「学校」2
確かに女がいれば男はいいところを見せようとする。
「武」の授業の時などはかなりそれが顕著だ。
そう考えれば男女が一緒に勉強する意味もなくはないのかと思わないではないが、それだけでは女に対して教育を行う意味があまりない。
特にこれだけの金をかけて行う以上より明確な理由があるはずだ。
領主あたりに聞けばもっと合理的な説明が返ってきそうだが、生徒たちにしてみれば、自分の環境が良ければそれでよいということかもしれない。
ただ、ひとつだけ言えるのは、生徒たちはどうも学校で結婚相手まで見つけてしまうのが多いということだ。
寮もそうだが、組も成績が影響してくる。
結果、それなりに成績の良い男女は同じ組になるわけで、一緒にいることが多ければ、そのまま恋愛感情になる可能性も高く、結果として結婚ということも良くあるようだ。
確かに、夫婦が同じことを学校で学んでいれば、共通の話題にも事欠かないであろう。
また、もしかするとある種の選民教育をしているのかもしれないと思った。
これは俺の考え違いかもしれないが、父母が優秀なら、生まれてくる子も優秀というのを狙っているのかもしれないとも考えた。
そろばんの他に俺が全くついていけない授業として、歴史があった。
東郷の国の成り立ちを教えてくれるわけだが、当然俺は全くついていけない。
ただ、それでもどうしてこんな独自の体系がつくられるようになったかはわかっておもしろかった。
当然、東郷も以前は三川や水穂と同じように武士が支配階級だったらしい。
だが戦国の世となり、国が乱れてきた。
そこで、ある村がだったら用心棒を雇えばよいのではないかと考え、米を食わせることを条件にそれなりの数の元武士を集めた。
戦国の世だから、主君が滅びた家はかなりあり、こうした者を見つけるのは難しくなかったが、彼らを管理するのがやっかいだった。
だったら、用心棒だけでなく、村の者も一緒に戦おうという話になったらしい。
そうなれば、村で強い者が選ばれる。
ただ、所詮は農民だからある程度の訓練はしなくてはならない。
最初はその選ばれた者だけが学んでいたらしかった。しかし、戦で人は容易に死ぬ。
補充も必要だし、学ばせるのなら少数ではなく、ある程度数を揃えた方が効率が良い。
こうして今の学校の元になるようなものができた。
そのうち用心棒も戦で死んでしまった。
新しい用心棒を雇うのはいろいろ面倒だし、既に自分たちも戦でそれなりに経験を積んでいるので、そうしたものが後進を育てることになった。
こうして学校を通して強い者が村を守るという伝統ができた。
そして、戦に勝って領土を広げても、同じことを繰り返してきたらしい。
こうした話を聞いたとき、村人が自分たちの村を守るという意識を持つとはすばらしいと思ってしまった。
正直、水穂の国の農民がそうした意識を持っているかというと、まずないだろう。
彼らにしてみれば、誰が支配者になっても自分たちの安全が確保できるのならそれでよいと考えているだろう。
ところがこうした歴史を学ばせれば、自分たちがやるべきことだけでなく、なぜ今学校に来て、学んでいるかという意義までがわかる。
間違いなく歴史を学ぶことは意味があると思う。
特に、東郷の場合、それが学校と深く結びついているとなれば、歴史を学ぶ意味も含めて一石二鳥というところだろう。
俺は最初、東郷の国の現在の体制をどう拡大再生産していくのか疑問だった。
それは俺が武士で、戦は武士だけが戦うという想定で考えていたからだ。
東郷の場合、村人が主体で、戦で勝った場合、その村人を含めた領地の拡大という形でこの体制が再生産されていくのであろう。
であれば、既存の武士などは邪魔なだけだ。
所詮は戦に負ける位の劣兵か、ロクに戦もできない指揮官という話だ。
そうしたものを再利用するなら、新たに自分たちでそれに勝るものを作り出せばよいだけだ。
そして、学校があればそれが可能だ。
ただ、口で言うほど簡単ではないだろう。
特に最初に頃の兵が少ない頃はどうしていたのであろうか。
教師の話ではさすがにそこいらまでの言及はなかったが、人材の育成には時間がかかるから、最初は捕虜を使っていたのではないかと思う。
俺も散々、経験したからよくわかるが、戦は何といっても数だ。
ある程度の数が集まらないことには話にならない。
今でこそ、これだけの規模の学校を運営できるから何の問題もないだろうが、初めは村から初めてわけだから、最初からそうだったはずはない。
であれば、捕虜は用心棒として再度使ったというところだろうか。
どうもあまりにきれいにまとまりすぎている話で、俺的には納得いかない部分の多い歴史だったが、いくら俺でもこれについてどうこう言うつもりはない。
特に今の東郷の歴史は「学校」とは切っても切り離せないわけだから、ここで変なことを言えば、いくら俺でも、ただではすまないだろう。
ま、ここいらは最初に領主に話を聞いた時に感じた違和感と同じものだあろう。




