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水穂戦記  作者: 江川 凛
第1章 水穂の国
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小夜

 小夜は本当に強かった。 彼女の最大の特徴は、体重が軽いことで、結果、身が軽かった。

 捕まえられそうになっても、ひらりとひらりと身をかわして避けている。

 どうも、独特の足さばきを使っている様だが、俺には良くわからなかった。

 正直、教えをこいたかったが、既に十蔵に師事している以上、そうもいかない。

 しかし、その十蔵が全く歯が立たない訳だから、彼も格好がつかない。


 二人とも、俺から見れば十分強い訳で、下から上を見上げている俺にしてみれば、どちらも高い山だ。

 しかし高い山の間にもより高い山がある様に、強い人の間にもより強い人がいる。

 これは理屈ではわかる。しかし2人のやり取りを見ていても、気が付いたら、小夜が勝っているという感じで、違いも何もよくわからない。


 そこで、小夜に「お前と十蔵の違いはなんだと思う。」と正面から聞いて見た。

 小夜は少し考えて、「経験だと思う。」と言った。

 彼女の言わんとすることをまとめると、「十蔵はそれなりに強いが、強い人達の間で揉まれたことがないのではないか。」と言う。

 素人相手の関節技は、効果が絶大なので、そこで満足してしまう。

 結果、相手の関節をとることに意識が集中してしまうので、相手(今回は小夜)も関節を狙っているということに意識がいかない。

 「当たり前すぎるがゆえに、自分が相手をつかめるということは、相手も自分をつかめるということを忘れてしまっているのではないか。」と言うのである。


 これを聞いて、俺は正直小夜を見直した。

 だったら、簡単な話で、十蔵を岩影に送り込んで修行させれば良いのではないかと考えた。

 小夜に俺の考えを提案したが、「一族以外にはいろいろ門外不出の技があるので、むずかしい。」という。

 では、どうするかと考えだが、これだけ強い師範が目の前にいるのだから、十蔵と2人して小夜から習えば良いのではないかと思った。

 

 実際、十蔵自身が自分のことに精一杯になってしまって、俺への教えが今一気が入っていないような気がしてならなかった。

 おそらく、はっきり言ってしまえば、十蔵も意地になっていたのであろうし、何より俺自身が小夜の技に魅了されてしまっていた。

 そうしたことをどことなく十蔵も感じているらしく、結果ますます俺への指導がないがしろになりつつあった。


 しかし、2人一緒なら、十蔵に習いながらでも小夜に教えを乞うことは可能だ。

 それに、いつかはわからないが、葛川家に人質として行くのであれば、強くなっておくにこしたことはない。

 十蔵に小夜の言葉を伝えると、十蔵自身も思いあたるところがあった様で、「いつまでも、意地を張っている場合ではありませんね。」と言って3人での修行に賛成してくれた。

 

 小夜にも異存はなかった。どうも岩影は影の存在で武士より一段低いという意識を持たされていたせいか、武士に指導をつけるということがうれしくて仕方がないようであった。

 ただ、前に述べたように「門外不出の技があるので、それについては如何に領主の息子である俺にでも教えられない。」といっていた。

 こちらとしては、そこまで習うつもりはないし、教えてもらったとしてもとても覚えられるとも思えなかったので、何の問題もなかった。

 

 3人での修行は楽しかった。見ているだけではわからないことも、いろいろ教えてもらって、自分でやれば、それなりに理解出来た。

 十蔵も小夜の言葉を聞いてからは、以前の様に簡単には負けることはなくなった。


 修行をしていて気がついたのは、小夜の動きは長い刀を持つことを想定してのものではなく、どちらかというと小刀を持って敵の急所をつくという動きをメインにしたものであるということだ。

 確かにこうした動きは俺は習ったことがない。

 武士の場合、どうしても刀を構えて相手が、どう変化するかに如何に対応できるかが勝負となる。

 それが刀も見せずに、気が付くと首の後ろ刺されているような感じの剣は想定してもいない。


 もしかすると、ある意味こうした暗殺剣は「邪道」と言う者もいるだろう。

 しかし、陣取り合戦で俺たちがやった様に、馬鹿正直に正面からぶつかることだけが勝負ではない。

 相手の想定していないことを行う(相手の裏をかく)ということも極めて大事で、実際、我が国のような小国ではこれしか他国と渡り合っていく方法があるとは思えなかった。

 そういう意味でも、俺は小夜の技術に魅了されてしまっていた。

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