つの針先のような形をした鉄が真っ二つにされるのを見たミーグールは、

 (真っ二つになっている!!! どうして!!!!)

と、動揺するであった。動揺するしかない。ミーグールにとっては訳の分からない物で、訳も分からない方法で展開した二つの鉄が切られたのだから―…。かろうじてわかったのは、クローナが展開したものが、回転していることぐらいだ。

 そのミーグールの動揺は、クローナにとってチャンスを与えるのであった。

 (三つ同時に風を―…。)

と、クローナは心の中で呟く。

 呟くとクローナは、左手に持っていた武器に纏わせていた風を、動揺しているミーグールに向かって放つ。

 ミーグールは、その時、動揺から呆然としている状態になっており、対処することもできずに、クローナの風の攻撃を受けて、飛ばされるのであった。四角いリングの外へと―…。

 クローナの風の攻撃によって飛ばされる時に意識をやっとはっきりさせることになった。そのようになったミーグールは、自らの状況理解できずに、

 (どうして―…、ありえない。あの円盤に何かあるのか!! クローナ(あの小娘)は風のみじゃなかったのか、天成獣の属性は―…。)

と、心の中で呟き、中央の舞台と観客席を隔てる壁に頭から衝突して、気絶するのであった。

 その様子を見たクローナは、

 (私の勝ち!!)

と、心の中で喜びながら言う。

 そして、ミーグールが四角いリングの外に出たことを確認したファーランスは、

 「勝者!! クローナ!!!」

と、クローナの勝利を宣言するのであった。

 こうして、第七回戦第四試合は終了するのであった。


 【第60話 Fin】


次回、氷!!?

誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。

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