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水穂戦記  作者: 江川 凛
第6章 信夫攻略2
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風見 3

 冬の寒さが段々和らぎ、春がもうすぐ近くなっている頃、風見は喜んでいた。

 もちろんこれまで経験したことのない冬の寒さから、これで解放されるという思いもあったが、当然別の理由からだ。

 一つは、水穂に対する調略がうまくいっているということもあったが、それ以上に喜ばしかったのは、どうやら水穂軍が信夫攻略に乗り出すという情報を掴んだからだ。


 春になったら庭先攻略を考えていたが、風見にとって最も頭を悩ませていたのが、庭先との境の頂上付近にある砦に閉じ籠もられて防衛に全力を注がれれたらどうするかということだった。

 そうなれば、まず手はない。

 ところが、その水穂が攻めて来るという。

 そうなれば、籠城戦はない。それどころか、逆にこちらが籠城戦を仕掛けることができるわけだから、圧倒的に有利だ。


 水穂が西から攻めて来るという情報と同時に、三川も南から攻めてくるという情報も入手した。

 「やはり、同時に攻めてくるか。」風見は独り言つ。

 しかし、あまり焦っている表情は見えない。

 風見の計算ではまだ信夫8ケ国全土を合わせれば、4000位の兵は出せると踏んでいる。

 

 出せる兵力は、三川が20000から最高で1000位上積みが可能といったところ、水穂は2000~2500といったところとみている。

 すると、3000と1000に分けて対抗することになるだろう。

 三上はなんだかんだ言って、毎年1国は落としているが、今年は秋山家無しでの参戦となれば、果たして今まで通りいくか、少し己惚れていると思いながらも、そんなことを考えていた。


 それに風見にしてみれば、仮に1国奪われたとしても、自分たちが庭先を奪い返せば良いと思っていた。

 果たして今回の調略が間に合うかわからないが、水穂が出してくる兵をせん滅されることができれば、庭先を奪い返すことも不可能ではない。

 庭先さえ奪い返せれば丹呉はどうとでもなる。

 そうなれば、最悪1国奪われても2国は奪還できる計算だ。

 更に、この2国が返ってくれば、かつて我の部下だった者たちがついて来る可能性もある。


 冬の間、ここいらの地形はかなり下調べをした。

 近くに、ちょうどよい感じに盆地状になっている土地があり、そこにはかなりの伏兵を隠しておくことが可能だ。

 そこに、水穂兵をうまく誘いこむことができればせん滅も不可能ではない。

 そんなことを思うと、風見は近くに迫って開戦の時が待ち遠しくて仕方がなかった。


 影から連絡が入り、水穂と三川がほぼ同時に信夫攻略のための軍を進めたことを知る。

 本来なら風見は三川方面に当たるべきなのだろうが、今回は無理をいって、水穂に当たらせてもらっている。

 その理由は当然、せん滅戦であり、この指揮をとることができるのは、風見だけであると、並み居る領主たちの前で大見えを切った結果である。


 領主達にしてみれば、基本的に籠城戦に徹するつもりなので、別に風見がどちらの守備にあたろうが問題はなかった。

 とても水穂兵のせん滅などできるとは本気で思っていなかったが、できるならめっけもの位の軽い気持ちで了承したのであった。

 しかし、この了承を受けて風見は嬉しくて仕方がなかった。

 

 そして、今自分の希望を実現できる場面を与えられた。

 「三川の内戦で負けて以来、不本意なことばかりだった。それも今日で終わりを告げる。」風見は心のなかで固く誓うと、近づく水穂兵を見ながら逸る心を抑えるのが精一杯だった。

 風見の頭にあったのは、何としても例の場所に相手を引きずりこむことだ。

 そのために本来有利な籠城戦を捨ててまで、城外に陣をしいている。


 「何かある。」と気取られるかもしれないが、砦からそうは遠くないので、これなら何とかなるだろうと思っている。

 とりあえず水穂兵が攻めて来ると、わざと退却し、おびきよせるように指示をだしてある。

 浮かれている水穂兵が調子にのって攻めて来る。

 この策が成功する瞬間は楽しくて、楽しくて仕方がない。 

 とうとう、水穂兵が予定していた盆地に入ってきた。

 

 風見は喜ぶ。ここで伏兵を四方から一気に出せば、あの憎き水穂兵がずたずたになる。

 「とうとう復讐する瞬間がきた。」そう思って、攻撃の合図を出そうとすると、信じられない光景が目に入る。

 伏兵が合図を待たずに、いきなり飛び出してきたかと思うと、水穂兵ではなく、信夫兵、それも風見の手勢を中心に攻撃を仕掛けている。


 「どういうことだ。」風見に動揺が広がる。

 まさか、既に調略されていたというのか、そして、「我がやろうとしたことは、敵もやろうとしたということか。それも我以上に見事に・・・」とつぶやくなり、以前の不機嫌な顔に戻っていった。

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