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水穂戦記  作者: 江川 凛
第4章 内戦
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進軍 2

 俺は、最初に筆頭家老の板倉泰然のところに向かった。

 この男、名前の様に、どこかのんびりしている。ある意味父親と似たようなところがある。

 既に、筆頭家老になった以上、もはや、これ以上の出世はないと割りきってでもいるかの様に、何事にも良く言えば、おおらか、悪く言えば、あまり関心がないと言った感じだ。

 俺が意見を求めても、「若のお気にめすまま。」と平気で、言ってのける。


 ま、これ幸いと、次に次席家老の伊藤上総のところに行く。

 正直俺はこの男が、苦手だ。

 功名心が強く、常に出世だけを考えており、すきあらば、自分の同輩をも蹴落すようなことも平気でやりかねないところがある。

 その上にいるのが、泰然というのが、上総本人は気に入らない様だったが、ある意味、あの泰然だからこそ、上総のやっかみというか、明らかな嫉妬などにも、平然と対処しており(というか全く気にしもしていないという方が正しいかもしれない)、上手くいっているという面もあった。


 俺が上総に相談すると、嫌みたっぷりに、「お気に入りの片桐殿に相談されたのであれば、それでよろしいのでは、ありませんか。」と言ってきた。

 戦の前に、あまり波風を立てる訳にもいかないので、「助言感謝する。」とこちらも嫌みを返して、すぐに離れた。


 ある意味、自分でまいた種とは言え、これで本心から相談出来るのは、慎介しかいなくなってしまった感がある。

 泰然はまだしも、上総はまともに相談には、のってくれないであろう。

 俺が慎介を重視しているのは、あきらかだから、それを理由に、下手をすれば、今後、慎介に嫌がらせをされるということも起こるかもしれない。

 「実に困ったことになった。」と思うが、今は、そんな先のことより、まずは明日の戦のことの方が大事だ。


 そのためには、今後少しくらいの不都合が起ころうとも、慎介に相談するしかない。

 俺は、「今後何回くらい休憩をとるつもりか?」と最大の関心事を聞いた。

 すると、「ありませぬ。」と言ってくる。

 「用を足したくなった者は、各自そこいらで用を足してもらうとして、全体での休みはこれが最後です。」とまで言う。


 「先ほどの使者を呼んでは貰えませぬか?」と言うので、須走を呼ぶと、「このまま東に向かって、敵の背後をつくので、道案内をせよ。」と命令した。

 そして、「進軍速度は、私の方で、調整しますが、それでよろしいですか?」と聞いて来たが、むろん俺に異論はない。

 その旨を伝えると、慎介は「それでは、出発します。若、掛け声を。」と言ってきた。


 少し休憩が短いと思わないではなかったが、任せた以上、文句は言えぬ。

 馬にのり、「進軍!」と大きな声を出す。

 しかし、心なしか、先程の活気がない。

 どうも休んだことで、気持ちが切れてしまった者や、もう少し休んでいたいと思う者が少なからずいるようである。


 俺はここに至って、先ほど慎介が「これ以上全体での休憩はとらない。」という意味をやっと理解した。

 ある意味、俺たちは出陣の時、何も考えずに勢いだけできた。

 それが休んでしまったことで、考える余裕ができ、いろいろ思う者が出てきたという面もあるのかもしれない。

 「休み1つでここまで変わるか。」俺は内心焦った。


 そして、今さらながら、慎介が多少遅めに馬を進めていたのは、休みをとらないことを想定してのものだったのだとやっと気が付いた。

 これをどうにかするのは俺の役目だ。

 俺は大声で、「これから一気に三川領内に入り、敵の背後をつく、それでわが軍の勝利だ。」と叫んだ。

 湧き上がるときの声。

 それを受けて再度「進軍!」と声をかける。

 

 今度は既に以前の活気を取り戻していた。

 進軍速度、休憩、たった1つのことが兵の士気をここまで左右するのかと怖くなった。

 同時に、「俺はまだまだ学ぶべきことは多い。謙虚にならなければ。」と心の底から思った。

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