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水穂戦記  作者: 江川 凛
第1章 水穂の国
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陣取り合戦2

 俺たちが夏祭りの会場に着くや否や、五平がいきなり俺たちにくってかかってきた。

 何があったのかと聞くと、「投げ槍は、武器の使用にあたるから禁止」と正式にさっき連絡があったそうだ。


 そもそも何故、俺たちが投げ槍を使おうとしていることがわかったのかも腑に落ちなかったので、それも含めて詳しい説明を求めた。

 五平が言うには、投げ槍の練習は当然隠れて行っていたが、狭い村の中で、それなりに場所をとる練習なので、誰かに見られていたらしい。

 尚且、五平のグループに属する者のうち、数名が家族に俺たちの計画を話していたらしい。

 結果、それらが庄屋グループの耳に入り、その後、祭を仕切る神主に確認となったとのことであった。


 五平が言うには、「庄屋グループがいやらしいのは、それをわざわざ当日の今日になって伝えてきたところだ」と、怒髪天をつかんばかりに怒っていた。

 当然、その矛先は、使えない作戦を提案した俺たちにも向いていた。

 「せめてもう少し早く、決定を知っていれば、他の策を考えることが出来たものを」とか、「そもそもお前たちがこんな使えない作戦でなく、別のしっかりした作戦を提案していれば」等と言ったことを、自分自身何の作戦も思いつかなかったことを棚にあげて、怒り狂っていた。


 下手をすると、十蔵にも殴りかかりそうな勢いだった。

 俺はどうなるのだろうと、気が気でなかったが、十蔵は「予定通りです。」と言ってのけた。

 五平は「何が予定通りだ!」と、ついに十蔵に殴りかかってきたが、十蔵はそれを軽くいなし、後ろから五平が動けない様に関節をきめていた。

 あまりの早業に、俺は何が起こったのかわからない程だった。

 恐らく俺だけでなく、そこにいた五平のグループ員で、何が起こったのかわかった者はいないと思える。


 十蔵はそのまま五平に「落ち着け。」と言うと本当の作戦を説明し初めた。

 それを聞いた五平はそんなことが可能なのかと、半信半疑であったが、まともに戦っても玉砕以外道がないことは明らかだったので、もう一度だけ、十蔵の策にのることになった。


 会場に着くと敵の陣地が見える。明らかに大人が数人がかりで作ったとしか思えない立派なものだ。

 それに対して五平たちの陣地はかろうじて陣地と呼べるかという代物であった。

 十蔵は「相手に挨拶してくる。」と言うと、一人で相手陣地に向かっていった。庄屋の息子と何を話しているのかわからなかったが、彼らが気持ちよさそうに笑っているのを見ると、おべっかでも使っているのだろう。


 しばらくして十蔵が帰ってきて、俺たちに最終の作戦伝達を行った。

 結果、俺と十蔵が攻撃(前衛)、五平たち五人が防御で、内訳は旗持ち(後衛)が2人、その前の中衛が3人という布陣になった。

 両軍が陣地に着いた。当初庄屋グループは10人ということだったが、13人に増えている。

 周りで見ている観客も勝負は火を見るよりあきらかという感じで、俺たちを見ている。

 相手が庄屋の息子ということもあり、あまり声援は期待できないかと思っていたが、ありがたいことに、あまりにも差がありすぎるが故の判官びいきか、俺たちへの声援もそれなりにはあった。

 

 庄屋グループは13人いるので、5人を防御に回し8人で攻めてきた。中衛の3人もそれなりに頑張っているが、相手が8人では話にならない。あっという間に地面に転がされてしまっている。

 そのまま後衛の2人に襲い掛かろうとする8人、このまま旗を抜かれてお仕舞と皆が思ったとき、後衛の1人がいきなり旗を抜いた。


 そして、中衛にいた五平に旗を投げたのである。これには庄屋チームも唖然としたようである。

 規則では旗を奪い取らなければ勝利にはならない。

 ただ彼らの頭にあったのは、「陣地を奪う=旗を奪う」だったので、如何に陣地を強固にして敵を陣地に近づけないようにさせるかであった。

 

 ところが、その陣地を意味する旗が急に空をとんで、陣地とは別のところに行ってしまったのである。庄屋グループが五平に襲い掛かったが、いち早く旗はまたしても空を飛んでいる。

 ここに至って庄屋の息子も俺たちが何故投げ槍の練習をしていたのかわかったようである。

 十蔵がやらせたかったのは、如何に正確に旗を飛ばせられるかという練習だったのである。


 襲い掛かっても遠くに旗を飛ばされては仕方がない、また初めからやりなおしである。これを見ていた庄屋の息子はよほど腹をたてたらしく陣地を守っていた2人にも旗をとりに行かせた。

 結果、陣地を守っているのが3人になったのを見計らって十蔵が襲い掛かった。先ほど五平を仕留めた関節技が今回もさく裂し、一瞬にして2人が横になっている。

 その隙に庄屋の息子と俺が1対1になったわけだが、そうなると痩せても枯れても武士の息子で、普段からそれなりの訓練をしている俺が負けるはずがない。


 すぐに地面に相手を転ばして旗を奪いとることに成功した。

 その間庄屋グループも数にものをいわせて、五平たち守備陣を一人一人捕まえる作戦を実行中で、かなりきわどい状態だったが、かろうじて俺が旗をとるのが早かった。

 

 むろん庄屋の息子は「旗を投げるなどということがありか!」という抗議を行ったが、今回あまりにも差がありすぎたが故の同情票が強かったせいか、「規則に規定されていない以上、今回にかぎりこれを認める。」という裁定が下った。


 五平たちはうれしいというよりも、まさか勝てると思っていなかったようで、どうも勝ったという実感すらないようで、ぼーとしている。 


 帰り道、いろいろ疑問があったので、十蔵にぶつけてみた。最初に投げ槍の練習と俺たち皆をだましたのは理解できる。

 実際、「投げ槍」というダミーの作戦は相手に筒抜けだったわけで、馬鹿正直に旗を投げるという作戦を伝授していては、それこそ先に規則を改正して封じこめられていたかもしれない。


 俺が理解できなかったのが、十蔵が「予定通り」といったことである。十蔵が言うには、理由は知らないが庄屋の息子はどうも徹底的に五平たちを嫌っている様で、相手を徹底的に痛めつけてやろうという感じがしたとのことであった。

 そのため、「投げ槍」という作戦が認められないということを神主に確認するだろうが、それはおそらく一番ダメージの大きい当日に五平たちに伝わるようにするだろうと思っていたとのことであった。

 

 十蔵が一番心配していたのが、予め投げ槍が認められないと確認されてしまうと、五平たちが練習しなくなることで、そのため当日五平から当日になった庄屋グループが正式に確認して伝えてきたと聞いたときは、「これで勝った。」と思ったそうである。

 また、嘘か本当かわからないが、十蔵が言うには相手が4、5人程度なら何とかなると思っていたが、庄屋の息子がうろたえて戦力を分散したときは「これで負けては武士の名折れ」とまで思ったそうだ。


 俺は感心していたが、十蔵はそんな俺に対して、「今回は伊南村の人たちが皆、陣地を強固にすればする程良いと思って、旗のことに頭がまわらなかったから勝てただけです。」と言ってのけた。

 念のため相手の陣地にあいさつにいったのは、「当然陣地の偵察だよな」と聞くと、「むろんです。」と答えてきた。

 どうやら俺の見せ場をつくるために、俺と庄屋の息子が1対1になるようにするにはどこから攻め上がれば良いかを予め見ていたようである。

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