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その他 詩 純文学

月がきれいだね。

作者: 山目 広介

 男は計画していた。月にまで、またにかけた壮大な計画だ。

 台本まで用意している。

 彼女にプロポーズだ。

 古典的なセリフを混ぜて彼女の気を引く。

 そしてほめてほめてほめ殺す。



―――――――――――――

男「月がきれいだね」

女「ええ、そうね」

男「でも君の方がきれいだよ」

女「そんな」

男「君の凛々しく弧を描く眉、艶やかで潤いに満ちた唇、夜空を閉じ込めたような星の輝きを秘めた瞳に、幼い頃一時期恥ずかしくなって隠していたキュートなオデコ、小さい耳もかわいいし、そうやってすぐに赤くなる頬も魅力的だ。ツンと反った鼻も、小さな小鼻もそこから伸びるほうれい線に柔らかそうな丸みの頬っぺたに……(省略)」

数分間話続ける。

男「……ほら、君の美しさにお月さまも姿を隠そうとしている」

月食が始まる時間が過ぎる。

―――――――――――――



 記念日が皆既月食の日だった。これはちょうどいいと思い計画にこれを組み込もうと男は考えたのだった。




 その場所はほとんど雨が降らないという、しかも雲もなく、月が隠れることもないだろうということで決めた場所だったのだ。

 雲に隠れてしまったらセリフが台無しになってしまうからだ。


 その場所の昇った月がよく見えるというホテルの食堂だった。

 しかし見えるのは、暗い空から滴り落ちる滴。

 彼女の顔にも同様な雫が(したた)る。

 それは男がトイレに行っている間の出来事だった。

 男が緊張で席を外した間に、男の台本を彼女が見てしまったのだ。


「ごめんねぇ、わたしが雨女でごめんねぇ」

「いいや、違うよ。だから安心してくれ、それは関係ないんだ」

「でも、雨がほとんど降らないという場所に雨が降っているんだよ。こんなの絶対おかしいよ」

「だからこそだよ。お日様もお月さまでさえ君の美しさには分厚い雲のベールに隠れないと恥ずかしいんだ。めったにないのに雨が降ってる。それがそれを証明している。そんな君が好きなんだ。だから泣き止んでこの僕と結婚しておくれよ。この指輪を受け取ってくれ」


 ちょっと予定が狂ってしまったが、男の一世一代の告白だ。

 いや付き合うときもあるから二度目だ。映画を見ながら「月がきれいだね」と。




 下手な計画が露呈して焦ったが、なんとか男の計画はうまくいった。


 今度は山の上、山頂における雨が降らない雲もかからない場所で月を見ながらの記念日を計画しなくちゃいけないだろう。

 次の台本の最初のセリフにも、「月がきれいだね」とあるのだから……



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