第59話-1 第七回戦第四試合
前回までのあらすじは、李章が第七回戦第三試合で勝利した。一方、観客席の貴賓席の方では―…。
第59話は、分割します。貴賓席におけるランシュたちの会話内容が長くなってしまったおよび追加した影響です。次の更新で第59話は完成します。
【第59話 第七回戦第四試合】
ここは、観客席の中の貴賓席。
そこに座っているのは、ランシュであった。
その近くには、ヒルバス、ニード、イルターシャがいて、もう一人、そこにはいた。
李章とアグレーの試合の途中、最後の土煙があがる頃に来た。
「本当、あなたってあの赤髪の娘に似ているよね。なんか、あの子を成長させた感じに―…。」
と、イルターシャが、もう一人、この中で一番最後にやって来た者に向かって言う。
もう一人とは、瑠璃に似ていて、そのまま成長させたかのような少女であった。見た目からして十代後半になりかけているような感じである。
「そうね、憎き瑠璃とはねぇ―…。って、イルターシャが知ったところで意味のないこと。知る必要なんてない。知らない方がいいよ。片足をつっこむ以上では済まないことを知ることになるから―…。私たちを知るということは―…、イルターシャの属している者のトップが関わっている闇、いや、この三百年以上も続く戦いについて、足を踏み込むことになる。だから、無知のままでいるのが幸せってものよ。」
と、瑠璃に似ている少女は言う。彼女は、生まれた時から巻き込まれてしまっていたのだ。それは、自らの体に水晶があるために―…。
「……ムカつくわねぇ~。」
と、イルターシャは、瑠璃に似ている少女に向けてイラついた表情で見る。そう、イルターシャは、ムカついていたのだ。イルターシャ自身の意図を読まれたうえに、お前のような馬鹿は知る必要がないと思わせる態度が気に食わなかったのだ。
実際に、イルターシャは、瑠璃に似ている少女に、瑠璃に似ていることの感想と同じように、どうしてお前は似ているのかという意図を含めていたのだ。その意図を理解したうえで、あえて、口を滑らせるのではないか思わせて、自身と瑠璃の関係について言わず、かつ、それを知った後、イルターシャがさらに好奇心を抱かせると思われる可能性のあることを質問して、知ることがどういうことを意味するかを警告したのだ。
それは、イルターシャに瑠璃に似ている少女を嫌な奴という評価を残してしまうことになったが―…。まあ、そんなことは気にしていないだろう、確実に―…。瑠璃に対して復讐することが目的なのだから、他はどうでもいいという感じであった。
一方で、イルターシャとしても、これ以上聞いて自らの身を危険に晒す気はない。瑠璃に似ている少女に馬鹿にされているのではないか感じたとしても、それで冷静さを失うことはない。そこまで実際にイルターシャは馬鹿ではない。むしろ、賢い方に分類されるであろう。人として―…。ゆえに、瑠璃に似ている少女の言う危険が嘘ではないということにもすぐに気づくことができた。だから、これ以上は瑠璃に似ている少女に聞かなかったのである。
「まあ、ここで喧嘩しても意味がない。イルターシャ、知らない方がいいかもしれない。俺も実は、すべてを知っているわけではないが、水晶が体にある人間の全員は、魔術師ローに関係する。」
と、ランシュは言う。
その言葉を聞いたイルターシャは、瑠璃に似ている少女を見て、首筋に水晶のようなものがあり、
「まさか!! 赤髪のが!!!」
と、驚かずにはいられなかった。
(噂の類で聞いたことがある。水晶が体にある人間は、魔術師ローとの関わりがある。そして、魔術師ローは不老不死ではないのか、と。そんな噂は馬鹿げたものでしかないと思っていたが、本当に―…!!?)
と、心の中でイルターシャは思うのであった。イルターシャとしても今心の中で思ったことはありえない類のものであった。それでも信じてしまいそうになっていた。
(それでもありえない。魔術師ローというのは、何かの名前や称号などのように受け継がれていったものではないか。)
と、イルターシャは心の中で魔術師ローの噂を再度偽りの話しであることにしようとする。イルターシャの人生における経験や知識などがそうさせるのである。人はいずれ死という運命から逃れられないからだ。
(驚きすぎて、変な噂まで思い出してしまった。あの赤髪のが魔術師ローに関係あるなんて―…。っていうことは―…。)
と、心の中で思考していたイルターシャは、ある事に気づき、
「いや!! それじゃあ、あの女は私たちを倒すためのスパイなのか!!!」
と、イルターシャは語気を荒げて言う。それもそうだろう。瑠璃、李章、礼奈という三人組はローと接触しているのをゴーレの報告ですでにわかっており、その情報は、ランシュから伝えられている。そうなってしまうと、水晶を首筋にある瑠璃に似ている少女は、ランシュたちもしくはその上の人間を倒そうとしているかもしれない奴らの仲間かもしれなかいからだ。その懸念が広がり、イルターシャはランシュにそんなの味方にして大丈夫なのか、心配をして、言うのであった。
「イルターシャの心配もわからんことはない。だが…、今のところは大丈夫だろうな。あいつは、三人組の一人に復讐することにご執心のようだしね。それが終わるまでは、味方ってところでいいだろう。」
と、ランシュは言う。
ランシュとしても、瑠璃に似ている少女が裏切るような真似をすれば、すぐにでも殺すことも厭わなかった。実力としては、ランシュの方が数段上であることは確かであるからだ。それでも、実際に戦うとなれば、ランシュ自身も本気にならないといけないことは確実のことであった。
「そうね。」
と、イルターシャは瑠璃に似ている少女をより警戒するような視線をおくる。
そして、瑠璃に似ている少女についての話しは終わった。
それとすぐに、今まで黙っていたニードが貴賓席にいる、ランシュ、イルターシャ、ヒルバスに向かって質問する。
「つ~か、一応は見えていたんだけどさぁ~。李章、いつの間にアグレーのところに移動して攻撃したんだぁ?」
と。
それを聞いたイルターシャは、
(アホな質問。でも、ニードは確認のために聞いてきたというところかしら。)
と、心の中で呟き、ニードの質問に答えようとする。
それを遮るかのように、
「あれは、土煙が覆われるギリギリのところで、横に隠れ、土煙が消えてなくなる時、最初に自らがいた位置に超高速で移動し、そこを直角に曲がって、アグレーに向かっていって、そこで、姿をあえてアグレーに認識させて、超高速で右足の蹴りを喰らわせたってとこね。天成獣の属性が生で、身体能力をかなり強化したうえで、スピード重視で攻めたってところ。」
と、瑠璃に似ている少女がニードの質問に答える。
「ほ~う、わかるのか。」
と、ニードは感心したように答える。
「そうね。ニードも気づいて、あえて確認させているのね。筋肉馬鹿ではないってことね。驚いた。」
と、瑠璃に似ている少女は、筋肉ムキムキの体形であるニードに向かって言う。この少女とて、ニードのように筋肉ムキムキにさせている人は大抵、頭を使うことが得意ではないと思っていたからだ。ある意味で、ニードに対して失礼ではあるが―…。筋肉ムキムキは、頭を使うことが苦手であるということとイコールあるとは限らないのである。
「お前、なかなか見る目あるなぁ~。」
と、ニードは、瑠璃に似ている少女に向かって、感心しているように言う。瑠璃に似ている少女に驚かれたことも、それが少しに今まで馬鹿にされたことを思ったとしても、ニードは全然気にしなかった。小さい事は戦いの時に自らの危険を感じる場合に気にすればいいのだからと、ニードは普段から思っていたからだ。
「……。」
と、瑠璃に似ている少女はゆっくりと次の試合を見ようとするのであった。
ニードは、
(こいつを十二の騎士にすることは不安ではあるが、相手の実力をしっかりと判断できない馬鹿ではない。それに―…、相手の動きをよく見ている。敵にまわらないことを祈るのみか。)
と、心の中で呟くのである。決して、言葉にすることなく。
一方、静かにしていたヒルバスは、
(危険ですが―…、ランシュ様が動かない以上、私も動くわけにはいきません。彼女―…、魔術師ローとの関わりがあり、水晶を体に持っている。味方だとは思うべきではない。ベルグ様に付き従っているあの方が探している人。その関係者だから、いつ敵に回ってもおかしくはない。ランシュ様による瑠璃、李章、礼奈の討伐の計画に支障がでないようにしないと―…。)
と、心の中で瑠璃に似ている少女を警戒しながら思うのであった。ランシュを守るために―…。
観客席。
そこには、ファーランスがいた。
ファーランスは、ランシュが企画したゲームの審判をつとめている。
その経緯は、ランシュによって勝手に任命されてしまったことによる。
それでもファーランスは、真面目に審判の仕事をこなしている。現時点においても―…。
ファーランスは、四角いリングを眺めながら、
(うわ~、四角いリングがほとんどボロボロの状態。しばらくすれば、完全に修復されるでしょうが―…、これらは数時間ほど休憩時間になりそうですね。)
と、心の中で思う。
ファーランスは息を一つ吐いて、
「四角いリングが回復するまで試合を中断します。四角いリングが完全に回復した後、こちらからお知らせして、試合を再開することにいたします。」
と、リースの競技場にいるすべてのものに伝わるように言うのであった。
(四角いリングを修復が終わる頃には、昼になりそう。)
と、ファーランスは心の中で思うのであった。ファーランスはその後、少しだけガックリするのであった。一応昼食を買ってきてあるのだが、試合が長引くと、審判するために集中力を多く使うので疲れてしまうのだ。それが、ファーランスにとって翌日の活力をも奪ってしまうのである。すでに六回ほど経験していることであった。
(はあ~。)
と、最後にファーランスはため息を心の中でつくのであった。
中央の舞台への入り口に繋がっている通路。
この通路は、第一回戦からずっと瑠璃チームが中央の舞台へと向かうために使っていた。
一方で、瑠璃チームの対戦相手は、四角いリングを挟んだ、向こう側のもう一本の通路を使っている。
そして、今は、瑠璃、李章、礼奈、クローナ、セルティー、アンバイドが自らが中央の舞台へと向かうための通路にいた。
「しばらく、四角いリングの修復には、時間がかかるみたい。」
と、セルティーは言う。
「う~ん、そうですね。昼食に関しては、持ってきているし、後は、中央の舞台で観客を目の前にして食べるのねぇ~。」
と、クローナが目を右に逸らしながら言う。気持ちとしては、あまり人が多い所では、それも目立つ位置で食べたくはなかった。飲食店での食事であれば別だが―…。
「そうね、毎度、毎度、この通路の暗い中で食事するのは―…。」
と、礼奈が言う。もしも、「あはははははは―…」という言葉があるのならば、かなり今の礼奈の言葉に合っているのであろう。それに礼奈は、同じ場所で、暗い場所で食事するよりも、静かに食事をできる場所を欲していた。
瑠璃も礼奈の言葉に、首を縦にふって賛成する。暗い場所ばかりで食事をするよりも、明るく、食事するのにいい場所でしたかった。それは、町や村の間を移動しているような林や森のように緑が生い茂った場所ではなく、現実世界におけるキャンプ場や公園などのような緑豊かな場所で食事をしたかったからだ。自らが異世界に来ていて、現実世界の危機に対して少しだけ忘れられ、心を休めたいからでもあった。瑠璃は追い詰められているのかもしれないが、緊張感を持続させ続けることによる精神的疲弊の分を少しでも回復したかったからである。
しかし、結局誰も妙案を浮かばせることができずに、同様に、通路内での昼食となった。ただし、セルティーのアイデアで、瑠璃の赤の水晶の能力を使ってワープして、リースの城の中庭にある芝生でシートを広げて食べようとしたが、四角いリングの回復がいつ終わるのかわからないというアンバイドに言葉によって否決され、実現しなかったという。
一方で、レラグ率いるチームは、レナ、アグレー、マーグレンが目を覚まし、ランシュのいる貴賓室のすぐ近くにある控え室へと向かい、昼食をとったという。レラグは事前に、チェックしていたのだ。第六回戦を観戦するために貴賓室へと向かう途中に見つけていたのであった。
二時間近くの時間が経過した。
時間としても、昼が過ぎて、太陽が南から西へと少し傾きかけた頃。
現実世界の時間でいえば、大体午後1時頃であろう。
第七回戦第三試合でアグレーの攻撃によっていくつかの破片に砕かれたりした四角いリングの表面が、しっかりと第七回戦第三試合前の状態になっていた。
ファーランスは、
(ふう~、四角いリングも完全に修復されました。双方のチームは―…。)
と、心の中で呟き、そして、辺りを見回して、
(いますね。)
と、瑠璃チームとレラグが率いるチームが中央の舞台にいることを確認する。そして、実際に双方ともいた。
ゆえに、ファーランスは、
「これより、試合を再開したいと思います。では―…、第七回戦第四試合に参加される代表者一名は、四角いリングの上へ上がってください。」
と、言う。
このファーランスによる第七回戦第四試合へ参加する者は、四角いリングへ上がるように促すアナウンスを聞いて、レラグ率いるチームはすぐに一人が四角いリングの上に上がった。
一方で、瑠璃チームも、すでに決まっていた通りにクローナが四角いリングの上へと上がっていった。
一方で、アンバイドは、自らのチームとは少し離れた場所で、
(…これで決まったな。礼奈と瑠璃のどちらかが確実にレラグによって殺される。第八回戦以後は、五人。散々、真剣に悩んだが、ここはもう腹をくくるしかない。後は、どっちかだ。それに―…、レラグ以外の二人もさっきまでのよりは実力は上になるか。気をつけろよ。)
と、心の中で思うのであった。アンバイドは、第七回戦第四試合でクローナが向かっていき、相手がレラグ以外であったことがわかった時点で、第五試合に出場する礼奈、第六試合に出場する瑠璃のどちらかがレラグと対戦することとなったことを理解した。さらに、レラグが瑠璃や礼奈より実力では差があるほど上で、アンバイド自身が第七回戦第二試合後のレラグとの会話で、瑠璃、礼奈、李章の三人の命が狙われているのがわかっていた。そのため、礼奈と瑠璃のどちらかが確実にここで、レラグとの試合にあたって、実力差によって殺されるというほぼ確定的にアンバイドが思っている未来へと向かっていくだろう。この未来を自らにとって確実に来るとアンバイドは思っていたし、判断した。実力差などを簡単に引っくり返してレラグに勝利することは、ほとんど有り得ないことであるし、実力差を引っくり返すことじたいの可能性がかなり低いのだから―…。
ゆえに、アンバイドは瑠璃と礼奈のどちらかがレラグとあたると確定した時点で、覚悟を決めることができたのだ。
四角いリングの上では、クローナとその対戦相手がそこにいた。
(……なんか普通だ。体格は―…。)
と、クローナは心の中で対戦相手について思う。
クローナの対戦相手は、クローナが心の中で思った通りに中肉中背で、身長は170センチメートル前後で、特徴らしい特徴は対戦相手の持っている武器以外にはなかった。クローナの対戦相手は、自らの武器を持っていなければ、地味で、認識されにくかったであろう。
クローナの対戦相手が持っている自らの武器は、薙刀である。突いたり、斬ったりできる武器である。
(相手は―…、子どもか…。しかし、このチームの勝利のためには後がないからなぁ~。レラグのためにもここは勝たないと―…。この俺、ミーグールが―…。)
と、クローナの対戦相手であるミーグールが心の中でクローナを見ての感想と、レラグ率いるチームのとって、チームとしての勝利が自身が敗退すれば終わってしまうことを心の中で呟いた。チームとして勝利をしたいというレラグのために―…。
クローナとミーグールは対峙する。その中で、両者が入場したことを確認したファーランスは、
「両者とも試合を開始してもよろしいでしょうか。」
と、クローナとミーグールに対して尋ねる。
「OK!!」
「ああ、始めてくれ。」
と、クローナ、ミーグールの順に答えるのであった。
双方が試合を開始してもいいと言ったことを理解したファーランスは、自らの右手を上に上げ、
「では、これより―…、第七回戦第四試合―……、開始!!!」
と、「開始」と言うところで、上に上げた右手を下に向かって振り下ろすのであった。
こうして、第七回戦第四試合が開始された。
第59話-2 第七回戦第四試合に続く。
誤字・脱字に関しては、気づける範囲で修正していくと思います。