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水穂戦記  作者: 江川 凛
第5章 信夫攻略1
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無常

 あわただしく朝を迎えた。

 結局、殆ど休むことが出来なかったが、克二との約束があるので、早い時間には出発しなくてはならない。

 両親に挨拶に行くと父親はともかく、母上の機嫌が悪すぎる。

 俺の記憶では、俺を溺愛する母上しか覚えていないのだが、弟が出来て、完全に関心がそちらに移ってしまったというところだろうか。

 ある意味、自業自得だとは思いながらも、ここまで露骨に示されると、かなり悲しいものがある。

 この朝の面会もある程度時間が取れれば良かったのだろうが、出発の時間が迫っていたこともあり、あまり時間がなかったことも、母上の機嫌をより損ねてしまった感じだ。


 十蔵と小夜を連れ、三川に向かった。

 他にもついて来ようとするものがあったが、急ぎだということで納得してもらった。

 克二に会う旨を知らせると、慎介から「だったら今年の年貢をどうするか確認してもらいたい。」と言われた。

 というのは、信夫遠征に併せて、三川に今年の年貢を納めに行くことになっていたので、まだ手元にあるというのだ。

 来年は当然なしとしても、今年をどうするか、相談してきて欲しいと言われた。


 先の戦で身内を亡くした者の中には全額免除を主張するものもいたが、それは余りにむしがよすぎるだろうという意見が大半だった。

 折衷案として、今は10月だから、せめて月割りで二ケ月分は減額してもらう方向で、交渉することになった。

 克二と相談する旨を伝えて馬に乗る。皆の期待を背中に感じながら馬をはしらせた。


 夜には三川に着いた。

 当然これからの面会はあり得ないので、明日の面会を取り付ける。

 その際に、「今回は領主様の意向ですから、最優先で明日会えるように都合をつけますが、これまでとは違うので、少なくとも数日前には予定を入れる様にして下さい。」といつも取次ぎを頼んでいる者から言われた。

 改めて、克二の立場が変わったことを見せつけられた感じだ。


 あの戦いの後、直ぐに水穂に帰ってしまったため、勝一や秋山風見がどのようになったかすら知らない。

 そこで、勝一側の主だった者がどのようになったかを聞いてみた。

 勝一は、捕まった結果、既に切腹をしたこと、北の方は実家に帰されたことを聞いた。

 秋山家の主だった者も切腹となったそうだが、肝心の風見をはじめ秋山家のかなりの者はどこに行ったのか未だに行方知れずとのことであった。


 噂では北に向かったとの話もあるが、全くありえなくはない話だ。

 三川は西に延びているし、東には東郷の国が控えている。

 すると北に逃げるしかない。問題は信夫地方が、あのいつも最前線にいた風見を受け入れるかだが、これまでの意趣返しに捨て駒にするつもりなら、なくはないと思う。

 それに、三川への復讐心という意味では風見は並々ならぬものがあるであろうから、もし信夫の国が本当に受け入れたとしたら、今後三川の国にとってかなりやっかいだと思う。


 同時に、勝一のことを思いだしていた。

 あれだけ自身満々で武器が好きで、戦好きだった勝一。まさか自分が負けて腹を切らされるということなどは考えたことがなかったであろう。

 「戦は自分が勝つから面白いのであって、戦好きを自認する者でも、自分が負けることを想定する者は少ない。」ふと、そんなことを考えていた。


 次に思い出されたのは北の方だ。

 あれだけ気位が高った御方だから、今どのような気持ちか想像するまでもない。

 ひと月前までは、自他共に認める三川の次期領主の母親で、領主である葛川隆明さえ尻に敷いていた、北の方。

 それが今は自慢の息子は自分より先に世を去り、失意のうちに実家に強制的に送り返される身。

 

 ひと月前は誰がこんな状況を想像したであろうか。

 「まさに諸行無常だ。そして本当に一寸先は闇だ。何が起こっても不思議ではない。」ふとそんなことを考えながら明日の会談に臨む準備とした。

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